IPOを行い、企業経営の健全性・透明性を確保しながら継続的に成長するためには、企業統治体制や内部管理体制の構築が不可欠です。例えば、企業の成長段階に応じた機関設計や諸規程の整備、内部管理体制の維持に必要な人員の確保などを行います。

上場企業としてふさわしい経営をするために必要となる、企業統治体制や内部管理体制の構築のポイントを紹介します。


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1 企業統治体制や内部管理体制で考慮すべきポイント

1)機関設計および役員構成

企業統治体制を検討する上で、まずは役員の適正な職務の執行を確保するための体制が、適切に整備・運用されている必要があります。会社法では、株主総会および1人以上の取締役の設置が義務付けられています。また、取締役会・監査役・監査役会・会計監査人・監査等委員会・指名委員会等・会計参与については、必要な機関を選択して設置できるとされています。

多くの上場企業の場合、会社法上の公開会社でかつ大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上の企業)に該当するため、取締役会の設置に加え、監査役会または監査等委員会、指名委員会等の設置が必要になります。上場準備企業の多くは譲渡制限会社に該当し、株主数や株主の異動も少ないため、上場後の企業と比較して簡素な機関設計が制度的にも認められています。

また、上場企業は不特定多数の株主や債権者など、利害関係者が数多く存在することから、厳格な機関設計が求められています。上場準備の段階で大会社になっていない場合、会社法上は監査役会または監査等委員会、指名委員会等の設置は義務付けられません。しかし、上場審査の際に監査役および会計監査人による監査が機能しているかどうかなどのコーポレート・ガバナンスの確立が問題となることから、上場準備の段階から取締役会および監査役会または監査等委員会、指名委員会等を設置することが適切といえます。

取締役会はガバナンスにとって重要な役割を期待されていることから、その独立性を担保するために独立役員を少なくとも1人以上確保することが上場企業の義務となっています。上場審査においては、「取締役会のメンバーが充実しているか」「活発な発言が行われているか」がポイントとなり、それらの記録である取締役会議事録の整備が重要です。

2)業務管理体制・社内諸規則の整備

業務管理体制のなかでも、組織や社内諸規則の整備などの業務管理の仕組みを構築することが重要です。社内の多くの関係者を巻き込みながら、相応の時間と労力をかけて取り組む必要があります。

形式的な規程を詳細に作成しすぎてしまうと、経営の機動性が害される可能性があることから、業務管理体制の整備に消極的な経営者も多くいます。しかしながら、業務管理体制の整備は、役員や従業員の責任や権限、業務のルールを明確化することにより、業務の効率性や有効性を高め、コンプライアンス(法令順守)や財務報告の信頼性確保、資産の保全を行うには重要となるものです。そのため、上場を契機として、前向きに取り組むことが望まれます。

さらに、金融商品取引法の規制として、上場した期の末日を基準として「内部統制報告書」を提出することが求められ、原則として「内部統制報告書」に対して公認会計士の監査証明が必要となります。この点について、ベンチャー企業が新規上場した際の内部統制報告実務の過度な負担を軽減する目的で、一定規模の会社を除き、新規上場後3年間は、内部統制報告書に関わる監査義務が免除されています。

具体的な進め方としては、業務管理の現状分析、業務管理方法の見直し、規程・マニュアル・フローチャートの作成および見直しの順で行うのが一般的であり、通常はプロジェクトを推進するためのプロジェクトチームを組成して、遅滞なく進むように運営します。

1.業務管理の現状分析
 まずは、現状どのような業務管理を行っているかを分析する必要があります。どの部署の誰が、どのタイミングで、どのような管理を行っているのかという点について、関係各部署へのヒアリングや社内書類の閲覧により、業務の状況を把握し、フローチャートで可視化します。

上場準備の段階は、売上拡大に重きを置いている企業が多いため、重要な業務の兼務が多いケースや必要な業務管理のための仕組みがないケースが多く、ダブルチェックや承認手続きが適切に行われていないことがよくあります。まずは現状の業務を可視化して、その後に必要な業務管理の仕組みを設置します。

2.業務管理方法の見直し
 業務管理方法の見直しでは、各業務プロセスのなかにどのようなリスクが潜んでいるのか、またどのように対処するのかを検討していきます。具体的な業務管理の方法は、部署間の職務分掌やダブルチェック、定期的な数値の分析、システム的な担保が考えられます。個別の業務管理の体制で主要な点は次の通りです。

販売管理など業務別に管理方法を示した画像です

3.規程・マニュアル・フローチャートなどの作成および見直し
 業務管理方法の見直しを行った後は、責任者と担当者が当該フローに沿って業務の遂行および管理ができるようなルールを構築します。そして、規程やマニュアルを作成して関係者に周知しますが、ビジネスや業務の状況に応じて柔軟に見直しを行います。

規程・マニュアル・フローチャートなどの文書類の作成は、現状の社内文書を参照しながら、必要な規程の決定・作成、規程の運用、問題点・改善事項の洗い出しを計画的に進めます。一度で完璧な文書類ができることはほとんどなく、ビジネスや業務の状況に合ったものにするために何度も改訂を繰り返し行う必要があります。一般的な規程の種類は次の通りです。

基本規程など規程の種別とその具体例を示した画像です

3)コンプライアンス(法令順守)の体制

経営者はコンプライアンスの意義や重要性を理解し、企業倫理を高めなければなりません。上場審査では、企業に関連する法規制や監督官庁などによる行政指導の状況がポイントになります。また、これらの法令等をどのように役員および従業員が順守できる体制にあり、その体制を維持しているかという点について確認が行われます。重要な法規制への対応としては、反社会的勢力との関係、労務関係法規の順守が挙げられます。

1.反社会的勢力との関係
 暴力団等の反社会的勢力との取引や資本関係がないことの確認が行われます。反社会的勢力と企業との関係性としては、株主や役員、取引先が反社会的勢力である場合だけでなく、企業の関係者が反社会的勢力に資金提供などを通じて、その運営に関与していることがないかが検討対象となります。これに関連して、上場申請時に提出する書類である「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」において、役員の経歴、仕入先・得意先、出資者などを証券取引所に報告する必要があります。

2.労務関係法規の順守
 労務関係法規で特に重要になるのが労働基準法であり、労働時間・休日・深夜残業などについての法規を順守しているかがポイントになります。上場準備企業の場合、勤怠管理の未整備、割増賃金の未払や長時間労働の問題が生じていることが少なくありません。

特に時間外労働の未払賃金の有無は上場審査上の重点ポイントであり、過去に時間外労働の未払が発生している場合、2年間に遡って支払う必要が生じる可能性があります。上場準備の過程で過去の未払賃金を全社的に調査し、未払賃金が存在する場合には速やかに精算するとともに、未払賃金の問題が発生しないような勤怠管理などの仕組みを整備する必要があります。

2 上場を考える上で内部管理体制構築に最も重要なこと

上場すると、さまざまなステークホルダーの関与が発生するため、多くの規制に対応する必要があります。しかしながら、企業が上場を検討する際の成長ステージもさまざまであり、全ての上場企業が一律の内部管理体制を構築することは実務的ではありません。

そのため、企業のグループ体制、事業領域の広さ、企業の規模、ビジネスの複雑さに応じた内部管理体制を構築することが大切です。つまり、企業の規模が大きく、グループ企業も多数に上るような企業は、ステークホルダーも多岐にわたることから厳格な企業統治体制が必要であり、事業やグループ体制がシンプルな企業は、柔軟な企業統治体制を構築すれば足りるということになります。

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