書いてあること

  • 主な読者:将来の意思決定に役立つファイナンス思考を身に付けたい経営者
  • 課題:業績改善のために、何から取り組めばよいのか判断が難しい
  • 解決策:KPIに分けることで、原因把握、改善の優先順位付け、そしてアクションがとりやすくなる

1 利益はKPI達成の積み重ね

KPI(Key Performance Indicator)という言葉を聞いたことはありますか? この10年ほどでよく耳にするようになった言葉なのですが、日本語では、

KPIは重要業績評価指標

といった意味で使われています。例えば、製造業の材料歩留り率や稼働率、営業であれば受注率などがこれに当たります。

最終的な業績というのは、利益で表現されることが多いものですが、直接利益を上げようと思っても難しいものです。KPIを用いて改善に取り組むことで、最終的に利益を上げることにつなげるのです。

KPIは横文字3つの略称ということで、難しいのではないかと警戒される方もいるかもしれませんが、ポイントだけ押さえればKPIは使い勝手がいいものです。中小企業で実際に使えるKPIのポイントを、今回は見ていきたいと思います。

2 KPIに分けることで、取り組みやすくなる

在宅勤務が増えてから、自宅の電気代が上がり、困っているという話を聞くことがあります。私も以前電気代の高さに驚いて、利用明細を確認したことがありました。

利用明細には、請求される電気代の金額はもちろん、併せて電気代の計算の基となった使用量や単価が載っています。電気代が高いといっても、使用量の問題なのか、それとも単価の問題なのか、両方あり得るのです。つまり、電気代を下げたいのであれば、まず、どちらの問題なのかを確認する必要があります。

また、使用量については、前年同月比や前月比なども載っていることが多いです。これを使えば、いつからどれだけ上がっているか、その傾向や原因も分かるかもしれません。さらに、単価は電力会社などが決めることなので、新電力に切り替えない限り、自分では対応することはできません。自分で取り組めるのは、使用量だけなのです。

このように、電気代は私たちにとって身近な例ですが、ここにもKPIは存在します。分かりやすく言うと、

使用量は、家計に残るお金(=利益)を増やすためのKPI

となるのです。また、KPIは、ただ定めるのではなく、それを改善することが最終目的です。ですから、この場合では、在宅日数を確認したうえで、在宅日数と1日当りの使用量のどちらに原因があるのかを確認してみるのもいいでしょう。つまり、ここで大事なのは、

KPIに分けることで、原因把握、改善の優先順位付け、そしてアクションがとりやすくなる

ということです。

3 KPIは、指標を選んで数字を決める

電気代の例で、1日当りの使用量をKPIとして選んだとします。次に行うのは、水準を決めることです。例えば、1日当りの使用量を10%削減するといった感じです。会社でKPIを運用するときの流れもまさに同じです。利益に影響を与える項目を分解して、その中から指標を決定します。そのうえで、どの水準を目指すかを数値で表すのです。

例えば、コンビニエンスストア(以下「コンビニ」)では、たびたびこんなキャンペーンをやっているのを見かけます。「700円買ったらスピードくじを1回」。なぜ700円かといえば、これも実は、売上のKPIが理由なのです。小売業の売上は主に客数と客単価に分解されるので、客単価を上げれば伸びます。チェーンによって異なるものの、一般にコンビニの客単価は600円程度と言われます。もし、あと100円で700円になって、スピードくじが引けるのであれば、本来は買う予定がなかった商品を手に取るかもしれません。これが客単価アップのからくりで、そうした最後の購買を後押しするために、レジ周りには手に取りやすい、100円程度のまんじゅう類などが並べられているのです。

4 誰が担うかを明確にするのも大事

客単価を上げるための取り組みでも、担当する部署や人によって出てくる案は異なります。前述した陳列方法の工夫は店舗指導をする担当者によるアイデアでしょうし、スピードくじは販売促進を担当する人のアイデアでしょう。

会社で、KPIを運用するときも、誰に依頼するかは大事です。それにより、期待できる効果の大きさが変わるからです。経営者や経理担当者は、KPIの指標と水準を決めたあとに、最適な担当者を選ぶのを忘れないでください。コンビニの例の通り、1つのKPIに対して影響を与えるのは1つの部門や担当者だけとは限りません。全社を見る視点から、現状を踏まえて見極める必要があるということです。

5 KPIは先行指標だからこそ役立つ

利益改善のためにKPIは役立つと言いました。しかし、なぜKPIを設定するのでしょうか。直接、利益改善を狙えばよいとも考えられます。

こうしない1つの理由は、

利益は多様な勘定科目から計算されるものなので、要因を区分けしないと取り組みにくい

ことあがります。利益はまさに会社全体の活動の「結果」なので、社内で仕事を分担しているのと同様です。改善したい場合には、KPIとして分担し直す必要があるのです。特に、各部門にとっては利益といわれても理解しづらく、さらには自分たちのアクションにつながりづらいので、KPIというわかりやすい言葉に「翻訳」しているのです。

もう1つの理由は、

利益が計算されるのには時間がかかるので、速報として状況を把握するのにKPIの方が適切

だからです。経理が月次決算で利益を算出するのに、数日は要します。それを見てから改善のためのアクションをとるのでは、遅い場合があります。そこで、KPIを通じて状況を早期に把握して、必要な場合には対処を早めにとることを可能にします。つまり、KPIは、利益を生み出すためのPDCAサイクルをタイムリーに回すのに役立ちます。

6 業績改善のためには、KPIの通訳に

この連載で扱うファイナンスの目的は、業績を良くすることにあります。まさにKPIは、業績改善には欠かせない各部門のアクションを促すのに効果的なツールといえます。

各部門に動いてもらうには、正しく理解してもらうのが不可欠ですから、各部門になじみが深いKPIを使うのが効率的なのです。

KPIは業務の理解がないと難しい場合もあるかもしれませんが、業績改善の効果は期待できます。また、KPIは各部門の方と話すときの共通言語のようなものです。多くの場合、各部門の従業員は会計に対する理解が深くないため、利益で話しても難しいことが多いものです。

全社の業績を担う経営者や経理の方には、

利益とKPIのあいだで自在に翻訳できる通訳になっていただく

ことが不可欠といえます。

以上(2021年9月)
(執筆 管理会計ラボ 代表取締役 公認会計士 梅澤真由美)

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画像:pixta

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