書いてあること

  • 主な読者:社内の雰囲気をもっと良くしたい、社員のやる気をもっと高めたい経営者
  • 課題:リモートワークやフレックスタイム制などの施策をいろいろ講じているが、効果を実感できない。それどころか、逆に離職する社員までいる
  • 解決策:自社の社員を5つの層に分類し、会社に居続けてほしい社員の優先順位を立てて、それに基づいて施策を打っていく

1 「働きやすさ」重視の風潮が逆に社員の離職につながる?

働き方改革にコロナ対応の影響があり、リモートワークやフレックスタイム制、長時間労働の規制など、「働きやすさ」を高める施策は日本社会に一気に浸透しました。ただ、これは手放しで歓迎できるかというと、必ずしもそうではありません。

働きやすさを改善する施策は、導入当初は喜ばれますが、時間がたつにつれて「当たり前」となり、その状況に甘んじる社員が増えていきます。そして、

業務への責任感ややる気が感じられない、いわゆる「ぶら下がり人材」

を生み出してしまうのです。ぶら下がり人材が増え、仕事は「ほどほどにやればいい」という空気感が出来上がると、

意欲的に働いている社員のやる気がそがれ、最悪の場合、離職してしまう

という、施策の本来の目的と逆の結果を生み出すことがあります。

では、これを防ぐにはどうすればいいのでしょうか? 対策を端的に言うと、

働きやすさと働きがいの片方ではなく両方を満たすことを意識しつつ、意欲のある社員が評価され離職しなくなるシステムをつくることです。そのためには、会社として大事にしたい人材像を定義し、その社員が活躍しやすい職場環境を実現する施策を打つことが必要

です。

前編では、組織の成長を妨げるぶら下がり人材を減らし、意欲的に働く社員が増えていく好循環を創り出す施策として、ターゲティング戦略の一部を紹介します。この方法は、筆者がこれまで累計3万件以上の産業医面談や年間1000件以上の組織への従業員サーベイを実施してきた経験と、MBA、経営コンサルタント、産業医としての知見から効果が得られると実感している手法です。組織活性の低さに課題を抱える経営者の方は、ぜひご活用ください。

2 ぶら下がり人材ってどんな社員?

前述の通り、会社が働きやすさ重視の施策を導入しても、社員は時間がたつとそのありがたみを忘れてしまい、「当然の権利だ」と思うようになります。あなたの周囲でこんな声を聞いたことはありませんか?

  • 会社は好きじゃない。でも転職してまでも環境を変えたいわけじゃない
  • 会社も仕事もどうでもいいけど、人間関係や給与には不満がない
  • お金のために毎日8時間を犠牲にしていると思えば我慢、我慢

こんな声を発している人は「ぶら下がり人材」である可能性があります。仕事をしないわけではありませんが、モチベーションが低く本来の能力を発揮しようとせず、ローエネルギーで働いていることが多いです。

ぶら下がり人材が増えると、仕事はほどほどにやればいいという「ぬるま湯」のような文化が出来上がり、意欲的に働きたい社員は不満を抱えます。こうした社員が、

  • この会社では自分の能力を活かせない
  • このままでは自分が駄目になる

と思い詰めてしまえば離職につながり、会社は優秀な人材を手放すことになります。

3 会社に居続けてほしい社員は誰?

1)まずは社員を5つの層に分ける

ぶら下がり人材を減らし、意欲的に働く社員が増えていく好循環を創り出すためには、まず「会社として大事にしたい人材像を定義する」ことが必要です。具体的にはどんな人でしょうか? ここでは、ターゲティング戦略を用いた分析のやり方を説明します。

ターゲティング戦略とは端的に言うと、

社員全体を幾つかの層に分け、どの層に焦点を当てるかを明確にしていく手法

です。グラフを使って考えると分かりやすいです。縦軸にパフォーマンス、横軸に社歴を取り、次の5つの層に分けて社員を当てはめます。

  • 優秀人材:すでに会社のけん引役となっている優秀な社員(全体の10%で設定)
  • ハイポテンシャル人材:3~5年後に優秀人材になりそうな社員(全体の10%で設定)
  • 立ち上がり人材:新卒・中途を問わず入社から1年以内の社員(全体の10~20%で設定)
  • 普通人材:やるべきことを真面目にこなす社員(全体の50~60%で設定)
  • ぶら下がり人材:やる気はないが消極的な理由で会社に定着している社員(全体の0~10%で設定)

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2)次に会社として優先的に対策すべき層を決める

5つの層に社員を当てはめたら、どの層の社員を優先的に対策すべきか決めます。会社として大事にしたい人材像は、経営方針や業界状況によって異なりますので一概には言えませんが、筆者の経験からお勧めする順番は、こちらです。

ハイポテンシャル人材→立ち上がり人材→優秀人材

「あれ? 優秀人材が最優先ではないの?」と思った方、これには3つ理由があります。

  • 優秀人材は、働く理由や仕事をする上で大切にしたいこと(労働価値)が明確な分、ばらつきも大きいので対策がしにくい
  • 優秀なので外部から魅力的なオファーを受けやすいため、転職のハードルが低く、引き止めるのが困難
  • 優秀人材を手放すことで、それまで優秀人材が独占していた仕事や役職が他の社員に引き継がれ、他の社員の成長が促進される場合がある

では、ハイポテンシャル人材が最優先となる理由は何でしょう? これにも3つ理由があります。

  • 優秀人材とは逆に労働価値のばらつきが小さく、「成長機会」や「強みを活かせること」を重視する傾向があり、対策がしやすい
  • ハイポテンシャル人材が豊富にいれば、優秀人材が抜けてもその穴を埋めることができ、会社が安定する
  • 修練を積んで優秀人材へとレベルアップしていくハイポテンシャル人材の姿は、他の社員(特に立ち上がり人材)が自身の成長を考える上でのロールモデルになる

続いて優先すべきは、立ち上がり人材です。理由は2つです。

  • 立ち上がり人材は、入社して日が浅く会社に染まりきっていない分、これからハイポテンシャル人材に成長する可能性がある
  • フレッシュな立ち上がり人材がいきいきと働いていると、採用活動で求職者にプラスのイメージを与えやすい(逆に立ち上がり人材が離職すると、「入ってもすぐ辞めてしまう会社」というレッテルを貼られやすく、採用活動に影響する)

まずは、会社として大事にすべき人材は誰か、その優先順位をイメージしていただくことが重要です。

以上(2021年7月)
(執筆 エリクシア代表取締役 医師 産業医 経営学修士(MBA) 上村紀夫)

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画像:MOMOTAROU-Adobe Stock

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