かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。

第8回に登場していただきましたのは、日本発の医療イノベーション活性化のためのエコシステム構築を目指す、株式会社日本医療機器開発機構(JOMDD)取締役 CBOの石倉大樹氏(以下インタビューでは「石倉」)です。

1 「大学のときから技術をベースにしたベンチャーをやりたいなと思っていて、在学中に起業しました」(石倉)

John

本日は、医療分野での起業・新規事業のスペシャリストであり、日本発の医療イノベーションに取り組んでおられる石倉さんをお招きしてお送りいたします。

石倉さん、本日はお忙しいところ、本当に愛りがとう(愛+ありがとう)ございます!

石倉さんは、九州大学では農学部で学ばれたのですよね。なぜ農学部から、九州大学発のバイオベンチャーであるアキュメンバイオファーマに参画することになったのでしょうか? ちなみにアキュメンバイオファーマは、日本で初めて大学の技術を事業化した会社ということですよね。

石倉

はい、そうです。アキュメンバイオファーマは創業者が鍵本さんという、今は再生医療を手掛けるヘリオスの社長をやっている方です。

私は元々バイオが専門ですので、「バイオという技術を軸にして、それを事業化できるようなベンチャーをやりたい」と思っていました。鍵本さんは医学部で、バイオテクノロジーを医療現場に、という志を掲げておられ、その高い志に共感を受けて、創業に参画させていただきました。

John

ご経歴には、アキュメンバイオファーマが欧州での上市に成功とありますね。

石倉

はい。上市というのは、製品の承認を取って、売り始めたということですね。

John

素晴らしいですね。大学生で、どのようにしてそれをやることができたのでしょうか?

石倉

私たち以外は全員、専門家の方々にチームに入っていただいて、そういうチーム組成をしていました。もちろん、それを支えていただく投資家やVCの方々にも入っていただきました。

John

もう大学生のころに、そうしたことに関わっていたのですね!

石倉

そうですね。最初の会社は大学3年生のときでしたので。

2 「常にフラグを振りながらネットワーキングすると、だんだん認識されて、『彼は○○をやっている人』という風に知られるようになります」(石倉)

石倉

最初の3年弱くらいはずっと東海岸のフィラデルフィアやデラウェアにいまして、最後はアメリカで資金調達もしていました。2007年は資金調達のために、ボストン、サンフランシスコ、ニューヨーク、フィラデルフィアなど、大都市はほとんど回ったと思います。結局は成功しませんでしたが、私1人ではなく現地のアメリカ人のマネジメントメンバー、あとはブティックファームを1社採用して一緒に回っていました。

ちなみに、ブティックファームは小さな投資銀行みたいなもので、VCなどのドアオープナーを手伝ってくれます。

John

どのようにして出会ったのですか?

石倉

バイオや医療というのは狭いコミュニティーですので、その中でアクセスを持っているファームを採用して、彼らと一緒にという形です。


その後、アメリカのコミュニティーにしっかり入ってみたいという気持ちがありスタンフォードに入学しました。

John

シリコンバレーには、どのような思い出がありますか?

石倉

仕事の延長で行っていたこともあるので、楽しいというよりは、「戦いに行く場所」という感覚のほうが強いです。今も1年に1度程度は行っていますが、どちらかというとネットワークのアップデートや、資金集め・パートナー探しに行く場所といった感じで、「ネタを仕込んでアメリカに持っていく」イメージです。

John

どのようにすれば、インナーサークルといいますか、シリコンバレーのエコシステムの重鎮たちと会えるようになるのでしょうか?

石倉

それは、なかなか難しいことですよね。

John

例えば、スタンフォードに行く前と後では、人脈は全然違いますか?

石倉

それは全然違います。もう間違いなく違いますね。

John

スタンフォードはブランド力がありますし、実際に学ばれたマインドだったりスキルだったりも多いかと思いますが、具体的にはどういうものが現在に活かされていますか?

石倉

ネットワークだと思います。アルムナイ(卒業生)のデータベースがあるのですが、現役生がアルムナイに、例えば投資をお願いしに行くなど、具体的な仕事の話を相談するのはNGなのです。ただし、現役生が今後の仕事のことで困っているというと、卒業生は必ず時間を使ってくれます。そこから次につなげられるかは、自分の実力次第ですが、そこはいわゆる「パスポートをもらっている」状態ですので、最初の一歩は、踏み入れることができます。

John

なるほど~。アルムナイのデータベースを見てメールをするのですか?

石倉

メールアドレスと名前と、どこのVCのパートナーなのかといったことが載っていますので、自分で当たりをつけて連絡をします。アルムナイの横のつながりで紹介を受けることも多々あります。

John

どういった内容のメールをするのでしょうか?

石倉

「私はこういう人間で、いまこの領域で起業の準備をしている」と伝えます。アルムナイの多くは「キャリアに悩んでいる」と言ってアプローチしてくる人には、あまり時間を使ってくれない傾向があると思います。(課題が明確でないので、話すのに)時間がかかりますし、自分のことしか考えていない相談者には魅力を感じないのだと思います。

そうではなく、「こういう事業をやろうと思っている」「こういうベンチャーを立ち上げて、社会にインパクトをもたらしたい」というミッションや課題を基に相談すると、「それはコミュニティーとして助けないといけないよね」という話になるので、時間を割いてくれます。
ですから、途中で失敗するリスクがあるとしても、「常にフラグを振りながらネットワーキングしたほうがいい」と思います。そうしていると、だんだん認識されて、「彼は○○をやっている人/○○を解決したい人」と認知してもらえるようになります。

自分がどういう領域で、何をやっている人なのかを認識してもらうと、それに関する案件や人をどんどん紹介してもらえるし、次のビジネス機会につながっていきます。よく日本人はアメリカのインナーサークルに入れないと言われますが、それは会社から派遣されている人が多く、短いタームで帰ってきてしまい、何者なのかが認識されずに終わってしまうのも1つの原因ではないかと思います。

John

なるほど、これはいいことを教えていただきました! 読者の方にも分かりやすいと思います。

石倉氏の近影です

3 「医師(戦士)として臨床現場(戦場)で戦う立場でなくても、武器の供給者『ウェポンプロバイダー』という立場で医療に貢献したいと思いました」(石倉)

John

医療の領域に携わっている理由は、子供のころの体験など、何か影響される出来事があったのでしょうか?

石倉

元々、私は医師になろうと思っていて、高校のときも医学部クラスでした。高校3年のときのクラスメートの中で、医師にならなかったのは私を含めて数名くらいで、クラスメートのほとんどは医師になっています。

当時、私のメンターの1人に言われた言葉なのですが、「臨床現場(戦場)において、医師(戦士)が病気を治すには、薬か手術の2つしかない。つまり、医薬品か、医療機器で手術するかの2つの武器しかない。武器を作っているのは我々ウェポンプロバイダーであり、もっと個別化している疾患が認識・解明されて、どんどんフラグメント化していくときに、個別のアンメット・ニーズに応えられるような製品・サービスを作っていかなければ、病気を駆逐していくことはできない」という話をされまして、「ウェポンプロバイダー」という立場で医療に貢献したいと思いました。

最近では、AIの活用などが入ってくると、医師だけではなくて、もう少しシステマティックにアプローチする試みも出てきますので、そうした意味では、我々、製品の作り手ができることというのは、まだまだたくさんあると思っています。

John

JOMDDはたくさんのプロジェクトを抱えていますが、それぞれの製品に必要とされる知識は違いますよね? どういう風にプロフェッショナルな人材を集めてマネジメントされているのでしょうか?

石倉

投資する場合は、その投資先のベンチャーにおいて必要な機能をお手伝いできるようにすることです。例えば、プロダクトを固めていくところ、製品開発をするところ、製造のパートナーを見つけてくるところ、臨床開発をするところ、薬事承認を取得するところ、などです。専門的な知識というよりも、実際の実行能力(Implementation)において投資先が不足していると困っておられるところを、しっかり各投資先に提供していくというのが、各投資先との関わり方だと思います。

John

JOMDDの一番の特技といいますか、強みはどういったことでしょうか?

石倉

代表の内田がFDA(米国食品医薬品局)で医療機器の審査官をしていましたので、薬事申請などの、レギュラトリーアフェアーズを熟知できているところではないでしょうか。つまり申請を取得するリスク、できないリスクを知っていることです。例えば、治験にどのくらいの期間がかかり、資金がどれくらいかかるですとか、そのあたりもある程度は精緻に読むことができます。やったことのない人から見ると、どこから始めたらいいか分からない世界なので、そこは専門性があるかなと思います。

John

一緒に仕事をしているチームのメンバーは、どのように集めたのですか?

石倉

人づても多いですね。もちろんエージェント経由もありますが。医療分野で新規事業をやりたい、ベンチャーをやりたいという20~30代や、今までコンサルティング会社にいました、他のベンチャーをやっていましたなど、こうしたアグレッシブな人たちは横のつながりがありますので、そういった関係の中で紹介された経緯が多いです。

John

そうなのですね。素晴らしい仲間が集まりましたね。いよいよ、医療機器イノベーションを日本で起こそうという時代が到来したということなのでしょうか。

石倉

おっしゃる通りですね。私たちが会社を始めたのが2012年ですが、そのときはまだこれほど機運も高まっていませんでした。

4 「現場の複数の先生に聞いてみるなど、Proof-of-Conceptに関連して徹底的な定性調査をやります」(石倉)

John

開発のパートナーとなる会社はどのようにして見つけるのですか?

石倉

それはけっこう難しい課題ですね。例えば、パートナーであるシリコンバレーのトリプル・リング・テクノロジーズという会社がありますが、その会社の最大の強みとして、「この案件に関してはあそこがしっかりした製造拠点で、臨床体制もできていて、しかも比較的手ごろな価格でやってくれる」など、ウェブになかなか出てこない情報をしっかり持っています。私たちも、案件をたくさん回していきながら、だんだん蓄積しているという感じですね。

John

なるほど。シリコンバレーの医療機器インキュベーターたちとのネットワークも豊富だということですね?

石倉

そうですね。あとはサンディエゴ・ボストンなどでもネットワークを持っています。

John

お客様やプロジェクトを一緒にやるパートナー会社などに対して、1つだけ核となるビジョンを示すとすれば、どういったものになりますか?

石倉

弊社は今、週に10件弱ほど、年間500件弱ほどの案件について相談をいただいています。それをデューデリジェンスするときの評価基準は4つあります。1つ目は臨床のプルーフオブコンセプト。2つ目が知財・IPですね。3つ目がレギュラトリーアフェアーズ。そして、4つ目が市場性、要はビジネスとして売れるかという点です。

1つ目のプルーフオブコンセプトは、元々、弊社の内田が医師ということもあるので、一番重要視していて、社内でも一番時間を使って議論をするポイントです。とても面白い技術で、それを使ったら何か面白いことができそうだよね、といった相談は多くいただくのですが、発明者の先生は、どうしても自分の発明なので「良い」と言いますよね。ですので、その人ではない、現場の同じ診療科の複数の先生に聞いてみるなど、そこはProof-of-Conceptに関連して徹底的な定性調査をやりますね。

John

案件にもよると思いますが、どれぐらいの人に聞いてゴーサインが出れば、開発に踏み切るものなのでしょうか?

石倉

確かに、案件によります。内田の専門である循環器であれば1人、2人で済むと思いますし、全然違う診療科の場合、我々の社内に知見が無いケースもありますので、それなりの人数の人に聞きに行きます。


過去に手術器具のプロトタイプがアメリカで売れるのかというのを視察した例があります。アメリカにはリサーチセンターがありまして、お金を払うとデータベースから10人や20人の専門医を集めてくれます。そうすると空港の隣のホテルに泊まって、1泊2日でリサーチができます。リサーチセンターの中に入ると、マジック・ミラーで仕切られている部屋の中にプロトタイプが置いてあって、モデレーターも準備してあります。それで1時間ごとに医師が来てくれて、私たちはマジック・ミラー越しに、「その医師がどう触るか」「最初に想定している握り方をしてくれているか」「これを使いたいと思うか」などを見てリサーチできるのです。

John

なるほど! そうしたリサーチは、日本では難しいものなのでしょうか?

石倉

日本の場合、医師の元を1件1件回ってリサーチするのが一般的です。アメリカでは医療機関が多いシカゴやロサンゼルスの医師が対象になることが多いのですが、先生方がアルバイト感覚でデータベースに登録していますので、そうしたリサーチの方法ができるのです。今後、医療機器の開発の案件がもっと増えてくると、日本でも同様の(リサーチ)ニーズが出てくるのではないかと思います。

森若氏の近影です

5 「必ずしも日本発である必要はないと思いますが、ただ、私たちはやはり国益にかなうような事業をやっていきたいという思いがあります」(石倉)

John

今、一番日本に必要なことの1つに、医療機器イノベーションは含まれていますでしょうか?

石倉

はい、もちろんです。

John

石倉さんは、なぜ、日本から医療機器イノベーションを起こすことが必要だと思いますか?

石倉

まだまだ臨床の現場でアンメット・メディカル・ニーズ、要は「満たされていないニーズ」があるという点です。人類の医学はかなり進展してきました。しかし、がんや中枢神経系などもそうですが、まだまだ薬にしても、医療機器にしても解決できていない問題が多々あり、それを解決していかなければなりません。もちろん、必ずしも日本発である必要はないと思いますが、ただ、私たちはやはり国益にかなうような事業をやっていきたいという思いがあります。

John

今後、海外のお客様の案件も手掛けていく予定はありますか?

石倉

今、実際にあります。イスラエルや台湾、イギリスから依頼される案件などもあります。

6 「高いレジリエンスは、1人では維持できないので、チーム、仲間とやっていくことで高いレジリエンス、回復力を得ることができるのだと思います」(石倉)

John

そもそも、医療機器などの分野でイノベーションを生む人材は、どのようにしたら生まれると思いますか? 

石倉

そこは、先ほどお話しした4つの視点が重要になってくると思います。ある程度、基礎的な専門性を身に付けてもらい、そこにプラスαで起業家精神が必要です。ゼロイチで始めることですので。起業家精神については、スタンフォードでも、その他のビジネススクールでも、かなり力を入れて教えようとしていますが、個人的には系統立てて学べるものではないと思っています。どちらかといえば、実際にやっていきながら、どんどん自分の中で研ぎ澄まされていくようなことだと思いますので、まずは「やる」「やってみる」ということが一番重要な気がします。

John

石倉さんは、大企業の方とも、行政の方とも、スタートアップの方とも仕事をされています。日本人に共通して、こうした考え方やマインドがあれば、もっとイノベーティブなものができるというアドバイスはありますか?

石倉

先ほどの人材の話にもつながるのですが、私たちが人材を採用するときに重要視していることとして、「レジリエンス」があります。レジリエンスがあることは成功している多くの起業家にも当てはまります。製品開発などでいえば、色々な人にインタビューをすると、たいてい否定的なことを言われますし、「こんな製品はいらない」とも言われます。それでも、本当に自分たちが良いと思ったら、やってみなければなりません。VCも、100社回ってようやく1社、2社が資金を入れてくれるか、くれないか。そういう世界です。


ですから、「めげない」という性格は重要だと思います。ただし、レジリエンスというと、どうしても「打たれ強さ」という解釈をされがちですが、正確な訳や意味は、「打たれても早く戻ってこられる」「回復力」というものです。しんどかったら、倒れてもいいし、投資を得られなくても、その日は落ちこんでもよくて、次の日からすぐに通常業務に戻ってこられるほうが大事だと思いますね。

John

なるほど~。このお話は、最後の質問にもとても関係してきそうです!


最後に、石倉さんにとってのイノベーション哲学をお聞きしたいと思います。なぜ私がイノベーションの哲学をテーマに、りそコラ(本サイト)で連載を始めたのかといいますと、経営者にどんどん話を聞いて考え方を体系化し、イノベーションを生む人間を1人でも多く日本に増やしたい。そんな想いがあるからです。
石倉さんにとっての、イノベーションを起こすための哲学、一番重要なことはレジリエンスということでしょうか?

石倉

そうですね。投資をするときに、シリコンバレーでよくされる議論に、「プロダクトか、マーケットか、チームか」というのがありますよね。この議論は、色々なところでよく出てきますし、全て等しく重要だとは思いますが、高いレジリエンスは、1人では維持できないので、チーム、仲間とやっていくことで高いレジリエンス、回復力を得ることができるのだと思っています。

John

本当にそうですね! そういった仲間、同志は、どのようにして作っていくものなのでしょうか?

石倉

カルチャーが大切だと思います。仲間と一緒に維持していくレジリエンス、そうしたものを重要視していますよという人を当然集めていきますし、また、ある程度生まれながらに身に付けている人たちを集めていきます。そうして、仲間や同志と一緒にレジリエンスを維持していくカルチャーが確立されていくと、新しく入ってくる人たちも、必然的にそうなっていくのではないでしょうか。

John

めげない性格、打たれてもすぐに戻ってこられる回復力。メンバーそれぞれがこうしたものを重視して、皆で一緒に維持していくカルチャー、つまり風土が大切ということですね。本当にそうだと思います!

石倉さん、本日は、お忙しいところ、たくさんのお話をお聞かせくださいまして、本当に愛りがとうございました! これからも、日本発の医療イノベーションの活性化に、ますますご尽力されることと思います。素晴らしい日本の未来を作っていきましょう!

石倉氏のイノベーション哲学を示した画像です

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年12月5日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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