書いてあること

  • 主な読者:自社の従業員がイキイキと働いていないと感じる経営者
  • 課題:従業員が「強み」を発揮し、「仕事が楽しい」と感じてもらう方法がわからない
  • 解決策:各従業員の「心のクセ」に合わせたアプローチ方法で「やる気」を引き出す。心のクセを知る効果的な方法が、従業員との対話になる

1 仕事が楽しい従業員と、そうでない従業員の違いとは?

1日の3分の1の時間は仕事をしているのだから、仕事が楽しくないと人生が楽しいはずがない」というのは、よく言われている話です。楽しく仕事をすれば人生も楽しくなるとわかっていても、やはり楽しそうに仕事をしている人と、そうでない人がいます

何が原因で分かれてしまうのでしょうか。同期で入社5年目の仕事が楽しくないと感じているAさんと、仕事が楽しいと感じているBさんを例に挙げて、違いを見てみましょう。

<Aさん>

  • 日曜日の夜、テレビでお気に入りのバラエティー番組が終わり、また明日から仕事が始まると思うと憂鬱な気分になる
  • 土曜日、日曜日と自宅で好きなテレビ番組を見たり、ゲームをしたりして、のんびりしたはずなのに、先週の仕事の疲れがまだ残っているような気がする
  • 悪く評価されたくないので、上司から頼まれた仕事はきちんとこなすタイプで、課長の信頼は厚く、業務に対しては良い評価を得ている。ただし、言われた以上の仕事をやりたいとは思わない
  • 周りをシャットアウトして集中して仕事をしているときは、同僚も話しかけないように気を遣っている
  • そのため、上司からは「もう少しチームワークよく仕事ができるようになるといい」と言われている

<Bさん>

  • 現在の仕事はやりたかったことではないが、今後のキャリアを広げるために突き詰めている
  • ただ言われたことだけをやるのではなく、常に相手のために自分ができることはないか、どうしたらより良い仕事ができるかを考えている
  • 改善したほうがよいと思う点を上司に積極的に提案している
  • わからないことがあると、同僚によく聞いて回っている
  • 人間関係に壁をつくらず、周りも気軽に話しかけてくれるし、「手伝ってほしい」と言えば、みんな快くサポートしてくれる
  • 業界の動向に気を配るなど、知識の習得とスキルを磨くことにも余念がない
  • 平日の夜には異業種交流会に参加し、時間と体力に余裕のある土曜日や日曜日には街づくりのボランティアに参加している

2 「エンゲージメント」が仕事の楽しさを左右する

仕事に面白みを感じられないAさんと、イキイキと仕事に没頭し、職場の人間関係も良好なBさん。同期入社の2人が任されている仕事はさほど変わりないのですが、仕事に取り組む状態はまるで違います。AさんとBさんを分けるのが「エンゲージメントの状態の違い」です。エンゲージメントの日本語訳や解釈は様々ですが、私たちが強調したいのは「歯車がかみ合う」という解釈です。仕事が調子よく進む。職場の人間関係がうまくいっている。そんな状態を言い表すとき、よく「歯車がかみ合っている」または「しっくりいっている」といった言葉を使います。

Bさんは、ただ言われたことだけをやるのではなく、どうしたらより良い仕事ができるかを考えて楽しそうに仕事をしています。また、知識の習得とスキルを磨くことにも余念がなく、より自分らしくイキイキと働いています。人間関係に壁をつくらないので、職場の同僚や上司とのコミュニケーションも円滑で、仲間としっくりといっているように見えます。

それに対してAさんは、頼まれた仕事はきちんとやるが、言われた以上のことをやりたいとは思いません。また、集中するときは周りをシャットアウトしてしまうため、仕事も職場の人間関係も歯車がかみ合わず、しっくりこない状態でした。だから、仕事がいまひとつ面白くないし、上司からはもう少しチームワークよく働いてほしいと言われていたのです。

このように「歯車がかみ合っているか、しっくりいっていると感じるか」。つまり、エンゲージメントの向上が仕事を楽しくするために欠かせないのです。

3 自分の「強み」を発揮できるとエンゲージメントが高まる

エンゲージメントと密接な関係にあるのが、個人の持つ「強み」です。自分の強みを「発想力」、アイデアを生み出す力だと考えているビジネスパーソンがいました。あるとき、その「発想力」を評価され、ビジネスプランを考案する仕事を上司から任せられました。もともとビジネスプランを考えることが大好きだったという彼は、任された仕事を見事に遂行し、依頼した上司の想像をはるかに上回る成果を出します。その結果、彼は自分の仕事はもちろんのこと、その仕事を任せてくれた会社に対して、強いエンゲージメントを感じるようになりました。

一方で、自分が強みとは考えていない能力の発揮を期待されて仕事を任され、「つまらない」と感じながら仕事を続けたために思うような成果を出せず、ついにエンゲージメントも感じることができなかった、という人もいます。もちろん中には、任された仕事を進めるうちに自分が知らなかった強みに気づき、仕事が楽しくなり、結果的にエンゲージメントが向上したケースもあります。

いずれにしても、仕事を進める過程で、個人の持つ「強み」がエンゲージメントに大きく作用したのです。自分が「強み」だと感じているものは、得意なことや好きなことでもあります。その得意なこと、好きなことを任され、邁進するからこそ「やる気」も生まれます。

4 従業員の「強み」を発揮させるには?

1)個々人に応じたアプローチで「やる気」を引き出す

ただ、上司の立場から考えたとき、誰に対しても同じアプローチで「やる気」を引き出せるかといえば、そうとも言えないのがまた難しいのです。

そんなときにこそ、多様性を活かすことが問われています。人それぞれ性格が違うわけですし、人生経験も違います。だからこそ、仕事においても多様な可能性を期待できるのです。それにもかかわらず、誰に対しても同じ頼み方で「やる気」を引き出せると決めつけ、個々人に応じたアプローチを工夫せずに進めていると、むしろ逆効果で「やる気」を失う人も出てきかねません。

この人は、どのような頼み方をすれば、一皮むけて強みを発揮してくれるだろうか」。そこをしっかり考えることが、部下のエンゲージメントを引き出すための第一歩と言えるでしょう。

2)従業員の「自主性」を大切にする

エンゲージメントを高める方法の一つとして、従業員の「自主性」を大切にすることが挙げられます。

例えば、カフェチェーンのスターバックスは、来店したお客様に対する挨拶などのコミュニケーション方法をマニュアルで規定せず、個人に任せていることが知られています。いわばパートナー(従業員)の自主性やコミュニケーション力、発想力、共感力、心遣いなどを信頼した方法論と言えます。

従業員は、お客様をもてなすために自分の「強み」を発揮して創意工夫し、その結果が店舗の売り上げはもちろん、個人の評価につながっていくので、やる気が高まり、エンゲージメントも深まります。スターバックスの場合は、こうした接客を実現するために徹底した研修とコーチングを行っていると言います。

3)従業員一人ひとりの「心のクセ」を知るために「対話」を重ねよう

私たちは、個人の持つ「強み」を、「スキル」「知見」、そして「心のクセ」の組み合わせだと考えています。この中で、スキル、知見は、子供の頃から成長を続け、社会人生活を送る中でいろいろな要素を身につけて、どんどんと変わっていくものですが、「心のクセ」は実は年齢を重ねてもあまり変わらないものだと考えられています。

「心のクセ」を知るために効果的な方法が、「対話」です。「対話」の中で、以下のような質問をしてみることで、従業員の「心のクセ」が見えてきます。

これまでの仕事で、最高に楽しいと思った仕事を思い返してください。

  • どんな内容の仕事でしたか?
  • どんな仲間と一緒でしたか?
  • どんな困難がありましたか?
  • その仕事のどこが楽しかったのですか?

こうした「対話」が積み重なることで、仕事に対する意味や意義も感じられるようになります。自分の強みが活かされれば自然とエンゲージメントが高まり、それが職場やチームによい影響を与えてチームの実績も上がり、さらには会社全体にも素晴らしい結果がもたらされます。

【参考文献】

「楽しくない仕事は、なぜ楽しくないのか?」(土屋 裕介、小屋 一雄 2020年2月)

以上(2021年3月)
(執筆 日本エンゲージメント協会 佐々木拓哉 小屋一雄)

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画像:Gutesa-shutterstock

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