書いてあること

  • 主な読者:中小製造業で新しくDtoCビジネスに取り組みたい経営者
  • 課題:DtoCビジネスとはどのようなものか、従来の製造業と何が違うのか理解したい
  • 解決策:DtoCビジネスの成功エッセンスを活かし、新しい視点で製品づくりに取り組むことで、事業領域を広げる可能性が高まる

1 従来の製造業とは全く異なる「DtoC」ビジネス

皆さまは、DtoCという言葉を聞いたことはあるでしょうか。DtoCとは、Direct to Consumer(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の略で、

メーカーが自社で企画した製品を店舗や仲介業者を通すことなく、自社ECサイトなどを用いて、顧客に直接販売する手法

のことです。D2Cとも表記される場合もあります。この定義だけだと、いわゆる「直販」と同じようにも思えますが、決定的な違いは、

DtoCは、メーカーが顧客と直接、双方向でつながっている

ということです。このDtoCならではの特徴を活かすと、従来の製造業とは違う「新しい製造業」に生まれ変わる可能性を秘めています。なぜなら、DtoCビジネスでの成功事例を分析すると、従来の製造業にはなかった5つのエッセンスが挙げられるからです。

  • 商品化前の段階から顧客の意見を聞いて、顧客とともに創る
  • 自社の理念を込めた製品づくりで従業員も自社や製品のファンにする
  • 製品が生まれたストーリーを伝えて顧客の共感を得る
  • 顧客データを活用して顧客のより細かいニーズに対応する
  • 社会課題の解決につながる「ソーシャルグッド」の要素を入れて支持を得る

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この記事では、DtoCビジネスとはどのようなものか、従来の製造業と何が違うのかをご説明します。DtoCビジネスの特徴である新たな視点で製品づくりに取り組むことで、事業領域を広げるための参考にしていただければと思います。

2 DtoCビジネスを始めるメリット

DtoCビジネスが、従来の製造業とも、いわゆる直販とも違うということはご理解いただけたかと思います。では、次に事業戦略的な側面から、中小製造業者がDtoCビジネスを始めるメリットについてご説明いたします。

1)場所の制限がない

中小製造業者の中には、地域社会に根ざして製造販売を行っている企業も多いのではないかと思います。つまり、地域の流通網に商品を流し、販売をする方法です。こうした中小製造業者が生き残るためには、マーケットを広げていく必要があります。DtoCビジネスであれば、販売エリアは制限がなくなり、全国・世界を対象として販売をすることができます。

また、コロナ禍などでオンライン化がますます進み、オンライン商談会、商品説明会などが盛んに行われていますので、ニーズに合った顧客は全国から獲得することができます。今や製品を購入するための要件として、製品が自分の近くにある必要がないのです。

2)顧客の反応を試してから商品化できる

DtoCビジネスを行う企業には、クラウドファンディングで資金を集めてから製品をつくるケースも多く見られます。

このような製造手順は、債権回収リスクを減らすこともメリットですが、最大のメリットは、製品をつくる前に市場に受け入れられるかどうか検証できることです。事前に注文数も分かるので、受注生産のような形となり、在庫リスクを減らすこともできます。

クラウドファンディングサイトでは、次々と新しい製品の販売テストが行われており、実際のユーザーの声を基にして製品を進化させるという作業が繰り返されています。

3)製品を常に改良していくことが前提になっている

従来の製造業では、製品開発にじっくりと時間をかけ、「完成品」にしてから市場に出すことが一般的です。これに対してDtoCビジネスの場合は、製品は顧客の声を基に常に改良され、変化することを前提としています。つまり、「永遠のベータ版」であるといえます。

その根底には、DtoCビジネスの成功事例のエッセンスでも触れたように、DtoCを行う企業と顧客との共創関係があります。この関係があることによって、顧客の声を聞いて製品を改良するという取り組み自体が、「自分の意見が取り入れられた」と感じた顧客をファンにすることにもつながります。

ただし、製品は改良しても、製品に込められたストーリーや強い思いは変えないことが大切です。そのコンセプトに製品をより近づけるために変化した、という理解を得られるからです。コンセプトさえ変わらなければ、製品自体は必ずしも固定されていなくても顧客に受け入れられるものですし、逆に固定していないことが価値になる、ということもあるのです。

3 DtoCビジネスで成功する5つのエッセンスと事例

DtoCビジネスを始めるメリットをご理解いただいた上で、冒頭でも触れた、DtoCビジネスの成功のための5つのエッセンスについて、事例を交えながら詳しく解説いたします。

1)お客さまとつくる~顧客との共創~

通販で販売されている製品の誕生のきっかけを探ってみると、大手のメーカーが独自に持ち合わせている成分を使ってサプリメントにした、といったものが多く見られます。いわゆる「プロダクトアウト型」の高付加価値商品です。

これに対して、DtoCでは究極の「マーケットイン型」の製品をつくることができます。

アパレルDtoCのALL YOURS(オールユーアズ)は、「インターネット時代のワークウェア」をコンセプトに、クラウドファンディングで製造資金を得て立ち上がった会社です。製品が出来上がる前に、まず製品のコンセプトと製品案を発表し、ファンに受け入れられることを確認してから実販売につなげる点は、まさに新しいビジネスモデルであるといえるでしょう。

ALL YOURSでは、顧客のことを「共犯者」と呼んでいます。

大事になってくるのは、コンセプトに共感し、応援してくれる顧客です。この顧客を共犯者と呼ぶことで、ブランドとの一体感が生まれ、一緒にブランドを共創していく意識が芽生えているのです。

DtoCの良いところは、顧客と直接つながれることです。直接つながることで、つながりはより強くなります。この強いつながりを活かせば、意見をもらったり、口コミで広げてくれたりできます。そして、この強いつながりが、「ファン」を作り、ファンとの関係をより長く続けていくことを可能にするのです。

2)熱い思い~強い「理念」のあるプロダクト~

ほとんどのDtoCブランドは、製品づくりに「理念」を込めています。そして、製品が生まれた背景や、その製品によって起こしていきたいこと、社会をどのようにしていきたいか、そういった気持ちを言葉で明記し、ECサイトの分かりやすい場所に表記しています。例えば、先ほどご紹介したALL YOURSであれば、ウェブサイトに「オールユアーズの価値観」を掲載しています。

最近は、「理念経営(ビジョナリー経営)」が大きな注目を浴びています。経営理念を中心にした行動方針を策定していくことで、従業員のエンゲージメントを高め、生産性の高い組織を目指すという考え方です。DtoCの世界でも、理念に直結した製品をつくり、広めていくことで、従業員もファンの一員として活躍することができるようになります。

3)ストーリー~スペックや機能ではなく共感を売る~

前述のファン作りにも近い考え方ですが、DtoCビジネスにはストーリーが非常に重要です。スペックや機能ではなく、地域への思いや開発のストーリーなど、さまざまな「共感」を製品にすることで販売に結びつける手法です。

サッポロビールが行っているビールのDtoC「HOPPIN’ GARAGE(ホッピンガレージ)」は、顧客の「人生ストーリー」をコンセプトにして製品を生み出す「ストーリーブリューイング」という手法で製品づくりをしています。

今まで、ビールといえば味や喉越し、最近では健康に配慮した糖質ゼロなど、さまざまな機能で販売することが主流でした。これに対してHOPPIN’ GARAGEは、誰か(顧客であり企画者)のストーリーを種にしたビールを、ストーリーブックとともに届けるというサービス全体で一つの製品となっています。

例えば、「IGUSA(イグサ)」という製品は、熊本県の名産で、畳に使われる「い草」を原料とした、ほのかに畳の香りが感じられる製品です。熊本県の顧客が企画に応募して製品化されたものですが、熊本地震からの復興への願いや、もっと熊本を知ってほしいという思いをコンセプトにして開発されました。

4)データ活用~行動データを事業に活用~

「データベースマーケティング」といわれるように、顧客から得られるデータを活用することは当たり前になってきています。特に近年は顧客のニーズが多様化しており、かつてのように「王道商品」だけが売れるという時代ではありません。より細かなニーズに対応することで、販売が伸びるケースも少なくありません。

おやつのDtoC「スナックミー」は、自分の好みを幾つか答えると、好みに合いそうなお菓子が定期的に送られてくるサブスクリプション(定期購買)モデルです。食べ終わった後、そのお菓子が好みだったかどうかの反応をフィードバックすることで、次回の配送に反映されるのが特徴です。

こういった手法は「パーソナライズ」といわれますが、一人ひとりの好みに合わせた製品が送られてくることで、画一的な体験ではなく、一人ひとり異なる体験ができるという点で、ファンを作りやすくなっています。

パーソナライズしていない製品であっても、顧客の声やNPSR「Net Promoter Score(ネットプロモータースコア、顧客ロイヤルティーを測る指標)」などを計測し、より良い製品やサービスづくりに活かしていくことがビジネス成功の鍵となっています。

5)ソーシャルグッド~事業モデルそのものが社会貢献~

「ソーシャルグッド」という言葉をご存じですか? 社会課題の解決につながり、社会に対して貢献をしているかどうかを表す言葉です。SDGsに対する関心の高まりを反映して、最近使われるようになってきました。

企業に対する評価基準は、従来は売り上げや利益だけでしたが、今は社会に配慮した成長をしているかどうかに変わってきており、顧客が製品を選ぶ際の理由にもなっています。

「βace」によるチョコレートのDtoC「Minimal(ミニマル)」は、カカオ豆の選定から自社で行う「Bean to Bar(ビーン・トゥ・バー)」というコンセプトでチョコレートを製造販売しています。Minimalの特徴は、世界中のカカオ農家の貧困などの問題を解決するために、農家から直接、正当な対価で仕入れを行って製品をつくっていることです。また、カカオ農家に対して、高品質なカカオ豆を生産できるように技術支援も行っています。

このようなソーシャルグッドなビジネスは、価格やスペックなどの価値を超え、支持をされる傾向にあります。

4 DtoCビジネスの第一歩は、その製品が世の中にどのような効果があるかを問い直すこと

DtoCビジネスについての理解が深まったところで、では、DtoCビジネスを始めるにはどうすればよいのかご説明します。先ほどお伝えした5つの成功エッセンスを大切にするために、「コンセプトワーク」を行いましょう。

コンセプトワークとは、「誰に、何を、どのように販売するか」を決めることですが、最も重要なのは「何を販売するか」です。従来の製造業では、「誰に販売するか」が重視されがちでしたが、「何を販売するか」という目的重視に視点を変更するところから始めてみましょう。

その製品が、世の中にどういった効果をもたらすのかを考え、提案していくこと

が、市場に受け入れられるDtoCビジネスを行うためのポイントです。

そのためには、身近な社会課題に向き合ったり、近くの「困った」を助けるビジネスができないかを考えてみたりすると、良いきっかけになるでしょう。

「どのように販売するか」については、クラウドファンディングを利用することもできますし、最近では無料で導入できるECカートシステム(ECサイトで顧客が購入する仕組み)も増えてきています。

DtoC市場は、今後ますます拡大していくと考えられます。中小製造業者の皆さま、ぜひ始められるところからトライしてみてください。

以上(2022年8月)
(執筆 倉橋美佳)

【著者紹介】
倉橋美佳(くらはし みか)

株式会社ペンシル 代表取締役著者画像1
ペンシル入社後、通販サイトを中心にサイトの企画運用・プロモーション設計・運用等、総合的なWebコンサルティングに従事。仮説と検証に基づく改善を実施するため、サイト分析ツール「スマートチーター」プロジェクトを主導し自社開発を行う。2016年、代表取締役社長、及び、台湾現地法人「台灣朋守有限公司」の総経理に就任し、グローバル展開を含めたペンシルグループ全体のWebコンサルティング事業を率いる。セミナーや講演活動を積極的に実施。
株式会社ペンシル https://www.pencil.co.jp/

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画像:shutterstock-claudenakagawa

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