書いてあること
- 主な読者:感覚も大事だが、より定量的に資金繰りをしていきたい経営者
- 課題:資金繰りでは運転資金が大事だが、自社に必要な運転資金の計算方法が分からない
- 解決策:自社に必要な運転資金は「売掛金+棚卸資産-買掛金」で計算する。各項目の詳細まで分析し、それを改善する活動に落とし込む
1 入出金のズレを賄うのが運転資金
経営者なら、売上や利益以上に資金繰りが気になるはずです。なぜなら、
利益が上がっていても、資金がショートすれば会社は倒産してしまう
からです。利益は「売上-費用=利益」という関係で導かれますが、「売上=入金、費用=出金」といったように、入金も出金も即時ならば資金繰りに困ることはありません。しかし、現実には、「末締め翌月末払い」のように即時決済とはならないのが通常です。そこで登場するのが運転資金です。運転資金とは、
売上の入金、費用の出金のタイミングのズレをカバーする資金
です。
資金繰りにおいて、大きな設備投資をしたような場合なら、その影響に注意するでしょう。難しいのは、こうした大きな要因ではなく、
日常的な運転資金が資金繰りに影響している
場合があることです。運転資金は資金繰りにおいて非常に重要なので、この記事で分かりやすく解説していきます。
2 運転資金はいくら必要なのか?
経営者が最も気になるのは、
結局、自社に必要な運転資金はいくらなのか?
ということでしょう。
その1つの答えは、
御社に必要な運転資金=売掛金+棚卸資産-買掛金
となります。なお、より正確にいうと、売掛金は受取手形も含む「売上債権」で、買掛金は支払手形も含む「仕入債務」となります。
上記の図は、その時点の状況を示していますが、資金繰りではその先の入出金のタイミングに注意しなければなりません。入金と出金のどちらが先かによって、状況は大きく変わります。
例えば、売掛金は20日に入金され、買掛金は月末に支払う場合、先に入金される売掛金を買掛金の支払いに回せます。ですので、月末に売掛金、棚卸資産の合計と買掛金の差額だけ運転資金を準備すれば大丈夫です。
逆に、買掛金は20日に支払い、売掛金は月末に入金される場合、先に買掛金を支払わなければなりません。そうすると、売掛金と棚卸資産の合計の全てが運転資金として必要になります。
以上から分かるポイントは、「入金は早く、支払うのは遅く」ということです。なお、運転資金は、会社にある現預金で賄ってもよいですし、銀行から借りてもよいですが、いずれにしても自社に必要な運転資金をシミュレーションしておくことが不可欠です。
資金繰りでは、運転資金の中身である売掛金、棚卸資産、買掛金の残高を確認することが重要なので、個別に説明していきます。
3 売掛金の残高分析
売掛金は貸借対照表の資産の項目です。そして、同じ資産の項目にある現預金(資金)とはトレードオフの関係にあります。つまり、売掛金が増えれば資金は減り、売掛金が減れば資金は増えます。
売掛金の残高分析として、まずは、前期末(または、前月や前年同月)と比較をしましょう。これにより、前年と違う今年のトレンドを把握することができます。さらに、売掛金を月商で割ることで、売掛金が月商の何カ月分たまっているのかを確認します。その際に利用するのが、売掛金の回転期間という指標です。
売掛金の回転期間=売掛金の月末残高/1カ月の売上高
計算をしたら、増えたり減ったりした原因を具体的な事業活動に落とし込んでいきましょう。例えば、特定の取引先からの売掛金が未収のために売掛金が増えているのであれば、その取引先と入金時期を交渉したり、今後の取引条件の見直しを検討したりすることができます。
なお、取引先との関係もありますが、売掛金の回収はなるべく早くしたほうが、自社の資金繰りに余裕が出ます。
4 在庫の残高分析
製造業、卸売業、小売業に在庫はつきものです。すぐに売れればよいですが、製造や仕入れから販売までにはタイムラグがあり、その間は在庫となります。建設業にも「未成工事支出金」という在庫があります。期末に仕掛かり中の工事の売上は翌期になるため、費用も未成工事支出金として翌期に持ち越すのです。
さて、在庫も売掛金と同じ貸借対照表の資産の項目です。そして、現預金(資金)とはトレードオフの関係になります。つまり、在庫が増えれば資金は減り、在庫が減れば資金は増えます。なお、在庫には材料費、外注費、人件費、経費といった、仕入れや製造などにかかる費用が漏れなく含まれます。材料費や外注費など社外に支払うものは分かりやすいのですが、人件費は忘れがちなので注意しましょう。
在庫の残高分析として、売掛金と同じように、前期末(または、前月や前年同月)との比較をしましょう。これにより、前年と違う今年のトレンドを把握することができます。さらに、在庫を月次の売上原価で割ることで、在庫が月次の売上原価の何カ月分たまっているのかを確認します。その際に利用するのが、在庫の回転期間という指標です。
在庫の回転期間=月末在庫/1カ月の売上原価
計算結果を具体的な事業活動に落とし込んで検討することも、売掛金で説明した通りです。
5 買掛金の残高分析
買掛金は貸借対照表の負債の項目です。ですので、売掛金や在庫と違い、買掛金が多いほうが現預金(資金)に余裕ができます。支払いを待ってもらう間、手元には資金があることをイメージしてください。
これまでと同じように、買掛金の残高分析として、まずは、前期末(または、前月や前年同月)と比較をしましょう。これにより、前年と違う今年のトレンドを把握することができます。さらに、買掛金を月次の仕入高で割ることで、買掛金が月次の仕入高の何カ月分たまっているのかを確認します。その際に利用するのが、買掛金の回転期間という指標です。
買掛金の回転期間=買掛金の月末残高/1カ月の仕入高
これまでと同じように、計算結果を具体的な事業活動に落とし込んで検討します。取引先との関係もありますが、買掛金の支払いはなるべく遅くしたほうが、自社の資金繰りに余裕が出ます。
以上(2023年11月更新)
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