けさは、私の好きなものについて話します。私は子どもの頃からずっと、テレビアニメのキャラクターに声を当てる「声優」という人たちにとても興味を持っています。なかでも好きなのが、「ルパン三世」の次元大介(じげんだいすけ)を演じた小林清志(こばやしきよし)さんです。
知っている人も多いと思いますが、ルパン三世というのは、怪盗アルセーヌ・ルパンの孫のルパン三世が、世界のあらゆる宝を探し求めて冒険するお話で、小林さんが演じた次元は、ルパンの相棒ですご腕のガンマンです。2022年現在、ルパン三世シリーズは1971年にテレビアニメが放映されてから、映画なども含めて51年間続いています。私が小林さんを尊敬しているのは、1971年から2021年までの50年もの間、次元というキャラクターを演じ続けてきたからです。
実は声優にとって、いわゆる“当たり役”を得るというのは、必ずしも良いことばかりではないようです。というのは、特定のキャラクターを演じて人気を博すと、声優にもそのキャラクターのイメージが定着してしまって、他の仕事でも似たような演技が求められ、表現の幅が狭まってしまうことがあるからです。しかも、テレビアニメのキャラクターは年を取らないことが多いのに対し、声優は年を取るにつれて少しずつ声が変わりますから、アニメシリーズが長く続くと、視聴者から「昔はいい声だったのに衰えたな」などと、陰口をたたかれてしまうこともあるようです。
小林さんにも少なからずそうした経験があったようですが、彼は「年を取ればその分、声に深みが出せる」と次元役を続けることに前向きで、2021年に88歳で次元役を勇退した際も、「一生ものの仕事」「できれば90歳まで続けたかった」というコメントを残しています。
私が皆さんにお伝えしたいのは、「人から愛される仕事を、自分自身も心から愛することができる」ほどの幸せは、なかなかないということです。誰でも仕事に対して、「こんなことがやりたい、成し遂げたい」と夢を抱くものです。ですが、現実には、やってみたら思い描いていたビジョンと違っていたり、会社からやりたいこととは別の仕事を与えられたりするケースがあります。
しかし、たとえ自分が抱いていた夢と違う仕事であっても、真摯に取り組み、お客さまから「良かった」「これからもお願いしたい」と愛されるようになれば、自分自身もその仕事を心から愛せるようになるのではないかと思います。
私は今の仕事が好きですが、心から愛せているかというと、まだそこまでの自信がありません。小林さんのように、自分の仕事に強い誇りを持てるようになるのは簡単なことではないでしょう。自分の仕事を磨いて、磨いて、磨ききったその先にある未来の話だと思います。何十年かかるか分かりませんが、自分がいつか定年を迎えたときに、「この仕事が心から好きだった」と言えるよう、今から努力していきたいと思います。
以上(2022年9月)
pj17121
画像:Mariko Mitsuda