書いてあること

  • 主な読者:販路拡大や生産コスト削減などのために、海外展開を検討している経営者
  • 課題:海外展開を成功させるために準備すべきことを知りたい
  • 解決策:現地拠点の形態やパートナー選びなどの戦略を立てる。資金手当て、人材確保・育成、法規制への対応といった実務面での対策も講じておく

1 海外展開の成否を左右する「戦略」と「実務」対応

海外展開のための構想を練って現地調査が完了したら、いよいよ実現に向けて具体的に動き出す段階です。ここで必要な手順は、次の2つです。

  1. 構想段階で立てた目的を実現するための戦略を立てる(現地拠点の形態、パートナー選びなど)
  2. 現地調査の結果を踏まえた実務面での対策を講じる(資金手当て、人材確保・育成、法規制など)

2 目的に適した現地拠点の形態を決める

海外展開の戦略を立てる上で欠かせないものの一つが、現地拠点の形態をどうするかです。

一般的に、現地拠点の形態は次のようなものが挙げられます。

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国や地域、業種によっては、外資規制のため単独出資で現地法人を設立できないこともあります。基本的には、拠点の規模が大きく、自社の出資比率が高いほど、ハイリスク・ハイリターンになります。

3 現地のパートナー候補を見つける

海外で事業を行うためのリソースやノウハウを持っている現地企業とパートナーシップを築くことは、海外展開の成否に大きく影響します。

1)アピールや商談に結び付く情報を集約しておく

現地での取引相手となるパートナーを探す際は、自社が求める具体的な希望条件と、自社のアピールポイントをまとめておくことが必要です。

例えば自社商品の販売先を探すのであれば、具体的な希望条件として金額、数量、納期、輸送方法などを決めておきます。自社のアピールポイントとしては、製品の強み(品質、販売実績、報道・表彰歴など)をまとめ、バイヤー(購買担当者)に示すことで、実際の商談に結び付けられるようにします。

2)マッチングサービスを活用する

海外展開を支援する機関の中には、専用のウェブサイトを設けるなどして、海外展開のためのマッチングサービスを提供している場合があります。

例えば、日本貿易振興機構(以下「ジェトロ」)が運営する国際ビジネスマッチングサイト「e-Venue」は、100カ国以上のビジネスパーソンが利用しており、ビジネス案件の登録や、ビジネス案件の検索・閲覧・問い合せ(引き合い)などを行うことができます。海外のビジネス案件は日本語でも閲覧でき、コンタクト先とチャットでやり取りすることも可能です。e-Venueの登録や利用は無料です。

■ジェトロ国際ビジネスマッチングサイト「e-Venue」■

https://e-venue.jetro.go.jp/bizportal/s/?language=ja

民間企業でも国際ビジネスマッチングのサービスを提供している企業があります。例えば、世界的な電子商取引仲介業であるアリババグループは、190以上の国と地域のバイヤーが参加しているというマッチングサイト「Alibaba.com」を展開しています。

3)国際的な展示会・展覧会・商談会に出展する

国内外で開催される国際的な展示会・展覧会・商談会に出展することで、国外のバイヤーと接触でき、具体的な取引へつなげることが可能になります。

自社で負担できる費用と、開拓したい市場(国・地域、販売チャネルなど)を勘案し、適切な展示会・展覧会・商談会に出展するようにしましょう。

ジェトロでは、ウェブサイト上で国際的な展示会・展覧会・商談会に関する情報を発信するとともに、要件を満たした事業者に対して出展に関する各種支援を行っています。また、国内外の展示会・商談会で、ジェトロが主催・参加するジャパンブースへの、個別企業・団体などの参加を支援します。一部の展示会の出展については、ジェトロから、出展にかかる各種手続きの支援と出展費用の一部補助を受けることができます。

■ジェトロ「展示会・商談会への出展支援」■

https://www.jetro.go.jp/services/tradefair/

この他、中小企業基盤整備機構では、海外の展示会に出展することをテーマに、必要な知識を集めた冊子「海外出展 海外展示会ハンドブック」を公開しています。

■中小企業基盤整備機構 海外ビジネスナビ「海外出展 海外展示会ハンドブック」■

https://biznavi.smrj.go.jp/handbook-overseas-exhibitions/

4)パートナー候補の信用情報もチェックをする

せっかく選んだ現地パートナーの経営が傾いてしまっては、元も子もありません。パートナー候補の信用情報は、ある程度のお金を掛けてでも押さえておきたい情報です。

海外企業の信用情報を入手するに当たっては、国内信用情報会社の海外企業調査サービスを活用する方法があります。例えば、東京商工リサーチでは、米国の企業情報サービス会社Dun&Bradstreet(D&B)社と提携し、同社がカバーする240カ国超、5億件超の「ダンレポート」を有料で提供しています。

■東京商工リサーチ「海外企業調査レポート(ダンレポート)」■

http://www.tsr-net.co.jp/service/detail/dun-report.html

4 資金の手当てに万全を期す

現地法人を設立するなどの大規模な海外展開を行う場合、相応の資金を要します。また、海外展開は思わぬ出費が嵩む場合もあります。資金の手当ては万全にしておきましょう。

1)日本政策金融公庫「海外展開・事業再編資金」

中小企業が海外の地域で事業開始・拡大・再編する際に必要な資金(海外企業に対する転貸資金を含む)の融資を受けられます。詳細は日本政策金融公庫の支店窓口で確認してください。

■日本政策金融公庫「海外展開・事業再編資金」■

https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/kaigaitenkai.html

2)国際協力銀行(JBIC)「中堅・中小企業分野」

中堅・中小企業の海外投資や製品輸出などに必要な長期資金を、民間金融機関との協調融資などで支援しています。また、対外借り入れ規制や諸手続きなどへの助言も行っています。

■国際協力銀行「中堅・中小企業分野」■

https://www.jbic.go.jp/ja/business-areas/sectors/smes.html

3)信用保証協会「海外投資関係保証制度」「特定信用状関連保証制度」

都道府県の信用保証協会は、中小企業が海外展開に要する資金を金融機関から借り入れる際の債務の保証を行います。「海外投資関係保証制度」は、国内の金融機関から海外直接投資事業資金の融資を受ける際に利用できます。「特定信用状関連保証制度」は、海外子会社が現地金融機関から融資を受ける際に利用できます。

■全国信用保証協会連合会「海外展開をお考えの方」■

https://www.zenshinhoren.or.jp/model-case/kaigaitenkai/

4)商工組合中央金庫(商工中金)「海外進出サポート」

商工中金は国内外全店舗に「中小企業海外展開サポートデスク」を設置し、海外進出に必要な海外投融資から貿易金融まで、個別相談によるサポートを行っています。

■商工中金「海外進出サポート」■

https://www.shokochukin.co.jp/corporation/service/support/

5 海外で渡り合える「グローバル人材」の確保・育成

初めて海外展開を行う企業にとって障害となりかねない問題として、「ヒト」の問題が挙げられます。海外で存分に力を発揮できる人材の確保や育成は、実務面での大きな課題です。

単に語学力があるだけでは、海外展開の重責を担う資質として不十分です。現地の文化や習慣に敬意を払って順応し、多様性や現地の事情を認めながらも、大事なところでは折れずに自社の立場を主張できる「グローバル人材」の育成が求められます。

1)東京都中小企業振興公社−海外展開支援−「海外人材育成支援」

国際ビジネスに対応できる人材育成を総合的にサポートしており、貿易実務者養成講習会やグローバル人材育成講座などを開催しています。

■東京都中小企業振興公社−海外展開支援−■

https://www.tokyo-kosha.or.jp/TTC/

2)日本生産性本部「コンサルティング・人材育成支援(海外進出企業支援)」

海外での経営の効率化や、現地スタッフおよび現地駐在日本人の育成を支援しています。具体的には、現地スタッフのマネジメント力向上などの課題の解決を支援しており、現地社員の意識調査や、マネージャー育成プラグラムなどを行います。

■日本生産性本部「コンサルティング・人材育成支援(海外進出企業支援)■

https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/global/vietnam.html

3)海外産業人材育成協会(AOTS)「技術協力活用型・新興国市場開拓事業」

海外事業を展開する上で必要となる人材の育成を支援しています。対象となる国・地域は経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会が定めるODA対象国・地域です。一般研修と管理研修の2つのコースがあります。

■海外産業人材育成協会(AOTS)「技術協力活用型・新興国市場開拓事業」■

https://www.aots.jp/hrd/technology-transfer/receiving/oda/

4)外部人材の招請

社内でグローバル人材を育成するのは容易ではありませんし、時間もかかります。社内で人材が育つまで、外部から経験者を中途採用するというのも現実的な方法です。

最近では海外に居住している日本人も多いので、現地の事情に精通している日本人の現地採用を検討してもよいでしょう。

6 現地の法規制への対応は専門家のアドバイスが必須

海外展開を行うには、現地の法規制にしっかりと対応する必要があります。法規制への対応といっても、出資や土地取得などに関する法規制、知的財産権に関わる法規制、税制や会計制度など多岐にわたります。

それぞれ現地の事情に詳しい専門家のアドバイスを受けることが不可欠ですが、公的機関などが海外展開時の法規制への対応に関して、一部サービスを提供しています。

1)日本弁護士連合会「中小企業の国際業務支援事業(弁護士紹介)」

日本弁護士連合会では、ジェトロ、東京商工会議所、日本政策金融公庫、国際協力銀行、国際協力機構などを通じて依頼があった際に限り、弁護士の紹介サービスを行っています。

海外展開において、相手国側の企業・団体との契約書のチェックなどで法的知見を必要とする場合や、トラブルが発生した際のアドバイスをしてくれます。初回の相談は30分無料です。

■日本弁護士連合会「中小企業の国際業務支援事業(弁護士紹介)」■

https://www.nichibenren.or.jp/activity/resolution/support.html

2)法務省「日本企業及び邦人を法的側面から支援する方策等を検討するための調査研究」

日本企業の海外展開を法的な側面から支援するための調査研究の結果を掲載しています。調査対象の国は限られていますが、海外展開を検討している国であれば参考になります。

■法務省「日本企業及び邦人を法的側面から支援する方策等を検討するための調査研究」■

https://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00135.html

3)工業所有権情報・研修館「海外展開知財支援窓口」

海外駐在経験などを持つ知財のスペシャリスト「海外知的財産プロデューサー」が、海外ビジネスにおける知的財産のリスク管理に関してアドバイスします。また、ビジネス展開に応じた知的財産の権利化や、取得した権利を利益に結びつけるための活用方法を提案します。相談は無料で、全国どこにでも訪問します。

また、海外での知財リスクに対応するために、新興国などの知財実務情報を「新興国等知財情報データバンク」で提供しています。

■工業所有権情報・研修館「海外展開知財支援窓口」■

https://faq.inpit.go.jp/gippd/service/

■工業所有権情報・研修館「新興国等知財情報データバンク」■

https://www.globalipdb.inpit.go.jp/

以上(2023年6月更新)

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画像:pixabay

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