かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。
第13回に登場していただきましたのは、「人と大学発の技術を掛け合わせ、大学の『知』を活用した地域発イノベーションを創出する」をコンセプトに、大学発ベンチャーをプロジェクト段階から事業化支援するQBキャピタルの代表パートナー、本藤 孝氏(以下インタビューでは「本藤」)です。
前後編に分けてお送りします。今回は後編として、QBキャピタル設立の背景や地方創生への想い、伸びるスタートアップの共通点について語っていただきます。
1 「ミッションは『Think globally, act locallyの実践』」(本藤)
John
QBキャピタルを設立された経緯を教えていただけますか?
本藤
僕と、QBキャピタルの共同代表の坂本が出会ったのは2013年の秋頃でした。
当時、僕はまだFGCの代表という立場だったのですが、知人から「地方創生のファンドをつくるため、投資経験がある人を探している人がいる。一度会ってみないか」という連絡を受けました。
そこで知人から紹介されたのが、坂本だったのです。
坂本と会って話をしている中で、地元・九州への愛や、地方創生への熱い想いをひしひしと感じました。
「日本の人口が減少していく中で、多くの地方都市が過疎化していくのはもはや避けられない。それを唯一救えるのは、各地の大学が保有する技術なのではないか」そんな想いを語ってくれたのが印象に残っています。
一方で僕自身も、イギリスでの産学連携のプロジェクトなどに携わっていたので、「どうして日本には、大学のプロジェクトを事業化まで支援する機能がないのだろう」とは前々から思っていました。そこで意気投合したのです。
それから2年ほどかけてお互いに意見交換を重ね、2015年にQBキャピタルを設立するにいたりました。
John
孝さんと坂本さんは、同じ課題感を持っていたのですね。
それを解決するのがQBキャピタルの特徴である「プレ投資プログラム」なのでしょうか。詳しく教えてください。
本藤
プレ投資プログラムとは、大学内のプロジェクト段階から事業化までを支援するための投資プログラムです。もちろん、その後シード、アーリー、企業の成長段階まで一気通貫で、QBキャピタルはハンズオン支援を継続します。
大学の技術を基にした起業では、プロジェクト段階と事業化の間に、非常大きなギャップがあります。
また、資金調達を受けるには会社を設立する必要がありますが、大学の先生は基本的に大学を辞めませんし、兼業で企業の代表取締役になることも多くの大学でできません。
つまり、そもそも会社が設立されないのです。
また、大学では「研究」には予算をつけることができますが、「製品化」には予算をつけるのが難しいという課題もあります。
そこで、僕たちのプレ投資プログラムでは、会社を設立するのではなく、プロジェクトの段階から、100〜500万円程度の「プレ投資」をします。
そしてプロジェクトから事業化するプロセスを経て、会社設立の準備までが整った後に、本格的な投資をするという方法です。
会社設立に際しては、代表取締役になってくれるような方を僕らの方で探したり、教授の元教え子の中から候補者を見つけたりとさまざまです。教授が大学を辞める決意をするケースもありますね。
幸い、福岡は地元愛が強い方も多く、Uターンしたい方なども多くいらっしゃいます。
John
大学の研究・技術を製品化するまでには、相当な手間暇がかかりますよね。しかし、そこに敢えて取り組む姿勢からも、地方創生への熱い思いが伝わってきます。
プロジェクトはどのように見つけられるのですか?
本藤
基本は、信頼できる知人からの紹介です。
たとえ学生や教授であっても、モーニングピッチや起業関連のセミナーに自ら積極的に参加すれば、誰かしらと出会えると思いますので、まずはそういう動きをしている人と会いたいと思っています。
そして、その場で話をしてお互いに興味を持てれば、プレ投資に向けてミーティングを重ねていきます。
プロジェクトチームの壁打ち相手として、経営陣に必要なスキルや、事業化までの流れ、マーケット自体のことなど長い時間をかけて相談に乗り、伴走します。
そうやって長い時間をかけて信頼関係を築いていくからこそ、事業化した際には顧客となる企業や、パートナーの紹介もスムーズなのです。
John
伴走型は時間コストがかかりますが、スムーズに事業化するためには、信頼関係の構築が不可欠であるとお考えなのですね。ビジネスのいろはから丁寧に教えるとなると忍耐も必要だと思いますが、その努力が実り、ディープテックによって世界が変わり、地方が活性化すると思うと、胸が高鳴りますね。
QBキャピタルで掲げているミッション・ビジョン、私は個人的にすごく好きなのですが、改めてご説明いただけますか。
本藤
ミッションは「Think globally, act locallyの実践」、ビジョンは「東京一極集中から脱却し、九州からアジア・グローバルマーケットを見据えた地域発イノベーションの創出を目指す」としています。
地域発のイノベーションという言葉には坂本の想いが込められていますし、グローバルマーケットを見据えるという点には僕の想いが反映されています。
技術というのは、必ずしもすべて東京の大学に集まっているわけではありません。
全国各地の各大学に、何かしら良い技術や、他に負けない強みがある。
技術を基に会社を立ち上げて、大学や地域全体を盛り上げてくというのはとても理にかなっていると思うのです。
大学発ベンチャーの伴走支援は手もかかるし、すごく大変ですから、取り組んでいる人があまりいません。しかし、モデルさえ作れたら、本当に社会のためになる仕組みだと信じています。
これは先々ですが、全国各地に同じようなVCが生まれ、QBキャピタルを中心にその輪がつながっていくような展開も目指していきたいと考えています。
John
私もQBキャピタルのようなVCが全国にできたら素晴らしいと、心から思います。
各地方の拠点となるところにその地域ならではの特徴ある大学発スタートアップが生まれ、その近くにアクセラレーターやVCが自然と集まる世界になるといいですよね。
ビジョンの中には「グローバルマーケットを見据えた」という言葉もありましたが、日本の大学から世界を席巻するユニコーン企業が出てくる可能性もあると思いますか?
本藤
日本から世界に出ていく企業が生まれるとしたら、やはり“技術”が鍵になってくるでしょうね。僕らはユニコーン企業を生み出すために事業をしているわけではないけど、その可能性はあると思う。
ただ、先ほど触れたような「教授は企業の代表になれない」といった現状の仕組みの問題もあるので、そこから変えていくことが必要です。
研究者や大学教授の、雇用のモビリティ(流動性)を担保すること。
まずはそれを解決しないといけないですよね。
John
大学が「研究もできて、起業もできる」、そんな場所にならないといけないわけですね。
大学が起業する場にもなるためには、アントレプレナーシップ(起業家精神)の教育も必要だと思うのですが、その点についてはいかがでしょうか?
本藤
「アントレプレナーシップは教わるものではなくて、感じるもの」だと僕は思っています。アントレプレナーとして今まさに奮闘している経営者と関わる機会を増やす、肌で感じることが近道ではないでしょうか。
なぜなら、日本の名だたる経営者たちが全員MBAを取得しているわけではないし、歴史上のすばらしい経営者たちの中には大学を出ていない方もたくさんいるからです。
経営学やマーケティング学も大切ですが、それらの学問は知識を体系化したものであって、実践経験者が教鞭を取るわけではないので、アントレプレナーシップ教育とは少し異なると思っています。
本気でアントレプレナーシップを教えるのであれば、さまざまなチャレンジをして、失敗もたくさんしてきた方の話が1番参考になると思います。
John
私がこれまでお会いした起業家の方々も、親が経営者だという方が非常に多かったです。成功も失敗も、目で見て、肌で感じ、共に体験することが重要ですよね。モチベーションの高さや人間的魅力など、経営者として備えておくべき要素には言葉では表しきれないものもあります。
アントレプレナーを身近に感じること、それが1番のアントレプレナーシップ教育というお考え、非常に参考になりました。
2 「グローバル展開する上で重要なのは、英語力よりも交渉力です」(本藤)
John
国内外で数多くのスタートアップを見てこられた孝さんですが、成長するスタートアップに共通する特徴はありますか?
本藤
僕がよく見ているのは、やはり「良いチームかどうか」です。
スタートアップの事業というのは、フェーズや時代の流れでピボットすることが多くありますます。
その時に転換が成功する条件として、優秀な技術者やビジネスサイドの人が揃っている、良い経営陣であることは大前提です。
日本にはまだまだスタートアップで活躍できるCXO、中でもCFOが少ない。
特に地方には少ないですよね。
また、これは投資家目線になりますが、「一緒に働きたい」と思える人たちかどうか、投資したお金を適切に使ってくれそうな人たちかどうかも重要です。
特に、投資先企業とは月に1回は会議をしたり、長く付き合い続けるので、互いのフィーリングが合うかは大切にしています。
John
結局は人同士の付き合い、ということなのですね。信頼出来て、互いにモチベーションを高めあえるようなメンバーでチームを組まないと、余計なトラブルや心配事が発生する可能性もありますからね。一緒にいることでプラスになるチーム作りをしたいですね。
しかし、人物像を見極めることは案外難しいですよね。孝さんは、どのように対策されているのでしょうか?
本藤
自分以外の目線も入れて、多角的に見るようにしています。
以前、僕も人を見ることに課題意識を感じて、ヘッドハント会社の人たちに相談したことがありました。その中の1人が「ミーティングに、女性の目線を入れてみたらどう?」とアドバイスしてくれたのです。
それを受けて、女性秘書にもミーティングに参加してもらうようにしたところ、やっぱり僕にはない意外な視点を持っていて、有益なアドバイスをもらえました。
John
女性の目線! なるほど。自分と違う目線も入れてみることが重要なのですね。
しかし、そんな優秀な人材を雇うことができる会社になるにはどうしたら良いのでしょうか? あまり資金のない中小企業や、地方の企業でも取り入れられそうな仕組みや手法があれば教えてください。
本藤
優秀な人材を集めるためには、必ずしもお金じゃないと僕は思います。
自分であれば、どういうところで働きたいか? それを考え抜くことからではないでしょうか。
例えば、地方企業や中小企業には「自分が経営の一翼を担える」、つまりディシジョンメイキングができるという魅力があるはずです。
優秀な人材なら自分が意思決定権を持ちたいはずだし、そこに惹かれると思う。
小さくても良いので、一国一城の主にしてあげるのもいいかもしれません。
例えば、地方の中小企業はまだまだ世襲制の会社もありますよね。
優秀な人ほど「自分はどこまで行ってもNo.2だ」という理由で離れてしまう。
そうなる前に、事業や一定の領域をその人に任せ、ある程度まで成長したら分社化してあげるのです。
そういう道を用意することでも、充分に優秀な人材は揃うし、良いチームを生み出せると思います。
John
なるほど、分社化ですか! それなら中小企業でも、地方の企業でも実践できますよね。
もう1点、チームについて教えてください。中小企業がグローバルに展開していくために、組織づくりにおいて意識すべきポイントなどはありますか?
本藤
“Born to be Global.”
会社や事業を立ち上げる段階からこれを意識することで、大分変わってくるのではないでしょうか。
今は、時代の変化がものすごく早い。
昔のように、日本で実績を作り、次にアジアで、それから欧米……というステップを踏む成長戦略は、もはや通用しません。
グローバルを見据えるなら、初めから世界各地で同時に展開すべきです。
また、日本人が現地でコツコツ立ち上げをする、というのも時代に即さないと思います。
現地の競合に勝つ必要があるわけですから、初めから現地の方を採用した方がいいと僕は考えます。日本で採用して、母国に帰れるということをメリットに感じてもらうのもいかもしれません。
そして、もう1つ日本の経営者に伝えたい点として、グローバル展開する上で重要なのは、英語力よりも交渉力です。
現に僕は、英語があまり話せなくても海外の企業と対等に渡り合う日本人ビジネスマンをこの目で沢山見てきましたから。
John
非常に心強いお言葉です! 孝さんのお話を伺っていると、「自分たちにもできる」という気持ちになってきます。従来の方法から脱却し、世界を舞台に活躍するための新たな戦略が見えてきました。
3 「より多くスタートアップに関わり、関わる人々の人生が成功するよう手助けしたい」(本藤)
John
数多くのスタートアップを見守り、成長を助けてきた孝さん。
ベンチャーキャピタルとして、今後の夢はありますか?
本藤
より多くスタートアップに関わり、関わる人々の人生が成功するよう手助けしたい。それが僕の夢です。
ビジネスだけ成功するのでは意味がなく、人生で成功してほしいのです。
エグジットすれば、会社同士の付き合いは一旦終わるかもしれませんが、友人としての付き合いは長い人生でずっと続いていきます。
だからこそ、僕は自分が一緒に働きたいと思えるような人と働きたいし、幸せを願えるような人に投資をすることにこだわっているのです。
John
本当に、すばらしいお考えだと思います! 私も、「You are CEO in your life. 人生の上場を果たそう!」と講演等で、よく伝えています。プライベートを犠牲にして働く時代から、仕事もプライベートも相乗効果でより良くしていく時代にしていかなければならないと思います。
以前、私がコーチャプターディレクターを務めるシリコンバレー発祥の起業家イベントの日本唯一のチャプターであるStartup GRIND TOKYOにてシリコンバレーの友人と対談した際にも、「work-life balanceではなく、work-life blendだ」という話を伺いました。(詳細はこちらをご覧ください。)
「人生の幸せを願える相手と仕事をする」という孝さんのお考えとも共通点があり、非常に感動しました。孝さんのようなVCが、日本をより良くしていくのだと信じています。
とても名残惜しいですが、次が最後の質問です。
孝さんの「イノベーションの哲学」は何ですか?
本藤
「セレンディピティ」ですね。
一生懸命に努力し続けているからこそ、ふとした瞬間に良いものを手にすることができるのだと僕は常々思っているのです。
一見失敗に思える経験も、実は何か別の成功へとつながっていく。
セレンディピティを求めるための努力を惜しまないこと。
それが僕の「イノベーションの哲学」です。
John
こうして出会えたことも、セレンディピティですよね。
本日は、お忙しい中、すばらしいお話を愛りがとうございました!
とても楽しく、とても勉強になりました!
前編をご覧になりたい方はこちらからご確認ください!
以上
※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年8月31日時点のものであり、将来変更される可能性があります。
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