債権回収は企業にとって重要なテーマです。「ないところは取れない」が債権回収の基本であり、そうなる前に行動を起こさなければなりません。ただ、債権回収の方法は状況によって異なるため、具体的に何をすべきなのか分かりにくいところがあります。
そこで、りそなcollaborareでは、「債権回収」をシリーズとして紹介していきます。

1 自力救済の禁止とは?

こんにちは、弁護士の皆元大毅と申します。
シリーズの第1回は、相手方が任意に支払いに応じないケースを想定した「債権回収のいろは」を扱います。

ビジネスでは、日々、お金を貸したら将来返す、物を売ったら代金を支払う、物を借りたら対価を支払う、といった経済活動が行われています。これは、法的な約束に基づくもので契約責任と呼ばれます。また、契約関係の有無にかかわらず、他人の権利ないし利益を違法に侵害すれば、その損害を賠償する義務を負い、これを不法行為責任といいます。
他方、このような責任が発生しても、債務者がその履行を拒絶すると、権利者は債権を有しているにもかかわらず、自らの権利を実現することができません。
しかしながら、民事法上、債務者が義務を履行しないとき、債権者が司法手続によらず実力で権利回復を図ることが禁止されています。これを「自力救済の禁止」といいます。そのため、権利者が強制的に被った被害を回復するには、司法手続を利用する必要があります。
「債務者がなすべき支払いをせずに困っている。裁判所に訴えたい!」というご相談を受けますが、実は、勝訴判決を得れば相手方から完全な債権回収ができる訳ではありません。金銭の支払いを求める訴訟で勝っても、なお債務者が支払いに応じないケースも存在します。そのような場合に、債権回収を強制的に実現する制度が強制執行手続になります。

2 強制執行手続を検討するにあたって

1)強制執行手続とは

強制執行手続とは、国が強制的に債務者の財産を換価処分したり、債権者に引渡したりすることを意味します。強制執行手続は、債務者の財産を強制的に換価処分する非常に強力な手続です。そのため、債権者が強制執行手続を利用することにより、債権回収を実現するためには、厳格なルールが定められています。それでは、強制執行手続で必要になる書類として、どのようなものがあるのでしょうか。

    深掘りキーワード

    • 換価処分

    不動産や動産などの財産を第三者に売却・処分することにより、その財産をお金に換えることをいいます。

2)強制執行手続で必要になるもの

一般的に、強制執行手続を開始するためには、1.債務名義、2.執行文、3.送達証明書という書類が必要です。
この3点セットは、強制執行手続を利用する際に必要になる極めて重要な書類です。どれか1つでも欠いてしまうと、基本的に裁判所は強制執行手続を開始することができません。1.債務名義、2.執行文、3.送達証明書の取得方法は次の通りです。

3)強制執行手続で必要になる「1.債務名義」とは

債務名義とは、債権の存在を公的に証明する文書を指し、一般的によく利用される債務名義として以下のような書類があります。

a.確定判決
b.仮執行の宣言を付した判決・支払督促
c.執行証書
d.和解調書、調停調書

a.確定判決とb.仮執行の宣言を付した判決・支払督促の債務名義のうち判決については、訴訟提起を行った上で裁判所が判決を下すことにより取得することができます。訴訟提起から判決に至るまでの期間は、個々の事案によりケースバイケースですが、判決まで1年以上必要になる事案も多数存在しますので、判決という形で債務名義を取得しようとすると、費用や時間を多く要することになるのが一般的です。
b.の支払督促とは、簡易裁判所において金銭の支払いを求める制度であり、簡易迅速な書類審査である点に特徴があります。もっとも、債務者が支払督促に異議を申し立てると、請求額に応じ、地方裁判所又は簡易裁判所へ訴訟手続が移行することになるので、債務者からの異議申立てがあれば、結局裁判所で争うことになります。
c.の執行証書とは、公証役場で公証人が公正証書として作成したもので、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述(執行受諾文言)が記載されているものを指します。公証役場において、予め執行証書の形で契約を締結していれば、迅速に強制執行手続を利用することが可能になります。
d.和解調書、調停調書(裁判手続や調停手続において当事者の合意により解決されたことを示す書面)とは、裁判手続や調停手続において、当事者双方の合意に至れば作成されることになる書面であり、話合いにより解決できた場合に取得することができます。

4)強制執行手続で必要になる「2.執行文」とは

執行文とは、請求権が存在し、それにより強制執行手続を実施できる状態であることを公証するために付与される文言です。執行文を取得するには、基本的に債務名義を用いて裁判所に執行文付与の申立てを行う必要があります。この申立てを行うことにより、債務名義の末尾に「債権者は、債務者に対し、この債務名義により強制執行することができる」と記載してもらうことにより、執行文を得ることになります。
このように、具体的な請求権が存在するか明らかであることを証するために「債務名義」が求められ、また、その債務名義が有効なものであることを示すために「執行文」が必要になります。

5)強制執行手続で必要になる「3.送達証明書」とは

送達証明書とは、債務名義となる書類を強制執行手続の前に、債務者に対して送付したことを執行裁判所(強制執行手続に関する権限をもつ裁判所)に対して証明する書類を指します。
債務者からすると、債務名義が送達されなければ、ある日突然、強制執行手続を受ける地位に立たされることになり、仮にそれが不当な強制執行手続であったとしても、防御のしようがありません。そのため、強制執行手続が始まる前に、どのような債務名義に基づき執行がされるのかを債務者に示すため、送達証明書が必要になります。
債務者としては、送達がされると、債務名義に記載された請求権の存否を判断することができ、もし請求権がないと主張するのであれば、債務名義自体の執行力の排除を目的とする訴え(これを請求異議の訴えといいます。)を提起することができます。

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3 強制執行手続を検討する際の留意点

我が国の強制執行手続は、換価処分する財産の対象ごとに手続が異なっています。大別すると、不動産、動産、債権に分類することができます。各手続で必要書類が異なりますが、これまでに述べた3点セット1.債務名義、2.執行文、3.送達証明書は、いずれの手続でも必要になります。
債務者が任意の支払いに応じないケースでは、最終的に強制執行手続を見据えて裁判手続を行う必要がありますが、実際に強制執行手続を利用する場合には、これらの3点セット(特に債務名義)をどの程度の労力で揃えることができるのか、という点が1つのポイントになります。
また、別の視点で重要なのが、債務者の資力です。この3点セットを用意できたとしても、債務者に財産がなければ意味がありません。換価処分・取立てる財産としては、株式、売掛債権、不動産など多岐に及びますが、債務者が無一文であると、強制執行手続を利用しても空振りに終わる可能性があります。また、強制執行手続を利用するにしても費用がかかりますので、費用倒れにならないよう債務者の資力を勘案するというのも重要なポイントになります。

そこで次回は、債務者の資力を判断するために、債務者の有する財産の調査方法について解説します。

以上

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