事業を行う上で、経営者が気に掛けなければならないことの1つが資金繰りです。業績が順調に伸びていても、資金繰りがスムーズにいかない場合、事業に支障を来たしかねません。資金の全体の流れを把握して上手にコントロールするためにも、資金繰り表を作成してみましょう。
資金繰り表は、定期的に更新したり確認したりを繰り返すものなので、シンプルで分かりやすいことが大切です。そこで今回はエクセルでできる、資金繰り表作成のポイントについて解説します。
なお、資金繰り表の読み方や資金繰りに関する財務分析については、以下のコンテンツをお読みください。
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1 資金繰り表とは
資金繰り表とは、一定期間の資金の動きを一覧にして、手持ち資金の過不足を可視化できるようにしたものです。
そもそも「資金繰り」とは、入ってくるお金と出ていくお金のやりくりのことをいいます。事業活動におけるお金のやりくりでは、売上から入金または仕入から支払いまでのタイミングがずれることが多くあるのは経営者ならご存じでしょう。
例えば販売活動でいうと、通常、「仕入」が「売上」に先行します。これを自社のお金の流れで考えてください。実際には買掛金の支払期間(仕入から現金で支払うまでの期間)と売掛金の回収期間(売上から現金が入金されるまでの期間)がそれぞれどのように設定されているかにもよるものの、仕入をするとその支払いが販売の入金に先行するため「支払」と「入金」に時間差が生じ、その部分は自社資金で賄うことになります。
お金の出入りと現状を把握して資金をうまく回せるようにしておかなければ、帳簿上は利益が出ているにもかかわらず資金が足りなくなり、債務の返済や給料、必要経費などの支払いができなくなる恐れがあります。この状態が続くと黒字倒産になりかねません。
東京商工リサーチの調べによると、2019年(1月~12月)に倒産した545社のうち285社は最新期で営業黒字でした。この実態は資金繰りの重要さを浮き彫りにしているともいえそうです。
つまり、科目別にある一定期間の資金の動きを書き記し、手持ち資金の過不足が分かるようにすることは経営上とても大切なことなのです。それを一覧にしたものが資金繰り表です。
2 資金繰り表の作成メリット
1)将来の一定時期に向けて必要な対策を打てる
事業活動の継続、拡大を目指すためには、資金調達、営業強化、商品力向上、投資の実施とさまざまな対策が必要です。その一方で、「投資に使えるお金はどのくらいあるか」「いつごろなら投資や採用を実施できそうか」「今投資すれば資金繰りが悪化してしまうのではないか」など、資金上の不安を感じる経営者も少なくありません。
資金繰り表を作って、月々の収支や残高を早めに予測することができていれば、余裕を持って資金調達、営業強化、商品力向上、投資の実施といった対策に集中できるでしょう。
2)財務状況を悪化させない対策が取れる
「1週間後」や「今月末まで」というような時間に余裕のない資金調達が必要になった場合、会社が取れる手段は限られます。そのような場合、高い金利の融資に頼ったり、決済見込みのない手形を発行せざるを得なくなったりするのではないでしょうか。このような資金調達は、将来的に財務状況を厳しくする要因となります。
最低でも3カ月先、できれば6カ月先まで余裕を持った資金繰り予測をしておくことで、仕入を抑制したり、在庫処分を試みたり、当座貸越などの短期借入を活用するなど、財務状況にダメージを与えない対策を検討しやすくなるでしょう。
3 資金繰り表をエクセルで作成
ここからは具体的に資金繰り表を作成する方法について見ていきましょう。資金繰り表に決まった様式はありませんが、大切なポイントは「シンプルで分かりやすいこと」と「更新しやすい」ことです。そのため、自動計算や項目の並び替え、セルの挿入などがしやすいエクセルを利用するのもおすすめです。
まずは枠組みを作ります。事業活動におけるお金の出入りには、
- 売上や仕入、経費の支払などの営業に関する取引=経常収支
- 借入や借入金返済などの財務や投資に関する取引=財務収支
があります。
エクセルの資金繰り表でも経常収支と財務収支に分け、それぞれ何に対するお金の出入りか分かるように項目を書き込んでいきます。このとき、例えば売上や仕入の項目で取引先ごとに行を設けたり、融資の項目では銀行ごとに分けたりして記載する場合も多いようですが、行数が多くなるほど見にくくなってしまいます。前述したように「シンプルで分かりやすいこと」が大切なポイントですから、細かく分け過ぎず、かつ収支の内容が分かるような表作りを心掛けましょう。
資金繰り表の一例を記載しますので参考にしてください。一般的な項目例を載せていますが、自社の事業内容や取引状況に合わせてカスタマイズしても構いません。なお、細かく言えば、助成金や保険金などの収入、設備投資費用など本業以外の収入および支出である経常外収支もあります。ここでは財務収支の中の「その他収入(支出)」として記載しています。
1)売上代金の回収予定(上記資金繰り表のピンク色部分)
売上が上がればその金額を資金繰り表に入力することになりますが、売上から代金を回収するまでには、いくつかのパターンがあります。すぐに代金を回収できる場合もあれば、売掛金となって後日回収となる場合などさまざまです。
資金繰り表はあくまで現金の入・出金の動きを表すものですから、上記資金繰り表のピンクの部分は代金を回収する予定の月に、回収方法別に、回収予定金額を入力していきます。
- 現金売上:売上後、代金をすぐに回収した金額
- 売掛金回収:売掛金で回収する金額
- 手形期日:手形決済日に回収する金額
- 手形割引:手形割引で回収する金額
なお、前受金が支払われる場合、「前受金」欄に金額を入力します。
2)その他収入予定(上記資金繰り表のオレンジ色部分)
売上代金以外に予定のある入金を入力します。例えば、助成金を受給する場合や保険金の受取り予定などがあります。
3)仕入代金(上記資金繰り表のブルー色部分)
販売する商品の仕入や製品を製造する際の原材料の仕入の金額を資金繰り表に入力します。代金の支払いまでには、いくつかのパターンがあるのは売上の場合と同様です。実際に代金を支払う予定の月に、支払方法別に支払予定金額を入力していきます。
- 現金仕入:現金で仕入れた金額
- 買掛金支払:買掛金を支払った金額
- 手形決済:手形決済で支払った金額
4)人件費(上記資金繰り表のグリーン色部分)
給与・賞与・退職金・法定福利費など、人件費として支払う予定の金額を入力します。なお、給与や賞与から天引きする社会保険料や税金なども人件費の欄に入力しますが、年金事務所や税務署に納める月と従業員に給与・賞与(天引き後)を支払う月が異なる場合もあります。その場合には、それぞれ支払い予定月に、それぞれの金額を入力するようにしましょう。社会保険料や税金は概算額でも構いません。
5)販売費・管理費・その他支出(上記資金繰り表のパープル部分)
販売費や一般管理費など、人件費以外の経費、利息支払いなどを入力します。経費は例えば「水道光熱費」、「消耗品費」、「運賃」、「燃料費」などというように細かく項目を作っても構いません。自社で分かりやすいように工夫して作成しましょう。また、支払利息は財務支出に含めても構いません。自社でルールを決めましょう。
経費の支払いは、例えば家賃を前月の末日までに支払う場合など、経費の種類や支払い先によって前払いの場合や後払いの場合があります。資金繰り表には実際に支払いをする月に金額を入力していきましょう。
6)税金支払(上記資金繰り表のベージュ色部分)
法人税等(法人税、法人住民税、事業税)と消費税の支払い予定を入力します。中間納付する場合など、支払い月や金額を顧問税理士に確認してみましょう。
7)借入金、借入金返済、その他財務収入・財務支出(上記資金繰り表のグレー色部分)
借入予定があれば財務収入の「借入金」に入力します。また、財務支出の「借入金返済」欄には借入先からもらう返済予定表などから各月の返済予定額を転記していきます。
定期預金や定期積金は、普通預金・当座預金のようにいつでも引き出しできる預金ではないため、財務収支に含めます。定期預金・定期積金の預入・取り崩しがある場合には、その他収入・支出欄に入力しましょう。別途項目を設けても構いません。
4 資金繰り表作成の注意点
一通り入力できたら資金繰り表の完成です。各月の資金残高がマイナスになっていないか確認してみましょう。マイナスの場合は資金不足の状態ですから、早めの対策が必要です。なお、入力時に売上高や仕入、経費などの予測が甘く、資金不足が予測できなくなってしまっては、せっかくの資金繰り表もその役割を果たせません。少し厳しめの予測をするのがポイントです。
プラスになっている場合でも継続的にプラスとなっていることや、経常収支のプラスが財務収支のマイナスを補えているかなど、さまざまな視点で確認することも大切です。資金ショートを起こさないためのレーダーとして、上手に資金繰り表を利用してみてください。
以上
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