先日、宝石商から後継者を育てる際の方針について話を聞いたのですが、これがとても興味深いものでした。宝石商が後継者に伝えていかなければならない最も大切なことは、「宝石の真贋(しんがん)の見極め方」です。その能力を高めるために、宝石商は後継者に本物の宝石だけを見せ、その輝きや色合いを徹底的に刷り込むそうです。
「これが本物。こっちは偽物」と、真贋両方を見せて比べさせるのではなく、本物だけをひたすら見せることで、実際に偽物を見たときに、「これは本物とは違う」と一目で分かるようになるのだそうです。
この考え方はビジネスにおける人付き合いでも同様で、「本物」といわれる人たちと付き合うことで自分自身の成長につながります。「本物」を「一流」と言い換えてもよいでしょう。
「本物」といわれる人たちが持っている哲学に触れ、一緒に仕事を進めていくことで、自身の判断のよりどころが生まれ、物事の正しい進め方も分かってきます。「朱に交われば赤くなる」といいますが、二流三流ではなく、「本物」の人たちと付き合うことで、自らも「本物」に近づいていくということなのでしょう。
とはいえ、人は宝石とは違います。明確な真贋があるわけではありません。名経営者と呼ばれる人などは「本物」といえるかもしれませんが、感じ方は人それぞれです。重要なのは、どのような人を「本物」と思うかという自分の中の基準です。
私が皆さんに日ごろ、「本を読みなさい」「社外の人と話す機会をつくりなさい」「多くのことを経験しなさい」と言っているのは、「どのような人を『本物』と思うか」という基準を皆さん自身で見つけ、それを目標の姿としてほしいからです。
私の場合、「この人は本物だ」と思うポイントを3つ持っています。
1つ目は、家族を大事にしている人です。家庭生活は人間の基本です。それを大事にする人は、何事も大事にするだろうと信頼できるからです。
2つ目は、「時間」と「お金」の使い方に哲学のある人です。「ここに時間とお金を使う」と決めてその通りに使っている人は、自ら物事を考え、判断し、行動することができるからです。
3つ目は、地道な努力を続けられる人です。何かを成し遂げるために地道な努力が必要だと分かってはいても、それを実践できている人は多くはありません。人は、やすきに流れます。自分を律する強い意志の持ち主こそ、地道な努力を続けることができるのです。
この3つのポイントは、あくまでも私の感じる「本物像」です。皆さんも自分なりの「本物像」を見つけ、「本物」と思える人に会う機会をつくる努力をしてください。宝石商では「本物」を見せてくれますが、「本物の人」は皆さんのほうから行動を起こさなければ出会うことはできません。そしていつの日か皆さん自身が「本物」となることを期待しています。
以上(2021年9月)
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画像:Mariko Mitsuda