この朝礼もそうですが、私には皆さんの前でお話しする機会がたくさんあります。また、多いときは月に10回くらい、社外の方々の前でスピーチや講演をさせていただいています。

そのため皆さんの中には、私のことを「人前で話すのが得意で、根っからの出たがり」と思っている人も多いようですが、私は若い頃、全くそうではなかったのです。社内外を問わず人前で話すことにとてもプレッシャーを感じ、逃げ出したくなるほどでした。緊張のあまり頭が真っ白になり、しどろもどろになってプレゼンに失敗したことも一度や二度ではありません。

このことに悩んでいた私は、初めて管理職になったときに気持ちを切り替え、「人前で話すのがとても得意で、常に自信を持ち堂々と話す人」を「演じる」ことにしたのです。

演じることは、皆さんにもあてはまります。むしろそれは、皆さんの仕事でもあるのです。特にそれが求められるのは管理職です。日本電産の創業者である永守重信氏は、「経営者や管理職はどのような状況にあっても『アイ・アム・ファイン=私は元気です』と言えなければならない」という趣旨のことを言っていますが、これこそ管理職が実践すべき重要な「演技」ともいえるでしょう。

例えば、管理職は、組織が「元気がないな」と思ったときこそ率先して声を出し、前向きな管理職の姿を演じることで、組織をポジティブな方向に持っていかなければなりません。

また、トラブルが起きたときも同じです。たとえ心の中では激しく動揺したとしても、管理職は右往左往したり弱気な態度を見せたりしてはなりません。状況にもよりますが、そうしたときこそ冷静に指示を出し、組織を動かして対応する役割を演じる必要があります。

とはいえ、演じるのは簡単ではありません。また、どのように演じたらよいか分からない管理職も多いでしょう。そこで私がお勧めしたいのは、まず、手本となる人を見つけ、その人をまねるという演技をすることです。管理職の皆さんは社内外の多くの人と接し、ネットワークを広げ、手本を見つけてください。そしてどうしても見つからなければ、私を手本にしてください。私自身も大いに迷い悩みながら、諸先輩方を手本に、管理職、そして経営者を演じ続けてきているからです。

私は特に人前で話をすることが大の苦手でしたが、「得意な人を演じる」と決めてから、人前に出るときに「演じるスイッチ」が入るようになりました。自分の感情やモチベーションとは一切関係なく、「人前で堂々と自信を持って話す人」の演技ができるようになったのです。

それは、人の上に立つ者として、人前で堂々と話をする人であることが私の重要な仕事だと認識したからです。管理職も同じです。管理職という役を演じるのは皆さんの重要な仕事なのです。

会社は舞台、管理職の皆さんは役者です。私と一緒に素晴らしい舞台をつくりましょう。

以上(2022年5月)

op16886
画像:Mariko Mitsuda

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