書いてあること
- 主な読者:朝礼などでZ世代の社員の成長を促すスピーチをしたい経営者
- 課題:Z世代の社員は基本行動への意識が薄く、仕事への不安が強いとの調査結果もある
- 解決策:基本行動の大切さを伝え、不安を乗り越えて前向きに進めるよう、著名人の名言などを引用したスピーチを行う
1 「基本行動」への意識が薄く、「不安」が強いZ世代
ここ数年、いわゆる「Z世代」(一般的には1990年中後半から2010年前半に生まれた人)の新入社員が入社している企業もあるでしょう。いつの時代も新しい世代とはギャップがあるもので、接し方や指導のポイントもバージョンアップする必要があります。
日本能率協会マネジメントセンターが2021年10月に公表した「イマドキ新入社員の仕事に対する意識調査2021」(以下「新入社員の意識調査」)によると、Z世代の新入社員には、
- 5Sや体調管理などの基本行動に対する意識が、上司・先輩が期待するレベルより薄い
- 働くことに不安を感じている人の割合が、他の世代よりも高い
という傾向がみられました。
そこでこの記事では、Z世代の新入社員の傾向を踏まえた上で、彼らの意識の変化を促し、成長を後押しするようなスピーチを、著名人の名言を使った文例も添えて紹介します。
2 文例1:「基本行動」の継続こそ重要だと気付かせる言葉
「継続には力が必要なり」(吉田麻也*)
1)文例
皆さんは、一刻も早く会社の戦力になって、上司や先輩たちから認められたい、会社に貢献したいという気持ちでいっぱいだと思います。ですが、焦ることはありません。「千里の道も一歩から」といいます。整理・整頓・清潔・清掃・躾(しつけ)という、いわゆる「5S」や、体調管理など、基本的なことをきちんと守りながら仕事を続けていれば、着実に力は付いていくものです。
サッカー日本代表のキャプテンである吉田麻也さんは、イングランド(英国)・プレミアリーグのサウサンプトンFCに加入して初年度は活躍したものの、2年目からは怪我の影響もあって、レギュラーとして使われることが減ってしまいました。
そんな逆境をはね返そうと吉田さんが力を注いだのは、筋力トレーニングと食事の見直しなどによる「肉体改造」や、走り方のトレーニングといった基本的な事柄でした。短期的に結果が出る努力ではありませんでしたが、吉田さんはこれを継続することで、次第にプレミアリーグの屈強なライバルたちにも劣らないフィジカルを得て、移籍5年目ごろからレギュラーを奪還します。
皆さんが、すぐに「デキる社員」になりたいと、はやる気持ちも分かります。ですが、入社していきなり活躍できるようなスーパーマンは、100人に1人もいないでしょう。今、当社で活躍している上司や先輩たちは皆、5Sや体調管理など社会人としての基本を守り続け、それを土台にして、「デキる」ことを少しずつ増やしてきた人ばかりです。
吉田さんは、自身の著書で「継続には力が必要なり」と語っています。基本的なことを継続することは、簡単ではなく、今後の成長に最も重要なことだということを忘れないでください。
2)解説:情報過多なZ世代は「意識が高い」だけに基本がおろそかになる恐れも
新入社員の意識調査によると、Z世代の新入社員は、「5S」や「体調管理」といった「基本行動」については、上司・先輩が新入社員に対して期待しているほど、意識をしていないことが分かります。
一方、新入社員は、上司・先輩がそこまで期待していない、「目的を設定し確実に行動する(やり抜く、挑戦する)」ことや「必要な経験を自ら開拓する」ことなどを期待されていると思っています。
SNSなど情報過多な環境で育ったZ世代の人たちは、少しずつステップアップしていく実体験よりも、「デキる社員の人物像」に関してネットに溢れる情報を、圧倒的にたくさん得ているのでしょう。それだけに、早く「デキる社員」に近づこうと気がはやるのかもしれません。
こうしたZ世代の新入社員の意識や理想の高さを評価しつつ、「成長のための近道はない」「5Sや体調管理といった基本をおろそかにしてはいけない」ということを伝えてあげるとよいでしょう。
3 文例2:「不安」を感じている新入社員を勇気づける言葉
「気持ちのない奴に、人生は変えられないんだ」(サンドウィッチマン・富澤たけし**)
1)文例
新入社員や若手社員の皆さん、今日も張り切っていきましょう。もし、「自分は会社にあまり貢献できていないのではないか」「先輩社員に比べて、自分は成長が遅いのではないか」と不安に感じていても大丈夫です。その不安をバネにして、仕事に向き合えばよいのです。
人気お笑いコンビのエピソードをお話しします。サンドウィッチマンの2人は、M-1グランプリで優勝するまでの10年間、ほとんど無名のまま、下積み時代を続けました。アルバイトで生計を支え、アパートに2人暮らしという生活です。特に上京して6年ほどは、将来の展望もなく、体調を崩してネタが書けなくなった富澤さんは、コンビの解散話も切り出したといいます。
そんな状況を脱するべく、2人は7年目を「勝負の年」と決めて、お笑いに真剣に向き合うようになりました。そして、その2年後にM-1グランプリで優勝したことで、一気に道が開けました。富澤さんは著書で、「気持ちのない奴に、人生は変えられないんだ」と振り返っています。
皆さんが抱いている不安は、自分で掲げている高い理想に近づけていない現状に満足していないから生じているのだと思います。不安を払拭するには、強い気持ちを持って、前進することしかありません。目の前にある仕事に真剣に向き合うことで、必ず道は開けるはずです。
2)解説:不安は真剣さの裏返し。前向きなエネルギーに変えるサポートを
この1年間で働くことに不安を感じた人の割合は、Z世代が圧倒的に高く、7割を超えています。コロナ下で入社した新入社員の中には、リモートワークという職場環境や、上司や先輩もコロナ対応で精一杯という状況の中で、十分な指導を受けられず、社内のコミュニケーションも十分に取れていないと考える人もいるでしょう。働くことに不安を感じる人が多いのは、仕方のないことだといえます。
世の中の動きに関心を持ち始める頃にリーマンショックが発生し、思春期に東日本大震災を経験し、社会人になるときにコロナ禍に巻き込まれたZ世代の新入社員は、自分の将来を簡単に楽観できないというのもうなずけます。それだけに、自分の将来について真剣に悩んでいるはずです。また、世の中の荒波を乗り越えていくためには、人とのリアルなつながり、つまり「絆」が大切だということを理解している世代でもあるのではないでしょうか。
スピーチも大事ですが、上司や先輩が頻繁に声を掛けてあげるなど、なるべく気にしてあげるとよいでしょう。その際は、Z世代が抱える不安を否定するのではなく、不安を受け入れた上でエネルギーに変えるような励まし方がいいかもしれません。
【参考文献】
(*)「レリジエンス-負けない力」(吉田麻也、ハーパーコリンズ・ジャパン、2018年6月)
(**)「復活力」(サンドウィッチマン、幻冬舎、2018年8月)
以上(2022年9月)
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画像:pixta