書いてあること

  • 主な読者:M&Aを検討しているが、誰に相談すればよいのか迷っている経営者
  • 課題:M&Aではさまざまな専門家が担当すると聞くが、具体的な分野が分からない
  • 解決策:全体のスケジュール管理を行う専門家、法務や財務の専門家が基本

1 M&Aでは専門家の支援が不可欠

M&Aの交渉では、次のような調査や検討が必要になるので、専門的な視点から支援してくれる専門家の存在が不可欠です。

  • M&Aの対象となる事業・会社の探索・選定
  • 法律、会計、税務等の専門的事項に関する整理
  • 買収資金の調達
  • 取得する資産の価値、不適合の有無 など

M&Aにおける専門家の役割は基本的に分業体制ですが、

全体のスケジュール管理を行う専門家、法務や財務の専門家が基本

になるといえるでしょう。この記事では、中小企業のM&Aでよく登場する主要な専門家とその役割を説明します。

なお、中小企業庁では、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するために、2021年8月からM&A支援機関に係る登録制度を開始しました。M&A支援機関には、これから紹介するフィナンシャル・アドバイザー(FA)やM&A仲介会社などが該当します。中小企業にとってのメリットは、

登録を受けたM&A支援機関を利用すると、必要な手数料の一部が補助され、金銭的な負担が軽減される

ことです。

■M&A支援機関に係る登録制度■
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2021/211007m_and_a.html

2 中小企業のM&Aを支援してくれる「七人の専門家」

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1)フィナンシャル・アドバイザー(FA)

フィナンシャル・アドバイザー(FA)は、M&Aの初期段階からクロージングまで案件全体のスケジュールを設定・管理する水先案内人のような役割を果たします。具体的には、

買い手か売り手の一方に対して、M&Aの対象事業や対象会社の探索に始まり、スキームの提案や契約交渉の助言・支援の他、M&Aに関する各種専門家の紹介、簡易な企業価値の算定など

を行います。ただし、FAの業務内容は会社の方針や個別ケースによって大きく違うので、個別に確認したほうが無難です。

中小企業のM&Aでは、銀行がFAを担当するケースが比較的多く、その他だと証券会社などとなります。また、顧問税理士を通じてM&Aが実現する場合だと、税理士がFAのような役割を果たすこともあります。

2)M&A仲介会社

M&A仲介会社は、M&Aの買い手と売り手をつなぐマッチングの役割を担います。具体的には、

買い手と売り手の間に立って、M&Aの初期段階からクロージングまで案件全体のスケジュールの設定・管理など

を行います。

支援内容はFAと似ていますが、利益が相反しがちな買い手と売り手の間に立って、中立的に業務を行うところに一方サイドに立つFAと大きく違う点があります。難しい立場でM&Aの実現を導くことになるため、双方が考える落としどころをうまく調整して話をまとめられるような経験と能力が必要です。

3)弁護士

弁護士は、M&Aを実現する際に必要な法的な問題点の洗い出し(法務デューディリジェンス)や、M&A全体の手続きのコーディネートなどを行います。具体的には、

M&Aの対象事業や対象会社についてのデューディリジェンス、実行するM&Aのスキームの検討、M&Aの条件交渉、それを取りまとめる基本合意書・最終契約書の作成など

を行います。

4)司法書士

司法書士は、買い手または売り手の登記やその関連業務などを行います。具体的には、

議事録の作成、会社分割等の組織再編スキームを用いてM&Aを行う場合やM&Aに伴って会社組織等を変更する場合の登記(取締役会設置会社を非設置会社にする、株券不発行会社にするなど)、現役員が退任する場合の登記、新役員の選任等の登記など

を行います。なお、これらの業務を社内で全て行う場合は、司法書士は担当しません。

5)弁理士

弁理士は、特に買い手側の立場から、M&Aの対象事業や対象会社の知的財産権に関する調査などを支援します。具体的には、

知的財産権の権利範囲、ライセンス契約や職務発明規程はどのように整備・管理されているかなどの知的財産権の価値評価や、登録されている知的財産権について必要な変更手続きなど

を行います。なお、知的財産権の価値評価については、弁護士が担当することもあります。

6)公認会計士

公認会計士は、特に買い手側の立場から、財務デューディリジェンスなどを行います。具体的には、

企業価値の算定、財務的観点からの問題点の洗い出し、M&A後の収益見込みなどをシミュレーションした上での事業計画の作成支援など

を行います。

7)税理士

税理士は、特に買い手側の立場から、M&Aによって懸念される税務リスクの洗い出しなどを行います。具体的には、

将来発生するものも含めて法人税等のタックスプランニングなど

を行います。M&Aの規模が大きくなればなるほど、取引金額も相応になりますので、税務上のインパクトを勘案しておく必要があります。

8)その他

前述した専門家の他に、次のような専門家の支援が必要になることもあります。

  • 社会保険労務士:人事労務問題への対応
  • 行政書士:行政上の許認可関係の手続き
  • 不動産鑑定士や汚染調査会社:不動産の価値・土壌汚染の有無の調査など
  • ITコンサルタント会社:対象事業・対象会社のシステムの情報漏洩や情報セキュリティー上の欠陥の有無、システム統合をする上での課題の洗い出しなど
  • 中小企業診断士:M&A後を見据えた経営課題全般の助言

以上(2022年5月)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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