仕事の進め方や人事評価の在り方に至るまで、皆さんの働く環境はここ数年で大きく変わってきています。さて、このように環境が変化する際には、決まって2つのタイプの社員が現れます。1つは「変化が楽しい、もっと新しいことに挑戦したい」と思うタイプ、もう1つは「面倒臭い、今の働き方を変えたくない」と思うタイプです。もちろん、皆さんには前者であってほしいですが、今日はあえて後者の人に向けた話をします。

皆さんは、「葛飾北斎(かつしかほくさい)」をご存じでしょうか? 富士山をさまざまな地域、角度から描いた「富嶽三十六景(ふがくさんじゅうろっけい)」などの浮世絵で知られる江戸時代の絵師です。北斎の浮世絵は今も高く評価されていますが、彼にはとても怠惰な一面がありました。

例えば、彼は90年の生涯で93回の引っ越しを経験したそうですが、それは「苦労せず、きれいな部屋に住みたい」という理由からだったといわれています。北斎は家事をおろそかにする人で、外でご飯を買ってくればその包み紙を所構わず捨て、ろくに布団も洗濯しないありさまでした。そのため、部屋はいつも汚く、仕事に支障が出るほどになると、彼は都度住居を変えていたそうです。一方、彼は死の直前、「あと5年あれば真の画家になれたのに……」という趣旨の言葉を遺すなど、浮世絵に対してはとてもストイックでした。

真相は分かりませんが、引っ越しが必要になるほど家事をおろそかにし、長い生涯を振り返って、まだ時間が欲しいと言い残した北斎には、家事に割く時間が惜しい、もっと仕事に集中する時間が欲しいという思いがあったのかもしれません。

冒頭で述べた、環境の変化に対し「面倒臭い、今の働き方を変えたくない」と思ってしまうタイプの人に問います。そのように思う理由は何ですか。「日々の仕事をこなすだけでも大変なのに、これ以上余計なことに時間を割きたくない」からでしょうか。では、皆さんが本当に時間を割きたいこととは何ですか。

思い返してみてください。私が皆さんに初めてお会いしたとき、皆さんはこの会社で実現したい自分の夢を、目を輝かせながら語ってくれました。しかし、時がたつにつれ、与えられた仕事をこなすことが目的になってしまい、入社した頃の輝きを失ってしまっている人が多いように思います。

皆さん、「この仕事をやめて、別の仕事をやりたい」というものがあれば、ぜひ積極的に声を上げてください。これからの時代、仕事はただ与えられるものではなく、皆さんが選んでつかみ取るものへと変わっていきます。もちろん会社は組織ですから、ただ「やりたい」という気持ちだけで好きな仕事に就くことはできません。相応の努力が必要です。しかし、その努力の末に仕事をつかみ取ったとき、皆さんの目には入社したあの頃の輝きが必ずよみがえってくるはずです。

以上(2022年4月)

op17017
画像:Mariko Mitsuda

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