かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。
第12回に登場していただきましたのは、自ら代表取締役として事業を運営する一方、複数の会社でCTOや取締役、顧問などを兼務し、スタートアップへの技術、採用、経営戦略面などで支援を行っている、株式会社プロフィットメイカーズ代表取締役 社長の坂口(田邊)賢司氏(以下インタビューでは「坂口」)です。
1 「スキルもなく、どんな仕事をしようかなと思ったときに、やりたいことベースで仕事を考えることにしました」(坂口)
John
坂口さん、本日はお忙しいところ愛りがとう(愛+ありがとう)ございます! ランサーズの元CTOであり、現在、多くのスタートアップ企業の顧問、CTOアドバイザー、エンジェル投資家、自らも企業経営者として大活躍の坂口さんとの対談、非常に楽しみにしておりました。
坂口さんとは2016年初めに、某グローバル企業の社内起業家育成プログラムで、同じ審査員として来ていらして、お会いしましたね。懐かしいですね。
それでは、早速お話を伺いたいと思います。学生の頃から、IT業界へ興味を持たれていたのですか。
坂口
インターネットが流行りはじめた世代なのですが、当時は特に興味はありませんでした。
私は、高校卒業後、フリーターとしていろいろな仕事を経験しました。大学に行って何をするのかな、という感じでしたので、進学しようとは思いませんでしたね。
John
はっきりとやりたいことがなくても、とりあえず進学はしておこう…と考える人も多いと思いますが、坂口さんは思い切ったご決断をされましたね。
フリーター生活を終え、就職されたのは、おいくつのときですか?
坂口
一通り色々な遊びをやり尽くしたのもあって、24、25歳のときにさすがにそろそろ仕事に就こうと思いました。仕事に就くからには、真剣に取り組みたい。ですが、その年齢で、スキルもなく、どんな仕事をしようかなと思ったときに、やりたいことベースで仕事を考えることにしました。
2000年頃のことで、スーツを着てオフィスワークをしたいと思っていて、未経験者でも雇ってくれるというのが、IT業界、エンジニアだったのです。ただ、未経験者歓迎といっても、さすがに何もスキルがないのは難しいだろうと考え、アルバイトをしながら勉強をして、国家試験である基本情報技術者試験に合格しました。
John
今は、Tシャツを着てらっしゃいますが、当時は、スーツを着たかったのですね。遊びも、仕事も、やるとなったら徹底的にやるという、そのパワーや意志の強さは素晴らしいですね! 中途半端な状態から学べることは少ないと思いますし、坂口さんのように1つ1つのことに没頭していくことで、人間としての幅も広がるのだと思います。
勉強はどのような方法でされたのでしょうか。
坂口
私は参考書を端から端まで、ひたすら読むタイプですね。それで分からないことが出てくると、その都度調べるという感じです。情報のインプットのやり方は、やってみて、行き詰まったら調べる、という風にしています。仕事の取り組み方も似ています。
John
行動しながら学ぶというスタイルが勉強にも仕事にも活かされているのですね。努力して、国家試験に合格したときは、どのようなお気持ちでしたか?
坂口
これで就職するきっかけを得たな、という気持ちでしたね。自分なりに勉強もしたし、もう後戻りはできないな、という感じでした。
2 「どの現場でも、しっかりと教えてくれる人、助けてくれる人が必ずいたお陰で成長できたと思います」(坂口)
John
そして、目標であったIT業界に入ることになるのですね。初めての就職は、いかがでしたか。
坂口
最初に就職した会社は、今でいうところのブラック企業で、既に無くなってしまいましたが、研修内容などは充実していました。特に、「挨拶はちゃんとしよう」など、コミュニケーションの基本的な部分について教えられました。
当時は、現場によっては黙々と仕事をはじめるといった感じで、全く挨拶がないこともありました。そのような現場だと、最初は挨拶をしても誰も返してくれないのですが、3カ月続けていると空気が変わってきて、次第に会釈をしてくれるようになり、最後は挨拶もしてくれるようになっていきました。「いつも挨拶する人ね」と、コミュニケーションのきっかけになったこともあります。
John
自分だけが挨拶するというのは、勇気が要りますよね。しかし、ビジネスマンとして、挨拶は基本ですから、その基本をしっかりと作りなさいと教えてもらえたことは、一生の財産ですね。
仕事内容は、どのようなことをされていたのですか?
坂口
最初にやるのは、テスターという、つくったものがちゃんと動くかどうかのチェックです。そしてテストの設計をやり、次にプログラミング。それができたらプログラミングの設計をやり、要件固めをやり、最後は企画に携わります。そこに人のマネジメントや進捗管理が付いてきたりします。さらに、プロジェクトマネジャーになると、お金の管理なども業務に入ります。
John
1つ1つ確実にステップアップしていく様子がよく伝わります。そうやって任される仕事が増えていくと、求められることも高度になり、新たな壁にぶつかることもあったと思います。そのようなときに、自分自身をどのように成長させていきましたか。
坂口
キーマンを見つけるようにしました。私は運が良かったのだと思うのですが、それぞれの仕事の現場で、優しく教えてくれる人、厳しく教えてくれる人などがいました。どの現場でも、しっかりと教えてくれる人、助けてくれる人が必ずいたお陰で成長できたと思います。
John
素晴らしいですね! 課題にぶつかったときに、相談できるメンターがいるかどうかで、その後の仕事の発展に大きな差が出ますよね。それぞれの仕事現場で、自分をより良く導いてくれる人を見つけることができて、本当に良かったですね。
3 「自分よりもずっと高いところにいるメンターとの関わりは、緊張感もありますが、今まで見えなかった世界を見せてもらえて、本当に勉強になりますね。」(John)
坂口
5~6年くらいした後、これ以上SIでやることはないなと感じました。そこで、転職するなら事業会社に入って、自社でつくっているサービスに携わりたいと思うようになり、オウケイウェイヴに入社しました。
オウケイウェイヴではSIの経験を活かして、最初はFAQ作成や問い合わせ管理・ヘルプデスクのサービスに携わりました。その後、チャンスが巡ってきて、新規事業に取り組めるようになりました。SNSを連動させるなど、当時話題のことをはじめることが決まり、それに手を上げたのです。新規事業の企画段階から携わる機会を得て、事業をつくることの楽しさを知りました。めちゃくちゃ楽しかったです!
John
新規事業に携われることになり、坂口さんご自身の発想を活かして働ける環境になってきたのですね。とてもワクワクしていた気持ちが伝わってきますが、就職前の遊びに全力投球していた時代の楽しさと、そのオウケイウェイヴ時代の楽しさを比べると、違いがありますか。
坂口
仕事のほうが楽しかったですね。難しくはあるけれど、だからこそ楽しかったのかもしれません。難しい問題って楽しいじゃないですか。
John
確かに、難しいからこそチャレンジ精神が沸き立ちますよね。特に好きな仕事をしているときの楽しさは、格別です。坂口さんは、新規事業に携わってみて、「これが自分の好きなことだ」という感覚になりましたか。
坂口
そうですね。何となく気づきはじめていました。エンジニアリングだけでなく、新規事業の企画やマーケティングについて、興味を持ち出した時期です。
John
新規事業では、人を巻き込むことも必要だったと思いますが、未経験でどのように進めていかれたのですか?
坂口
オウケイウェイヴにも、厳しいけどめちゃくちゃ良いメンターの人がいたのです。結構、厳しいことを言われましたけど(笑)。その方は業務委託の方だったのですが、とてもスキルが高く、知識も経験も豊富で、年収でいえば恐らく2倍以上の差がありました。
John
自分よりもずっと高いところにいるメンターとの関わりは、緊張感もありますが、今まで見えなかった世界を見せてもらえて、本当に勉強になりますね。
オウケイウェイヴで約2年間勤務された後、インタースペースに転職し、サブマネージャーをされていますね。
坂口
オウケイウェイヴ時代、新規事業に2回ほど携わったのですが、その後、元の部署に戻ることになったのです。それで、もっと新規事業に携わりたいなと思っていたところ、インタースペースでは既存のサービスだけでなく、部署の立ち上げから経験させてもらえるということだったので、その話に飛びつきました。インタースペースは、広告事業などは皆さんもご存じかと思いますが、私はメディア事業をはじめるのを手伝いました。
John
坂口さんのように向上心が強い方にとっては、新たなステップを踏み出すことの方が、慣れた部署に戻ることよりも魅力的に感じますよね。ちょうど良いタイミングで、転職ができましたね。
坂口
実は嬉しいエピソードがありまして、当時私の転職をお手伝いしてくれたのが、現在は個人投資家としても活躍されている高野さんという方なのです。高野さんとは、今でもお話をさせていただいています。
そのような経緯でインタースペースに入社したのですが、当時は占いコンテンツや、エンタメ系のSNSを絡めたコンテンツ、ソーシャルゲームなどをやっていました。
私はサブマネージャーをやっていたのですが、モアゲームスという会社に出向して、新しいメディア事業のエンジニア部署を立ち上げました。そこではCTOみたいなことをやっていて、部署の立ち上げや、開発方針やアーキテクチャの策定はもちろん、エンジニア不足解消のための採用に取り組んだりしました。
John
既に、この頃からCTOに近い業務をされていたのですね。さまざまなキャリアを積み、自分自身も「いけるな」と、だんだん自信がついてくる頃だと思いますが、もっと大きな会社へ行こうと言った考えはなかったのでしょうか。
坂口
どちらかというと大きな会社は好きではなく、次はスタートアップで会社の立ち上げから携わりたいなと思っていました。ちょうどインタースペースを辞めるときに、トライフォートという会社を設立するから手伝って欲しいと、代表に就任予定の友人から話をもらいました。
4 「採用の選考フローが多ければ多いほど、人は集まりにくくなるので、極力簡素化するといいですね。業務委託契約など正社員以外の人は、私自身が採用の最終決定を出す権限を持ち、代表を通さなくてもよくしましたし、スピーディーに決断できてよかったと思います。」(坂口)
John
トライフォートでは、坂口さんは、運用統轄本部長をされていたとのことですが、当時の様子について教えていただけますか。急成長された会社ですよね?
坂口
トライフォートは、設立から1年で約120人規模の会社に成長しました。私は2年くらい在籍し、最初の頃は自分で仕事を取ってきて、自分も含めてメンバーでプログラミング含め企画、開発、デザインをするということをやっていました。急激に人が増えた頃には、採用などにも関わりましたね。
トライフォートの初期は、受託してアプリを開発することをメインとした会社です。当時はソーシャルゲームの会社を含めて、ネイティブアプリをつくるエンジニアが不足していて、困っている会社が多かったのです。それに対してトライフォートでは、ネイティブアプリをつくる一線級のエンジニアが在籍していて、エンジニアを育成する環境が整っていました。それで、ソーシャルゲームをつくっている多くの会社が訪ねてくるような状況でした。
John
他社に先駆けてネイティブアプリを作れる環境を社内に整えたことが、急成長の秘訣だったわけですね。需要の多さに比べ、供給できる会社が少なければ、自ずと仕事依頼が集まりますからね。鍵となる、ネイティブアプリを作る一線級のエンジニアチームの育成はどのように行われたのでしょうか。
坂口
SIの会社は、自社サービスの魅力などを話すことが難しく、人材を集めにくいのですが、そうした中でも、代表が「既存のSE業界をぶっ壊そう」くらいの“尖った発信”を採用メディアやこれまで繋がりのあったメディア等を活用して発信し、それがエンジニアに刺さるものだったためスキル的にも尖った人材を集めることができました。
John
これはエンジニアだけでなく、これから人材採用をしようとするさまざまな企業にとって参考になるお話ですね。
坂口さんにとって、トライフォートは設立から携わった初めての会社ですが、思い描いていたような「ザ・スタートアップ」という感覚はありましたか。
坂口
ありましたね。西麻布のマンションの一室からスタートして、人が増えるたびにさらに隣の一室を借りて、という感じで楽しかったです。
普通、スタートアップはメンバーが5人、10人の段階では人事採用担当は雇わないと思いますが、トライフォートの場合は大量に人材採用が必要になる見込みがあったので、専任の人事採用担当者を置かなければ回らないと考えました。そこで、出入りしていた人材紹介会社の方を「うちで働きませんか?」と口説いて雇い、その方や私で採用を担当しました。受託の業務なので、前金があり、採用のためのコストは捻出できていました。
John
スタートアップでは、資金調達をしないと思うように人材採用が進まない場合もありますが、その心配はなかったわけですね。しかし、大量に採用しても、長続きしない社員もいますよね。
坂口
急成長している会社にはありがちな課題だと思うのですが、当初は20人入社して10人辞める、という感じの状態のときもありました。
John
すると、かなりの回数の採用面接を行われたと思いますが、その中で気づいたいい人材を採用するポイントがあれば教えてください。
坂口
採用の選考フローが多ければ多いほど、人は集まりにくくなるので、極力簡素化するといいですね。業務委託契約など正社員以外の人は、私自身が採用の最終決定を出す権限を持ち、代表を通さなくてもよくしましたし、スピーディーに決断できてよかったと思います。
また、当時は最初から正社員で採用するだけでなく、エージェントと交渉して、3カ月のSES契約(システムエンジニアリング契約、クライアントに技術者を派遣し、雇用時間に対して報酬を支払う準委任契約)を結び、正社員で働いてもらいたいという人材がいれば、直接雇用させてもらう、という方法を一部取っていたりました。
John
最近は、面接にかかる期間や準備が多いと応募自体を辞めてしまう人も多いみたいですからね。
その後、トライフォートでの組織拡大経験などを評価され、ランサーズに転職されることになったわけですが、設立から関与したトライフォートに離れ難さは感じましたか。
坂口
逆ですね。トライフォートは友人が困っていたのでジョインしたのですが、お互いに本気でぶつかるので、仲が悪くなることもありえる。なので、本当は友だちとは一緒にビジネスをやりたいとはそれほど思ってなくて、最初から「会社がある程度軌道に乗ったら辞める」という話をしていました。それで、第一回の資金調達が終わった後に辞めることにしました。
5 「日本の大学生たちにも、もっと海外のトップ層の学生たちの様子を伝えたいですし、良い刺激を受けてくれたら嬉しいと思います。」(John)
John
友人同士で仕事をすると、いろいろありますよね。仕事も頼みやすいですし、特にスタートアップでは時間もリソースもありませんから、肩書き以外の仕事もふられたり。それがスタートアップらしさでもあるのですが。
坂口
そうですね、各メンバーが限界状態で余力がないときに、誰もやりたがらない仕事を代表から振られて、ということもありました。しかし、好きなことをやっているから楽しかったですね。
John
ですよね! 主体的に行動しているときは、はたから見たら辛い環境でも楽しいんですよね。「自分たちで会社を作っている」と感じながら働けることは、スタートアップの良さですね。
その後、トライフォートで1年間に120人の組織に成長させた実績を評価され、ランサーズにCTOとして入社することになられたと。入社当時は、社員数は30人程で、シリーズAの資金調達を終えて「これからビジネスをスケール(規模拡大)するぞ!』というタイミングだったそうですが、最近、上場されましたね。おめでとうございます。
ランサーズでの業務はどのようなものでしたか。
坂口
基本的には、スケールするために、主に開発組織の採用、組織マネジメントなどをやっていました。その他、企画などについても絡んでいました。
当時は30人規模のスタートアップでしたので、多少、自分でも手を動かしました。自社のサービスのコードを全部書くということはありませんが、例えばインフラ周りなどをやることがありました。
John
「インフラ周り」の作業について、具体的に教えていただけますか。
坂口
サーバーの設定などです。24時間365日の稼働システムが求められていますが、2つサーバーがあったとして、片方のサーバーが死んでしまった場合、1台しかサーバーが動かなければ、サービスが停止してしまいます。それを、片方のサーバーが死んでもサービスが継続できるような構成にしたり、ユーザーからリクエストがあった場合に、死んでいないほうのサーバーに振り分けたりという、いわゆるシステムの冗長化です。インフラエンジニアは特に採用が難しいですし、業務を一部切り出しやすく、自分が得意な分野でもあることから、マネジメント以外にも実作業を手伝っていました。
John
エンジニアの採用は、なかなか厳しいようですね。人口に対するエンジニアの比率が世界一のイスラエルでさえ、エンジニア不足という課題と直面していると、以前イスラエル大使館でインタビューを行った際に教えて頂きました。日本企業でもエンジニア採用に対する課題感を持つ企業は少なくないですよね。
坂口
日本でエンジニア採用がうまくいっている会社というのは、ほとんどないように思います。例えば、アマゾンさんが主催している、一度に100人以上のCTOが集まるイベントで、「採用がうまくいっている会社はありますか?」と聞いても、誰も手を挙げないです。
しかし、自社の認知力を高め、魅力をアピールすることができれば、人は集まると思います。例えば、メルカリさんはメディアでの発信力も高く、優秀な成長意欲の高いエンジニアが集まっていると思います。
世界に目を向けると、GAFAなどは、既に中国、インド、日本などの優秀な人材は採用し尽くしているので、モンゴルなどの、あまり他の会社がいかないところで人材を集めているという話を聞きます。
John
インド工科大学ムンバイ校で講演を行った際に、シリコンバレーからGAFAの採用担当者がやって来て、2日間かけてトップ層の学生たちを連れて帰るという話を聞きました。ムンバイ校はインド国内でもトップレベルの学生が集まりますので、優秀なエンジニア候補である彼らを採用するために、世界の巨大企業も力を入れていますね。
ちなみに、インド工科大学ムンバイ校の優秀な学生たちの傾向としては、トップの学生たちは起業をし、次のランクの学生はGAFAに行き、さらにその次のランクの学生はスタンフォードなどの米国のトップクラスのMBAを取得するために大学院に進もうと考えるそうです。日本の大学生たちにも、もっと海外のトップ層の学生たちの様子を伝えたいですし、良い刺激を受けてくれたら嬉しいと思います。
6 「ボードメンバーの考え方と相性を大事にしています。『こういう人は伸びるだろうな』『私も一緒に成長させてもらえるな』といった観点で会社を選んでいます。」(坂口)
John
ランサーズに入社されるときは、今みたいに大きくなることは予想していましたか?
坂口
自分の中では「成長するのではないか」と考えていました。
John
どのような観点から、そう思われたのですか?
坂口
私はカルチャーが重要だと思っていて、それをつくる「人」、具体的には、人間性や、どういうビジョンを持っているのかを見るようにしています。特に、ボードメンバーの考え方と相性を大事にしています。「こういう人は伸びるだろうな」「私も一緒に成長させてもらえるな」といった観点で会社を選んでいます。そこがないと、一緒に仕事をしたくないですね。
John
社内のナンバーワンであるCEOとナンバーツーであるCOOとの架け橋になるような役割をされてきた坂口さんだからこそ、会社のビジョン、ミッション、バリューを明確に理解し、共感することの重要性が身にしみていらっしゃるように感じます。その上で、会社がつくりたいものをつくるために、CTOとしてチームを編成していくわけですね。
坂口
そうですね。いわゆるビジョナリーカンパニーみたいな話ですよね。そういう点でいえば、オウケイウェイヴにはそのようなカルチャーがありました。社長との関わり方でいえば、インタースペース時代には社長と直接話しができましたし、役員会議に出ているのでコミュニケーションが取れる関係にもありました。ただ、一番大きかったのは、トライフォート時代です。代表とは友人で、「ツーカーの仲」だったという経験が大きいですね。
John
CEOと直接コミュニケーションを取ることが多いと、会社全体のことを考えられるようになっていきますよね。
ランサーズを成長させるためには、どのような取り組みをされましたか。
坂口
ランサーズには、人の採用という組織のマネジメントの部分と、レガシーなシステムをどうしていくかという、2つの課題がありました。その2つの課題を主に1年半で取り組んでいきました。
人の採用については、役割や責任を明確にして、組織として開発プロセスのフローを整えた上で、それに応じた人の配置などを行いました。また、ツールや機械でできるところは、置き換えたりもしました。
システムに関しては、私が入社した時点でサービスがスタートしてから6、7年経過していたのですが、その間に一度も大きな改修はしておらず、機能を継ぎ足ししていた状態でした。そのため、技術負債がどんどん溜まっており、改善の必要がありました。例えば、システムを最新のものに置き換え、古い部分はどんどんバージョンアップしました。
John
わずか1年半でこのような変革を行うとは、坂口さんのやると決めたらとことんやるという姿勢が表れていますね。また、組織のマネジメントとエンジニアリングも、システマチックという点で似ているように感じます。
人を動かすに当たり、意識していたことはありますか。
坂口
ランサーズのときからは、特に「任せる」ということを意識しました。もちろん相手の経験や能力によって任せる度合いは異なります。任せるようになったのは、トライフォート時代の経験があったからです。
トライフォート時代は、人の入れ替わりが激しくて、仕事がたくさんあって、という状況でした。なので、入ってきたばかりの人に仕事を任せなければいけない場合もありました。任せた人の中には、伸びる人もいれば、できない人もいます。ただ、任せてみることによって、分かることがあります。それをフィードバックしていきました。
John
任せてみて、できなかったときのフォローはどうされていましたか。
坂口
基本的には、何度かチャレンジしてもらって、自分なりに考えて改善してもらいます。それでもできなかった場合、エンジニアリングであれば、私がやるという方法があるので(笑)。また、外部から調達したり、機械に任せたりするということもあります。できることは何でもやる、というのが重要だと思います。
エンジニアリングというのは、アウトプットできたもので判断されます。エンジニアリングはコストではなく、競争力だと思っています。エンジニアリングをコストだと考えている会社は伸びないのではないかと、個人的には思っています。
John
まずは、できる限り自分で考えさせ、挑戦する機会を与えると。問題を解決することだけを目的にするなら最初から答えを与えれば良いかもしれませんが、社員の成長を考えると、試行錯誤させることでより多くの学びが得られると思います。会議などでも、工夫していることがありますか。
坂口
一般的にエンジニアの間には、振り返りをする文化があることが多いです。KPT(Keep、Problem、Try)と呼ばれる振り返りです。それをチームごとにやって、棚卸しをするのです。その中で、基本的にはメンバーに課題を出してもらい、出てこなければ私から出す、ということをやっています。会議はアジェンダベースで隔週のペースで行っています。プロセスに課題があれば、できればメンバーだけで解決策を考え、実行してもらいます。私はできるだけ口を出さず、ヒントを出すくらいにしています。
John
自分の結論を押し付けるのではなく、皆に主体的に課題解決に取り組んでもらうと。自分で気が付いた解決策にチャレンジした方がモチベーションも高まりますよね。坂口さんのような優れたファシリテーターが増えて欲しいと思います。会議を通して、社員の一人一人にチームの一員として課題に取り組むんだという意識が芽生えることが望ましいと思います。
7 「新しい概念やサービスを認知してもらわなければ、どんなに革新的で優れたサービスができたとしても、ユーザーの獲得に繋がりません。人は分かりにくいものを敬遠しがちですから、知ってもらう、理解してもらう努力が必要です。」(John)
John
ランサーズを退職された後、ついに起業されましたね。
坂口
「そろそろ自分の会社をつくりたい」という思いがきっかけとなり、ランサーズを辞め、株式会社プロフィットメイカーズを立ち上げました。
ただ、諸般の事情から自分の会社だけではなく、他社で働きながら自分の会社もやろうということになりました。そこで、知り合いのエージェントからEmotion Tech(当時Wizpra)を紹介してもらい、常勤で勤めていました。プロフィットメイカーズは顧問やアドバイザー、一部業務委託を受ける事業でしたので、私が仕事を取り、それ以外の実際のコンサルティングや開発は共同経営者に任せるという感じでした。
John
Emotion Techでは、4年近く働かれていますね。
坂口
そうですね。これまでの経験をもってしても、スケールするのに4年間近くかかってしまったのが、自分としては満足していないというか、△な点です。新しい市場をつくるというのは並大抵のことではないです。既存の市場のパイを取る、もしくは広げるということであれば、前例もあるので、ある程度やり方も分かります。ですが、今までなかった市場をつくるのは、まず認知から始まります。そのような状況からはじめて市場をつくっていくのは、結構大変でした。
John
これは多くのスタートアップの課題でもありますね。新しい概念やサービスを認知してもらわなければ、どんなに革新的で優れたサービスができたとしても、ユーザーの獲得に繋がりません。人は分かりにくいものを敬遠しがちですから、知ってもらう、理解してもらう努力が必要です。
坂口さんは、どのように4年間でスケールさせましたか。
坂口
エンジニアはゼロのチームから、私が最大20人近くのチームに、営業も最大10人くらいのチームから、最終的には全体で60人くらいのチームになりました。
BtoBのサービスですが、最初は法人営業が得意な人がいなくて、思ったほど伸びませんでした。私と同時期に、法人営業の経験があるCOOが入ったことで、急激に伸びました。COOが営業組織の構築などをやり、私がプロダクトの企画、デザイン、開発をやるという感じでした。2人で相談しながら、営業に装着する武器を私の方でつくり、COOは武器を持った部隊を編成するという感じでした。
実績がないと大企業には採用してもらえないので、最初のうちは、まずは無料でもいいので利用してくださいとお願いしましたが、無料であっても結果が出なければ続けてもらえません。
そこで、テレアポや、トークスクリプトの整理などセールスにも力を入れ、サービスの認知度を高めるためにイベントや説明会も行いました。それによって、アーリーアダプターの人たちに少しずつ認知してもらえるようになり、大企業にも継続してもらえるようになりました。
John
COOの方にとっても、自分の考えを理解し、強い武器を与えてくれるCTOの存在は、何よりも心強いと思います。素晴らしいタッグです。
そうしてEmotion Techがスケールしてきたところで、プロフィットメイカーズの運営や多数の会社顧問などとして、より力を入れることができるようになったのですね。投資もこの頃からはじめられたのですか?
坂口
そうです。Emotion Techを辞める前から、自分の会社であるプロフィットメイカーズを通じて投資をしていました。投資先は、縛りはないのですが、基本的にはIT企業です。
ただ、プロフィットメイカーズをVCにしていくつもりはありません。2019年末に別のスタートアップ支援のためのハンズオンで支援を行う、まさしく名前の通りのハンズオンという会社を設立し、その関連会社でLLCをつくって、支援の一環としてVC的な機能を提供していたりはします。
8 「機能や価格面での差別化は、他に良いものが出れば、そちらに移ってしまいます。ですから、誰もが認知して、誰からも共感を得るという点を念頭に置いてつくるようにしています」(坂口)
John
最近は、投資家とスタートアップをマッチングさせる「スタートアップリスト」というサービスなどを手がける、プロトスターにも携わっていらっしゃいますね。スタートアップは投資家を、投資家はスタートアップを探すことができ、メッセージを送って、マッチングする機能などがあると。
起業家の方は事業概要や世界観などのプロフィールを登録し、投資家は基本的にはVCやCVC、大企業、一部、個人投資家の方に登録してもらっているそうですね。
坂口
はい。マッチングを促進させることを目的としているため、双方から頂くのは利用料のみで、マッチングフィーはなく、基本的には無料で利用できるようにしています。
プロトスターは「スタートアップと新たにプロジェクトをやりたい」「オープンイノベーションに取り組みたいので、イベントを開催したい」と考える大企業などに対して、コンサルティング料や協賛金を頂いたり、運営する「起業LOG」などのメディアへの広告料金などで収益をあげるビジネスを展開していたりします。
プロトスターに、スタートアップの有益な情報が集まるといいですね。「あの会社は、資金調達が終わった後だ」といった情報は、「スタートアップと組みたい」「スタートアップ向けにサービスを提供したい」と思っている側にとって有益な情報です。それを提供できれば、プロトスターとしてもビジネスにつながります。
John
スタートアップが何を求めているのかが分かれば、こちら側から「このスタートアップには、あの投資家を紹介してあげよう」といった動きもできますしね。私も、海外スタートアップから日本の大企業や投資家を紹介して欲しいとよく連絡を頂きますが、逆に、日本側からもどんな海外のスタートアップと協業したり、投資したいかをしっかり聞かないといけない時期に来ています。
坂口さんはAmazing Day、GVA-TECH、Voicyなど、紹介しきれないほど多くの企業で顧問をされていますよね。すごいですね! 今日のインタビュー会場である銀座の弁護士事務所もですよね。
坂口
そうです。クラウドファームという会社を新しく設立して、役員として携わっています。2020年2月にプロダクトをリリースしました。どのようなものかと言うと、クックパッドの企業法務版というイメージです。法的な問題を解決する場合、過去の判例や事例に大きく左右されることがあり、その判例に基づいてどう問題を解決したらよいかが決まってきます。弁護士や公認会計士など、法務に関する関係者や担当者の方をメインに、そうした処方箋を提供するサービスです。
また、日本だけでなく、海外の法的な問題に対応しなければならないときは解決に困るものですが、海外のどの事務所に依頼したらよいのかも分かります。
John
私も海外とのやり取りが多いので、海外にも対応できるサービスはありがたいですし、今後も需要は増えるでしょうね。
ちなみに、読者の皆さんの中には、顧問というのはどのような仕事をしているのか、イメージがわかない方もいらっしゃると思います。坂口さんの場合、主にどのような場面で支援されているのでしょうか。
坂口
最近は、事業計画や経営について相談されることが多いです。クラウドファームも、立ち上げ前から支援しています。スタートアップで皆さんがつまずくのが、エンジニアがおらず、開発のコストがどれくらいなのか見通せないということです。人材およびインフラなどシステムのコストを見積もるには、そもそもどのような事業をやるのかということをはっきりさせる必要があります。私はそこを考えることができますし、どちらかというと“考えるのが楽しい派”なので、「じゃ、私がやります」と言って、情報をもらって、一気に事業計画をつくって、それをベースに社長と叩いて、ということをやっていたりします。
John
セールス以外の事業作り全般に携わられていらっしゃるんですね。
ユーザーが使いやすいプロダクトを開発するために一番大切なことは何だと思いますか。
坂口
ユーザーインタビューやマーケットの調査はもちろん大切だと思うのですが、一番大切だと分かっているのに、割とみなさん疎かにしがちという点でいえば、「ドッグフーディング(自分たちで自社製品を使うこと)」です。
私が一番大事だと思うのが、誰もが認知して、誰からも共感を得ることができるという点です。機能や価格面での差別化は、他に良いものが出ればそちらに移ってしまいますし、そうでなければ、お客様から、新たな機能を追加して欲しいなどいわれ、それに終始してしまうだけになってしまいます。
John
自分が一番のファンでなければダメですよね。そうでないと、お客様も絶対に使わないです。シリコンバレーで事業をスタートしたUber Eatsも、創業当時は、まず自分たちでサービスを率先して使っていたそうです。
9 「製造現場などを含めたエンジニアリングは、コストとして捉えられがちです。しかし、コストではなく競争力として捉え、組織をつくっていくことが重要だと思います」(坂口)
John
この「りそなCollaborare」は多数の中小企業やスタートアップの経営者の方がご覧になられています。伝統的な中小企業と、坂口さんの新しい考え方をかけ合わせることで、何か面白いことができるといいと思うのですが、いかがでしょうか。
デジタルトランスフォーメーション(DX)、つまり、進化したデジタル技術の浸透によって人々の生活をより良く変革するという観点からも、多くの可能性があると思います。
坂口
新しい動向へのアクセスパスをお持ちでない中小企業に対して、私からそうした情報を提供できることもあると思います。DXでいえば、とてもたくさんあるのではないでしょうか? まだメールを使っている企業も多いと思いますが、社内コミュニケーションにはチャットツールが便利ですし、営業管理に関しても、ツールの導入や、簡単な自動化で生産効率を上げることができると思います。
John
中小企業はスタートアップと違ってスケールする速度はゆっくりでも、長く続く優良企業も多いと思います。数多くのスタートアップを支援してきた坂口さんの考える、中小企業の今後の課題は何でしょうか。
坂口
Johnさんが仰られた通り、急成長することだけが全てではないと思います。長く続くということは、それだけお客様からの共感を得ているという表れだと思います。
ただし、競合が機能や価格で優るものを出してくる可能性もあると思います。そういう意味でいえば、事業のスピードを上げて、打席に立つ回数を増やすというのは重要ではないでしょうか。
クリエイティブな部署やITにとどまらず、製造現場などを含めたエンジニアリングは、コストとして捉えられがちです。しかし、コストではなく競争力として捉え、組織をつくっていくことが重要だと思います。
今までのやり方では新しい競合に対抗できなくなったときに、私の持っている知識や経験がお役に立てるかもしれません。
John
これまでの成功方法に、必ずしも永続性があるわけではないのだということを自覚して、先手を打つ姿勢を忘れないようにしないといけませんね。「競争力」と聞くと、まず営業部をイメージする人も多いかもしれませんが、会社に利益をもたらすための努力は、全部署、全社員でできるんですよね。「コストではなく競争力として捉える」という発想は、これまで眠っていた可能性を引き出す鍵になるかもしれません。
話は変わりますが、私の夢として、20歳から80歳まで3世代で働ける会社を増やしていきたいというのがあります。そのためにも、日本企業の大半を占める中小企業のデジタル化することが急務だと思いますが、特に地方の中小企業ではデジタルに強い人材を採用することが難しいという課題があります。この点に関して、アドバイスをお願い致します。
坂口
地方には地方の魅力があると思います。その点を認知してもらうために、お金はそれほどかけられなくても、その他のリソースはしっかりかけるべきだと思います。例えば、無料で使えるSaaSツールなどをうまく使うことで、浮いた人手を採用の施策のために回すことができます。
私は、DXというのは2つの意味があると思っています。1つ目は、Digital Transformation。2つ目がDeveloper Experienceです。
私はデベロッパーというのは、広くものづくりをする、クリエイティブなことをする人全般と捉えています。そのデベロッパーの人たちの体験というのはとても重要で、彼らが働く環境、会社の認知、会社がどう成長できるのかについて、発信していくことが重要です。
それがないと、DXというのは、単なる「人が不要な効率化」になってしまいます。Developer Experienceがあることで、効率化するだけでなく、他にやるべきことに人手を割くことが実現して、働く人の心の余裕も出てくると思います。
働く環境の整備というのは、個人ではなかなかできません。それをできるのは、やはり経営者だけだと思います。働く人の環境を整備して、Developer Experienceを高める。Digital TransformationとDeveloper Experienceの2つが実現できれば、地方の中小企業も魅力的な就職先になり得るのではないでしょうか。
また、資金調達の方法でも、他にできることがあると思います。銀行からの借り入れは既にやっている企業が多いでしょうが、社債の発行をウェブで行うこともできます。そうしたものを使ったり、そのような知識を得たりするだけでも、中小企業の魅力が違ってくると思いますよ。
10 「会社は何のためにあるのかといえば、基本的にはビジョン、ミッションを実現するためにあると思っています。」(坂口)
John
素晴らしいアドバイス、愛りがとうございます! 最後に、坂口さんのイノベーションの哲学を教えていただけますか?
坂口
やはり「打席に立つ回数を増やす」ですかね。一朝一夕ではイノベーションは起こせません。ですから、数を増やすというのが重要だと思います。空振りでもいいと思うのです。そうしないと、フィードバックもないですから。
John
チャレンジし続けることで、認知度も上がりますし、改善の手がかりを掴むためにもアウトプットすることが重要ですね。打席がない場合は、ホームを作る、打席を提供してくれるところに出向くなど、自分で打席を生み出す方法も考えればいいですし。
そうして打席に立ったときの、坂口さんの「勝つための打ち方」とは、どのようなものでしょうか。
坂口
まずは「きちんと数値を抑える」ことを大切にします。数値管理は皆さんできると思うのですが、それをプロダクトにまで落とし込めている方は少ないように思います。例えば、このプロダクトのこのボタンがなければ、売上がどれくらい変わるのか。この当たりまで押さえることです。数値を押さえる、そして振り返りをするのがとても大切ではないでしょうか。
John
振り返りも、数値で行われるのですか?
坂口
数値も大事ですが、数値だけではだめだと思います。狭義の数値だけですと、短期的な施策になりがちです。どういう世界をつくりたいのか、どういうことを実現したいのかという、ビジョン、ミッションが重要になります。
私がプロダクトの優先順位を決めるときに、どう判断するのかというと、「KPI、KGIにどう影響するのか」「開発コストがどれくらいかかるのか」「開発までにどれくらいの期間があるのか」「どれくらいのマーケティング効果があるのか」などの基準があります。基準はいろいろあるのですが、「マーケットの課題にどれだけフィットしているか」「自分たちが実現したいビジョン、ミッションにどれだけ近づけているのか」というのも大事な要素であり、判断の軸として、会社や事業のフェーズを考慮しつつ、その時々で重みを加えて考えています。
数値だけで優先順位を決めると、クリエイティブ側は営業の言っていることをやるだけになってしまいます。そうすると、例えばエンジニアは言われたことだけをやることになるので、モチベーションが下がるのです。
全社的なモチベーションを保つためにも、ビジョン、ミッションの部分は、プロダクト開発の中に織り込み、定量的に管理していくことが重要だと思っています。
John
ビジョン、ミッション、バリューに基づく行動計画によってユーザー数を伸ばし、バリュエーション(企業価値)を上げることにはつながっても、利益を出すまでには至らないスタートアップも多いですが、どのようなアドバイスをされますか。
坂口
フェーズがあると思っています。例えば、上場直前期ですと、コストを抑えることでバリュエーションが高まります。その場合は、一時的にビジョン、ミッションへの支出は抑えて、短期的な数値を追う経営戦略もあると思います。ビジョン、ミッションが全社的に共有されていれば、問題は起きないと思います。ですが、経営層とメンバー層とで情報の格差があって、メンバー層が「経営層はコストばかり気にして、開発部隊の身動きが取れない。やりたいことができない」となってしまうと、人が辞めていくことにつながってしまいます。
会社は何のためにあるのかといえば、基本的にはビジョン、ミッションを実現するためにあると思っています。短期的には、「売上が上がらないので、少ない給料でも頑張りますか?」「売上を上げるためには、皆の給料を上げないといけない。そうしなければ人が辞めてしまう」という観点でコストを抑える施策を取ることもあると思います。ただし、それで10年、20年続いていくのかといえば、そうではない面もあります。ビジョン、ミッションを共有した上で、どういう戦略を取るのかを考えるべきです。
11 「2019年9月に設立したハンズオンという会社では、日本から10年以内に、明日のGoogle、Facebookのようなユニコーンを10社輩出したいと思っています。」(坂口)
John
坂口さんは、何歳まで働きたいですか?
坂口
ずっと働いていたいですね。スタートアップ支援でいえば、私自身の体が動かせなくなれば、投資をしてという形になるかもしれませんが(笑)。体が動く限り、スタートアップ支援はやっていきたいと思っています。それを最終的な仕事にしたいと思っているのです。2019年9月に設立したハンズオンという会社では、日本から10年以内に、明日のGoogle、Facebookのようなユニコーンを10社輩出したいと思っています。それができた暁には、世界にイノベーションの輪を広げる、日本独自のエコシステムをつくれたらいいと思っています。
今お話したことを全部やろうと思うと、「生きているうちに全部できるのかな?!」と思うくらいなので、ずっと働いていると思います(笑)。
John
「生きているうちに全部できるのかな?!」と思えるほど、高い目標があるということは、毎日チャレンジ精神を持って生きることにも繋がりますし、年齢を重ねても向上心を忘れないでいられるので、素晴らしいと思います。
ユニコーンを増やすことにこだわられる理由は何でしょうか。
坂口
まだまだ日本人が活躍できる幅がある、特にエンジニアはもっと外に出て活躍できると思うからです。エンジニアの文化として、先人がつくってきたオープンソースの恩恵にあずかって育ってきたという経緯が誰しもあるはずで、自分もその恩を返したいという想いがあります。私の場合はエンジニアという立ち位置から得たマーケティングや企画、デザインなどのノウハウ、スキル、経験を還元していきたいと思っています。それをさらに、ウェブなどに仕組み化して還元できればいいと思っています。
John
坂口さんは、遊びも仕事も全力で取り組まれ、ついには投資家にもなられるなど、これまでの人生を通して、人一倍濃い経験をされていると思いますが、人々が幸せに生活するためには何が必要だと考えますか。
坂口
幸せの定義は人それぞれだと思いますが、皆の選択肢が増えることでしょうか。選択肢が増えると迷うという意見もあると思いますが、必要なときに自分が選べる範囲がそれなりにないと、不公平だと思うからです。選択肢がなくても幸せであればいいのですが、選択肢はある程度あったほうがいいかなと思います。
John
ユニコーンが増えると、その選択肢が増えるということですか?
坂口
選択肢が増えることもあると思いますし、できることが増えるかなとも思います。
John
チャレンジする人が爆発的に増えるでしょうね! 北海道から1社、東京から2社とか、全国各地からユニコーンが出てくるといいですね。
これからは東京一極集中ではなく、地方の企業や大学の力なども活用して、みんなで日本を盛り上げていくべきだと思いますね。ユニコーンが生まれ、中小企業でDXが実現し、海外と円滑に協業できる…これが地方で実現すれば、生まれ育った場所で思う存分自分の力を発揮して働けるため人口も分散しますし、休日は家族とともに豊かな自然を楽しむといった心の豊かさを育むこともできます。
坂口
そうですね。エリアを分散させたいですね。東京だけじゃなくて、地方からもユニコーンを出したいです。それは誰もやっていないことなので、ワクワクします!
John
ぜひ、一緒に日本を盛り上げましょう!
本日は長時間、貴重なお話を聞かせていただきまして、愛りがとう(愛+ありがとう)ございました!
以上
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