書いてあること
- 主な読者:テレワークなどでチャットを使っているが、部下とうまくコミュニケーションがとれない上司
- 課題:すぐに返信がこないことにイラつくし、意図が正確に伝わらない
- 解決策:これからはチャットが中心になると心得え、自身のコミュニケーションをバージョンアップする
1 チャットが苦手で……
「何で誰もリアクションをしないのだ!」。中堅社員のAさんはいら立ちを隠せません。グループチャットを使って複数の部下に一斉に指示を出したのに、“数分”待っても、誰からも何の返信もないのです。しばらくして、Aさんの上司であるB本部長が、同じようにグループチャットで部下に指示を出しました。すると間髪入れずに部下が反応し、コミュニケーションが成立したのです。この違いの理由は、役職の違いだけなのでしょうか。
あるとき、AさんはB本部長に愚痴をこぼしました。「私がチャットで指示を出しても、皆のリアクションが悪くて本当に困ります。B本部長のときとは大きな違いですよ。私は軽く見られているのでしょうか……」。するとB本部長は、次のように返しました。
「Aさんが軽く見られているわけではないよ。ただ、チャットには対面はもちろん、メールとも違う独特の雰囲気があるから、それを理解しないといけないね。それからチャット以外の、日ごろのコミュニケーションが大事なんだよ」
2 広がるチャットツール
最近はチャットツールがビジネスの連絡手段として定着しています。リモートワークなど、離れた場所にいる複数の人がコミュニケーションを取る手段として、チャットは便利です。しかし一方で、チャットのコミュニケーションの問題が出ている企業も少なくありません。
例えば、チャットツールはテキストのやり取りが中心で、相手の表情が分かりません。電話やメールも同じですが、電話なら声が聞けます。また、メールは誤解が生じないように丁寧過ぎるくらい、固い表現で書く人が少なくありません。対してチャットは「手軽さ」を重視します。相手の表情が分からず、また声も聞けない状態ですが、いきなり要件に入ります。メールのように、「いつもお世話になっております」などの前置きもありません。
この雰囲気に慣れていないと、チャットなのに堅苦しくなったり、逆にはしょり過ぎて意味が通じなくなったりします。受け手も同様です。手軽だからこそすぐに返すのが礼儀ですが、「チャットだからいいか」と、ついつい返事を先送りにしてしまいがちです。
3 日ごろからイライラしない
いろいろと難しい面のあるチャットですが、だからこそ上司にとってはコミュニケーションの訓練になります。例えば、対面や電話だとつい余計なことまで話して時間を浪費しがちですが、チャットならば必要最低限の言葉で正確に伝えようと努めます。
これは“アバウトに伝える”ことに慣れている上司にとっては、意外と難しいことです。チャットでは、「あれ、これ、それ」などの指示語の多い文はとても分かりにくいので、具体的かつ簡潔に示さなければなりません。
また、日ごろからイライラしないことも重要です。なぜなら、いつもイライラしている上司からのチャットに返信する勇気のある部下は少ないからです。関わったら最後、矢継ぎ早にチャットが入り、少しでも返信が遅いと叱られそうだと思うはずです。
自分のチャットに返信がないのは、自分自身の日ごろのコミュニケーションに問題があるケースも考えられます。また、チャットを送った側は即座の対応を求めますが、受け取った側にも事情がありますので、返信をせかしたいところを少し我慢しましょう。
また、チャットは手軽なので、つい休日にも送りがちです。送る側の上司の意図は、「忘れないうちに伝えておきたい」というものですが、今どきは休日に仕事の連絡を取るのもはばかられます。就業時間後や休日のチャットを禁止している企業も少なくありません。
4 「あれ、どうなった?」は通用しなくなる
「(上司)あれ、どうなった?」「(部下)あれって何ですか?」「(上司)何で分からないんだ。あれだよ、あれ!」。このような上司と部下のやり取りは、今後ますます減っていくのでしょう。
これから組織を率いる人は、その場に居合わせなくても、適時、適切なコミュニケーションが取れる組織を作らなければなりません。そうした意味では、“チャット上手”が上司の絶対条件になっていくかもしれません。
以上(2021年9月)
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画像:George Rudy-shutterstock