書いてあること

  • 主な読者:事業承継を進めたいが、後継者がなかなか選べない経営者
  • 課題:親族内承継、役員や従業員への承継、M&A。どの方法がいいのだろう……
  • 解決策:自社の状況に合わせて判断。相手が誰でも、後継者に求める資質は妥協しない

1 「人(経営)の承継」が事業承継のスタート

事業承継にはさまざまな課題がありますが、最初に着手すべきなのは、

「人(経営)の承継」である後継者問題

です。後継者が決まらなければ、

借入金や債務保証の引き継ぎなどの具体的な話ができず、事業承継が進められない

からです。中小企業庁「事業承継ガイドライン」(以下「ガイドライン」)で紹介されている「事業承継計画書」の様式も、後継者が決まっていることが前提になっています。

これを裏付けるデータとして以下をご覧ください。後継者選びの方針や決定状況によって、事業承継の障害や課題が違っていることがお分かりいただけると思います。

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このように、後継者選びは事業承継のスタート地点ともいえるわけですが、既に後継者を決めている会社は29.9%にすぎないのが実情です。本気で事業承継を進めるならば、まずは後継者選びを進めなければなりません。

2 3つある後継者選びのメリット・デメリット

「人(経営)の承継」の方法には、

  1. 子どもなどへの親族内承継
  2. 役員や従業員への親族外承継
  3. M&Aによる第三者への親族外承継

の3つがあります。それぞれのメリット・デメリットは次の通りです。

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最近は第三者を後継者とするケースが増えていますが、やはり親族や従業員を後継者にしたい経営者も多いです。このあたりは、

後継者候補となる親族の有無、事業の状態などを踏まえて慎重に検討

することになるでしょう。例えば、事業の状態が芳しくない、社内の結束が弱いといった場合、その苦労を親族には負わせたくないかもしれません。

いずれにしても、後継者に是非とも備えてほしいマインドがあるものです。経営者の考え方によって違ってくる面もありますが、主なものを9つにまとめて次章で紹介します。

3 後継者に備えてほしい9つの資質

1)健康である

心身が健康であることは大前提です。無理をして心身の調子を崩してしまったら、結果として多くの人に迷惑を掛けることになってしまいます。自分のことをよく理解し、必要に応じて肩の力が抜ける人でなければなりません。真面目なのはいいですが、集中していない状態で「ダラダラ」と続けるのは良くありません。

2)謙虚で、感謝の気持ちを忘れない

謙虚さも欠かせない資質です。経営者は社内外のさまざまな人に支えられて、経営者でいることができます。このことを常に忘れることなく、周囲に感謝の気持ちを伝えられる人でなければなりません。もし、後継者に指名されたことで有頂天になって偉ぶるような人は経営者に向きません。

3)理想の姿を描いている

経営者には「何がなんでもこれをやりたい!」「世の中のここを変えたい!」といった理想の姿があり、それが活動の原動力になると同時に、人物の奥行きにもなります。先代が描く理想の姿を承継したばかりの後継者が、すぐに自分の理想の姿を見つけることは難しいかもしれませんが、「全くない」というのでは物足りません。

4)基本的にポジティブ

経営は山あり谷ありです。基本はポジティブで、落ち込んでもすぐに立ち直れる、良い意味でのずうずうしさが必要です。コロナ禍で経営環境が激変する中でも、「本当に厳しい……」と動けなくなる人は経営者に向きません。「変化の中にはチャンスがある」とポジティブに考えてチャレンジする人でなければなりません。

5)失敗を恐れない

事業のほとんどは失敗します。この失敗を恐れていては、いつまでたってもチャレンジできません。失敗は失敗として、そこから学び、次に活かしていける人でなければなりません。そうした人が率いる組織は、チャレンジと学習を繰り返すことができます。これは組織が成長する上で不可欠なことです。

6)決断が速いが、短慮ではない

経営者は決断の連続であり、決められない人は経営者になれません。とはいえ、何を考えて判断したらよいのか分からないまま、ばくちのように右か左かを選択し続けたら会社は潰れます。論点を整理して考えられる人でなければなりません。一方、時間をかけて決断すべきことについては、どんと構えて考える落ち着きも必要です。

7)勤勉である

どのような会社でも、恐らく最も勉強しているのは経営者でしょう。自分の知識や技術をバージョンアップし続けないと、すぐに取り残されることを知っているからです。多忙な中でも時間を見つけ、勉強をする人でなければ経営者に向きません。いまだに一人でオンライン会議につなげない困った経営者になるような人を、後継者に選んではいけません。

8)ビジネスの知識がある

会社経営では、IT、法務、税務、労務、会計、営業、マーケティングなどの知識が必要です。とはいえ、一人で各分野のスペシャリストになることはできません。そこで、広く浅くでもよいので各分野の肝となる知識は押さえていなければなりません。そのためには、価値ある情報を教えてくれる社外の人脈が大切です。

9)趣味がある

ビジネスだけでは、人として面白みがないかもしれません。スポーツやアートなど何でもよいのですが、打ち込める趣味を持っていると、人としての深みが増します。それに、経営者の会食では意外なことにワインやアートなどの話がほとんどで、ビジネスの話は本当に少ないのです。そうした場についていくためにも趣味は必要です。

以上(2024年5月更新)

pj80112
画像:Mariko Mitsuda

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