書いてあること
- 主な読者:非正規雇用の手続きをオンラインで行うことになった人事労務担当者
- 課題:具体的な業務が整理されていない。何がオンライン化可能なのか分からない
- 解決策:労働契約の締結・更新など、一般的な手続きは全てオンライン化できる
1 手続きは原則全てオンライン化できる
この記事では、人事労務の仕事を紙からデータに切り替えたい人向けに、
非正規雇用の手続きはどこまでオンライン化できるのか
をまとめます。一般的な非正規雇用の手続きは、原則全てオンライン化が可能ですが、図表の赤字に注意が必要です。
【雇止め(労働契約を更新しない)】
雇止めの通知はオンラインでも可能だが、トラブルを防ぐには、通知したことが記録に残る方法を検討する必要がある
以降では「パート等関連の手続き」「派遣社員関連の手続き(派遣先の場合)」の2段階に分けて、労務管理のオンライン化のポイントを見ていきます。
2 パート等の手続き
1)労働契約の締結・更新
パート等と労働契約を締結する場合、賃金や労働時間など主要な労働条件を、労働条件通知書で明示しなければなりません。パート等が希望すれば、労働条件通知書はPDF形式にしてメールで送るなど、出力して書面を作成できる形で通知することが可能です。
労働契約を更新する場合、「都度、労働条件通知書を交付する」「契約期間満了の30日前までに、更新する旨を通知する」などの方法がありますが、いずれもオンラインで行えます。なお、「労使双方に異論がなければ、自動更新とする」という会社もありますが、こちらは雇止めの際などにトラブルになりやすいので、あまりお勧めしません。
2)雇止め(労働契約を更新しない)
労働契約が3回以上更新されている、または1年を超えて継続雇用されているパート等(あらかじめ契約を更新しない旨を明示している場合を除きます)を雇止めする場合、会社は
契約期間満了の30日前までに、パート等にその旨を通知しなければならない
とされています。通知の方法は法令に定めがないですが、トラブルを防ぎたいなら、PDF形式の「雇止め通知書」をパート等に送るとよいでしょう。通知書に本人の確認欄を作り、電子契約書ソフトなどを経由して本人から確認の電子署名をもらうようにすると、万が一訴訟などに発展した際、通知をしていたことの証拠になります。
3)パート等からの相談の受付
会社は、パート等の待遇に関する相談窓口を設置しなければなりません。窓口は社内・社外のどちらに設置してもよいですが、ここでは社内に設置する場合のポイントを紹介します。
相談の受付方法は、法令に定めがないので、電話、オンライン会議システム、メール、受付フォームなど会社が自由に決められます。できれば、相談者が相談しやすいよう受付方法を複数用意するのが理想です。なお、相談を受け付ける際は、
- 電話やオンライン会議システムで相談を受け付ける際は、個室で話を聞く
- メールや社内SNSで相談を受け付ける際は、画面を第三者に見られないようにする
など、情報漏えいに細心の注意を払ってください。
相談内容や対応結果の記録は、法令上は残さなくてもよいですが、その後の協議などに利用するのであれば、残しておく必要があります。なお、データで残す場合はパスワードをかけ、必要最小限の関係者にのみ共有するなど、記録は慎重に取り扱ってください。
4)正社員とパート等の待遇差についての説明
いわゆる「同一労働同一賃金」との兼ね合いで、会社はパート等から求められた場合、正社員とパート等の待遇の違いについて説明をしなければなりません(派遣社員から請求があった場合は、派遣元に対して説明します)。説明する内容は、
- 待遇差の内容:手当・賞与・退職金などの有無や福利厚生その他の待遇、基本給の支給基準の違いなど
- 待遇差の理由:役割や配置の変更範囲の違い、その他の事情など
です。説明の方法は法令で定められていませんが、パート等が理解しやすいよう、就業規則や賃金表をPDFで交付した上で、オンライン会議システムを使って説明するとよいでしょう。
3 派遣社員の手続き(派遣先の場合)
1)労働者派遣契約の締結・更新
派遣社員を受け入れる際は、派遣元(人材派遣会社)と労働者派遣契約を締結する必要があります。労働派遣契約は、電子契約書ソフトなどで締結できます。
労働者派遣契約を更新する場合、「都度、契約書を取り交わす」「派遣先・派遣元双方が合意することで更新する」などの方法が考えられますが、いずれもオンラインで行えます。なお、労働者派遣契約の自動更新は、原則認められません。
2)派遣社員からの苦情の受付、派遣元への通知
会社(派遣先)は、派遣社員からの苦情を受け付ける苦情処理担当者を置き、苦情を受け付けた場合は、その内容を派遣元に通知しなければなりません。
苦情の受付方法は、法令に定めがないので、パート等の相談窓口と同様、会社が自由に決められます。なお、苦情を受け付けた際は、その処理内容を「派遣先管理台帳」に記載する必要がありますが、この台帳は書面(紙)で作成する必要はなく、フォーマットも任意です。また、苦情内容を派遣元に通知する際も、メールなどで伝えれば大丈夫です。
この他、派遣先は1カ月ごとに1回以上、派遣社員の労働実績などを派遣元に通知する義務がありますが、こちらもデータをメールに添付したりメール本文に記載したりすれば大丈夫です。
以上(2024年11月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)
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画像:Stokkete-shutterstock