銀行の融資姿勢について、「晴れの日に傘を貸して、雨の日は傘を取り上げる」と表現されることがあります。業績がいいときは「ぜひ融資をご利用ください」と言うのに、悪くなると「融資したお金を返してください」となるのを揶揄(やゆ)したものです。

1 快晴の海辺でビーチパラソルを借りよう

金融機関に勤めていた私の感覚としては、冒頭の指摘は今でも7割くらい当たっているかもしれません。ただし、業績が悪いときに、傘(資金)を貸さないという姿勢は、銀行にとってはある意味当然のことです。

例えば、ベンチャーキャピタルは、複数の投資先の失敗(損失)を、一部の投資先の成功から得る大きな収益でカバーするビジネスモデルになっているので、多少の失敗を許容することができます。

しかし、銀行の融資は違います。利息収入が頼りなので、融資先が倒産して回収不能になると、補填するのが大変です。そのため、「着実に返済してもらえる」と判断できなければ融資するのは難しいのです。

もっとも、企業が「晴れの日」か「雨の日」かについて、金融機関は多角的な視点で検討しています。そこに銀行の「融資審査」のノウハウがあるのです。企業が目標とするのは、好業績を実現して、事業をさらに繁栄させるための融資を受けることです。つまり、銀行から「快晴の海辺で快適に過ごすためのビーチパラソル」を借りることを目指してください。

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2 審査のチェックポイントとパスするためのコツ

私のこれまでの経験を交えながら、経営者や財務担当者に知っておいていただきたい銀行の審査のチェックポイントなどを、簡単に紹介します。ケース・バイ・ケースなので、どのような場合でも当てはまるわけではないことを、あらかじめご了承ください。

1)「債務者区分」と「信用格付」

「債務者区分」とは、債務者(会社)の財務状況、資金繰り、収益力等を基に判定した区分です。返済の能力に応じて「正常先」「要注意先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」の区分があります。金融庁の「金融検査マニュアル」に基づいて、銀行が判定します。

最近「金融検査マニュアル」が廃止されるというニュースが報道されましたが、今のところはこの債務者区分が重要な意味を持ちます。「正常先」であればさほど問題はありませんが、「要注意先」以下になると融資を受けにくくなります。

ごく単純に説明すると、決算書の損益計算書が黒字、自己資本がプラス、借入金の水準が適正といった企業は「正常先」になる可能性が高まります。もちろん、それ以外の要素も加味されるので、絶対ではありません。

一方「信用格付」とは、銀行が独自の基準で信用力や返済力を判定するものです。主に決算書をコンピュータで解析した結果で決められます(それ以外の要素も加味されます)。銀行によって異なりますが、信用格付では、10~15段階に会社を分類します。ランクが高ければ審査が通りやすく、金利などの条件も良くなりますが、低い場合は逆となります。

2)企業の定性情報

定性情報では、その企業がどんな事業をやっていて、どんな強みがあるのかということなどを評価します。

特に重要なのは、独自性、競合優位性、存立基盤など他社にはない強みです。具体的には、技術力、ビジネスモデルの秀逸性、代表者や経営陣の能力、優良な取引先などです。決算書が赤字であっても、「定性情報」を客観的な根拠とともに伝えると、審査にプラスに働くことがあります。

ところが、経営者の中には、自社の強みをきちんと言えない人もいるようです。強みを再確認するとともに、それを社外の人にうまく説明できるようにプレゼンの練習をしておくことが大切です。

3)決算書などの財務諸表

決算書は、コンピュータで解析されますが、人(審査担当者)もチェックします。例えば、売上の推移、利益の推移、自己資本比率、借入の状況(金額や借入先など)、キャッシュフローなどの項目です。

また、決算対策として利益を減らそうとする企業がありますが、ある程度利益を計上していなければ、「信用格付」が下がり融資が受けにくくなるので要注意です。一つの目安は、「債務償還年数」です。「債務償還年数」とは、借入金を利益などで完済できるまでの年数のことです。正確な計算式は複雑ですが、次の方法で簡易的に算出できます。

【債務償還年数(簡易な算出方法)】
=(今回の借入を含んだ有利子負債-運転資金-現預金)
÷キャッシュフロー(=経常利益+減価償却費-税金)

この数値が、10(債務を完済するのに10年)未満なら妥当な水準ですが、それ以上になると、返済能力の判定に黄色信号が灯ります(ホテルなどの装置産業は、もっと長くても良い場合もあります)。

4)資金使途

「資金使途」とは、融資を受けた資金の使い道のことで、例えば、新規出店や機械購入などの設備資金、売掛金回収までの運転資金など、何にいくら使うのかということです。信ぴょう性(本当にそれに使うのか)、金額の妥当性(過大投資ではないか)、投資後の効果(どんなリターンがあるか)といった点がチェックされます。

資金使途として不適格とみなされるものもあります。例えば、他の会社へ転貸する、許認可を要する事業なのに、必要な資格を取得していないといった場合です。資金使途の妥当性と効果について、しっかり説明できるようにしましょう。

5)他の金融機関との取引状況

他の金融機関との取引状況については、借入の残高や今後の取引見込みなどがポイントになります。これらは表にまとめるなどして提出することになりますが、その際、預金通帳や借入金明細書のコピーなど、実証資料を添付するのが基本です。

6)今後の見通し

過去の財務状況に加えて、今後の見通しを伝えることが重要です。決算書の数字が思わしくなくても、「○年後に黒字化する」といった具体的な計画を事業計画書にまとめると、理解してもらえることがあります。根拠となるデータも併せて提出するのが基本です。

7)債権保全策

信用保証協会の保証や不動産担保の提供など、銀行にとっての債権保全策で審査結果が左右されます。銀行独自の「プロパー融資」ではリスクが高いと判断された場合、信用保証協会の保証付きの融資で検討されるケースが多くなります。

この場合、銀行の審査だけではなく、信用保証協会の審査をパスできるかどうかがポイントになります。そのため、銀行員から「保証協会がこんな資料を求めています」と言われたら、速やかに提出することが重要です。

8)代表者個人の状況

中小企業の場合、経営者個人の資産や負債の状況が審査判断に加味されます。預金や不動産などの資産をどれくらい持っているか、借入金はあるか、同居家族を含めて別収入はあるかといった点です。法人が赤字や債務超過でも、個人資産が潤沢にあれば、マイナスをカバーできる場合もあります。

「個人的なものは見せたくない」という経営者もいますが、積極的に開示することが大切です。特に借入金は、「個人信用情報」を参照される場合もありますので、隠そうとしても見透かされてしまうことがあります。

個人信用情報機関には、シー・アイ・シー(CIC)、日本信用情報機構(JICC)、全国銀行協会(全国銀行個人信用情報センター)があり、自分の信用情報を取得することができます。初めて融資の申込みをする場合、事前に自分の信用情報を調べておくとよいでしょう。

3 申込み後のやり取りをおろそかにしない

銀行の融資審査は、交渉する担当者が一人で決めるわけではなく、融資課長、支店長と、段階を経て審査が進められるのが一般的です。場合によっては、支店だけではなく本店の審査部まで稟議(りんぎ)が回付されることもあります。信用保証協会の保証を付ける場合、保証協会の審査も要します。

そのため、担当者から質問や追加資料を何度も求められることがあります。「また追加資料か。まとめて言ってくれよ」などと思うかもしれませんが、質問への回答や提出資料は、各段階での審査結果に影響するので、的確な回答や資料を提出しましょう。

また、審査が進むと「金利〇〇%、返済期間○年」といった条件が提示されます。場合によっては、もっといい条件になるよう交渉してみるようにしましょう。こうした申込みした後のやり取りをおろそかにしないことが、融資を受けるための大切なポイントです。

次回は、「銀行は決算書のどこをチェックしているのか?」と題して、審査で決算書のどこを見られるのか、より具体的に解説いたします。

(注)読者の皆様へ:このリポートの記載内容は、あくまでも執筆者個人の見解であり、りそな銀行の見解を代表しているものではないことにご留意ください。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年3月4日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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