ビジネスは「現場感」を持って進めなければなりません。現場感に対する解釈は人それぞれですが、私の考えはこうです。「現場感とは、携わる人の喜びや悩みを踏まえて、仕事の意義や仕組みを理解する感覚」。

現場感のない思考は机上の空論にすぎず、そのような発言をすれば、「この人はビジネスが分かってない」と厳しい評価を受けます。先日、当社にマーケティング施策を提案してきたコンサルタントも現場感がありませんでした。そのコンサルタントの提案は、大企業並みの豊富なリソースがなければ着手できない施策ばかりだったのです。また、実務はマーケティング担当者に任せて、経営者は社長室にどっしりと構えていればよいと言っていました。このコンサルタントは、中小企業にはマーケティング担当者がいないケースが多いことや、中小企業の経営者は“社長業”だけではなく、それこそマーケティングからちょっとした事務まで、組織運営に関することは何でもやるという実態が分かっていなかったのです。

何事も経験しなければ分かりません。そうした意味では、中小企業の“社長業”を経験していなければ、中小企業の経営者の本音が分かるはずはありません。しかし、このレベルで終わっているうちは現場感が身に付きません。大切なのは、自分は中小企業のことが分かっていないということを認識し、“無知の知”の状態になって、現場感を持つための努力をすることなのです。

皆さん、改めて考えてみてください。皆さんには現場感がありますか?

この質問に答えるためには、「皆さんの『現場』」を定義する必要があります。こう言うと、ほとんどの人は自分が働いている場所が現場であると定義しますが、それだけでよいでしょうか。製造担当者であれば工場、販売担当者であれば店舗が現場であることは間違いありません。しかし、会社全体ということで考えれば、工場も店舗も現場です。つまり、製造担当者は工場だけではなく、店舗も自分の現場であると認識しなければならないのです。さらに付け加えれば、お客様が当社の製品を使って活動する場所も、私たちにとっての現場であるわけです。これが分からなければ、先のコンサルタントのように、現場感のない的外れな提案をすることになってしまいます。

現場感を持つためには、相手に聞くしかありません。相手が社内の人であっても、社外の人であっても同じです。相手の今抱えている課題を聞き出し、思いを共有するのです。

ただし、特に社外の人から現場の話を聞き出すことは簡単ではありません。そこで常日ごろから、相手を思いやる気持ちを示し、「この人に話せば、何か力になってくれるかもしれない」と信頼してもらわなければならないのです。こうした努力をした人だけが、現場感のあるビジネスをすることができます。現場感は相手を思いやることで身に付くものです。忘れないでください。

以上(2021年8月)

op16918
画像:Mariko Mitsuda

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