皆さんは、新しいことにチャレンジできる機会がありながら、自分のスキル不足を理由に、挑戦を見送ってしまった経験はありませんか? 自分の能力を客観的に分析するのは大切なことですが、もし皆さんが、スキルがないとチャレンジは無理だと考えているのだとしたら、それは間違いです。今日はチャレンジが苦手という人に向けて、レオナルド・ダ・ヴィンチの話をします。

ダ・ヴィンチは、「モナ・リザ」「最後の晩餐(ばんさん)」などの名画で知られる画家ですが、絵の他にも彫刻、音楽、解剖、軍事、土木などさまざまな分野に精通し、なおかつ各分野で顕著な功績を残しました。ダ・ヴィンチがどうやって多様な分野で一流のスキルを身に付けていったのか。そのヒントとなるエピソードがあります。

ダ・ヴィンチは若い頃、イタリアのミラノで芸術活動をしようと考えました。しかし、当時のミラノの権力者は芸術よりも軍事に興味を持っていたため、ダ・ヴィンチはまず「兵器を作れる軍事家」として自分を売り込んだのです。すごいのが、このときダ・ヴィンチは、軍事の知識をほとんど持っていなかったということ。なんと彼は、ミラノに招かれることが決まってから軍事を一から勉強し、そこにもともと持っていた工学の知識を組み合わせることで、さまざまな兵器のアイデアを打ち出したのです。こうして権力者の信頼を勝ち取ったダ・ヴィンチの元には、本分である絵や彫刻の仕事も舞い込むようになりました。

ダ・ヴィンチが軍事をほとんど知らないレベルから、短期間で権力者を認めさせるレベルの軍事家にまで成長できた理由は何でしょうか。もちろん、彼が類いまれなる頭脳を持っていたのもあるでしょうが、皆さんに注目してほしいのは、彼がほぼ知識ゼロの状態で「自分は軍事家です」と権力者に宣言したことです。何が何でも勉強せざるを得ない状況を自分でつくり出したことで、自身にプレッシャーを与え、それをバネに成長していったのでしょう。

私がこの話を通じて皆さんに伝えたいのは、「スキル不足を理由にチャレンジを諦めるぐらいなら、まず“やる”と決めてしまってはどうか」ということです。火事場のばか力ではないですが、仮にスキルが不足していたとしても、チャレンジを成功させなければならない状況に自分を追い込めば、人間はその不足を補うために努力できるものです。“やる”という意志さえあれば、スキルは後から付いてきます。

チャレンジが苦手な人に足りないものがあるのだとしたら、それはスキルではなく勇気です。失敗するのが不安なら心配はいりません。仮に皆さんが何かにチャレンジして失敗したとしても、私はそれを責めたりはしません。なぜなら、チャレンジを成功させるためにスキル不足を埋めようとした皆さんの努力は、決して無駄ではなく、次のチャレンジを成功に導く大きな財産になるからです。

以上(2022年8月)

pj17113
画像:Mariko Mitsuda

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