既存産業にITの力を組み合わせ、新しい事業を生み出すXTech。金融のFinTech、教育のEdTechなどがありますが、最近では建設・不動産業界にも新しい波が押し寄せています。

建設会社間(元請けと下請け)のマッチング、測量機器の進化、プロジェクトマネジメント、建設資金の調達、物件の査定、販売プラットフォームからリノベーションまで、そのバリューチェーンは多岐にわたります。

ITとの親和性が薄そうに見える建設・不動産業界において、広がりを見せるTechの活用についてご紹介いたします。

1 日本の建設・不動産市場

国土交通省によると、2018年度の建設投資額は57兆円の見通しとなっています。政府と民間の比率は約4:6と、公共事業の比率がいまだに高い業界です。政府事業としては土木、民間事業は住宅・事業用の建築案件が中心となります。

1989年度~2018年度までの建設投資額(名目値)の推移を示した画像です

建設業界は多層構造で、ゼネコン(General Contructor)と呼ばれる設計・施工・開発の全てを担う企業群が高いシェアを持つのが特徴です。このゼネコンなどが、不動産のコンセプトを作り、建築や内装は、別の建築会社や内装会社、個人事業主へ委託することも少なくありません。

また、不動産の流通市場に目を向ければ、都心の賃貸オフィスの賃料は年々右肩上がりで推移しており、空室率も低下しています。中古マンション市場も2020年東京オリンピック・パラリンピックを意識しながら上昇傾向にあります(全国宅地建物取引業協会連合会 不動産総合研究所の資料「不動産市場動向データ集」)。

2 日本の建設・不動産業界の課題

1)海外進出が難しい

口頭契約でも信頼で成り立つことの多い日本と比較して、取引慣行が異なる海外では、相手方から訴えられるなどの事象が発生しやすくなります。そのため、大手ゼネコンでも海外売上比率は15%と低率にとどまっています。また、地域ごとに建築規制があるため、米国ならば州ごとの規制をクリアする必要があり、資材調達の段階から既に複雑な設計となりがちです。

2)ITツールの採用率が低い

建設現場にとどまらず、不動産の流通フェーズにあっても口頭確認や紙文化が色濃く残っています。契約書は紙ベースで保管し、SaaSやアプリの導入営業をしても受け入れてもらえなかったりするという課題があります。

3)厳しい労働環境と若手人材の不足

総務省によると、建設業界の就業者は1997年の685万人をピークに、2016年には約7割の495万人へと減少の一途をたどっています。その上、3年以内の離職率も30%と高くなっています。また、29歳以下の就業者率が11%台で、若手人材の確保も課題となっています。人材が不足する背景の一つに厳しい労働環境が挙げられます。福利厚生制度の整備不足、年間300時間以上の長時間労働、個別の企業によって異なるものの、給与水準は業界平均年収で400万円台以下という状況であり、国土交通省や業界団体などが労基面を含め改善に取り組んでいます。

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3 建設・不動産Tech スタートアップ

海外でこの分野はRe-Techと総称されることが多く、特に不動産販売の段階は、PropTech(Property Tech)とも呼ばれます。米国では2010年前後に、建設Techスタートアップの設立ラッシュがありましたが、投資額自体は2008年のリーマンショックの影響から1億ドルを割り込みました。Pitchbookによれば、2013年ごろより1億ドルを超え、2016年には10億ドルの大台に乗っているようです。

日本でも同じくRe-Tech、建設部分は特にCon-Tech(Construction Tech)などと称されます。大手企業もこの分野に注目しており、清水建設は地球と人類の課題解決に資する研究開発型の革新的テクノロジーを指す、リアルテックに特化したファンドへ出資したり、シリコンバレーに駐在員を置いています。コマツも2015年にドローン測量の米Skycatchに出資し、相互リソース提供を行うなどしています。

建設・施工マッチング、建設現場支援などのカテゴリ別に注目される不動産/建設Startupを示した画像です

1)建設・施工マッチング

施主と工事業者、総合建設会社と専門工事業者のマッチングをオンライン上で行うサービスです。建設事業者間のマッチングを行うツクリンク、オフィスの内装でのマッチングを行うSHELFY、新築一戸建て建設にあたり専門家と相談できるSumika(タマホームとカヤックのJV)などが著名です。

2)建設現場支援

設計段階では、VRで建築物の完成イメージを伝達する、SYMMETRYなどのサービスが登場しています。施工段階では、足場の悪い現場で測量や写真撮影を行うドローンの貸し出しなどがあり、Skycatch、Terra Motorsのグループ会社であるTERRA Droneがこの分野に参入しています。また、いわゆるWBS機能を提供するSaaSでは、案件進捗管理をサポートしています。SoftBankが900億円の投資を決めたKatteraが著名ですが、日本でもネット環境の普及や若者世代へのスマホの普及により、現場でのITツール導入が進んでいっています。

3)建設材売買

建機、間接資材(工具や部品など)は商流が複雑で、価格決定の過程が不透明とされてきました。これを解決するために、卸の一部を省くなどして、売買のフローを見える化する動きが活発です。楽天やAmazonと同様にECプラットフォームを構築したモノタロウが有名で、この他にも建機の中古販売・リースの手続きが簡単なP2P(Peer to Peer)サービスを提供する動きも出てきています。

4)付加価値・リノベーション

IoTでスマートロック機能をつけて物件の価値を上げたり、既存の物件を特定のコンセプトに沿って再構築するリノベーションや、リノベーションの施工業者と消費者のマッチングなども流行しています。土地や建物を買い取って、ホテルやコワーキングスペースに改築し運営するという事例が最近増えています。空居物件をブティックホテルに改築して再売り出しするWhyHotelでも390億ドルを調達し注目を集めているなど、改築、場貸し・再販のフローが一体化する動きが出てきており、改装の際にIoT(電子キー付与など)を組み込み、最新のスマート物件にして価値を上げるものもあります。

5)販売・流通市場

新築や中古の流通市場ではマッチングサービスの他、遠隔でも内覧できるVR内覧が人気を集めています。最近では空き物件を有効活用し、消費者とマッチングするAirbnbなどの民泊サービスや、スペースマーケットなどの時間貸しも人気を博しています。

4 今後の動き

建設分野では、国土交通省が「建設業働き方改革加速化プログラム」を表明しており、建設工事現場における週休2日の後押し、技能者の資格、社会保険加入状況、現場の就業履歴等を業界横断的に登録・蓄積する仕組みであるキャリアアップシステムの稼働、社会保険加入義務化などの推進が見込まれています。

また、生産性向上のために、ITを活用することが掲げられていることから、今後スタートアップを含めてRe-Tech、Con-Tech関連サービス採用の加速が期待されます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年10月26日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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