棚卸資産とは、商品、製品、半製品、仕掛品、原材料などの資産(不動産会社が販売目的で所有する不動産を含む)をいいます。棚卸資産を取得したときや販売したとき、どのように損益に影響するのか? 事例を用いて期首・期中における棚卸資産の会計処理(仕訳)と、在庫管理のポイントを解説します(本記事で対象とする棚卸資産とは、商品のことです)。
なお、決算処理フローに沿った、期末における棚卸資産の会計処理(仕訳)については、以下の記事をお読みください。
1 期首・購入・販売時の会計処理(仕訳)
【期首に保有する棚卸資産】
小売業を営むA社は、期首に100万円(商品α10個、単価10万円)の棚卸資産を持っています。
期首の貸借対照表上の「棚卸資産(資産)」勘定には、前期末の棚卸資産の金額が記載されています。
【期中に購入した棚卸資産】
A社は、期中に商品β100万円(50個、単価2万円)を掛けで仕入れ、運送費など1万円を負担しました。
棚卸資産を取得したときには、取得原価を算定して、次の仕訳を行います。このとき、忘れやすいのが運送費や保管料など(付随費用)の集計です。付随費用は、その物品を購入してから、自社の商品となるまでに必要な費用をいい、自社の棚卸資産の取得原価に含めなければなりません。
また、商品有高帳などに取得数量などの記録を行います。
棚卸資産を取得したときには、損益計算書の「仕入(費用)」勘定に計上し、直接「棚卸資産」勘定を増減させる仕訳は行いません。そのため、貸借対照表上の「棚卸資産(資産)」勘定に変動はありません。
なお、商品有高帳などへの取得数量・販売数量の記録方法には、「継続記録法」と「棚卸計算法」の2つがあります。
●継続記録法
継続記録法とは、棚卸資産を取得したときには取得数量を、販売したときには販売数量を継続的に記録し、棚卸資産の在庫数量を常に帳簿上に反映しておく方法です。
●棚卸計算法
棚卸計算法とは、棚卸資産を取得したときには取得数量を記録しますが、販売したときには記録を行わず、期末に実地棚卸を行って期末の在庫数量を把握します。在庫数量から取得数量を差し引くことによって、間接的に販売数量を計算する方法です。
一般的には、継続記録法で、取得と販売の都度記録を行い、期末に実地棚卸を行う方法が多く採用されています(継続記録法と棚卸計算法の併用)。
【期中に販売した棚卸資産】
A社は期中に仕入れた商品β10個を単価15万円で販売しました。
商品を販売したときは、次の仕訳を行います。また、商品有高帳などに販売数量などの記録を行います。
棚卸資産を売却したときには、損益計算書の「売上(収益)」勘定に計上し、直接「棚卸資産」勘定を増減させる仕訳は行いません。そのため、貸借対照表上の「棚卸資産(資産)」勘定に変動はありません。
なお、商品有高帳などに記録する際の販売単価の計算方法には、個別法・先入先出法などがありますが、それぞれの方法には決算の期末在庫の評価方法と関連するため、詳細は後日公開予定の「決算編」で解説します。
2 在庫管理のポイント
1)保管コストと廃棄・陳腐化リスク
棚卸資産を保管するためには倉庫などが必要となります。保管コストの主なものには、倉庫の賃借料や在庫管理の担当者に係る人件費などがあります。
そのため、在庫が増えると、新たに倉庫などを借りる必要が出てくるため、賃借料が増加し、担当者も増やさなければならないため、人件費も増加します。
また、在庫を長期間保管しておくと、商品自体が時代遅れになって想定していた販売価格では売れなかったり、時間経過による劣化が生じたりします。その場合、陳腐化による評価損を計上したり、商品を廃棄したりしなければならず、利益を減少させることになります。在庫が多ければ多いほど、このリスクは増加します。
2)財務コスト(金利)
在庫には、金利が掛かる(財務コスト)という考え方があります。例えば、棚卸資産を取得するために、銀行からキャッシュを借り入れたとします(借入利子の発生)。もし、棚卸資産がすぐ販売できれば、借り入れたキャッシュをすぐに返済することができ、支払わなければならない借入利子を払わなくて済みます。ただし、いつまでもその棚卸資産を販売することができない場合、現金が無く、いつまでも借入金を返済することができず、借入利子を払い続けなければなりません。
逆に、もし棚卸資産の取得に充てるための現金を銀行預金に預けた場合には、預入利子を受け取ることができます。ただし、棚卸資産の取得のために現金を使ったため、その分の預入利子を受け取ることができません。棚卸資産を在庫として持ち続けると、受け取ることができるはずの預入利子分、損をしていることになります。
このような在庫には利子が掛かっているという考えから、在庫が多ければ多いほど、この財務コストが大きくなります。
3)在庫過少リスク
上記のようなコストやリスクだけを見て在庫を減らす一辺倒ではいけません。逆に、在庫が少な過ぎると、次のようなリスクやコストが生じます。
- 販売機会を失う
- 在庫を少なめに調整することを意識し過ぎて、少ロットの発注を増やしてしまい、かえって発注費(輸送費や事務作業に係る人件費など)がかさんでしまう
- 大口の発注による値引きを受けることができず、単価が上がる
そのため、会計上の数値と営業上の状況とのバランスなどを考えながら、自社の適正な在庫数量を考えることが大切です。
以上
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)
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