書いてあること
- 主な読者:パン市場への参入を検討している事業者
- 課題:人気の高い食パン市場に参入したい。とはいえ、異業種の場合、高級食パン市場の参入に際して、どのような準備が必要かが分からない
- 解決策:本稿では、ノウハウがなくても、異業種から高級食パンのFCに加盟して参入している事例なども紹介しているので、参考にできる
1 パン製造小売業の業態について
1)パン製造小売業の分類
日本標準産業分類によると、主として食パン、コッペパン、菓子パンなどの各種のパン類を一般消費者に販売する事業所は、製造小売と製造小売でないものに分類されます。パン製造小売業は、インストアベーカリーとも呼ばれており、各種のパン類を製造し、パンの販売も製造と同じ場所で行う事業所をいいます。
高級食パンを手掛けている企業(4章で事例を紹介します)は、主にパン製造小売業に分類されるため、本稿では、パン製造小売業に関する業態やデータを見ていきます。
2)製造工程による分類
パン製造小売業は、主に次の2つの形態に分けられます。
1.オンプレミス型
原材料を仕入れて、パン生地の製造から焼き上げまでの全ての工程を同じ店舗内で行う方式です。スクラッチ方式やコンプリート方式とも呼ばれています。
生地の製造から手掛けるため、職人の確保やミキサー、生地加工機械などの設備が必要ですが、その店舗独自の製品開発が行いやすく、顧客の好みに合わせた商品が提供できます。
2.ベークオフ型
パン生地工場で作られた冷凍の生地を仕入れて、店舗で焼き上げて販売する方式です。
既に出来上がった生地を使うため、店舗で商品のアレンジがしにくい半面、オンプレミス型と比べて、ミキサー、生地加工機械などの設備が不要なので、コストを抑えられます。
3)パン製造小売業に関するデータ
総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」、経済産業省「工業統計調査」によると、パン製造小売業の事業所数、従業者数、年間商品販売額は次の通りです。
また、総務省「家計調査年報」によると、パンへの1世帯当たりの年間支出金額の推移(総世帯)は次の通りです。
パン製造小売業の事業所数、年間商品販売額が増加傾向にあります。パンを主食とするケースが増え、需要が拡大していることがうかがえます。
4)パン製造小売業で必要な許認可について
サンドイッチやハンバーガーなどの調理パンを作らず、焼いたパンの小売りのみを行う場合は、菓子製造業の許認可になります。一方で、調理パンを作る場合や、イートイン形式の店舗を開業する場合には、菓子製造業と飲食店営業の許認可が必要です。併せて、食品衛生責任者の選任も必要です。
2 パン製造小売業の業界分析
パン製造小売業の外部環境を、ビジネスフレームワークの「PEST分析」と「ファイブフォース分析」に沿って考えます。
パン製造小売業は薄利多売のビジネスモデルであることや、同業他社との競争が激化することで倒産を余儀なくされる事業者も増えています。こうした中で、他店舗との差異化や、パンを贈答用として購入する需要を取り込むため、原材料にこだわった高級食パンを手掛ける企業・店舗があります。
以降では、高級食パンを手掛ける企業や店舗について、販売している高級食パンの概要やFCの新規加盟について紹介します。
3 高級食パンを手掛ける企業・店舗の事例
1)高級食パンを手掛ける企業・店舗のポジショニング
ここでは、新聞記事やニュースリリースを基に、高級食パンを手掛ける企業や店舗を紹介します。なお、紹介する事例は、展開する地域や高級食パンの需要で、次のように分けることができます。
2)T.H.S(埼玉県越谷市)
居酒屋やラーメン店などをFC展開しているT.H.Sでは、純生食パン工房「HARE/PAN(ハレパン)」を運営しています。
ハレパンが販売している純生食パンは、卵を使わず作られているため、アレルギーのある人でも安心して食べられるようになっています。
FCの加盟について、同社にヒアリングした結果は次の通りです。
- FCは、飲食店経営の有無を問わず加盟を受け付けており、飲食業以外の業種のFC加盟も多い。
- 物件は自己所有、賃貸を問わずオーナー自身で確保し、パン製造のための作業場と販売スペースを合わせて19坪程度は必要になる。
- 物件の立地調査(周辺に既存店舗が無いかどうかなど)、物件の内装工事、店舗の開業までは3カ月程度を見込む必要がある。
3)銀座仁志川(東京都中央区)
高級食パン製造販売店「銀座に志かわ」を全国展開する同社では、商品を1種類、1サイズのみに絞り、「水にこだわる高級食パン」を販売しています。仕込みの際に、独自のアルカリイオン水を使うことで柔らかさを引きだしています。
同店舗で販売する食パンは、そのまま食べるだけでなく、お酒のおつまみや和食と合わせた食べ方をウェブサイト上で提案しています。また、贈り物や手土産用として食パンを購入する顧客の拡大を狙い、食パン専用の風呂敷も販売しています。
4)ジャパンベーカリーマーケティング(神奈川県横浜市)
ベーカリーの開業支援の中でも、特に製パン未経験者を対象としており、開業前準備から店舗デザイン、販促、開店後のサポートまでを一貫して手掛けています。
同社の代表取締役社長かつベーカリープロデューサーの岸本拓也氏は、全国で変わった店名の高級食パン専門店をプロデュースした実績があり、静岡県では、「夜にパオーン」(静岡県袋井市)や「すでに富士山超えてます」(静岡市葵区)などの店舗があります。
5)IFC(東京都新宿区)
IFCでは、焼きたて食パン「一本堂」を運営しています。一本堂では、日常的に食べる食パンを想定し、プレーンな食パンだけでなく、レーズンや小豆の入ったデザート系食パンや、食パンと相性の良いジャムも取り扱っています。
FCの加盟について、同社にヒアリングした結果は次の通りです。
- FCは、飲食店経営や製パン経験の有無を問わず加盟を受け付けている。一本堂は、飲食店経営や製パンのノウハウが無い人のFC加盟がほとんどとなっている。
- 静岡県内では、磐田市、沼津市、浜松市内に既存店舗があるため、静岡市内であればFCの加盟が可能。
- 開業費用は、加盟金や物件の内装工事、機材の導入などを含めて総額で1200万円程度を目安としている。
- 物件は自己所有、賃貸を問わずオーナー自身で確保し、パン製造のための作業場と販売スペースを合わせて10~12坪が必要になる。
- 物件の審査や改修、機材の導入など、開業までの期間は2~3カ月程度を目安としている。
6)トルタロッソ製パン(東京都港区)
ホテル、レストラン向けの焼成冷凍パンを製造、販売しているトルタロッソ製パンでは、三重県の伊賀市にある直売所で「伊賀のおいしい水を使った高級食パン」を販売しています。
1日50本限定の予約販売で、価格は1本(2斤分)で800円(税別)となっています。
7)ドロキア・オラシイタ(大阪府大阪市)
洋菓子の製造、販売、カフェ、レストランなどの飲食店経営を手掛ける同社では、高級食パン「嵜本(サキモト)」を全国で展開しています。
食パンは卵を使わずに製造しています。曜日限定のメニューの他、2斤サイズに限らず、手土産にも最適な、4枚切り1枚入りの食べきりパッケージも販売しています。
現在、パンを製造する工房付きの店舗、販売のみを行うサテライトタイプの店舗、自社ブランドの「極美ナチュラル」専門店の法人FC加盟店を募集しています。工房付きの店舗の場合、保証金は200万円(カフェメニューを提供する場合は別途相談)、店舗面積は30坪以上(別途ストックヤードが必要)としています。
8)乃が美ホールディングス(大阪府大阪市)
高級「生」食パン専門店「乃が美」、「乃が美はなれ」を全国展開する乃が美ホールディングスでは、パン製造の原材料にバターとマーガリンを併用し、小麦粉や蜂蜜の風味を引き出すことで、おいしさを際立たせています。また、おいしさを保つため、冷凍保存を推奨しており、保存方法をウェブサイトで紹介しています。
FCは既にパートナーシップを結んでいる企業があるため、現在新規の加盟は受け付けていません。
9)パン工房 ル・カルフール-Le carrefour-(北海道帯広市)
帯広調理師専門学校直営のパン工房であるル・カルフールでは、店舗名がそのまま商品名になった高級食パン「Le carrefour(ル・カルフール)」を販売しています。通常の高級食パンが耳まで柔らかいのに対し、ル・カルフールはブリオッシュとデニッシュ生地を使うことで外はサクサク、中はしっとりとした食パンになっています。
以上(2020年5月)
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画像:unsplash