世界中を震撼させる新型コロナウイルスの影響によって、日本の労働市場は大混乱に陥っています。空前の人手不足から一転、内定取り消し報道が相次ぐなど採用環境も激変。今後の見通しも不透明な状況です。
仮に厳選採用時代が到来したとして、一人ひとりのパフォーマンスが及ぼす影響度は高まりますから、自社のカルチャーにフィットした人材を採用することは極めて重要になってきます。
そういった意味でも今回お伝えする「採用ブランディング」は、こうした不透明な採用環境だからこそ、取り組むべき価値があるテーマだと言えるかもしれません。というわけで連載4回目の本稿は「採用ブランディング」の実践編。求職者が惹かれる魅力因子について、また自社の「らしさ」を伝える手法について、具体的に解説していきます。

1 オンラインリクルーティングの時代へ

新卒の就活を例にとって、求職活動の行動心理を見てみましょう。

  • 学生は企業側のいろいろな活動の目的を重視しています。
  • だからこそ、興味を持った企業のWEBコンテンツをよく見て研究しています。
  • そして、その思いに共感すれば、学生は企業規模に関係なく会いたいと思っています。
  • ただし、中小零細企業の場合はできるだけ早い段階で会いたいと思っているようです。

彼らの思考や行動の特徴は、上記の4点です。

特に1.の目的確認と2.のWEBチェックは、最近デフォルトになってきたと言っていいでしょう。自社の魅力を言語化し採用ホームページを拡充することが極めて重要であることを物語っています。
また、3.と4.にあるように、少しでも興味を持った企業とはとにかく早く会いたいと考えるのは、会うことでその企業の雰囲気を体感したいからに他なりません。逆に企業側からすると、自社の「らしさ」を体現したオフィスなどのリアル空間は、採用ブランドを高めてくれるアピールポイントにもなりうるわけです。
 しかし今回の新型コロナウイルス対策として説明会や面接がオンライン化すると、リアルな空間で企業の「らしさ」を伝えることができなくなります。そうなるとブランディングにおける採用ホームページの役割は、ますます重要になっていきそうです。

採用ホームページは、大手求人メディアの定型フォーマットより、はるかに自由度が高いぶん、「らしさ」や「魅力」を存分に伝えることができます。しかし逆に貧弱なつくりだったりすると、他の企業より劣って見られる可能性も多々あります。そういう意味では諸刃の剣とも言えるツールなのですす。
 いずれにせよ、これから押し寄せるオンラインリクルーティング時代には、自社の思いを語る上で、クリエイティブの質が明暗を分けていくことになりそうです。

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2 ブランディングには青臭い議論が不可欠

では、どうやって自社の魅力を見つけていけばよいのでしょうか。
自社の「らしさ」を再発見し、ブランディングにつながる魅力を再定義する。この作業には、経営層を巻き込んだ青臭い議論が不可欠です。「自分たちの社会的意義は?」「大事にしている価値は?」「事業の特徴は?」「仕事の魅力・面白さは?」「環境のよさ・働きがいは?」「どんなメンバーが活躍している?」「現状の課題は?」「今後、どうなりたい? どうあるべき?」などなど、徹底的に語り合いながら、自社の魅力を洗い出していきましょう。

議論する上での指針として、求職者の琴線に触れる企業の魅力=採用ブランドの源泉をカテゴライズしてお伝えしおきます。自社の魅力を整理するフレームワークとして、参考にしていただければと思います。

自社の魅力を整理するフレームワークの画像です

いずれにせよ「自分たちが何者なのか」という定義を自分たち自身で把握していなければ、自社の魅力を正しく伝えることはできません。採用ブランディングとは、自分たちが何者なのかを改めて見つめ直す作業なのです。

3 採用候補者の志向も科学する

採用ブランディングの目的が、自社の「らしさ」を再定義して、そのカルチャーにフィットした人材を採用することだとすると、自社にフィットするであろう人物についてもイメージを持っておく必要があります。
 「キャリア・アンカー」という言葉をご存知ですか。アメリカの組織心理学者エドガー・シャインによって提唱された概念で、自らのキャリアを選択する際に、最も大切な(どうしても犠牲にしたくない)価値観のことです。
 シャインは主なキャリア・アンカーを「管理能力」「技術的・機能的能力」「安全性」「創造性」「自律と独立」「奉仕・社会献身」「純粋な挑戦」「ワークライフバランス」の8つに分類しました。この価値観について、補助的な言葉を付加して分かりやすく解説しましょう。

  • 「管理能力」=マネージャー志向
    スケールの大きな仕事をしたい。組織を動かし人をリードしたいタイプ
  • 「技術的・機能的能力」=スペシャリスト志向
    専門分野のエキスパートとして活躍したい。「その道の大家」になりたいタイプ
  • 「安全性」=安定志向
    将来が見通せる安心がほしい。一つの仕事を続けていきたいタイプ
  • 「創造性」=アントレプレナー志向
    「新しい」「創る」といった言葉に反応する。起業化タイプ
  • 「自律と独立」=独立志向
    自分のペースで仕事をしたい。納得できるやり方で進めたいフリーランスタイプ
  • 「奉仕・社会献身」=社会貢献志向
    人の役に立ちたい。社会に貢献したいタイプ
  • 「純粋な挑戦」=チャレンジャー志向
    高い山があれば登りたい。不可能を可能にしたい。チャレンジしたいタイプ
  • 「ワークライフバランス」=ワークライフバランス志向
    仕事と生活全体のバランスが大切。個人や家族を尊重してほしいタイプ

自社にフィットするのは、どんな志向を持ったタイプなのか。あるいは社内で活躍している人材は、どんな志向を持ったタイプなのか。上記のキャリア・アンカーを参考にして、思い描いてみてください。

繰り返しになりますが、採用ブランディングの真の目的は、自社の魅力を再定義し、共感してくれる人材を集め、カルチャーにフィットした人材を採用することです。自社の「らしさ」と採用候補者の「らしさ」が重なった点に、採用成功というゴールが待っているのです。

次回は、争奪戦が激化しているエンジニア採用について取り上げます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年3月24日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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