書いてあること
- 主な読者:中古車販売業や、その関連サービスを手掛ける経営者
- 課題:中古車販売は好調なのか、各企業がどのような事業展開をしているのかを知りたい
- 解決策:中古車需要は高まっている一方、半導体や部品の供給不足による品薄などの課題がある。特定の車種を取り扱ったり、非対面のサービスを推進したりする企業が多い
1 中古車の流通経路と主なプレーヤーについて
中古車の流通経路のイメージは次の通りです。
中古車販売業の主なプレーヤーは次の通りです。
1)ディーラー系販売店
各自動車メーカーと特約店契約を結び、そのメーカーで展示用や試乗用として使用されていた車を仕入れたり、一般ユーザーから下取り(ユーザーが新しい車に乗り換えるために、今乗っている車をディーラーに買い取ってもらうこと)したりした車を販売する店舗です。
2)中古車販売店
一般ユーザーからの買い取りや、オートオークションなどの業者間取引を通じて中古車を仕入れて販売する店舗です。
全国展開するチェーン店から、地域密着型で単独経営を行う販売店までさまざまな規模の店舗があります。また、特定の車種の取り扱いに特化した店舗や、高級車から軽自動車まで幅広く取り扱う店舗など、商品展開もいろいろです。
3)中古車買取店
一般ユーザーからの買い取りを専業としている店舗です。仕入れた中古車はオークションなどを通じて、中古車販売店に転売する流れとなっています。
なお、企業によっては一般ユーザーからの買い取り、業者間取引だけでなく、一般ユーザーへの直接販売に注力するところもあります。
この他にも、自動車整備工場やガソリンスタンドが事業多角化の一環として中古車を取り扱ったり、実店舗を持たず、ネットオークション形式の販売や個人売買の仲介を手掛けたりするケースもあります。
2 中古車販売にまつわるデータについて
1)乗用車の保有台数、平均使用年数について
自動車検査登録情報協会「自動車保有台数推移表」によると、2021年の自動車保有台数は約8208万台で、そのうち乗用車が約6192万台となっています。乗用車の多くはガソリンエンジン車ですが、ハイブリッド車(プラグインハイブリッド車を含む)が約1001万台、電気自動車が約12万台と、年々普及が進んでいます。
また、同協会が公表している「自動車の平均使用年数(軽自動車を除く)」によると、乗用車の平均使用年数は13.87年(注)となっています。
(注)1年前の自動車保有台数と比較し、減少した車両を1年間に抹消された車両とみなして、国内で新規(新車)登録されてから抹消登録するまでの平均年数を算出しています。ただし、減少台数には一時抹消(一時的に登録を抹消し、公道を走れなくする手続き)も含まれるため、自動車が完全にスクラップされるまでの期間とは若干異なります。
2)中古車販売業の事業所数について
中古車販売業は日本標準産業分類上、「中古自動車小売業」に位置付けられます。直近の総務省「平成28年経済センサス活動調査」によると、2016年時点で中古自動車小売業の事業所数は2万1556です。
3)中古車登録台数について
日本自動車販売協会連合会「中古車年別登録台数」によると、中古車登録台数の推移は次の通りです。
2021年度の普通乗用車と小型乗用車の合計台数は前年度比5.8%減の316万9492台となり、2019年度以降の前年度割れとなりました。この背景には、中古車需要が高まる一方で、半導体や部品不足により新車の販売が停滞し、中古車流通が減ったことが挙げられます。
4)軽乗用車の中古車販売台数について
全国軽自動車協会連合会「軽四輪車 中古車販売台数の年別推移」によると、軽四輪車のうち、軽乗用車の中古車販売台数の年別推移は次の通りです。
5)中古車の購入台数と市場規模について
リクルート「中古車購入実態調査2021」によると、中古車の購入台数、市場規模(推計値)は次の通りです。
中古車市場規模(推計)は2020年に一度前年を下回りましたが、2021年には回復し、直近5年間の推移でも最大の数値となっています。また、若者の車離れといわれて久しい状況ですが、年齢別に見ると、中古車市場で購入台数が最も多いのは20歳代、次いで30歳代となっています。
6)中古車輸出の仕向け国上位10カ国について
日本中古車輸出業協同組合「中古車輸出台数」によると、中古車輸出の仕向け国上位10カ国の推移は次の通りです。
中古車の海外への輸出先は5カ年連続でロシア、アラブ首長国連邦、ニュージーランドが上位3カ国を占めており、ロシアは5年連続で輸出台数が増加しています。一方、図表には掲載されていませんが、2022年3月時点ではウクライナ侵攻に伴う経済制裁が影響し、ロシアへの輸出が滞ったことで、アラブ首長国連邦への輸出が首位となっています。
また、タイが2020年に入り仕向け国の上位10カ国に入っていますが、背景として、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、公共交通機関を避けて自動車を選ぶ傾向にあることや、経済的事情で新車の購入が難しく、中古車購入の需要が高まっていることが挙げられます。
7)中古自動車小売業を手掛ける主な企業(大手5社)の売上高ランキング
各企業の決算短信資料によると、中古自動車小売業を手掛ける主な企業(大手5社)の売上高ランキングは次の通りです。
各企業とも、売上高が増加傾向にあります。各企業の動向を見ていきましょう。
IDOMは、中古車買い取り、販売店の「ガリバー」をはじめ、個人間売買の仲介を行う「ガリバーフリマ」や、中古車の査定をスマートフォンアプリで行う「ガリバーオート」などを手掛けています。2022年2月期の国内直営店における中古車小売台数が14万119台となり、創業以来過去最高となりました。
ネクステージは、地域密着型として中古車の販売だけでなく、車検、板金修理、自動車保険までトータルで手掛けています。スバル車だけを取り扱う専門店や輸入車専門店、買取専門店などを幅広く出店したことで、売上高の増加につなげています。
ケーユーホールディングスは、中古車販売店の「ケーユー」を手掛けつつ、もう1つの事業である輸入車ディーラーのほうで売上高を伸ばしています。2022年3月期の国産車販売事業の売上高が404億8800万円に対して、輸入車ディーラー事業の売上高はおよそ2倍の906億3100万円となっています。
ユー・エス・エスは、中古車オークションや中古自動車買取専門店「ラビット」を手掛けています。オートオークションでの中古車取り扱い台数の増加、成約率の上昇が売上高の増加につながったとしています。
グッドスピードは、SUVや4WDの取り扱いに強みを持ち、店舗にサービスファクトリーを併設してサポートを行っています。東海地方以外へのエリア拡大による専門店の出店を進めただけでなく、整備・板金・ガソリンスタンド、レンタカーサービス、保険代理店サービスを強化し、ワンストップでサービスを提供できる体制を整えることによって、売上高の増加につなげています。
3 中古車販売業を取り巻く市場環境の分析
ここではPEST分析を用いて、中古車販売業を取り巻く外部環境と成長要因について整理します。
中古車販売市場は新車販売の状況に大きく影響されます。新型コロナウイルスの感染拡大や、半導体の供給不足による自動車生産の停滞によって中古車も品薄になり、販売価格が上昇傾向にあります。
中古車の取引価格は年式、走行距離、整備状況や不具合の有無、オートオークションでの相場などを基に販売事業者が決めていますが、一般的に内燃機関(ガソリンやディーゼルエンジン)搭載の車両は、走行距離や整備、修理の履歴で価格の評価が可能とされている一方で、バッテリーを搭載する電気自動車は、バッテリーの性能を適正に評価することが難しく、中古車市場では取引価格が下がる、ユーザーからの人気が低いといわれています。
このことから、日本中古自動車販売協会連合会では、中古自動車のカーボンニュートラルを実現するために、補助金・減免税制を新車、中古車問わずに実施すること、電気自動車のバッテリーを適正に評価するための制度づくりを政府に要望しています。
中古車販売に関わるサービスでは、新型コロナウイルスの感染防止対策や業務効率化の観点から、これまでの対面による商談を避けて、オンライン商談に取り組む企業や、ウェブサイト上で車を購入する際のオートローンの手続きを行えるサービスなど、中古車販売店向けの業務支援ビジネスも登場しています(詳細は次章で後述)。
4 中古車販売に関わる新しいサービスの事例
1)じげん(東京都港区):買い取りが難しい水没車、事故車などの売却を支援
求人情報サイトや住宅リフォームサイトなどのライフサービスプラットフォーム事業を手掛ける同社では、中古車買取店や輸出事業社特化型の買取一括査定メディア「セルトレ」を運営しています。一般的に買い取りが難しいとされている水没車、事故車、走行距離が10万キロ以上の車でも、査定・買い取りが可能としています。
中古車の買い取りを依頼したいユーザーがウェブサイト上で車種や走行距離などの情報を入力すると、「国内小売向け」「海外輸出向け」「廃車」の区分で自動判定を行い、買い取りが可能な中古車の買取専門店や輸出事業者を紹介する仕組みとなっています。
2)ゼロカートラブル(大阪府大阪市):高級車を古着感覚で楽しむことを提案
欧州の中古車をメインに取り扱う同社では、取り扱う車に「チープアップ」という独自のカスタマイズをして提案しています。日本に輸入される欧州車は高級なイメージがありますが、例えば、アルミホイールをあえて質素なスチールホイールに取り換える、キャンプ用品などを積むためのキャリアを取り付ける、ステッカーを車体に貼るなどのカスタマイズを施すことで、より気軽に高級車を楽しんでもらうことをコンセプトにしています。
3)プロトコーポレーション(愛知県名古屋市):オンライン商談、AIで中古車販売を支援
クルマ情報メディア「グーネット」の運営などを手掛ける同社では、専用アプリ等のインストールが不要のオンライン商談ツール「グーネットLive」を提供しています。ユーザーが「グーネット」に掲載している自動車販売会社から発行されるURLを開きパスコードを入力することで、音声とビデオ通話機能でクルマのオンライン商談が可能となります。
また、「グーネット」を利用する中古車販売会社の経営支援システム「MOTOR GATE(モーターゲート)」では、掲載する中古車の画像から、車種情報登録などをAIが自動で判別してデータ化する「MOTOR GATE AI」というサービスも提供しています。
4)ロペライオ(東京都世田谷区):高級中古車のリモート査定、YouTube動画での紹介
輸入中古車の販売・買い取りを手掛ける同社では、リモート査定や動画による販売車の紹介に取り組んでいます。リモート査定は同社ウェブサイトの専用フォームへの入力やラインによる申し込みを受け付けており、最短10分で査定ができるとしています。
販売車を紹介するYouTube動画では、内外装の状態チェックをはじめ、スタッフが試乗して公道を走る様子やレビューも収めているため、顧客が気になった車の状態を詳細に知ることができます。
5)リクルート(東京都千代田区):「非対面WEBローンシステム」で購入プロセスを効率化
中古車情報サイト「カーセンサー」などを手掛ける同社では、アルファ・ゴリラ(兵庫県神戸市)が開発し、リクルートが中古車販売店向けに提供している「インスタントLIVE」(販売店と顧客がオンライン相談をしたり、商談情報を管理したりするシステム)と連携した「非対面WEBローンシステム」を提供しています。
自動車を購入する際のオートローンの審査申し込み、審査結果確認、契約締結までをオンラインでできるので、顧客の契約書記入・なつ印のための来店が不要になるだけでなく、店舗側の業務効率化にもつながります。
以上(2022年6月)
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画像:photo-ac