弁護士は、司法試験に合格し、司法修習を終了した者に付与される国家資格(弁護士法に基づく)で、約4万人が弁護士名簿に登録をしています。
弁護士は法務関連全般のスペシャリストです。例えば、契約書の作成や、自社の事業の法的リスクに関する相談先となります。頼れる弁護士の見極め方や依頼のポイントは何か、現役弁護士に聞いてみました。
なお、公認会計士・税理士や社会保険労務士(社労士)への依頼の仕方を解説したコンテンツもあります。併せてご活用ください。
1 弁護士の伝統的な主要業務を4つに整理
1)契約書の作成
企業活動では売買契約書、投資契約書、秘密保持契約書、業務委託契約書など各種の契約書が必要です。契約書には“お決まり”の一般的な条項もありますが、大部分は契約の内容や当事者の力関係、ビジネスモデルを反映した個別の内容です。マークしていない法令が、予想外に関係してくることもあります。
各種契約書のひな型はインターネット上でも公開されていますが、上記のような部分をカバーしていません。また、法令改正に対応していない「古い」契約書など、必ずしも信用できないものも少なからず存在します。弁護士は、そういった不備もきちんと是正し、自社のビジネスに適切なオリジナルの契約書を作成してくれます。依頼者との面談を通じて、契約の相手方との関係性に応じて強気な(または控えめな)内容とするのか、将来のことも踏まえた内容とするのかなども検討してくれます。
2)法律相談
「新規事業は法的に問題ないか」「予定されている法改正の、どのような点に気を付ければ法務リスクを低減できるか」といった、事業遂行に関する相談に対応します。また、「明後日○○の事業について会議を開くので、そのときまでにリスクを洗い出しておいてほしい」といった依頼に対応します。その他、最近は初期段階で法規制を考慮したビジネスを検討するために、「○○のビジネスを行いたいと考えているが、法的に問題がないスキームを一緒に考えてほしい」といった依頼も多くなっているように感じています。
3)交渉
法律行為や和解の代理、それに関する交渉事に対応します。こうした行為は弁護士でなければ認められていません。依頼者の代理人として売買代金の支払いを求める内容証明を送ったり、内容証明を受け取った相手方からの電話に応対したり、場合によっては訴訟を提起したりすることもあります。
4)訴訟
交渉ではどうしても解決できない場合など、必要に応じて訴訟を提起します。訴訟では、弁護士が法廷で依頼者の言い分を法律的に主張し、その主張が正当であることを立証していきます。民事訴訟では客観的な証拠がとても重視されるため、事前準備が重要です。依頼者に対して集めるべき証拠を指示し、書面を作成する事前準備の場面で、依頼者の主張を法律的に組み立てられるかどうかが、弁護士の腕の見せどころです。
2 企業から弁護士に寄せられる相談・依頼ベスト5
1)各種契約書の確認
最も多い相談は、各種契約書の確認です。秘密保持契約書、投資契約書、業務委託契約書など、企業の事業遂行上問題となりやすいものや、頻繁に結ばれる契約書の確認依頼が数多くあります。なお、契約書の確認といってもさまざまで、「この契約書の法的リスクを確認してください」といった包括的な依頼から、「この契約書の文言の意味がよく分からないので教えてほしい」といった文言解釈の相談、また「こちらに有利な契約書の修正案をどのように相手方に納得してもらえばよいか」といった相手方との契約交渉の方法を相談されることもあります。
2)新規事業および内部体制に関する相談
リスクに関する法的なアドバイスや、類似事例の照会といった相談です。「新規事業を始めたいが、適法に事業を遂行できるのか」「社内体制は会社法に適合したものなのか」「他社の知的財産権を侵害していないか」などの相談が寄せられます。また、「社内で最近○○について問題があることが分かったが、取引先との対応、今後の社内体制の改善など、通常他の企業がどのように行っているのか、当社はどうすればよいのか教えてほしい」といった社内体制に絡んだトラブル対応、「業務執行の決定を早めたいのですが社内体制について良いアイデアはないか」といった企業の意思決定プロセスの改善について相談を受けることもあります。
3)顧客や取引先とのトラブルの対応
顧客や取引先とのトラブルの対応です。「未払いの債権を回収してほしい」「顧客からクレームが出たが、自社の対応に法的な問題があるかを確認した上で対応してほしい」といった依頼があります。ビジネスを行う以上、避けて通れない顧客や取引先とのトラブル対応をうまく弁護士に任せてしまって損失や信用低下を最小限に抑え、自社は新しいビジネスや既存事業の拡大など、前向きなことに注力する場合が多くあります。
4)労使問題に関する相談
企業と従業員の労使問題に関する相談にも対応します。「従業員を解雇したいが、法的に問題はないか」「従業員から労働調停を起こされたが、どうすればよいか」といった相談が多く寄せられます。また、最近は、働き方改革の影響もあり、従業員の働き方を柔軟にするために現在の就業規則を変えずにどのようなことができるか、テレワークの導入は可能かなど、従業員のための相談も増えてきています。
5)インターネットの利用規約・プライバシーポリシー作成
事業展開にインターネットを活用する企業が多いため、サイトを立ち上げるに当たって必要になる、利用規約やプライバシーポリシー作成に関する依頼も増えています。
その他、ランキング外ではありますが、最近は、事業承継などを理由とするM&Aに関する相談がかなり増えています。これまでは上場企業や売り上げが100億円以上ある企業において話題になることが多いテーマでしたが、最近はスモールM&Aと呼ばれる売り上げ数千万円の企業を数百万円で売買(事業譲渡や株式譲渡といった手法)する場合もよく見かけます。M&Aは、思わぬ落とし穴があることも多いため、顧問弁護士などに相談をしながら進めていくことがよいでしょう。
3 弁護士に相談・依頼する際の4つのポイント
1)弁護士と会う際は、必ず契約書の写しを持参する
各種契約の確認の場合で考えてみましょう。まずは、契約書の写しを準備することから始めます。契約書は相手方との取引のルール、合意内容を明らかにしたものであり、契約内容を問わず重要になります。可能であれば、事前に契約書の写しや必要資料(ビジネスの内容や取引スキームが分かる資料)を弁護士に送付しておくとよいでしょう。
2)契約の力関係を明らかにし、弁護士に説明できるようにしておく
「自社のほうが、相手方に比べて力が強いのか、弱いのか」などの点は、社長など意思決定権者の考えを明らかにしておくことが大切です。いくら自社に有利であっても、相手方が受け入れる可能性がない内容や相手方に修正案を提示することで関係が悪くなるようなアドバイスは意味がありませんので、この点は重要なところといえます。
3)どうしても譲歩できない水準を、ある程度明確にしておく
納期や瑕疵(かし)担保などの点についても、社長など意思決定権者の考えを明らかにしておくことが大切です。契約交渉は、双方が納得する落としどころを見つける作業です。そのため、「○○は譲ってもいいけど、△△は譲れない」など納得できる基準を決めておく必要があります。その上で、いかに自社に有利な契約にまとめるかは、弁護士の腕の見せどころといえるでしょう。
4)時間に余裕を持って相談する
結果として、契約書全体を修正することになる可能性もあるため、時間に余裕を持っておきましょう。通常、弁護士事務所に連絡をした後、1~2週間程度の間に面談をすることになります。また、当初は簡単な確認のつもりでも、弁護士との面談の結果、見落としていた検討事項が生じるなどして、大幅な見直しが必要になることもあります。そのため、少しスケジュールに余裕を持っておくとよいでしょう。
また、必ず守らなければならない期日がある場合は、先にそれを弁護士に伝え、スケジュール調整をしながら契約書のチェックを進めていくとスムーズです。
4 気になる相談料。弁護士に相談・依頼するといくら掛かる?
1)法律相談料
対面で法律相談をする際に掛かる料金です。初回1時間(法律事務所によっては30分単位のところもあります)ごとに法律相談料が掛かります。目安としては、1時間1万円から2万円程度ですが、案件によっても異なります。初回は無料の法律事務所もあります。
2)弁護士費用
弁護士に案件を依頼する際に掛かる料金です。多くの法律事務所が次の形態で料金を定めています。
1. 着手金・報酬金
・着手金
弁護士が案件に着手するに当たって発生する料金です。案件によって着手金は変わりますので、直接弁護士に聞いてみるとよいでしょう。なお、弁護士職務規程上、弁護士報酬などの費用についてはきちんと説明しなければならないことになっています。
・報酬金
多くの法律事務所では、得られた経済的利益に一定の利率を掛けた額を報酬金としています。案件の処理が終了した時点で支払います。一般的には案件が依頼者にとって何かしらのメリットをもたらした場合に生じる成功報酬制の場合が多いですが、案件の性質・内容などによっては、成功したかどうかにかかわらず、案件が終了した時点で生じる終了時報酬の場合もあります。この点は弁護士に説明を求めるとよいでしょう。
2.タイムチャージ
着手金・報酬金を支払う方法の他に、タイムチャージで弁護士報酬を支払う方法があります。タイムチャージの場合、弁護士が案件処理のために活動した時間に単価を掛けて費用を算出します。依頼者と対面していないときにも費用が発生するため、弁護士はそれぞれタイムシートで時間を管理しています。案件の処理が終了した時点で支払います。
3)顧問料
法律事務所と顧問契約を結んだ場合に発生する料金です。月々一定額を支払い、「1カ月○○時間まで無料で法律相談や契約書のチェックなどの弁護士業務に対応する」など、契約に応じたサービスが受けられるというプランが一般的です。
顧問料は法律事務所やプランにもよりますが、月々5万円以下で顧問契約をしている法律事務所もあります。顧問の法律事務所は、その企業に関する相談を多く受けていることから、トラブルが起こった場合もスムーズに対応を進めることができ、有利に案件を解決できる可能性があります。こうしたメリットから、いざトラブルが起こったときに備えて顧問契約を締結しているという企業も多数あります。
4)料金体系の選択
法律事務所によって異なりますが、料金体系は依頼者が自由に組み合わせることができます。例えば、依頼者の主張が認められた場合、得られる経済的利益の見込みが少ない案件では、着手金・報酬金という料金体系にしたほうがお得です。
一方、大きな経済的利益が見込まれる案件では、タイムチャージにしたほうがお得なこともあります。案件に応じて料金体系を組み合わせるとよいでしょう。
ここでは、一応の目安を紹介していますが、実際は、事前にその法律事務所のホームページで確認したり、電話で尋ねたりするようにしましょう(弁護士報酬の他に、依頼内容によっては収入印紙代、交通費などの実費が必要になる場合があります)。
5 信頼できる弁護士を選ぶ3つのポイント
1)経営判断の選択肢を狭めない弁護士
単にリスクがあるから「ダメだ」と言ったり、「こういうリスクがあります」とアドバイスをしたりするだけではなく、代替案を提示する、リスクがある中でのベストの案は何かを明確に提示することはとても重要な弁護士の役割だといえます。
もっとも、「リスクの洗い出し」はできても、最終的にどうすればよいのかを明確にアドバイスできる弁護士は、必ずしも多いとはいえません。自社のニーズに応えつつ、「違法ではない」解決策や全てのリスクを払拭できないまでもリスクが生じた際にどのように対応すればよいかをきちんと整理し、安心してビジネスができるような法的なアドバイス・提案ができる弁護士は、信頼できる弁護士の条件といえるでしょう。
2)自社にとって都合の悪い事実も指摘してくれる弁護士
経営判断の選択肢を狭めないことは大事なことです。これは、自社にとって都合の良い事実だけをクローズアップすべきという意味ではありません。リスク管理の専門家として、「言うべきところは言う」というバランス感覚があることも、信頼できる弁護士の条件です。
3)自社の事業に興味を持っていない弁護士はNG
自社を担当する弁護士は、事業内容に興味を持ってくれているでしょうか。たくさんの交渉の場を経験してきた弁護士ほど、交渉の行方は、事業についてどの程度きちんと理解しているかどうかによって大きく異なってくることを知っています。そのため、時間は掛かりますが、1つとして同じ交渉はないことを心得て、ビジネススキームをきちんと理解した上で、法的整理を行い、1件1件の事情を理解しようとする弁護士こそ、自社のために「真剣に」交渉をしてくれる、信頼できる弁護士といえるでしょう。
以上
(監修 竹村総合法律事務所 弁護士 松下翔)
※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年12月21日時点のものであり、将来変更される可能性があります。
※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。
【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp
(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)
ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。