書いてあること
- 主な読者:育児休業中の社員に仕事を頼まざるを得なくなった経営者
- 課題:育児休業中の社員に、通常通りの指示を出してよいものか分からない
- 解決策:社員と合意すれば仕事を指示できる。ただし、育児の妨げにならないよう注意する
1 「育児休業中は、仕事はしない」が原則だけど……
育児・介護休業法の「育児休業」とは、
社員が子を養育するため、原則1歳まで休業できる制度
です。2022年10月1日からは、
- 育児休業を2回まで分割取得できる
- 特定の場合に再取得が認められる
ようになり、育児休業の取得促進が期待されています。
一方、注意が必要なのは、
育児休業を取得中の社員にしかできない仕事が発生した場合
です。育児休業中の社員に仕事を頼むつもりはなくても、こうしたケースはイレギュラーな対応をせざるを得ません。このような場合、一時的・臨時的に育児休業中の社員に仕事をしてもらうことができますが、その際には次の3つのポイントを押さえることが肝要です。
- 社員と合意し、あくまでも臨時のものとして指示をする
- 就業日数や賃金によって雇用保険給付の額が変わる
- 「出生時育児休業」(2022年10月1日施行)は扱いが異なる
2 社員と合意し、あくまでも臨時のものとして指示をする
厚生労働省は、育児休業中の社員が就業するための要件として次の3つを示しています。
- 育児休業中に就業することについて、労使で個別に合意する
- 子を養育する必要がない期間のみ就業を認める
- 「1日○時間、週○日勤務」など、恒常的・定期的に就業することがないようにする
平たく言うと、「育児休業中であっても一時的・臨時的な就業はできますが、会社と社員でよく話し合い、育児の妨げにならないよう必要最小限にしてください」ということです。なお、社員が育児休業中に就業するのを断ったことなどを理由に、人事評価を下げるなどの不利益な取扱いをすることは許されません。
育児休業中の一時的・臨時的な就業が認められるか否かは、次の例をご確認ください。
例1~5は労使の合意があり、その内容も突発的な事情による一時的なものなので認められます。一方、例6は労使の合意はあるものの、その内容が育児休業をしながら恒常的・定期的に働くというものなので認められません。仮に例6のケースで社員を就業させたいのであれば、
社員からの申し出によって育児休業を終了させた上で、短時間勤務に切り替える
必要があります。
2022年10月1日からは、育児休業について2回までの分割取得が認められるので、次のように配偶者の育児休業のタイミングに合わせて、育児休業と短時間勤務を使い分けることが可能になります。
ちなみに、育児休業の分割取得は、1回目の休業開始前に申し出なくても問題ありません。仮に社員が育児休業を開始した時点で、配偶者が育児休業を取得することが分かっていなくても、後から分割したい旨を会社に申し出ればよいのです。
3 就業日数や賃金によって雇用保険給付の額が変わる
社員が育児休業を取得する場合、一定の要件を満たすと雇用保険の「育児休業給付金」を受給できます。1カ月当たりの育児休業給付金の額は、原則として、
賃金月額(直近6カ月間の賃金÷180日×30日)×67%(休業開始6カ月後以降は50%)
で算定されます。ただし、社員が育児休業中に就業した場合、
就業日数が月10日(10日を超える場合は80時間)を超えると、育児休業給付金は不支給
になるので注意が必要です。
また、育児休業中に就業した日については会社から賃金が支払われますが、その場合、賃金月額に対する実際の賃金額の割合によって、育児休業給付金の扱いが次のように変わります。
- 賃金月額の13%未満 → 満額支給
- 賃金月額の13%超80%未満 → 減額支給(「賃金月額×80%-実際の賃金額」を支給)
- 賃金月額の80%以上 → 不支給
例えば、賃金月額が30万円の場合のイメージは次のようになります。
なお、育児休業給付金は、次章で紹介する出生時育児休業に対して支給される場合、「出生時育児休業給付金」という名称になります。出生時育児休業給付金は、
賃金日額(直近6カ月間の賃金÷180日)×給付日数×67%(一律)
で算定される点が育児休業給付金と異なりますが、それ以外のルールは基本的に同じです。
4 「出生時育児休業」(2022年10月1日施行)は扱いが異なる
出生時育児休業とは、
生後8週以内の子を養育するため、最大4週間まで休業できる制度で、男性社員だけが対象
となります。基本的なイメージは育児休業と同じですが、出生時育児休業は出生直後の多忙な時期に男性社員が配偶者をサポートすることを重視しているため、育児休業とルールが異なる点が幾つかあります。休業中の就業ルールもその1つです。
出生時育児休業中の社員が就業するためには、
労使協定(過半数労働組合または過半数代表者との書面による協定)を締結した上で、労使で個別に合意する
必要があります。また、労使で個別に合意する際の手続きは次の順で行うこととされています。
- 社員は、就業してもよい場合、会社に就業の条件(就業可能な日時など)を申し出る
- 会社は、社員が申し出た条件の範囲内で日時などを提示する
- 社員が、同意する
- 会社は、休業中の就業について正式に通知する
なお、就業可能な日時などについては次の制限があります。
- 就業可能な時間数の合計は、「当該期間中の所定労働時間÷2」以下
- 就業可能な日数の合計は、「当該期間中の所定労働日数÷2」以下
- 休業開始(終了)日に就業する場合、各日の就業可能な時間数は「当該日の所定労働時間」未満
例えば、所定労働時間が1日8時間、所定労働日数が1週5日の会社において、社員が出生時育児休業(2週間)中に一時的に就業するイメージは次のようになります。
2週間で就業可能な時間数の合計は40時間(1日8時間×5日×2週間÷2)以下、就業可能な日数の合計は5日(1週5日×2週間÷2)以下です。図表4の場合、就業予定時間は28時間、就業予定日数は5日なので問題ありません。
また、休業開始(終了)日に就業する場合、各日の就業可能な時間数は「8時間」未満です。図表4の場合、休業開始日は3時間、休業終了日は6時間の就業予定なので問題ありません。
以上(2022年9月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)
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