アメリカのある研究機関の調査によると、起業家が後悔したことの第一位は、「もっと会計・財務のことを勉強しておけばよかった」というものだそうです。

前編の「財務3表について」に続き、今回の後編では「会計を活用したビジネスプランの立て方」をKPMGの倉田剛氏に解説していただきます。

1 事業計画(ビジネスプラン)は、ビジネスの航海図(Navigation Map)

先に、起業家が後悔したことの第一位は「もっと財務管理(Financial Management)を勉強すべきだった」という話をしました。これに続いてほぼ同数の回答だったのが「もっと良いビジネスプランを作るのに時間をかけるべきだった」です。

事業計画とは「事業の達成目標、それを達成するための具体的な計画・過程を示した公式の文書」のことで、起業して資金調達をしたり、仲間を集めたりするには事業計画を作成する必要があります。そこで、起業家は自分の事業に対する思い、どういう事業をやって世の中にどういう価値を提供するのか(事業理念)、どこで、誰に対して何をどうやって提供し(マーケティング戦略)、どうやって、どれくらい儲けるのか(財務戦略)を語るのです。理念や戦略の無い事業に資金提供してくれる銀行や投資家はいませんし、一緒に働く仲間も集まらないでしょう。事業計画書には、事業全体をコンパクトまとめたエグゼクティブサマリーのほか、事業の概要、製品/サービスの説明、マーケット分析、マーケティングプラン、事業展開計画、財務計画などからなり、最後にマネジメントチームの紹介をするのがオーソドックスなスタイルです(図1参照)。

図1の画像です

このうち、前回説明した財務3表と密接に関係するのが、財務計画です。図2(下記)は今後6年間の財務計画の例です。上にある「中期事業計画」のうち、売上高は市場全体の伸びやマーケットシェアなどを加味して作成します。コストは、ビジネスの実施に当たって必要なものを見積もって入れます。ここで、いい加減な見積もりをしているとビジネスが立ち行かなくなりますし、銀行や投資家から見て「この経営者は大丈夫かな?」と思われてしまいます。例えば、人員の増加にともなって増えるはずの人件費や家賃が増えていない、ビジネスの核がアプリケーションなのに、その開発費用が入っていないような事業計画に、いったい誰がお金を出してくれるでしょうか?

最近では、きちんとした事業計画がなくても、面白いアイディアや経営者のキャラクターだけで資金調達ができてしまうこともあるようです。確かに、変化の激しい現在のビジネス環境においては、3年先や5年先を見越した事業計画を作成することは難しいです。しかしながら、基本は分かった上であえて省略するのと、そもそも作ろうともしないのでは全く意味合いが異なります。ビジネスはある意味PDCA(Plan-Do-Check-Action)が大事ですから、計画を作った上で、環境の変化に応じて臨機応変に財務計画も変えていくべきでしょう。

図2の画像です

2 リーン・スタートアップ・キャンバス:儲かるビジネスをデザインするフレームワーク

では、中期事業計画のもとになる売上やコストはどのように考えればいいのでしょうか。この儲けるための仕組みが「ビジネスモデル」です。最近の起業家の多くが、社会問題の解決を動機にビジネスを立ち上げている、という話を前回しました。しかしながら、「儲かる」ビジネスを構築出来ずに、事業を継続できなくなる人が多いのも事実です。日本の教育では、お金儲けをすること自体をタブー視するような傾向もありますが、これは誤りです。儲けの出ないビジネスは継続できません。結果として、そのようなビジネスでは社会問題を解決することはできないのです。「儲かる」ビジネスの仕組みのことを、「ビジネスモデル」と言い、スタートアップが事業計画(ビジネスプラン)のためのビジネスモデルを検討・作成するツールとして、リーン・スタートアップ・キャンバスと呼ばれるフレームワークがあります(図3参照)。

図3の画像です

勘違いしてほしくないのは、リーン・スタートアップ・キャンバスは単なるツールであり、これを使ったからと言ってすべてのスタートアップが「儲かる」ビジネスモデルを作れるわけではありません。ただし、ツールを使うことによりあるべき思考プロセスに沿って進めることができるので、ある程度は失敗する可能性を減らすことができる、といえるでしょう。このキャンバスの使い方については、すでに多くの書籍が出版されていますので、細かい説明は割愛します。注目していただきたいのは、この表の下の段にあるのが「コスト構造」と「収益の流れ」です。

レクチャーを受ける森若氏の画像です

3 損益分岐点を見極める

最低でも、「収入」が「費用」を上回っていないと、ビジネスを継続することはできません。しかしながらスタートアップは、立ち上げ当初は売上が立たずに費用が先行するので、赤字が続くことが多くなります。やがて顧客の増加=収入の増加とともにある点を境に利益が出るようになります。この「ある点」のことを簡単に説明するために知っておかなければならないのがBreak Even Point(損益分岐点)という考え方です。シリコンバレーの起業家は、投資家向けのピッチの時に、いつbreak evenするかを語る方が多いです。それだけ、投資家もいつExitして、リターンが見込めるかを知るのと同じくらい、break evenする時がいつなのかおおよその目安をつけるのが重要だということでしょう。

損益分岐点売上は、固定費を貢献利益で割ることで計算できます。貢献利益とは、商品を一個売ることによって得られる利益のことで、売上高から、材料費などの変動費を差し引いたものです。固定費の大きなビジネスはより多くの収入がないと利益は出ませんし、固定費の小さなビジネスは比較的少ない収入でも採算がとれることになります。先の貸借対照表で説明した「持ち物」を思い浮かべていただけると分かりやすいと思います。ビジネスを始めるには、一定の投資が必要になります。鉄道や発電のようなインフラ産業は巨大な「持ち物」が必要ですし、インターネットビジネスなどは比較的小さな「持ち物」でビジネスができるでしょう。大きな「持ち物」を手に入れるためには多額の資金調達が必要になりますし、より多くの売り上げがないと固定費を回収できません。

図4の画像です

4 財務3表と事業計画、ビジネスモデルの関係

「持ち物」と「資金調達」の関係、貸借対照表の説明にあたる部分が、図2でいうところの「資金計画」の部分です。スタートアップは、立ち上げ当初は赤字が続くことが多いですから、営業活動のキャッシュ・フローはマイナスになり、このマイナス部分を自己資本や銀行からの調達で穴埋めし、営業活動でのキャッシュ・フローがプラスになってきたら、その分を新たなビジネスの投資に回したり、借金の返済に使ったりするのです。この赤字から黒字化のタイミング、必要な資金の調達のタイミングを見誤ると、ビジネスは立ち行かなくなってしまうのです。

5 最後に

どんな組織を経営する上でも、会計は必要です。どのように数ヶ月後、3年後、6年後、10年後に会社を成長させて行くかを考える上で、数字に落とし込んで計画し、戦略を練り、実行して成果を出すことはとても大切なことだと思います。前後編で学んだことが、読者の皆様が会社を経営される際に、お役に立てば嬉しいです。

倉田さん、会社を経営する上で、重要な会計について教えて頂き、愛りがとうございました。

以上

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