書いてあること

  • 主な読者:人事評価・懲戒処分の手続きをオンラインで行いたい人事労務担当者
  • 課題:業務がリスト化されていないし、何がオンライン化できるのか分からない
  • 解決策:人事考課表の作成など、一般的な手続きは全てオンライン化できる

1 手続きは原則全てオンライン化できる

この記事では、人事労務の仕事を紙からデータに切り替えたい人向けに

人事評価・懲戒処分の手続きはどこまでオンライン化できるのか

をまとめます。一般的な人事評価・懲戒処分の手続きは、原則全てオンライン化が可能ですが、図表の赤字に注意が必要です。

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【トラブルの当事者や関係者への事実確認】

オンライン化は可能だが、相手の雰囲気が読み取りにくい場合などはトラブルになる恐れがあるので、状況によっては対面で話をしたほうがよい

以降では「人事評価の手続き」「懲戒処分の手続き」の2段階に分けて、労務管理のオンライン化のポイントを見ていきます。

2 人事評価の手続き

1)人事考課表の作成(目標設定、上長評価)

一般的な人事考課の流れは次の通りです。

  1. 被評価者が所属長と面談を行い、評価対象期間の目標を人事考課表に記入する
  2. 被評価者が評価対象期間終了後に人事考課表に自己評価を記入し、所属長に提出する
  3. 所属長は提出された人事考課表に対して一次評価を行い、次の評価者に提出する
  4. 最終評価者(本部長、経営者など)が各評価者の評価を基に人事考課を確定させる

紙ベースの人事考課表を運用している会社の場合、ワードやエクセルで作成してメールなどでやり取りすれば、オンライン化できます。ただし、オンラインで人事考課表のやり取りをすると、「評価者本人が記入したのか」が分かりにくくなりますし、評価者が操作ミスで内容の上書きや消去をしてしまうリスクもあります。

そこで、

  • 評価者が入力しないセルの編集をロックする
  • 評価が終わったら評価者の印影をJPEG形式などにして添付する
  • ログ情報に履歴が残るクラウド型の人事評価システムを導入する

などの対策が必要です。

2)昇給、人事異動などの実施

人事考課の結果は昇給や人事異動に反映されます。昇給や人事異動の際、紙ベースの辞令を交付している会社がありますが、こちらはPDF形式にしてメールで送信したり、人事異動の場合はイントラネットで公開したりすることが可能です。

また、子会社や他社に社員を「出向」させる場合、出向元と出向先は出向契約を締結しますが、これは電子契約システムで実施できるでしょう。

なお、自社が出向先として社員を受け入れる場合、出向社員と新たに労働契約を締結する必要があります。その際、賃金や労働時間など主要な労働条件を労働条件通知書で明示しますが、こちらは出向社員の同意があれば、PDF形式にしてメールで送付できます。

3 懲戒処分の手続き

1)トラブルの当事者や関係者への事実確認

懲戒事由に該当するようなトラブルが起きたら、まずは当事者や関係者に事実確認を行います。オンラインで行う場合、電話、ウェブ会議システムなどで話を聞きます。ただ、

オンラインでは相手の雰囲気が読み取りにくく、擦れ違いや誤解が生じがちなので、状況によっては対面で話をしたほうがよい

です。

ヒアリングした内容は、必ず議事録に残します。手書きのメモでもワードなどのデータでも構いませんが、間違いなく当事者や関係者が発言した内容だと証明するため、本人から署名をもらうようにしましょう。手書きのメモやプリントアウトしたワードに署名をしてもらうか、PDF形式にして電子契約システムで電子署名をしてもらいます。

2)処分内容の検討

事実確認が完了したら、就業規則の懲戒事由と照らし合わせて処分内容を検討します。通常は賞罰委員会を開催したり、経営者や人事部長など会社の主要メンバーで協議したりして処分内容を決定します。この話し合いは、テレビ会議システムなどで行っても問題ありません。

懲戒処分を行う際は、処分される本人に必ず弁明の機会を与えなければなりません。テレビ会議システムで賞罰委員会などを開催する場合、本人には弁明の間だけテレビ会議システムにログインしてもらい、弁明が終わった後は必ずログアウトさせるようにします。

処分内容が決定したら、本人に伝えます。オンラインで処分内容を伝える場合、処分内容を通知したことを証拠に残すため、PDF形式にしてメールなどで送信します。また、本人が納得して懲戒処分を受け入れてもらうため、テレビ会議システムを使って処分内容の決定について考慮したことなどを説明するとよいでしょう。

賞罰委員会などの議事録(本人の弁明を含む)や、処分内容を本人に伝えた際のやり取りなどは、PDF形式などにしてデータで残しておきましょう。テレビ会議システムのレコーディングデータなども併せて残しておくと、会社が正当に懲戒処分を行ったという証拠になります。

3)各処分の実施(けん責、減給など)

懲戒処分の内容は各会社の就業規則によって異なりますが、一般的なのは次の6つです。

  1. けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
  2. 減給:一定期間、賃金支給額を減額する
  3. 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  4. 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  5. 諭旨解雇:期日までに退職願を提出するよう勧告し、提出がない場合は懲戒解雇とする
  6. 懲戒解雇:即時に解雇する。懲戒処分の中では最も重い処分となる

「1.けん責」は、ワードなどで作成した始末書をPDF形式にしてメールなどで提出させればオンライン化できます。始末書とそれを提出した際の本人からのメールは、証拠として社内サーバーなどに保管しておきましょう。

「2.減給」「4.降格」は、オフィスワークの場合と特に対応は変わりません。

「3.出勤停止」は、テレワークの社員だと、内容が伝わりにくいかもしれないので、「出勤停止中は自宅で業務を行う必要がなく、賃金も発生しない」旨を明確に本人に伝えましょう。

「5.諭旨解雇」「6.懲戒解雇」は、労働契約を解消する特に重い処分のため、本人に処分内容に関するメールを送ったら、電話やテレビ会議システムで本人とコンタクトを取り、確実に処分内容が伝わったことを確認してください。なお、解雇後に本人から「退職理由証明書」の交付を求められることがありますが、この証明書は、本人の同意があればPDF形式などで送っても大丈夫です。ただし、本人が書面での交付を希望する場合には、それに応じるべきでしょう。

また、通知の確実性に疑義が残る場合もあるので、頻繁に使用した実績のある連絡方法を用いるとともに、返信をもらうなどして本人が確認したことの裏付けを残すとよいでしょう。自動開封確認メールを受領したり、「既読」がついた画面をスクリーンショットで残したりする方法は、やや確実性に欠けますが何もしないよりは良いです。通知方法に疑義が残る場合、事後的でも構わないので、オンラインでの通知と併せて対面での交付・郵送も検討しましょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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画像:Stokkete-shutterstock

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