書いてあること

  • 主な読者:健康診断をすることで義務を果たしたと思い、やりっ放しにしている経営者
  • 課題:「異常」の所見があった社員への対応が義務とは知らなかった。何をすればいい?
  • 解決策:医師等の意見を聴取し、配置転換など就業上必要な措置を講じる

1 健康診断は「異常」が発見されてからが本番!

会社は労働安全衛生法などに基づき、法定の健康診断(定期健康診断など)を実施する義務があります。ただ、これで終わりではなく、「異常」の所見があった社員について、

医師等(医師または歯科医師)の意見を聴き、必要に応じて労働時間の短縮や配置転換などをしなければならない

ことをご存知でしょうか。この義務には罰則がなく、「健康診断の後は社員の責任」という勘違いもあってか、

  • 健康診断の結果を確認していない
  • 「異常」の所見があった社員に、病院に行くよう忠告するだけで終わっている

など、健康診断がやりっ放しになりがちです。

健康診断は社員の健康を守るために実施するものであり、

「異常」が発見されてからが本番!

といっても過言ではありません。ちなみに、定期健康診断で「異常」の所見があった社員の割合は2022年時点で58.3%に上ります。会社が何もしなければ、6割近い社員の健康が危ぶまれると思って、以降で紹介する「異常」の所見があった社員への対応をご確認ください。

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2 「異常なし」以外は「異常」の所見あり

健康診断結果には、社員の健康状態が「判定区分」として記載されています。判定区分の設定は医療機関ごとに異なりますが、例えば次のようなイメージです。

  1. 異常なし:健康状態に特に問題はない
  2. 軽度異常:数値上は異常を認めるが、日常生活に差し支えない
  3. 経過観察:治療や精密検査は不要だが、生活習慣を改善しつつ経過を見る必要がある
  4. 要治療:病気と考えられるので、治療や保健指導を受ける必要がある
  5. 要精密検査:さらに詳しく検査を行い、病気の有無を確認する必要がある

上の5つの場合、「1.異常なし」以外は「異常」の所見があるものとなります。医療機関がこれ以外の判定区分を設定している場合も、

「所見を認めない」など、明らかに問題ないと判断できるもの以外は、基本的に「異常」の所見があるものと考えて差し支えない

でしょう。

3 医師等の意見聴取はどうやって進める?

「異常」の所見があった社員については、

健康診断をしてから3カ月以内に、就業上必要な措置について医師等の意見を聴取

しなければなりません。意見を聴取する相手は、

  • 会社の産業医(社員数が常時50人以上の場合、選任は義務)
  • 地域産業保健センター(労働者健康安全機構が運営)の健康相談窓口
  • 社員の主治医(社員が主治医の意見を会社に伝える)

などがあります。通常、社員の健康診断結果を医師等に渡した上で意見を聴取します。これは法令で認められた行為ですが、健康診断結果は「要配慮個人情報」なので、その取り扱いには注意しましょう。

さて、厚生労働省の指針では、医師等から主に聴取すべき意見として次の2つが示されています(厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」)。

  1. 就業区分(通常勤務でよいか、就業制限や休業が必要か)と必要な措置(労働時間の短縮、作業の転換など)に関する意見
  2. 作業環境管理(施設や設備の状況など)や作業管理(作業方法など)に関する意見

意見聴取は、口頭と書面(意見書など)のどちらで行っても構いませんが、

聴取した意見は、健康診断結果の個人票に記載しなければならない

ので注意してください。

4 就業上必要な措置って具体的に何?

就業上必要な措置の内容は、おおまかに次のように区分できます。

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多くの場合は「通常の勤務でよい」ということになりますが、そうでなければ医師等の意見を勘案して措置を実施します。その際、

措置の対象となる社員の意見も聴き、内容について了解を得た上で実施するのが望ましい

とされています(厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」)。

なお、措置を講じるために社員の上司などの協力を求める場合、社員の病気などに関する情報は提供せず、措置の目的や内容を中心に伝えるのが基本です。健康管理業務に従事しない上司に要配慮個人情報を提供すると、個人情報保護法に違反する恐れがあります。

5 社員に治療や精密検査を受けるよう命令できる?

ここまで会社の義務について紹介してきましたが、社員も自らの健康維持のために努力しなければなりません。例えば、

通常の勤務でよい(就業上必要な措置はない)が、治療や精密検査は必要

というのはよくあるケースですが、社員が治療や精密検査を受けないまま健康状態を悪化させたら、健康診断を実施した意味がありません。

こうした場合、就業規則に、

健康診断で「異常」の所見があるなど、会社が必要と認めた場合、治療や精密検査を受けなければならない

といったことを定めるとよいでしょう。また、命令する以上は、会社による費用負担、就業時間中の受診、受診している間の給与の支払いなどについても検討する必要があるでしょう。

6 「異常」の所見があった場合に役立つ制度はある?

健康診断の結果、次の4つの検査項目全てで「異常」の所見があった社員(例外あり)は、労災保険の「二次健康診断等給付」を受けられます。

  1. 血圧検査
  2. 血中脂質検査
  3. 血糖検査
  4. 腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定

二次健康診断等給付の内容は、

  1. 二次健康診断:脳血管と心臓の状態を把握するために必要な検査
  2. 特定保健指導:脳・心臓疾患の発症の予防を図るための保健指導

の2種類で、どちらも無料です(どちらも年度内に1回まで)。実施義務はありませんが、該当する社員がいる場合、積極的に受診を奨めるとよいでしょう。

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以上(2024年3月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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画像:Marina Zlochin-Adobe Stock

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