事業計画とは、事業上の目標とそれを達成するための手段を盛り込んだ計画です。社内に対しては、従業員が一丸となって目指すべき目標を共有し、共に活動するための羅針盤となります。また、社外に対しては、資金調達や取引先の開拓などの際に、金融機関や取引先に対して、会社の現況や事業の収益性・成長性などを説明するための資料になります。
IPOを目指す場合、自社の事業計画はそれまでよりも多くの関係者の目に触れ、厳しく精査されることになります。改めて事業計画の作成ポイントを確認していきましょう。
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シリーズ・IPO
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- 第1弾 IPOのメリットとデメリット
- 第2弾 IPOするまでのスケジュールと支援機関の役割
- 第3弾 IPO時に求められる事業計画
- 第4弾 IPO前に検討すべき資本政策
- 第5弾 IPO時に必要な企業統治体制や内部管理体制
1 IPOにおける事業計画の役割
IPOを目指す場合、金融機関や取引先はもちろん、主幹事証券会社、監査法人、IPOコンサルティング会社、ベンチャーキャピタルといったIPOをサポートする様々な支援機関と連携するようになり、こうした関係者が自社の事業計画を精査します。
また、証券取引所による上場審査 の際に事業計画が必要です。IPOによって、企業の株式は不特定多数の投資家の投資対象となるので、東京証券取引所(以下「東証」)などの市場開設者は、投資家保護の観点から厳正な審査を行います。例えば、マザーズでは「事業計画の合理性」を上場審査基準の1つにするなど、事業計画は上場審査において重要な意味を持っています。
さらに、IPO実施後においても、不特定多数の投資家に対して、自社が投資に値する企業であることを説明する必要があり、それを示す1つの資料が事業計画となります。
2 IPO時に求められる事業計画の基本的なポイント
1)IPOを目指す経営者が心掛けたいこと
IPOを目指すからといって、特別な事業計画の構成が求められるわけではありません。具体的な項目名などは各社の事情によって異なりますが、おおむね次のような項目を分かりやすく盛り込む必要があります。
- 経営理念
- 経営ビジョン
- 事業環境(外部・内部)
- 自社のビジネスモデル
- 経営戦略
- 数値計画(利益計画、販売計画、仕入・生産計画、設備投資計画、人員計画、資金計画など)
IPOを目指す経営者が心掛けたいのは、「納得感がある事業計画を作成する」ことです。IPOに関連する社外の関係者は多岐にわたり、これらの人たちは、それぞれの立場でその企業を評価するために事業計画の内容を詳細に分析します。それ故、特にIPO時には社外の関係者が、納得できるような質の高い事業計画を作成しなければなりません。
納得感がある事業計画を作成するための留意点は次の通りです。
2)根拠を明確にする
事業計画の作成に当たっては、計画の前提となる根拠を、できるだけ具体的な数値をもって明確にする必要があります。また、自社で独自に分析した情報だけでは、不適切なバイアスがかかってしまう恐れがあり、信頼性を疑われかねません。
こうした事態を防ぐために、特に市場規模など外部環境に関する情報については、第三者が分析・調査した情報も用いるようにします。
3)客観的な視点を持つ
計画が企業本位にならないように、客観的な視点から事業計画を作成します。例えば、自社の強みや売上見込みでは自社を過大評価する一方で、競合企業の強みや自社の弱みなどは過小評価してしまうケースです。
こうした問題を防ぐには、公認会計士等の社外の専門家も含めて、できるだけ多くの人の目を通してアドバイスをもらうなど、第三者の客観的な視点から評価してもらうとよいでしょう。
4)実現可能性を検討する
作成した事業計画が“絵に描いた餅”とならないように、自社が本当にその事業計画を実行する実力があるか否かを検討する必要があります。例えば、急成長を図る企業では、それを支える人材教育や管理職の不足によるマネジメント体制の不備により、計画通りに事業が進まないといったケースがあります。
こうした問題についても、前述した「根拠を明確にする」「客観的な視点を持つ」といったポイントを重視して、想定される問題点を分析し、実現可能性のある計画にする必要があります。
5)事業計画全体の整合性を保つ
事業計画は多くの要素から構成され、それぞれの整合性が取れている必要があります。特に、IPO時の事業計画は、一旦作成した事業計画の内容を何度も見直してブラッシュアップを図る必要があります。こうしたとき、ある修正事項に関連する項目についての修正漏れが生じることが多いので、注意しましょう。
3 マザーズの上場審査基準における事業計画のポイント
マザーズでは、上場審査基準として、株主数などの定量的な基準である「形式要件」と、情報開示の体制などを確認する定性的な基準である「実質審査基準」を設けています。事業計画に関連する項目としては、「実質審査基準」の1つとして「事業計画の合理性」を審査基準として設定しています。マザーズの実質審査基準の概要は次の通りです。
また、IPO時の事業計画の作成においては、マザーズが重視する成長可能性についても注意しましょう。ここでは、東京証券取引所「2018 新規上場ガイドブック(マザーズ編)」(以下「ガイドブック」)から、事業計画作成のポイントとなる「事業計画の合理性」と「成長可能性」の考え方について紹介します。
4 「事業計画の合理性」のポイント
東証では、事業計画の合理性に関する審査は、次の2つの視点から行います。
- 新規上場申請者の企業グループの事業計画が、そのビジネスモデル、事業環境、リスク要因等を踏まえて、適切に策定されていると認められるか(以下「事業計画の適切性」)
- 新規上場申請者の企業グループの事業計画を遂行するために必要な事業基盤が整備されているか、または整備される合理的な見込みがあるか(以下「事業基盤の整備状況」)
また、ガイドブックでは、それぞれの審査のポイントを次のように解説しています。
「事業計画の適切性」では、事業計画の妥当性や整合性といった事業計画の「質」を審査する一方、「事業基盤の整備状況」では、事業基盤の整備状況や今後の計画といった事業計画の「実現可能性」を審査しているといえるでしょう。
5 「成長可能性」のポイント
ガイドブックでは、「高い成長可能性」を説明する際のポイントとして「市場の状況」「差別化要因」「経営資源」の3つを例示しています。それぞれの留意事項は次の通りです。なお、「高い成長可能性」については、主幹事証券会社が評価を行い、東証は、高い成長性の直接的な根拠となる事項について、主幹事証券会社の評価を前提に、事業計画の整合性の審査を行います。
「市場の状況」と「差別化要因」においては、市場全体の有望性と、その市場において会社が高い成長性を実現するために不可欠な自社の強みなどに関して、客観性のあるデータや事実に基づいた説明を求めているといえるでしょう。
また、「経営資源」においては、高い成長性を可能にする経営資源の実現可能性について説明を求めているといえるでしょう。
実際のIPOの上場審査に向けた事業計画の作成は、主幹事証券会社などの社外の専門家の助言・指導を受けながら作業を進めることになります。しかし、将来的にIPOを目指すのであれば、早いうちから、こうした点に注意して、自社なりに工夫をしながら、質の高い事業計画の策定に取り組むことが欠かせません。
以上
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