iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は、老後資産を作るための手段として普及しています。また、従業員の福利厚生として認識している経営者が多いと思いますが、経営者自身も加入することができます。老後に向けた準備は経営者にも必要ですが、この話題になると税制との関係が気になるところです。このあたりも含めて、経営者にとってのiDeCoの魅力をご紹介します。

1 経営者もiDeCoに加入できます

iDeCoに加入できるのは、原則、日本国内に居住している20歳以上の国民年金の被保険者です。この条件に該当すれば、経営者や個人事業主もiDeCoに加入できます。ただし、その人の立場や働き方によって年齢や掛金の上限額などの条件が異なるので、確認していきましょう。

1)経営者(役員)

法人格を有した会社の経営者は、国民年金と厚生年金に加入しています。立場は国民年金の第2号被保険者となるため、iDeCoに加入できます。厚生年金に加入していれば、20歳未満でもiDeCoに加入できます。掛金上限は、企業年金制度の有無によって月額1万2000円~2万3000円(年額14万4000円~27万6000円)と異なります。これは、従業員も同様です。

なお、現在は60歳を超えると掛金拠出はできませんが(2021年6月時点)、2022年5月からは国民年金の第2号被保険者であれば65歳未満まで加入者として拠出が可能となります。60歳以降も引き続き、会社で働く場合です。ただし公的年金を繰上げ受給された方は、加入することができません。

2)個人事業主

フリーランスとして個人事業を営む自営業者は、国民年金に加入しています。立場は国民年金の第1号被保険者となるため、こちらもiDeCoに加入できます。掛金上限は第2号・第3号被保険者よりも高く、月額6万8000円(年額81万6000円)まで掛けられます。

なお、2022年5月からは、国民年金任意加入者であれば65歳未満まで加入可能となります。国民年金任意加入者とは、国民年金の受給資格を満たしていないなどの理由で、任意に国民年金に加入している人です。ただし公的年金を繰上げ受給された方は、加入することができません。

iDeCo加入に際しての年齢制限などの画像です

ここで、表中にある企業型DCやDBについて説明しておきます。

DCとは、確定拠出年金(DC:Defined Contribution Plan)のことで、企業型DCは企業型確定拠出年金です。iDeCoは個人型確定拠出年金の通称で、個人型DCとも呼ばれます。企業型DCは企業が、iDeCoは加入者自身が掛金を拠出します。いずれも運用は加入者自身が行い、運用結果によって将来受け取る年金額が変わります。
DBとは、確定給付企業年金(DB:Defined Benefit Plan)のことです。確定給付企業年金は、会社が拠出から給付までの責任を負い、あらかじめ決まっている給付額を準備する制度です。

さて、経営者のiDeCoの掛金上限は企業型DCやDBなど企業年金への加入有無によって異なります。例えば、企業型DCに加入している場合の掛金上限は月額2万円(年額24万円)で、企業型DCのない会社よりも低くなります。「企業型DCによって企業年金制度が整備されているので、低くても大丈夫ですよね」ということです。

なお、現在は企業型DCへのマッチング拠出(意味後述)を実施している会社の場合、iDeCoへの加入はできませんが(2021年6月時点)、2022年10月からはマッチング拠出とiDeCo加入のどちらかを、自分で選択することができるようになります。マッチング拠出とは、会社が拠出する掛金に加えて加入者が自ら掛金を拠出するものですが、掛金上限が増えるわけではありません。

同様に、DBに加入している場合の掛金上限は、月額1万2000円(年額14万4000円)と低くなります。

2 経営者にとってどれが有利? iDeCo以外の選択肢との比較

ここまで見てきたように経営者もiDeCoに加入できるわけですが、その他の選択肢と比べると、どの方法が経営者にとって有利なのでしょうか。
ここでは、iDeCo、小規模企業共済、個人年金保険、つみたてNISA、預貯金(参考)の特徴をまとめます。

iDeCoとその他の選択肢の特徴を示した画像です

小規模企業共済とは、常時使用する従業員数が5人以下または20人以下などの要件を満たした小規模企業の経営者、個人事業主などのための、積み立てによる退職金制度です。月7万円を上限に、掛金全額をiDeCoと同じ「小規模企業共済等掛金控除」にて所得控除できます。
満期はなく、法人の解散や退職、廃業時に受け取ることができます。また、受給額は減りますが任意解約も可能です。低金利の貸付制度も利用できるので、老後資金を備えつつ、緊急時の資金繰りとしても頼れる仕組みです。

個人年金保険とは、一定の年齢まで保険料を払い、60歳や65歳などになったら一定期間の年金を受け取る保険です。何歳まで保険料を払い、何歳から何歳まで受け取るかは商品によって異なります。
また、掛金の運用成績によって年金額が変わる変額個人年金保険もあります。保険料は「生命保険料控除」として所得控除できますが、契約する年金保険の種類によって、「一般生命保険料控除」「個人年金保険料控除」のどちらかの対象となります。

つみたてNISAとは、年間40万円までの元本を、20年間非課税(最大800万円)で運用できる制度です。

3 iDeCoとは。加入するメリット・デメリット

前述した通り、iDeCoの他にも選択肢がありますが、税制メリットが大きいのはiDeCoですので、詳しく解説していきます。

iDeCoとは、個人型確定拠出年金の通称であり、自分で作る年金制度のことです。
加入者は毎月一定の金額を積み立て、定期預金・投資信託といった金融商品から、自分で運用商品を選び、運用し、60歳以降に年金または一時金で受け取る制度です。
受け取り始める年齢は、60歳から70歳までの間で自由に選べます(2022年4月からは上限が75歳までに延長される予定です)。なお、加入期間が10年未満の場合は、受け取り開始の年齢が段階的に引き上げられます。

iDeCoの仕組みを示したイメージ画像です

1)iDeCoのメリット

1.掛金が全額所得控除となる

掛金の全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象となり、その年の所得税および翌年の住民税を減らせます。例えば、毎月の掛金が2万3000円、所得税(20%)、住民税(10%)とすると、年間8万2800円、30年間では248万4000円もの税金を軽減できます。
所得税の税率は、所得が高くなるほど上がるため、高所得の経営者や会社役員は特に、活用しない手はないと言えるでしょう。

2.運用益は非課税で再投資ができる

通常金融商品を運用すると、運用益には20.315%の税金がかかりますが、iDeCoなら非課税で再投資されるため、複利効果も大きくなります。

※特別法人税(積立金に対して課税される税。税率は法人住民税と合わせて年1.173%)は現在課税停止されています。

3.60歳まで引き出せず強制的に資産形成できる

預貯金で積み立てすると、当初使う予定ではなかったタイミングで引き出して使ってしまうという方は少なくありません。しかしiDeCoは、60歳までお金を引き出すことが原則できないため、強制的に老後の資産を作ることができます。

4.受取時に税制優遇がある

受取時は、一時金で受け取りの際は退職所得控除の対象、年金で受け取れば、公的年金等の控除の対象になります。ただし、控除額を超える金額の受け取りには税金がかかります。

2)iDeCoのデメリット

1.管理手数料が毎月かかる

iDeCoは銀行や証券会社、信託銀行、国民年金基金連合会など複数の機関によって制度運営されており、それぞれへの管理手数料が毎月かかります。
iDeCo口座を開く金融機関によって、月171円~月600円以上と金額は大きく異なります。できるだけ管理手数料が低い金融機関を選択するのがポイントです。

2.商品によっては運用リスクがある

iDeCoで運用する商品には、定期預金など元本保証型以外に、投資信託など運用リスクがあるものもあり、1つだけ選んでも良いですし、複数選び、商品ごとに割合を決めることも可能です。
投資信託による運用の場合、市場の状況によっては、想定通りに資産形成ができないこともあります。

4 経営者はiDeCo+も利用できます

iDeCo+(イデコプラス)とは、2018年5月に始まった制度です。
iDeCo+の正式名称は「中小事業主掛金納付制度」で、中小事業主がiDeCoに加入する従業員などに対して掛金を上乗せして拠出できる制度ですが、掛金上限が増えるわけではありません。

2020年10月からiDeCo+導入の従業員数要件が100人以下から300人以下に拡充されたこともあり、実施する事業主数が増えています。福利厚生の充実につながるのはもちろん、経営者の資産形成を会社の経費で進めることもできます。
iDeCo+を利用できる企業の要件は、次の2つです。

  • 従業員数(第1号厚生年金被保険者)が300人以下であること
  • 企業年金制度(企業型確定拠出年金や確定給付企業年金、厚生年金基金)を実施していないこと

iiDeCo+の仕組みを示した画像です

1)iDeCo+のメリット

<事業主側のメリット>

  • 上乗せする掛金を全額損金算入できる
  • 簡易な手続きと低コストで退職金制度を作れる
  • 企業型確定拠出年金と同様、運用成果の責任を負うことはない
  • 福利厚生を拡充できて、人材確保・定着率アップにつながる
  • 職種や勤続期間などによって加入者を定められるため柔軟性が高い

<従業員側のメリット(経営者や会社役員を含む)>

  • 可処分所得を減らさずに退職金を増やせる
  • 給与天引きで掛金を拠出できる上、手続きを事業主に行ってもらえる

2)iDeCo+のデメリット

<事業主側のデメリット>

  • 制度導入時に、「労働組合もしくは労働者の過半数を代表する者の同意」の取り付け、就業規則の変更が必要
  • 制度実施後に発生する加入者の増減の届出、事業主払込(給与天引き)により加入者掛金を納付するための事務体制の整備が必要

<従業員側のデメリット(経営者や会社役員を含む)>

  • iDeCoに加入している人のみ掛金の上乗せ拠出を受けられるため、加入していない場合は加入する必要がある(加入は任意)
  • すでに加入している人も、導入に伴い変更手続きが必要となる(後述)
  • iDeCoの口座管理手数料は、iDeCo+に制度が変わったとしても、引き続き加入者自身が負担する

5 特にiDeCo+がおすすめの人

経営者がiDeCoに加入し、さらにiDeCo+も利用する場合について考えてみましょう。掛金のうち、自身が月額1000円拠出したとして、月額最大2万2000円まで会社の経費扱いで拠出を受けられます。

自身の所得や会社の財政の状況を考慮して、所得税を減らしたい場合は自身の掛金割合を多めに、会社の経費を増やしたい場合は事業主拠出分の掛金割合を多めにするなどの調整も可能です。
また、役員報酬を、会社が拠出する掛金の金額分、減らすことも一案でしょう。その結果、社会保険料の負担が下がる可能性もあります。

起業して間もない一人社長にもiDeCo+はおすすめと言えるでしょう。役員報酬を低めに設定していて、その中から上限額いっぱいiDeCoの掛金を出すのがつらい場合など、会社の経費扱いで上限まで上乗せしてもらえます。
また、今後従業員を雇いたいと考えている場合も、福利厚生制度としてアピールできるため、導入が簡単な1人のうちに制度を整えておくと良いでしょう。

6 iDeCoおよびiDeCo+に加入するための流れ

1)iDeCo加入手続きの流れ

  • 加入する金融機関に申込
  • 申込書類を準備の上郵送(金融機関によってはネット申込も可)。申込書、本人確認書類の他、自社の「事業主証明書」が必要
  • 口座開設後、掛金の配分指定や商品選定を行う(金融機関によっては申込時に行うところもある)
  • 掛金の引き落とし開始

2)iDeCo+導入の流れ

1.制度導入の検討

従業員数や企業年金制度の有無など、事業主の要件を満たしているかをチェックします。

2.労使協議

従業員の過半数を代表する者、または労働組合と導入について、「誰に拠出するか」「いくら拠出するか」「いつから始めるか」などを話し合います。

3.労使合意・拠出対象者の同意

労使合意に必要な書類を作成します。

4.書類の作成・届出

制度スタート時から事業主掛金の拠出対象とするためには、対象となる従業員にiDeCoの手続きをさせる必要があります。iDeCoに未加入の経営者や従業員は、早急に加入手続きをしなければいけません。もしiDeCoに加入していても、掛金の払込方法を「個人払込」にしている場合は、「事業主払込」に変更する手続きが必要です。また、同時に加入者掛金額を変更する場合は、「加入者掛金額変更届」を併せて運営管理機関に提出します。

5.制度スタート

天引きした従業員の掛金と企業が上乗せする掛金を併せて拠出を開始します。

iDeCo+について詳しくはこちら

「漫画でわかる iDeCo+導入の流れ」についてはこちら

iDeCo+ハンドブック無料ダウンロードフォームのページです

以上

(監修 株式会社ライフヴェーラ 監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年7月19日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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