書いてあること
- 主な読者:おがくず風呂の開業を検討している人
- 課題:業界の動向、法規制、開業に掛かる費用が分からない
- 解決策:開業に掛かる費用を洗い出し、売上高などを予測できるようにする
1 おがくず風呂とは
おがくず風呂とは、
- 浴槽に針葉樹(ヒノキ、スギ、マツなど)のおがくず(木材を加工した際に出る木くず)を入れ、それにさまざまな酵素を混合して発酵させる
- 発酵する際に発生する熱を利用して、適度に温めたおがくずの中に体を横たえ、発汗、リラックスする
というもので、おがくず酵素風呂とも呼ばれます。
パイオニアと言われる大高酵素(北海道小樽市)が、おがくず酵素風呂「イオンハウス」を開設したのが1961年ですから、60年以上の実績がある温浴方法です。
2 おがくず風呂の開業を検討する際の規制・留意点
1)主な法規制について
おがくず風呂は、公衆浴場法に定める「その他の公衆浴場(2号)」に当たり、開業するには、公衆浴場法に基づき、施設所在地を管轄する保健所長の許可を得る必要があります。
申請から許可までの間に、施設の建物が建築基準法や消防法など関連法令に適合しているかなどの確認も必要です。
なお、各自治体で公衆浴場法施行条例が定められており、施設の構造設備や衛生管理に係る基準が異なる場合があります。詳細な要件は施設所在地を管轄する保健所に確認しましょう。
2)衛生管理について
おがくず風呂については、浴槽内のおがくずや酵素を定期的に取り換えるなどして、施設を清潔に保つ努力義務があります(昭和43年4月25日環衛第8066号東京都公衆衛生部長宛て厚生省環境衛生課長回答)。
一般的に、おがくずを発酵させる過程で60~70℃の高温になるため、浴槽内は雑菌が繁殖しにくい環境になっていますが、実際におがくず風呂を運営している事業者によると、1週間に1度の頻度でおがくずを取り換えるのが目安のようです。
また、次のような方法で衛生管理を徹底している事業者もあります。
- 入浴後すぐに浴槽の撹拌(かくはん)作業を行い、浴槽内の温度を維持することで雑菌を繁殖させない環境をつくる
- 専用の館内着を着用してもらい、体についたおがくずは浴槽内に落とさず、シャワーで流してもらう
3)おがくずの処分について
木製品製造業や建設業などから発生した「木くず」は産業廃棄物ですが、おがくず風呂で使われた使用済みのおがくずは、いわゆる事業系一般廃棄物として処分することとなります。
事業者によっては使用済みのおがくずをそのまま廃棄するのではなく、畑の肥料として近隣の農家に提供しているケースもあります。
3 おがくず風呂を取り巻く事業環境
ここでは、おがくず風呂を取り巻く事業環境を、ビジネスフレームワークの「ファイブフォース分析」で考えてみます。
開業を検討する際は、公衆浴場法の基準を満たす施設が用意できるかということだけでなく、原料となるおがくずや酵素を安定して確保できるかがポイントになりそうです。
また、おがくず風呂は、温泉やサウナなどの手段よりも美容やデトックス効果の高さを求めて利用する顧客が想定されます。そのため、ウェブサイトなどでおがくず風呂の具体的な効果をアピールするだけでなく、例えば通常の温浴と合わせてフェイスパックやヘッドスパなどのオプションをメニューに取り入れたり、店内で酵素飲料や入浴剤などの美容グッズを販売したりするなど、他店との差異化策があるとよいかもしれません。
次章で具体的な施設の事例を見てみましょう。
4 おがくず風呂を手掛ける施設の事例
1)おがくず酵素浴森のくまさん(愛知県半田市)
家具販売店の森田家具(愛知県半田市)が手掛けるおがくず風呂の施設です。
ウェブサイトでは、マラソン2時間相当のダイエット効果、岩盤浴の半分の入浴時間で岩盤浴以上の発汗効果があるといった酵素浴のメリットをアピールしています。
また、入浴メニューも通常の酵素浴だけでなく、酵素フェイスパックやヘッドスパ、ゲルマニウム温浴などをそろえています。
■おがくず酵素浴森のくまさん■
https://www.moritakagu.com/ion-house
2)酵素温浴Bios(滋賀県長浜市)
事前予約制となっており、温浴前に問診と温浴効果を上げるために酵素飲料を利用客に飲んでもらっています。ウェブサイトでは、岩盤浴との比較表や利用客の声を掲載することで、おがくず風呂による温浴のメリットが分かりやすく伝わるよう工夫されています。
使用する酵素風呂は滋賀・伊吹産のヒノキと杉のおがくずに大高酵素原液を加えたものとなっています。
また、おがくずは1週間に1度の頻度で浴槽内の3分の1を入れ替えており、古くなったおがくずは近隣の畑に持っていき、農作物の肥料として土に返しているといいます。
■酵素温浴Bios■
https://bios-spa.com/
3)酵素風呂OLUOLU(静岡県浜松市)
ヒノキのおがくずではなく、手で国産ヒノキを粉状に細かく挽き、酵素とミネラルと糠を混ぜ発酵させた酵素を使っています。
100%自然由来の材料を使っているので、小さな子供から高齢者まで年齢を問わず入浴できることが特徴です。
また、同店では、酵素浴だけでなく、アロマタッチトリートメントや、よもぎ蒸しも手掛けています。
■酵素風呂OLUOLU■
https://www.oluolu-k.com/
4)バイオ・テクノロジー研究所(静岡県袋井市)
同社では酵素製造業者から仕入れた酵素は使わず、自社開発・自社製造した酵素だけを使っています。酵素風呂で使う浴槽は、ヒノキの無垢材を使い、クギを使わない手作りの浴槽を使用しています。また、浴槽に敷き詰めるおがくずも長野県産や愛知県産のものを使用しています。
利用に当たっては、事前に利用客と電話カウンセリングを行い、利用客の悩みに合わせて酵素配合を変えた9つの浴槽を用意しています。
■バイオ・テクノロジー研究所■
http://biotecnorogi.jp/
5)女性専用酵素風呂 酵素ぷらざ(神奈川県横浜市)
女性専用で完全予約制の施設です。利用客の体質や希望、目的、その日の体調により、入浴の仕方や入浴時間の短縮・延長を考慮するなど、きめ細かく対応しています。
また、1日の入浴人数を限定しているため、酵素浴ルーム、パウダールームで他の利用客と接触しないように配慮されています。
■女性専用酵素風呂 酵素ぷらざ■
https://kouso-p.com/
6)発酵浴のかむろ(千葉県千葉市)
1人ごとにカーテンで仕切られた個室形式のおがくず風呂を提供しています。大人2人以上が同伴で未就学児も入浴することができ、家族連れなど3人以上で利用する場合は店内貸し切りが可能です。
同店のウェブサイトでは、デトックス効果だけでなく、アトピー性疾患がある利用客をはじめ、疲労回復やリハビリなどのスポーツケアに対しても、おがくず風呂を勧めています。
■発酵浴のかむろ■
https://kousoburo-kamuro.com/
5 開業収支を考える
1)前提条件
1.売上高
年間の売上高は900万円とします。算出式は次の通りです。
客単価3000円×1日当たり客数10人×月25日営業×12カ月≒900万円
2.原価率
日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査(サービス業)」(2020年8月公表)に掲載の公衆浴場業(黒字かつ自己資本プラス企業平均)の売上高総利益率90.9%を参考に、原価率は年間売上高の10%とします。内訳は水道光熱費、おがくず、館内着、タオル、温浴前後の水分補給用の水などの消耗品の仕入費用です。
3.人件費
上記、公衆浴場業(黒字かつ自己資本プラス企業平均)の人件費対売上高比率32.2%を参考に、人件費を年間290万円とします。
4.施設整備費用
土地は自社所有の遊休地を活用し、店舗を新築します。建物は鉄筋コンクリート造(延べ床面積50平方メートル×1平方メートル当たり工事単価30万円=1500万円)とし、浴槽、空調機器、シャワー施設、ロッカーなどの内装工事費用は合わせて480万円とします。
その他の諸条件は次の通りとします。
2)収支シミュレーション
以上(2022年9月)
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