超売り手市場から一転し買い手市場となったウィズコロナの今、採用のポイントは「量」ではなく「質」にシフトしています。不況期に採用投資が有効なのは、自社の未来を担っていく「優秀なコア人材」を獲得しやすいからに他なりません。この好機を逃さないために重要となる取り組みが“採用のオンライン化”です。中でもWeb面接のスキルを磨くことは不可欠です。
前回は、モニター越しの会話に発生しがちなコミュニケーション特性を紐解き、その特性にあった面接手法について述べました。それが「構造化面接」です。連載4回目の本稿ではWeb面接のカギを握る構造化面接について、その進め方や重要なポイントを具体的に解説させていただきます。
1 あのGoogleも構造化
構造化面接とは、面接のやり方や質問内容、評価の基準などをあらかじめ設定するという“採用面接のマニュアル化”を指します。そもそも対面面接かWeb面接かにかかわらず、面接を構造化することは、見極めの精度を高めるといわれていました。優秀な人材を獲得することにものすごく貪欲なあのGoogleも採用している面接手法であるといえば、その説得力も増すはずです。
しかし、構造化面接がいまひとつ普及していないのには理由があります。面接自体が盛り上がりにくいといった側面があり、面接官にとっても候補者の学生にとっても、あまりウエルカムな面接手法ではなかったのです。
ところがWeb面接では、会話のキャッチボールがしづらく、そもそも対面面接ほどの盛り上がりは期待できません。その場のノリがイマイチなぶん、きちんと決まった質問を投げかけやすくなる。面接官にとっては見極めやすくなるし、候補者は自分の資質を伝えやすくなる。そういった意味でもWeb面接と構造化面接は極めて相性が良いといえます。
今、構造化のノウハウを学ぶことで、「Web面接は対面面接に比べ選考しにくい」と感じている他企業に大きく差をつけることができます。
2 質問項目を構造化
前回もお伝えしましたが、おさらいの意味も込め「構造化面接の全体像」を紹介しておきます。構造化のポイントは以下の4つです。
- 求める人物像の特定
- 質問の固定化
- 詳細な質問内容の特定
- 評価基準の特定
どのポイントも重要ですが、オンラインコミュニケーションと関連するのは、2と3の質問項目の構造化になります。「質問の固定化」において、主となるのが「過去の行動に対する質問」と「仮説に対する質問」の2種類です。ちなみに、前述のGoogleもこの2つを組み合わせているとのこと。
その上で「詳細な質問内容を特定」に進んでいきます。たとえば、「大学生活でもっとも苦労した経験を教えてください」といった質問を皮切りに、順に掘り下げて聞いていきます。当時の状況(Situation)、そのとき抱えていた課題(Task)、どのような行動(Action)をとったか、どのような成果(Result)が出たのか、について聞くことが有効とされ、これらのアルファベットの頭文字を取って「STAR面接」とも呼ばれます。
STAR面接の例
Situation(状況):
「どのようなチーム体制でしたか」
「そのなかであなたはどんな役割でしたか」
「どのような責任と権限を持っていましたか」
Task(課題):
「どのようなトラブルだったのですか」
「問題発生のきっかけは何でしたか」
「いつまでに解決しなくてはいけなかったのですか」
Action(行動):
「その課題をどうやって解決しようとしたのですか」
「とった行動を順に聞かせてください」
「チーム内外とどのように関わりましたか」
Result(成果):
「課題はどれだけ解決できましたか」
「成果に対する周囲の反応はいかがでしたか」
「取り組みの後、どのような変化がありましたか」
過去の行動は候補者の資質や性格から生まれてきた事実です。行動を分析できれば、その背後に隠れている真の能力や志向性、誠実さなどを測りやすくなります。分析の確度を上げるためにも、このSTAR面接というフレームを活用するのは効果的です。
ただしS・T・A・Rに沿って順に掘り下げると、どうしても面接が淡々と進みがちです。この質問の仕方が“構造化面接が盛り上がらない”という理由の正体です。しかし ここまでも再三お伝えしてきたように、そもそも“Web面接自体盛り上がらない”わけです。“面接にノリを求めるのは諦めよう”と開き直ってしまえば、STAR面接の手法は、Web面接の大きな味方になってくれます。
3 想定質問と誘導質問の罠
一方で、聞きたいことは聞けたはずなのに、終わった後に振り返ってみると、聞いた内容が浅くて候補者の見極めに迷ってしまう。面接でこうした経験をしたことがある方も少なくないのではないでしょうか。これは「想定質問」や「誘導質問」が多くなっていた可能性があります。
想定質問とは、候補者が事前に準備できる質問のことです。たとえば、「自社の志望理由を聞かせてください」「入社したらどんなことをしたいですか」といった質問は、候補者が「きっと聞かれるだろう」と想定し、適切な答えを用意して面接に臨んでいるケースが大半です。自分を少しでもよく見せようと入念に準備をしてくる候補者がほとんどなわけですから、面接で見せる姿や言動は取り繕ったものになりがちで、こうした想定質問だと候補者の真の能力は見えづらくなります。
誘導質問は、企業側が期待している答えが相手に伝わってしまう質問のことです。たとえば「地方への転勤は可能ですか」といった質問は、「転勤してほしい」という企業の希望が暗に伝わってしまうため、とにかく入社したいと考えている候補者は、本心では転勤したくなくても「はい、可能です」と答えてしまうでしょう。その結果、内定を出した後に「やはり転勤できない」と内定を辞退されることもあります。
細かなルールを設けず、面接官がノリ重視で自由に面接を行うと、なんとなく出てきがちなのが、これらの想定質問や誘導質問だったりします。候補者の本質を見極めるにあたっては、やはり構造化面接を取り入れるべきです。
4 求める人物像との紐づけ
STAR面接は応募者の内面を掘り下げるのに有用ですが、質問の意図が明確でなければ、自社の採用要件に合う人物かどうかを見極めることはできません。質問項目を具体的に考える前に、応募者のどんな価値観を見極めたいのかを明確にしておく必要があります。
構造化面接の全体像にも記しましたが、質問項目の構造化だけでなく「求める人物像を明確に描き」「採用において重視する評価基準を設定する」こともあわせて設計をすることで、はじめて構造化といえます。この2点から“逆算”してどのような質問を用意しておくべきか。重要なのは、求める人物像や評価基準と紐づけた質問項目の構造化なのです。
見極めたいポイントを明確にした上で、STAR面接に則って質問を掘り下げていく。ここからはそういう面接シーンの実践例をいくつか紹介しましょう。
「バイト先のシフトトラブルを乗り越えて成果を出せた過去の経験」について、見極めたいポイントに沿った掘り下げ方の例
Actionについての質問で、関係の構築力について見極めようとする掘り下げ方
面:「シフトのトラブルを解決するために、まず何をしましたか?」
応:「緊急に対応するためスタッフの増援に奔走しました」
面:「誰かに助けを求めましたか?」
応:「同じ管轄エリアの他店のチームリーダーに応援してもらえるよう頼みました」
面:「今まであまり業務で関わったことがない人もいましたか?」
応:「はい。火急の事態であることを伝えて、また店長からも事情を話してもらい、とにかく必要人員を早急に手配しました。今まで関わったことがないメンバーには、まず自分から個別に背景を説明してスタッフを貸し出す納得感に配慮しました」
Resultについての質問で、トラブルを成長の糧にできそうか見極めようとする掘り下げ方
面:「あなたが実行した今回のシフトトラブル対応は、上手くいきましたか?」
応:「はい、お客様からクレームがくることもなく、お店を回すことができました」
面:「いま振り返ってみて、別のもっと良い方法はありますか?」
応:「お客さんからのクレームはなかったのですが、当然、他のお店には迷惑をかけてしまいました。こうした事態に備えるためには、自分の店舗で緊急対応できるスタッフを確保しておけばよかったと反省しています」
面:「このトラブルから学んだことはありますか?」
応:「こういうトラブル時は、どうしても店長に頼りきりになってしまいます。自分だけでなく他のバイトリーダーであってもスムーズに対応できるよう、対応マニュアルを整備しておく必要があると感じました」
構造化面接法で行う質問自体は目新しいものではないので、「日頃からやっている」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それは個人の話であって、誰が面接官を務めても同じように実行できるよう標準化している企業は多くないと思われます。面接官によって評価基準がバラつくことに悩まされている企業にとっては、面接クオリティの均質化という意味でも、構造化面接は大きなメリットがあります。
5 そして動機形成へ
ここまでは、候補者が自社に合う人物かどうかを見極める「選考」についてお伝えしてきました。Web面接の選考では、アイコンタクト、服装、表情などの非言語的手がかりが減少するこことで、会話の中身に集中できることがわかりました。さらに面接の進め方や質問内容、評価の基準等をあらかじめ体系化する面接の構造化を行うと、Web面接は精度の高い見極めができるということも紹介しました。
しかし採用面接にはもうひとつ、「動機形成」という目的があります。候補者が企業に求めるものを把握し、それに合わせて自社の魅力をアピールしたり、候補者の不安要素を取り除いたりして、候補者が「入社したい」「この会社ならば、活躍できそうだ」と感じられるよう働きかける。要は口説きです。
優秀な人材を採用する最終関門にあたる「動機形成」をオンライン上でどうやって行えばよいのか。いよいよ最終回となる次回、そのノウハウを解説させていただきます。
以上
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