年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、東小薗 光輝さん(H.I.F.株式会社 代表)です。
この新型コロナウィルス感染症の影響下でたくさんの必要度が高いもの低いものが炙り出されたように感じます。かなり斜めからの意見となりますが、大学のあり方、必要度も見直されることになるように思います。研究系、専門領域は高い必要度を感じますが、ジェネラリストをたくさん輩出してきた普通の大学生には、そもそも大学にいく前に、起業してみる、他にも経験をした方が良いこともあるように思うのは私だけではなく、お若い方々に話を聞いてもそんな声が聞こえてきます。ただ入学するかしないか選択できる立場だと良いのですが、今回インタビューをさせていただいた東小薗さんは、大学に行っている場合ではないという10代を経験、そこから銀行を作りたい、片親世帯の支援を、事業を通じて行っていきたいと思ったという素晴らしい想いと高い志をもった起業家です。その東小薗さんに話を聞きました。
1 起業を目指そうと思った10代 そして準備に入った20代
1)目の前のチラシを手にして自衛隊へ
大阪府高槻市出身の東小薗さん。母子家庭出身ながらお母さんの頑張りもあり、大学進学を準備する高校3年生を迎えた時に、大学に行っている場合ではなくなってしまったそうです。それはお母さんの仕事中の交通事故。
その時に目に留まったのが、【日本を救うのは君だ】というチラシ。自衛隊の入隊勧誘チラシでした。これで生活の安定を手に入れながら3年間頑張ったそうです。
東小薗さんの社会人生活で仕事への糧となっているのが自衛隊(伊丹駐屯地)でのエピソードがあります。経営者となった今でも部下にも言っていること、それは、陸上自衛隊ならではの体力づくりの時間、かなりきつい、フラフラになるくらい、心臓が破裂するくらい走らされる、気絶するくらい、みんながもうだめです、めまいがします、助けて下さいと訴える。しかし教官からは、『1回そうなってくれ、そうなってから言ってくれ、人間は意外と強いんだよ、人間の強さと弱さをまず感じてくれ。そうなったらすぐに救護班を呼ぶから。』この経験が今のハードワーク、後々の仕事への姿勢に影響しているそうです。そんな簡単に人間は倒れない、案外人間は倒れないということ。この経験で気概が備わった。やりたいことを、やらねばならないことがあると人間は強いですね。まさに強靭な体力と精神力が備わったのだと感じました。
2)世の中を知るには金融を勉強したい
自衛隊での3年間の生活から企業人を目指すことになった東小薗さん、21歳の頃、社会を早く理解する、社会、会社の仕組みを理解するには金融業界が良いと思い、低所得層専門の消費者金融会社に入ります。当時社員500名ほどの会社で全国各地に事務所があったそうです。営業成績というものはなく貸付残と遅延率、お客さんとの対応、対面しながら審査と貸付を自分で見極めながら対応していたそうです。
この会社で、この人は、嘘をつく人か、そうでないか、キチンと返済できるかどうかを見る、判断する、その眼力を養うようになっていきました。
ちなみに審査ってどんなところを見ていたか?との問いに。この会社では紹介のみでの融資実行、リアル面談を通じてだったので、その借り入れする人の知り合い、紹介者、関係先を見たり、言動から嘘をつく・つかないを見極める。また面白いと思ったこと、返済に差が出たのは申込み書をきちんと書けるか、丁寧に書く人、ふりがなを書く・書かないでも大きな違いがあったそうです。人を見る真理と感じます。やはり丁寧が一番ですね。
この業界にいて、大きな学び、お金というツールでどれだけ将来の道が広がるかが分かった。東小薗さんが融資しなければ、子供さんの入学金が払えない、手術代が払えない。たった1万円かもしれないがそれがあったら人生も変わる。お金の価値の大切さ、金融に係る人間は全員大切にこの気持ちを持ったほうがよいと。
この会社を退職後いくつかのアルバイトを経験、その時から、自分自身で銀行を作りたい、あらゆる人々に機会提供ができる金融機関を作りたいと強く考えるようになったそうです。
その時に思いついたのが、HISへの入社。この時ハウステンボスを立て直した澤田さんがメディアを賑わせているところを見て、『この人なら自分の夢を叶えてもらえるかも、澤田さんなら銀行を作らせてくれるかも』と思ってHISへの入社を考えるようになります。
2 給与は要りませんとHISに入社 そして澤田経営道場2期生へ
1)銀行を作るためにHISへ
28歳でHISへ。面接時に『給与0円でいいです、僕の活躍を見て給与を決めて下さい』
旅行も経験したことがほとんどない。採用側のリスクを取らないということを提案した。大阪で契約社員として入社、法人営業部門に配属され、海外出張、ビザ手配等々を業務にしていました。成績優秀で1年で社員へ、その後2年で管理職へ。あまりに頑張るので、周囲の社員からあまり頑張らないで、と言われるほど。当の東小薗さんは控えめで自分の成績のことはあまり自慢することもなく、ただただ自分のよう広がるかがわかったに契約社員でもここまでできる、後進の自分と同じ立場の人にも『やればできる』ということを見せたかったと語ります。ちなみにこのスピード出世は後にも先にも東小薗さんだけだそうです。
正社員登用の面接時のエピソードで、面接官から、HISへの将来の自身の貢献について尋ねられた際に、銀行を作るためにHISに入ったこと、銀行をHISに作ることで大きな収益をもたらしたいと伝えたら昇格NGとなったそうです。旅行とは無縁という理由で。しかし当時の上司が掛け合って無事に正社員へ。それだけ期待されての登用だったと感じます。
2)澤田経営道場で学んだのは無力感
この道場のサイトに掲載されていた東小薗さんの卒業生コメントを以下に。
→金融でお金で困る人がない世界を
私は母子家庭の出で、金銭的理由で大学進学を諦めた過去があります。ただ、大人になってから色々と調べると、諦めなくても良い方法がありました。金融とは言葉の通り「お金を融通する」ことです。しかし日本は世界でも有数の豊かな国であるにも関わらず、法人も個人も「本来、融通されるべき人」にお金が十分に行き渡っているとは言えないと思っています。この課題を解決するために必要な仕組みを備えた金融事業を立ち上げようと思います。
また、事業の中で支援できない方も出てくると思いますので事業収益で片親世帯など「本来、融通されるべき人」にできる限りの支援をしたいと思います。
【座右の銘】
不屈
【趣味】
猫と遊ぶ NINJA250 群れずに、極端を貫く事。
こちらのコメント素敵ですね。この想いを不屈と貫くことでカタチに。
HISで管理職として頑張っていた時に、人事部付きで部署異動として澤田経営道場に入ることになったそうです。7名が選抜され、道場生としての2年を過ごします(2期生まではHIS社員で構成されていたそうです)。
HISで、経営道場で学んだこと、たくさんの多様な講師からたくさんの知識を得ることができたこと。さらにその上で、自分一人が頑張ったり、自分一人が優秀だったりしても所詮たった一人では大した力は発揮できない、無力さを感じた。自分一人分の営業力が優秀でも大したことはない。誰でも代わりはいる、これってすごい小さなお話し。大きいことを成し遂げるには、多種多様な人たちに会って、周囲の人を巻き込みながらその人々の力を借りてチームで、会社で事業をやっていくことが大切、これが一番大きな成果、このことを学べたことと話します。
3)道場から起業へ
澤田経営道場に通いながら、卒業約4カ月前にH.I.S Impact Finance株式会社(現H.I.F.株式会社)を設立、自身100%出資にて、その4カ月後(2018年3月)にエイチ・アイ・エス、ハウステンボスから出資を受け事業がスタートした東小薗さん、会社ビジョンを以下のように設定します。
BaaS(Banking as a Service)プラットフォームの提供により世界の人々、企業の将来的発展をサポートし、世界平和に貢献していきます。また、母子・父子家庭世帯の子供の為に最大限支援致します。
まさに思い描いたことを実行する力、素晴らしいと思います。このビジョンに賛同、共感して、HIS時代の後輩が社員第一号に。素晴らしい仲間づくり、理想的な参画だと思います。
3 HIFの事業について
1)起業後、4カ月ですぐに黒字化、営業開始半年で累損解消、安定的な事業成長へ
澤田経営道場を3月に卒業した後、4月から起業家としての第一歩を踏み出します。手堅いのは、まずはHIS社の困りごとを事業化してスタートしたこと。赤字を掘り続けるスタートアップを目指すのではなく、まずは自分の食い扶持は自分でとの考え方。HIS時代、自分が困っていたクライアント先への請求業務そこに付随する売掛金の回収業務。それを丸っとアウトソーシング(代行業務として)で引き受けることを始めます。最初のクライアントはHIS社、これで困りごとを解決しながら、ノウハウを溜めてグループ企業へそこからグループ外へ展開していきます。売上も初月から計上し、4カ月後の8月には黒字化、9月には累損を解消するまでに成長します。
黒字化の後に、予てからの【銀行業務】を目指す第一歩、【銀行代理業】をスタートするべく、9月からいろんな銀行に相談、通い出し、10行ほどを訪ねてGMOあおぞらネット銀行から【やりましょう】と合意、財務局に申請を出して2019年3月に認可が下りました。素晴らしいスタートですね。
いきなり銀行を創ろうとしても、最初に200億円以上が必要、システム構築に30億円、毎年のシステムメンテナンスに40億円が必要と並大抵のレベルで銀行をスタートすることは困難。銀行と組んで銀行代理業の道を選択しながら事業を拡大する、それも大切な戦略と思います。
2)HIF社の事業について
前述の通り、HIS社で自身も困っていた、請求業務のアウトソーシングサービスの提供からいまではバリエーションが広がっています。そこを説明したいと思います。
- Fimpleサービス 売掛金を守り本業に集中できる環境を
- Fimpleクレジットサービス 企業調査を安価に実現
- 決済代行・間接コスト削減コンサルセットサービス 無料でコスト削減額シミュレーション
この3つについて。
1.Fimpleサービス 売掛金を守り本業に集中できる環境を
当初の事業である請求業務のアウトソースそこに少しずつサービスレベルを上げながら付加し、合計4つのサービス段階となっています。
請求業務アウトソース→売掛債権の保証→左記2つを合体した売掛金未回収リスクがゼロになるサービス→売掛金サイトが短縮されるサービス(1〜7営業日で現金化)、それぞれが企業ニーズにマッチして事業を伸ばしています。
2.Fimpleクレジットサービス 企業調査を安価に実現
HIF社独自の調査項目や反社チェック、債権譲渡登記確認、過去入金遅延確認なども含む与信審査サービス。1社〜のスポットで利用可能な利便性(ライトプラン/1社で1,780円〜)。
3.決済代行・間接コスト削減コンサルセットサービス 無料でコスト削減額シミュレーション
請求代行で培った、請求データベースの構築で見えてきたのは、意外に請求額のバラツキから無駄なコスト、特に間接材のコストに【埋蔵金】が眠っていること。規模が拡大すれば見過ごされがちなコスト意識を一元化集約することで間接材のコストを低減しつつ請求代行のコスト(費用だけでなく労力も)も削減する提案をここ最近強化しています。これによりクライアント企業がさらに元気になる。体力が向上することで本業にコストも投下しやすくなると喜ばれているそうです。
3)一人親家庭へのベーシックインカムが事業の目的
経済的な支援が必要な一人親家庭、お子様が小学校から高校生の間、月額1万円年額12万円を給付する制度。日本国籍を保有し日本に在住している人に支給していく。自社事業とは紐付かないものの、この制度立ち上げるために起業した経緯もあり、本格的事業スタートから3年弱ですでに10世帯19人の家庭に給付をしているそうです。
ご本人からは、お金の大切さを自身の体験からも十分理解し、1万円で塾に行けなかったことも。1万円で苦労したことがない人には分からない、しかしこの1万円で機会を得られることもある。その支援を続けたいそうです。
お金に対しては、元々はこれほど崇高な思いや考えを持っていたわけではなく、お金持ちになりたい、お金軸で生活をしていきたいと思っていた。それもお金で困った子供時代、人生を憎んでいたから。ですが、消費者金融での仕事や澤田経営道場での経験からお金はツールとして大切にはするがお金軸で生きていくものではない、もっと大切なことに気づいた、そのために金融のあり方を節度をもって対応していく、お金軸はダサいと気付かされ、思い知らされたそうです。お金軸、金持ちに、金に困らない人生を目指すことはいつしか止めたし、ダサいと思えるようになりましたと話してくれました。
4)大きな事件に巻き込まれたが、さらに強固な組織へ
昨年末(2020年末)このインタビューをさせていただいた翌日にビックリするニュースが飛び込んできました。ニュース(金融のプロもだまされた、「スゴ腕詐欺師」の正体)はこちらです。
私なりにも過去の経験や、周囲の金融出身の方々にも聞きましたが、金融事件を詐欺で刑事にすることはなかなか困難なこと。
それを記事の通り立件されているところからも東小薗さんやその周囲の方々の姿勢を感じます。
また、2021年2月26日に15.9億円という大規模な資本増強に成功されたとのこと(リリースはこちらです)。
リスクを回避して、一気に成長に向けて舵を切れるビジネスモデルを構築されたとのことですから、大きな事件を克服して成長の糧にすることができたということではないでしょうか。
このインタビューを通じて、最後に東小薗さんからもコメントを寄せていただきました。
→金銭的理由で未来を諦める人がいない社会を作るための手段として、私たちは事業拡大していかないといけない。そして世の中の企業や人にとってほんの少しでも役にたてるビジョナリーカンパニーを作る事が自分の使命です。
インタビューの最後に私からお母さんに一言とお伝えすると、
お母さんとは仲が悪かった、ほとんど会話も学生時代~社会人まで会話がなかったそうです。一人で働いて、一人で子育て、子供側からだと勝手に離婚して、なんでも勝手にと感じていました。でも最近会話ができるようになってきた。今は素直に有難うと伝えたい。
東小薗さんの事業への姿勢に共感し、応援していきたいと思いました。
以上
※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年3月15日時点のものであり、将来変更される可能性があります。
※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。
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