自動運転に代表されるテクノロジーの進化は、事故や渋滞といった課題解決に本当に寄与するのか。自動車やバス、鉄道などによる交通機関は今後、利用者にどんな利便性や快適性をもたらすのか。
交通手段による「移動」をサービス化するMaaS(Mobility as a Service)への関心が高まる中、「Mobility Transformation―移動の進化への挑戦―」と題したイベントが2019年11月15日に開催されました。基調講演で示された“未来の移動”を紹介します。
1 移動にまつわる変革が今後30~40年で起こる
最初に登壇したのは、走行中のセンサー情報や事故、整備情報などを一元管理するプラットフォームを提供するスマートドライブの代表取締役である北川烈氏。「SmartDriveが思い描く移動の進化とは?」と題し、移動の効率化が進むことで変わる未来像について講演しました。
北川氏は移動を取り巻く現状について、「100年に一度の変革期である。100年前から現在に至るまでに私たちの生活や移動手段は大きく変わったが、こうした変革が今後、30年から40年で起きる」と断言しました。自動車のシェアリングサービスやインターネットへの常時接続、自動運転などを可能にするテクノロジーを用いることで、移動時間や移動コストを削減でき、生活の利便性や効率性が大きく向上するといいます。
注目すべきは「新しい出会いと消費行動」です。「移動の効率化によって空いた時間やコストをどう活かすのかが重要。移動の変革は、人が何に出会うのか、どんな消費が生み出されるのかと結び付けて考えなければならない」と北川氏は述べました。人の移動時間や移動コストを削減するのが変革の本質ではなく、生活にどんな付加価値が生まれるのかを考えることが変革には不可欠であるということです。
もっとも、これまでの移動の考え方を覆す変革は、自動車や電車などの運輸・交通業界だけの取り組みではなし得ません。北川氏は、「自動車メーカーはもとより、通信や保険、不動産業界など、業界の垣根を越えて推進すべきだ。気象観測などに使われる宇宙データを扱う企業も含め、さまざまな企業が移動の進化に関わる領域に参入する必要がある」と提案しました。交通に関連しない業界も、今後登場するとみられるサービスの動向に注視し、自社の強みを活かせる領域を模索する意義は大きいでしょう。
そのためには、「国内で『競合だ、カニバリゼーション(共食い現象)だ』と騒ぐべきではない。他社とどう関わるのか、事業をどう広げられるのかを最優先に考えて、移動の変革を見据えるべきだ」と強調しました。
こうした共創によってグローバルで勝てるサービスの創出が期待できます。北川氏は、「世界に目を向けると、自動車を相乗りしたいと考える人同士をマッチングするライドシェアなどが注目されている。こうしたサービスを提供する企業の中には、特定のエリアや地域ではなく世界で通用するプラットフォームを用意するケースが少なくない。MaaS市場は国内にとどまらない。業界や競合といった壁を取り払い、共創して世界で通用するサービス創出に足並みをそろえてもらいたい」と結びました。
2 自動運転に対する日本の法整備は海外より進んでいる
北川氏の登壇に続いて、「30~40年先のモビリティ 人々の移動はどのように進化しているのか?」と題したパネルディスカッションが行われました。インテルの事業開発・政策推進ダイレクタ兼チーフサービスアーキテクトである野辺継男氏と、森・濱田松本法律事務所の弁護士である佐藤典仁氏が登壇し、テクノロジーと法律の側面から見た今後を考察しました。
野辺氏は、駅員が改札口で切符にハサミを入れていた40年前を引き合いに出し、利便性が進化を後押しすることを強調しました。「改札はもはや自動改札が当たり前。磁気カードや非接触型ICカード、さらにはスマートフォンと、使われるテクノロジーも変わってきた。このとき考察できるのは、ほんの少しでも便利なサービスや製品が登場すれば、消費者や社会は一気に変化する」とし、移動に関しても同様のことが起こり得ると指摘しました。
「2050年にはMaaSの世界が完全に実現する」と野辺氏は断言しました。そして、「スマートフォンに向かって『○○へ行きたい』と話しかければ、タクシーやバス、鉄道などの最新位置を示す地図がスマートフォンの画面上に表示され、A地点からB地点に移動したいときには、もっとも安価で快適な移動手段を選択できるようになる。データを分析するクラウドと、分析結果を活用するスマートフォンを駆使したサービスが私たちの利便性に大いに貢献する。いずれは、人ではなくスマートフォンが車を制御して運転する完全自動運転の時代が到来するだろう」と述べました。
一方、佐藤氏はこうした時代の到来に向けて、自動運転に関わる法整備の現状と今後の課題を指摘しました。「意外に思うかもしれないが、自動運転に関する日本の法整備は海外より進んでいる。緊急時などのシステムからの要請があれば、運転者が操作する必要があるレベル3(条件付運転自動化)の自動運転車を走行できるように法整備したのも、世界に先駆けている」と、フレキシブルに対応できない海外とは違う現状を述べました。
しかし、自動運転中の道路交通法違反の場合の責任は、事案ごとに個別具体的に判断されるのか、自動車の所有者が民事責任を負担し続けるのかなどの問題があり、自動運転の実現に向けて検討すべき法律上の論点があることも指摘しました。
なお、自動運転のレベルは5段階あり、前後・左右のいずれかの車両制御をシステムが支援するレベル1、前後・左右の両方の車両制御をシステムが支援するレベル2、特定条件下で完全自動運転となるレベル4、完全自動運転となるレベル5があります。
3 快適性を重視した自動車選びが求められる時代に
MaaS市場の主役になるであろう自動車はどんな進化を遂げるのでしょうか。続いて登壇したジャガー・ランドローバー・ジャパンの代表取締役社長であるマグナス・ハンソン氏は、自社が掲げるビジョンについて語りました。
「THE ROAD TO DESTINATION ZERO」と題して講演したハンソン氏は、「当社は電気自動車を市場投入することにより、排出ゼロ、渋滞ゼロ、事故ゼロのビジョンを打ち出している。環境に配慮した循環経済の確立を目指す取り組みを強力に推進する」と強調しました。
続けて行われたハンソン氏と、ローランド・ベルガーのパートナーである貝瀬斉氏によるディスカッションでは、移動するときの「快適性」をテーマにした意見が出ました。
ディスカッションの冒頭、進行役を務めたスマートドライブの北川氏は、「自動運転が進化すれば、自動車の“空間”としての価値がより重要になる。私たちがホテルを客室や接客のクオリティーで選ぶように、自動車も今後は快適性やブランドの重要性が増す。これらが自動車を選ぶ際の主要な選択基準になるだろう」と述べました。
そのためには、快適性やブランドといった価値に触れる機会を増やすことが重要であると貝瀬氏は指摘。「人にはさまざまなニーズがあり、その時々でニーズも変わる。こうしたニーズを満たすためには、生活の中で快適性やブランドに接する機会を何度も与えられるようにすべきだ。さらに接する密度を高め、ファンを育てる取り組みも求められる」と続けました。同時に、具体的な取り組みは試行錯誤しながら模索するものの、「新たな取り組みを打ち出し続けることが重要だ」とも指摘しました。
より良い空間で移動したい……。移動の変革は、利便性や効率性ばかり重視するのではなく、快適性を味わえる体験やイメージづくりも欠かせないのです。
第1弾として“未来の移動”をテーマとしたさまざまなセッションを取り上げましたが、いかがだったでしょうか? 第2弾は、保険業界やスタートアップが考える未来像をテーマにしたセッションをご紹介します。
以上
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