書いてあること

  • 主な読者:プロジェクトなどを率いる立場になってきた中堅社員
  • 課題:スピードをあげるために「イケイケ」で進もうとするが、危ういところがある
  • 解決策:アクセルを踏む人材だけではなく、ブレーキを踏める人材を側におく

1 流れを途絶えさせる(?)意見

現在、中堅社員のAさんの会社では、全社を挙げて業務効率化プロジェクトを推進しており、Aさんはそのプロジェクトの責任者を任されていました。業務効率化は喫緊の課題であり、これまでにもさまざまな案が出され、既に実行に移されているものも数多くあります。

今は、各部署のメンバーが集まったオンラインミーティングの最中です。既にスタートしている取り組みの進捗状況や成果報告、新たな業務効率化策の検討を行っています。

そこで、あるメンバーから、新たな業務効率化案が提案されました。そのメンバーの説明では、大きな効果が見込めるとのことで、Aさんをはじめ、各メンバーもすぐにでも取り組みを始めるという方向で議論が進んでいました。そのような中、メンバーのBさんが発言をしました。

ちょっと待ってください。その部署では既に多くの取り組みが始められています。それらは、まだ部署内で定着しておらず、効果測定も十分ではありません。その上、この案を進めれば、業務に混乱を来してミスが発生したり、社員の“業務効率化疲れ”を招いたりしないでしょうか。その辺りを確認しつつ、場合によっては、現在の取り組みの優先順位の見直しや、この案の延期や中止も視野に入れて、もう少し慎重に検討しませんか。

Bさんの発言で、盛り上がっていた会議が静まり返ってしまいました。

2 カーレースで勝つためのポイント

中堅社員が円滑に業務を進めていくためには、信頼のおける部下が必要です。その部下に求める基準や役割はさまざまですが、大切なポイントの一つに

適切にブレーキを踏むことができるか

ということがあります。適切にブレーキを踏むことのできる人(以下「ブレーキを踏む人」)とは、組織の流れや雰囲気に流されず、また自身の利害関係を問わずに、そこに潜むリスクなどを見つけ、必要に応じて建設的な対策を提案したり、時には「反対だ」という意見を、毅然として主張したりできる人です。

しばしば、「カーレースで重要になるポイントは、ブレーキングにある」といわれます。これと同じで、組織が“速く走る”ためには、アクセルを踏む人だけではなく、ブレーキを踏む人も重要な存在です。

中堅社員が、その役割を担うこともできますが、自分とは違った視点からブレーキを踏む人が身近にいることは、意思決定の質を高める上で大切になります。

3 ブレーキを踏む人はなぜ貴重か

反対意見を言える人をそばに置くことの大切さは、よく指摘されます。そのため、ブレーキを踏む人のような存在の重要性は認識している人が多いでしょう。しかし、ブレーキを踏む人は多くありません。それは、ブレーキを踏む人になるためのハードルが高いからです。例えば、ブレーキを踏む人には次のような要素が欠かせません。

1)相応の知識や経験

ブレーキを踏む人は、決して保守的であったり、自身の保身を図るために反対したりしてはいけません。また、人の好き嫌いで物事を判断するような人でもありません。ブレーキを踏む人は、各局面において是々非々で考え、ブレーキを踏む必要性、踏むときのタイミングを考慮した上で、適切な意見を表明できる人です。

こうした判断を下すには、業務に関する知識・経験が必要ですし、実務の流れや組織の現状などを、しっかりと把握していなければできません。

2)組織への高い貢献意欲や使命感

通常、ブレーキを踏むことで、“得”をすることはありません。冒頭の例でいえば、業務効率化という実績が上がれば組織での評価は高まります。メンバーは昇進・昇格するかもしれません。

しかし、Bさんのようなブレーキを踏む人は、ともすると「抵抗勢力」「後ろ向きの人」などと、否定的な評価をされがちです。また、ブレーキを踏むことに対する明確な評価基準はないので、昇進・昇格につながることも少ないです。

そのため、社員の中には「ブレーキを踏むべきだ」と思っていても、「ここで言っても、何の得もない」などと考えて、実際に発言を控えるような人もいます。それにもかかわらず、ブレーキを踏めるというのは、その人が「組織を、より良くしたい」「組織のために役立ちたい」といったような、組織への高い貢献意欲や使命感があるからです。

4 育てるために上司が気を付けること

ブレーキを踏む人を育てるために大切なことは、月並みかもしれませんが、上司がその人の意見や行動を認め、感謝の思いを示すことです。

昇進・昇格などの形で報いることも大切です。しかし、組織への高い貢献意欲や使命感がある人は、それと同等、あるいはそれ以上に、上司の「ありがとう」という言葉で、自身が認められているという事実を意気に感じます。

例えば、重要案件について意見を聞くようにすると、その人は「上司に信頼されている」「組織に必要とされている」ということを実感するものです。

また、ブレーキを踏む人は、社内で相応の役職にいることが一般的なため、上司は「職務上、当然のこと」と考え、その後のフォローを怠りがちです。しかし、「ありがとう。あの意見は役に立ったよ」などといった一言も効果があるので、そうした配慮を忘れないようにしましょう。

以上(2021年9月)

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画像:khosrork-Adobe Stock

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