書いてあること
- 主な読者:これから原価計算を勉強する中小企業の経営者や従業員
- 課題:原価計算の書籍には、中小企業の現場では使わない論点も数多く掲載されている
- 解決策:まずは、原価とは何か、どのようなものが該当するのかを知る
1 原価計算は何のためにするもの?
原価計算は、モノやサービスを作るのにいったいどれだけ費用がかかったかを知る手法で、会計などの分野にも必要な考え方です。会計は目的ごとに、
- 税務会計:納税額を計算
- 財務会計:株主などに向けて会社の状態や業績などを報告
- 管理会計:自社の将来の意思決定のための資料
の3つに分かれ、いずれも原価計算が関わってきます。
税務会計と財務会計では、決算期末の仕掛品などの在庫を決算書に計上するために必要となります。この在庫を基に売上原価が計算され、その後の利益計算が行われていきます。
一方、将来を予測し、将来を変える会計といわれる管理会計でも、原価計算の考え方は重要です。例えば、経営者は「物価高による解約で売上が2割落ちる見込みだが、利益はいったいいくらになるのか」「資金繰りは大丈夫なのか」といったことが心配になります。これらの疑問に答えるのに、自社のモノやサービスにいったいどれくらいお金がかかっているのかが全く分からないというのでは話になりません。原価計算の考え方を通して、将来の活動の方向性を示していくことができるように、会社の体質を把握していかなければなりません。
この会社の体質を、経営者、経理や財務だけでなく、あまり全体の数字には携わっていない営業担当者や製造担当者とも共有しておくことが大事です。各現場で全社として正しい判断ができるようになるでしょう。
書店に行くと、原価計算の体系化された書籍や新しい知識が盛り込まれた書籍が数多くあります。しかし、その中には中小企業の現場では使わない論点も数多くあるように感じます。本シリーズでは、このような膨大な情報の中から、中小企業の経営者や従業員が現場に落とし込むのに必要な情報を抜き出し、紹介していきます。
2 本当に赤字覚悟か? 原価で見るモノやサービスの値段
街中の飲食店で「赤字覚悟!」とうたい、スペシャルメニューの大盛りラーメン、ステーキやお寿司などを提供しているのを見たことがあると思います。お店が赤字になるぐらいギリギリの値段で、お客さんにはとてもお得というような宣伝文句として使われます。
この場合の赤字(その反対は黒字)には、どのような意味があるでしょうか。赤字・黒字というのは、利益のあるなしを示す言葉です。経営では、まず会社のもうけを増やすことを考えます。このもうけ、つまり利益は、
売上−費用=利益
の計算式で表すことができます。この費用の中に、
モノやサービスを作るための「原価」が含まれているのです。
少し身近な例(回転寿司店)で原価の範囲を考えてみましょう。回転寿司のお寿司の原価には何が含まれるかイメージしてみてください。ざっくり次のようなものがイメージできるのではないでしょうか。なお、次章の解説につなげるため、グループ分けしています。
赤字覚悟と言われると、売上からネタやシャリなど材料費だけを引いたものが赤字スレスレとなっていると感じるかもしれませんが、実際は違います。なぜなら、材料費だけではなく料理人の給料や店舗家賃、電気代などの水道光熱費もかかっているからです。数字の仕事をされている方は、ちょっと立ち止まって、
どこまでの原価を費用に入れて赤字覚悟なのだろうか
と考えてみるのもよいでしょう。
3 決算書から読める原価はどれ?
原価のイメージができたところで、さっそく決算書(損益計算書と製造原価報告書)を見ていきましょう。
損益計算書の「売上原価」に含まれている項目(製造原価報告書の当期製品製造原価)が、モノやサービスを作るための原価です。なお、製造原価報告書とは、原価を集計し、当期に完成した製品の原価(製造原価)を計算する決算書をいいます。売上原価には、材料費、労務費、外注費、経費といったモノやサービスを作るためにかかった費用が含まれます。図表2でいえば、1から8までが売上原価になります。
また、これ以外に本社の人件費や広告宣伝費といった販売や管理をするための費用として販売費及び一般管理費(以下「販管費」)があります。図表2でいえば、9と10が販管費になります。
原価計算では、狭い意味での原価としてモノやサービスを作るためにかかった「売上原価」、広い意味での原価として、さらに販売や管理にかかった費用を加えた「売上原価+販管費」と表現します。
損益計算書の営業外収益・営業外費用、特別利益・特別損失は、原価計算の対象にはなりません。これらは、モノやサービスを作るためや販売・管理をするための費用、つまり営業活動にかかる費用ではないからです。
以降では、モノやサービスを作るための直接的な費用である「売上原価」を原価(狭い意味での原価)として説明していきます。
4 原価は3つ+αで構成される
原価は、何のために使った費用かということで、まず材料費、労務費、経費の3つに分類されます。
さらに、経費の中に含まれる外注費は別枠で把握していきます。外注費というのは、自分の会社ではできないことを、他の会社や人に依頼してやってもらう場合に発生する費用です。自分の会社ではできないというのは、技術がなくてできないケースもあれば、まさに自社の本業だけれども、仕事の依頼が多すぎて人が足りないためできないというケースもあります。
自社のみで仕事を回すほうが、一般的に利益率は高くなります。このため、損益予測をしたり、決算分析で前期比較や予算比較をしたりする場合も、外注費がどれくらいかかっているかというのは重要になってきます。
例えば、建設業で前期よりも売上は20%上がったが、利益率が落ちているというケースで考えてみましょう。経営者は、仕事の効率が落ちてしまっているのかと心配になるかもしれません。そのときに見てもらいたいのは、外注費が多くなっていないかということです。仕事が会社のキャパ(許容範囲)よりも多くなってしまうと、どうしても外注に回す必要があります。外注する場合、自社だけで仕事を回すよりも一般的には利益率は落ちてしまいます。なので、自社で仕事をした分の効率が落ちていなければ、外注に回した仕事が増えたことによって全体の利益率が落ちることは問題ありません。
このように外注費は個別に把握すべき費目といえるので、
原価は材料費、労務費、外注費、経費という区分で考える
ことが大切なのです。
以上(2024年2月更新)
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画像:Shutter z-shutterstock