書いてあること

  • 主な読者:ヒト・モノ・カネに関して直接的、間接的に海外と関係している企業の経営者
  • 課題:激動する世界情勢が日本経済に及ぼす影響を考えたい
  • 解決策:既に発生した国際紛争・環境問題への対応・感染症のまん延という事象が日本経済にどのように影響を及ぼすのか把握する

1 激動の世界情勢が日本経済を直撃する

  • ロシアによるウクライナ侵攻
  • 脱炭素社会の実現を求める国際的な機運の高まり
  • 新型コロナウイルス感染症のまん延

世界で発生するさまざまな問題は、日本経済にも大きな影響を及ぼしています。日本経済を語る上で、もはや「対岸の火事」という言葉は使えません。グローバル経済が発展した現代では、対岸どころか、地球の裏側で起こったことも、日本経済に深刻な打撃を与えます。

こうした世界における問題は、私たちには防ぎようのない、いわば荒波です。その荒波に沈没しないように企業のかじを取っていくには、まずは荒波が日本経済に及ぼす影響を理解しておくことが大切です。

このシリーズでは、世界の外交・環境・感染症といったリスクが、日本経済にどのように影響を及ぼすのか、そのメカニズムについて2回にわたって解説します。

2 国際紛争は不景気や世界経済のインフレを招く

・具体的な事象

ロシアによるウクライナ侵攻の長期化(中国のロシア支持や西側諸国の経済制裁強化)

・想定される日本経済への影響

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1)資源国の国際紛争は日本に大きな影響

国際紛争などの外交問題は、関係する国が日本にとって依存度の高い資源国の場合、とても大きな影響を及ぼすことになります。

例えば、ロシアによるウクライナへの侵攻が続き、ロシアとの貿易などが困難になれば、直接取引している日本企業はもちろん、ロシア産品を使っている企業にも大きな影響が出かねません。輸出が難しくなり困る企業もあるでしょうし、ロシア国内に工場を持っている企業などにとっては深刻な問題となります。

日本経済全体としての影響を考えた場合、それよりもはるかに深刻なのは、エネルギーなどの資源類の輸入が止まることでしょう。ロシアのエネルギーが輸入できなくなった場合、世界的なエネルギーの不足が生じて、エネルギー価格が高騰するかもしれません。

エネルギー価格が高騰すれば、日本経済としては「産油国が増税した」ような影響を受けるわけです。カネが海外に流出していき、消費者は高いガソリン代などを払う分だけ他のものが買えなくなり、景気は悪化するでしょう。

また、エネルギー価格が高騰すれば、世界経済がインフレになりますから、世界的に金融が引き締められ、景気が悪くなったり、株価が値下がりしたりするでしょう。

ロシアに依存している希少金属などについては、価格の問題というよりも、「それを使わないとつくれない製品」があり得ることが問題です。代替品を使って同じものをつくる技術が簡単に開発できればよいのですが、そうでないと、特定の一部製品の不足が続いてしまいます。

また、ウクライナは農業大国であり、世界の穀物生産に占めるウエートが大きいので、作付けができない場合は、世界の穀物生産量に影響を及ぼします。

2)国際分業体制の後退は世界経済に深刻な事態

中国は巨大な市場ですから、対中輸出が激減するようなことになれば、世界は深刻な不況に陥ることでしょう。仮に中国が明確にロシアを支持する姿勢を取った場合、それに対して西側諸国が中国に対しても種々の経済制裁を科す可能性があります。その場合、日本を含む対中輸出への依存度の高い国の経済は影響を受けることになるでしょう。

しかし、それ以上に深刻なのは、中国との国際分業が急激に後退することです。中国製品の輸入が止まったり、中国にある外国の工場が操業できなくなったりすれば、これまで世界経済の発展を支えてきた大きな流れが逆流しかねません。世界経済は、「お互いが得意なものを大量につくって交換する」という国際分業によって発展してきました。その流れが逆流するとなると、さまざまな経済活動に、これまで必要なかったコストが上乗せされることになります。事態は深刻です。

日本が得意とするものをつくっても中国に輸出することができず、中国が得意とするものは中国以外の国から輸入しなければならなくなります。場合によっては、中国に進出している工場なども閉鎖することになるでしょう。

変化が徐々に起きる場合でも大問題ですが、あるとき突然、「中国との貿易禁止」などということになれば、大混乱が生じかねません。

3 環境問題への対応が産業構造の地殻変動を起こす

・具体的な事象

脱炭素に関する国際的な枠組みやルールの定着

・想定される日本経済への影響

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1)国内の自動車産業にはマイナス、家電産業にはプラスの影響

環境問題に対する世界的な関心が高まっています。環境問題への対応という国際的なルールが浸透していった場合、環境負荷の高かった従来の産業構造を根本から覆し、ゲームチェンジャーが登場する可能性を秘めています。

環境は重要ですし、地球温暖化などについては各国が協力して真剣に取り組まないと将来に大きな禍根を残すことは筆者も理解しています。しかし、そのためのコストは決して小さくなさそうです。特に、日本経済に限った影響を考えれば、リスクのほうがはるかに大きそうだという面もあることに要注意でしょう。とりわけ、長期的な日本経済の将来性を考える際には、大きな懸念材料ともいえそうです。

例えば、日本が強い国際競争力を持ち、巨大な産業として経済を支えている「自動車産業」について考えてみましょう。ガソリン車が世界的に生産されなくなると、日本の持っている国際競争力が意味をなさなくなります。ガソリン車製造業が衰退産業になってしまうわけです。

電気自動車などへのシフトが新しい工場建設を誘発したりすれば、経済にとってプラスの面もあるでしょう。しかし、電気自動車で日本メーカーがガソリン車と同じように強い国際競争力を持てると考える理由は特にありませんし、実際に海外メーカーのほうが先行しているようです。

その一方で、家電産業などに関して言えば、日本メーカーは省エネ技術に長けているので、環境問題の重視は、日本メーカーにとって追い風かもしれません。

もっとも、それが日本経済にとって十分な追い風になるかどうかは、判断が難しいところです。日本の家電メーカーは、海外現地生産が進んでいますので、日本製品への需要が高まったとしても、日本経済がその利益を全て享受できるとはいえないからです。

海外子会社の売り上げと利益が増加すると、日本の家電メーカーの株価が上がり、株主配当は増えるかもしれません。しかし、工場が増設されるのは海外であって、日本国内の設備投資や雇用の拡大にはつながらないことが想定されます。日本国内の労働者の賃上げやボーナス上昇の可能性は皆無ではありませんが、過大な期待は禁物でしょう。

2)脱炭素で一時的なエネルギー価格の上昇も

環境問題に対する関心の高まりで懸念されるのが、化石燃料の価格上昇です。環境問題への対応によって、化石燃料の需要は長期的には減っていくでしょうが、短期間で一気に減るわけではなさそうです。

その一方で、油田や炭鉱の新規開発は行われなくなるとみられます。10年後には需要が激減すると分かっているのに、莫大なコストのかかる投資をしようとは誰も思わないはずだからです。

そうなると、今後の化石燃料の価格を決めるのは、既存の油田や炭鉱の生産力が減っていくスピードと、化石燃料の需要が減っていくスピードの競争の結果次第ということになります。仮に供給力のほうが早く減っていくとすれば、今後10年間は化石燃料の価格が高止まりすることにもなりかねません。

4 エンデミック期の日本経済の相対的な回復の遅れ

・具体的な事象

新型コロナウイルス(コロナ)のまん延に伴う感染防止対策の徹底

・想定される日本経済への影響

エンデミック期への移行後も、過剰な自粛によって海外と比べて経済回復が遅れる

感染症に関しては、筆者は医学の専門ではないので、さまざまなリスクシナリオが必要になります。ここでは、「パンデミック」期から「エンデミック」期へと移行し、強い感染力を持ちながらも重症化率や致死率が低い状態が続くようになったときの、日本経済の回復スピードという点に絞って考えていきます。その場合、感染防止を徹底しすぎて経済への悪影響が甚大になるリスクがあるといえます。リスクを決めるポイントは2つあります。

ポイントの1つは、政治家による各種規制などに関する判断です。コロナを特殊な病気と捉え続けて感染対策を徹底するのか、「インフルエンザと同じようなもの」と考えて感染対策を緩和していくのか、という政治判断です。

もう1つのポイントは、個々人の行動です。「飲み会の自粛要請は解かれたけれど、怖いから飲みに行かない」「自分はコロナを恐れていないが、仮に感染したときに周囲から何を言われるか分からないから、飲みに行かない」という人が多ければ、やはり経済は回っていきません。

これは、「安全と安心」という難しい問題です。「安全なのか」は科学の問題ですが、「安心なのか」は心理の問題です。筆者の印象としては、海外と比べて日本人は慎重な人が多いので、経済の回復のペースは比較的ゆっくりしているように見えますし、今後もその傾向が続きそうです。

次回は、日本経済のリスクシナリオについて解説しますので、ご期待ください。

以上(2022年6月)
(執筆 前久留米大学商学部教授 塚崎公義)

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画像:bakhtiarzein-Adobe Stock

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