書いてあること
- 主な読者:パート等を雇い入れる予定のある経営者
- 課題:トラブルがないようにしたいが、何に注意すればよいのか分からない
- 解決策:「労働条件通知書」が適法かを確認する。特に同一労働同一賃金には要注意
1 トラブル防止の肝は「労働条件通知書」の確認
近年、同一労働同一賃金に代表されるように、「パート等」の労働条件の改善が進められています。パート等とは、この記事で便宜上使っている言葉で、
- 短時間労働者:正社員よりも1週間の所定労働時間が短い社員
- 有期雇用労働者:雇用期間に定めがある社員
の総称です。詳しくは、いわゆる「パートタイム・有期雇用労働法」で定められているので確認してみてください。
さて、法改正などに合わせて労働条件を見直していかなければトラブルのもとになります。差し当たり、今、皆さんがすべきことは、
パート等と労働契約を締結する際(雇入時、定年後の再雇用時、契約の更新時など)に、会社が交付する「労働条件通知書」の内容を精査すること
です。直近では、2024年4月1日から労働基準法施行規則が改正され、パート等に労働条件通知書を交付する際、次の3つを新たに明示することが義務付けられます。
- 「契約更新に関する事項」を記載する際、「更新上限」についても明示する
- 「無期転換に関する事項(新設)」を記載する際、無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」について明示する(通算契約期間が5年超のパート等が対象)
- 「就業場所」「業務内容」を記載する際、契約締結時の内容だけでなく、配置転換等の際の「変更範囲」も明示する
この記事では、2024年4月1日からの法改正に対応した「パート等の労働条件通知書」のポイントと記載例を紹介するので、自社の労働条件通知書と照らし合わせながらご確認ください。
2 正社員の労働条件通知書を流用したら法令違反?
まず、とても大切なポイントをお伝えします。それは、
正社員とパート等では、雇入時に明示すべき労働条件の項目が違う
ということです。図表1の「必ず書面で明示」の赤字部分がパート等特有の項目です。
「2.契約更新に関する事項」は、契約更新があるか否か、更新する場合は何を基準に判断するのかを記載します。2024年4月1日からは、通算契約期間または更新回数の「更新上限」についても記載が必要になります(詳細は後述)。
「3.無期転換に関する事項」は、2024年4月1日から新たに明示が義務付けられる項目です。
無期転換とは、パート等の通算契約期間(同じ会社でのもの)が5年を超えて更新された場合、そのパート等が会社に申し込めば契約期間の定めのない「無期労働契約」に転換できる制度
です。無期転換の申込機会、転換後の労働条件について記載します(詳細は後述)。
「10.昇給の有無、11.退職金の有無、12.賞与の有無」は、これらの制度があるか否か(原則書面で明示)、また、それらの計算方法(口頭でも可能)を記載します。
「14.雇用管理に関する相談窓口」は、正社員との待遇の違いなどについて、パート等から相談された場合の窓口を記載します。ちなみに、この相談窓口は「ハラスメント相談窓口」と一体的に運用しても問題ありません。
では、次章で具体的な労働条件通知書を見てみましょう。
3 パート等特有の労働条件通知書のポイント
パート等の労働条件通知書(2024年4月1日以降に交付するもの)のイメージは次の通りです。
1)契約期間
契約期間の始まりと終わりを「○年○月○日~○年○月○日」などの形で記載します。
2)契約更新に関する事項
次の1.から4.について記載します。3.は2024年4月1日から明示が義務付けられます。
- 更新の有無(例:更新しない、自動的に更新する、更新する場合がある)
- 更新の判断基準(例:業務の進捗状況、勤務成績、能力、態度、期間満了時の業務量、会社の経営状況)
- 更新上限の有無とその内容(通算契約期間または更新回数に上限があるかないか、上限がある場合はその内容(例:通算契約期間:○年まで、更新回数:○回まで))
- その他の留意事項(例:契約更新の際に労働条件が変更される可能性がある)
なお、図表2の例では更新上限を「通算契約期間:10年まで、更新回数:10回まで」としていますが、前述した通り、通算契約期間が5年を超えると、そのパート等は無期転換を会社に申し込めるようになります。無期転換の申込みは原則拒否できないので、長期雇用を想定していないなら、通算契約期間の上限は5年未満に設定しておいたほうが無難です。
3)無期転換に関する事項
次の2点について記載します。どちらも2024年4月1日から明示が義務付けられます。ただし、無期転換申込権がない場合(通算契約期間が5年以内)、明示は不要です。
- 申込機会:無期転換の申込みができること(例:本契約期間中に会社に対して無期労働契約の締結の申込みをすることにより、本契約期間の末日の翌日から無期労働契約での雇用に転換することができる)
- 転換後の労働条件:労働条件の変更の有無、転換後の労働条件の一覧または変更箇所(例:契約期間以外の労働条件についても、転換前の内容から変更することがある。変更する場合の労働条件は別紙)
4)就業場所
パート等特有の項目ではありませんが、リモートワークでオフィス以外の場所でも勤務することがある場合は、その旨を記載します。また、2024年4月1日からは契約締結時の就業場所だけでなく、配置転換等の際の「変更範囲」の記載も義務付けられます。変更範囲については、想定される就業場所を1つずつ記載する必要はなく、
- 会社が定める場所
- 東京都内事業所(別紙)
などの書き方も認められます。
5)業務内容
よく見かける「○○業務その他会社が指示するあらゆる業務」といった記載だと、正社員と同じ働き方をしているとみなされ、同一労働同一賃金の観点から賃金などに差をつけにくくなります。書き方が難しいですが、
本業を逸脱しすぎないよう、「○○の業務その他これに付帯する業務」といった程度の記載にとどめるのが無難
です。なお、2024年4月1日からは就業場所と同じく、業務内容についても「変更範囲」の記載が必要になります。こちらについても
- 会社が指示する業務
- 会社の各部署(別紙)における業務
などの書き方が認められますが、実際に業務内容を変更する場合、変更後の業務について正社員との不合理な待遇差が生じていないかを都度チェックする必要があります。
6)始業・終業時刻、所定外労働など
シフト制の場合の始業・終業時刻に注意が必要です。労働条件通知書に「シフトによる」と記載するだけでは不十分で、
労働日ごとの始業・終業時刻を明示するか、原則的な始業・終業時刻を記載した上で、一定期間分のシフト表などと併せて交付する必要
があります。
7)休日
休日についても、シフト制で働く場合の記載に注意しましょう。具体的な曜日などが確定していなくても、
休日の基本的な考え方として、「週○日以上の休日が確保できるようシフトを組む」
といったように記載する必要があります。
8)休暇
パート等も、6カ月以上勤務し、その全労働日の8割以上出勤すると、年次有給休暇(年休)が付与されます。付与日数は、所定労働時間と所定労働日数によって変わります。
9)賃金の金額、支払いの方法・時期など
パート等の賃金の金額は、同一労働同一賃金で示されている均等待遇と均衡待遇に違反しないようにします。
- 均等待遇:職務の内容とその変更範囲が同じ場合、待遇も同じにする
- 均衡待遇:職務の内容とその変更範囲等が違う場合は、違いを考慮してバランスの取れた待遇を実現する
基本的に、業務の内容などが明らかに違うのであれば、正社員と差を設けても問題ありませんが、逆に言うと、
通勤手当などのように業務の内容と関係がない手当は、パート等にも支給
しなければならないでしょう。
また、時間外労働、休日労働、深夜労働に対する手当(割増賃金)は、パート等の労働時間の実態に応じて支払います。なお、この記事で対象としているパート等は、所定労働時間が法定労働時間(原則として1日8時間、1週40時間)より短いので、
所定労働時間を超え、法定労働時間に満たない時間の割増賃金率を記載
しておく必要があります。これは0%にすることも可能です。
10)昇給の有無
昇給があるか否かを記載します。昇給がある場合、可能であれば昇給の条件などを記載するほうが望ましいでしょう。
11)退職金の有無
退職金があるか否かを記載します。退職金がある場合、可能であれば支給要件などを記載するほうが望ましいでしょう。
12)賞与の有無
賞与があるか否かを記載します。賞与がある場合、可能であれば支給要件などを記載する方が望ましいでしょう。
13)退職に関する事項(解雇の事由を含む)
パート等は契約期間が満了し、更新されない場合に退職となります。この他、本人の希望による退職や、就業規則の解雇事由に該当したことによる解雇があります。これに対応し、
- パート等が契約期間満了前に自己都合退職する場合の手続き(いつまでに会社に退職を申し出るのかなど)
- 解雇の事由・手続き(どのような行為が解雇事由となるのか、会社はいつまでにパート等に解雇を通知するのかなど)
を記載します。
14)雇用管理に関する相談窓口
相談窓口の担当部署、連絡先(電話番号、メールアドレス)などを記載します。
以上(2024年1月更新)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)
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