社員らに「過労死ライン」の月100時間以上の時間外労働をさせていたとして、人気の洋菓子店を運営する会社が、是正勧告を受けていたことが、ニュースで報道されました。勧告は3年間で2度行われており、改善が見られなかったことから、長時間労働は常態化していたとみられています。

このニュースと前後して、厚生労働省から「令和3年版過労死等防止対策白書(以下、白書)」が公表されました。これは、「業務による過重な負荷」「業務における強い心理的負荷」による死傷病にまつわる現況を取りまとめた年次報告書で、前述の労働時間やメンタルヘルス対策の状況など幅広い内容を網羅したものになっています。本稿では公表された白書のうち、精神障害の労災補償状況とその中から「カスタマーハラスメント」の状況をピックアップして、お伝えします。

1 精神障害の労災補償状況

過労死等の労災認定基準は、脳血管疾患・心疾患と精神障害の2つに大別されます。そのうち精神障害の労災補償状況については、請求件数は長期的に増加傾向にあり、令和2年度は微減の2,051件となっています。一方支給決定件数は過去最多の608件となり、うち自殺(未遂含む)件数は81件となっています。

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精神障害の発症について、令和2年度の出来事別の労災支給決定(認定)件数は、「上司などから身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が99件と最も多くなっています。

長時間労働が含まれる項である「仕事の量・質」に関しては、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が58件、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」が31件、「2週間以上にわたって連続勤務を行った」が41件となっており、合計の608件のうち「仕事の量・質」に関する出来事は、全体の約21%を占めています。

2 カスタマーハラスメント

近年話題となっている、顧客から受ける理不尽な要求・クレームなどを指す「カスタマーハラスメント」も、本白書の中で取り上げられています。

前述の精神障害の労災支給決定(認定)件数のなかでは、「顧客や取引先からクレームを受けた」は11件となっています。また「令和2年度労働安全衛生調査」によれば、「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる」労働者のうち、その内容が「顧客、取引先等からのクレーム」と答えた労働者の割合は18.9%となっています。このように、カスタマーハラスメントでも、労災認定が行われているという実態には目を向ける必要があります。

来年から、いわゆるパワハラ防止法が中小企業にも適用されることになりますが、その法律が定められた国会の附帯決議として「自社の労働者が取引先、顧客等の第三者から受けたハラスメント及び自社の労働者が取引先に対して行ったハラスメントも雇用管理上の配慮が求められること」(衆議院)との指摘がなされました。今後、各企業においても、カスタマーハラスメントを受けた場合にどのように対応するか、あるいはカスタマーハラスメントを行わないようにどのように管理を行うかが問われるようになるでしょう。

3 おわりに

厚生労働省では、令和3年にカスタマーハラスメントへの対策を推進するため、対応事例を含めたカスタマーハラスメント対策企業マニュアルを策定し、広く周知を行うなど具体的な取組支援を行うとしています。

このように、時代の流れに応じてフォーカスされる要因は変わり、都度対策が立てられていくことでしょう。しかし、企業は業務に行う従業員の健康を守る義務があるという根幹は変わりません。健康を害する要素は企業それぞれです。従業員アンケートを取る等、継続的に課題を洗い出しながら、対策を立てていくことが望まれます。

※本内容は2021年11月12日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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