かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。
第26回に登場していただきましたのは、経済産業省(以下「経産省」)にて大企業発のイノベーション政策、宇宙基本法や産業競争力強化法の策定、AI・IoT推進政策などを担当し、在サンフランシスコ総領事館在任中にシリコンバレーD-Labプロジェクト立上げをご経験、現在はVISITS Technologies株式会社・エグゼクティブディレクターとして活躍されている井上友貴氏です。(以下インタビューでは「井上」)
行政からスタートアップへ、異例のキャリアを持つ井上氏が語る「イノベーションの哲学」とは?
1 「『このままでは日本の大企業でイノベーションは生まれないだろう』という感触があり、政策的にももっとできることがあるのではないかと考えていました。」(井上)
John
今日は貴重な対談の機会をいただき、井上さん、愛りがとうございます!(愛+ありがとう)お話できることが楽しみでした。
まずは自己紹介から、お願いできますか。
井上
Johnさんお久しぶりですね、ありがとうございます。
私は、2000年に大学院を卒業し、経産省へ入省しました。
2018年まで在籍していたのですが、その間に、ハーバード大学へ留学をしたり、サンフランシスコ総領事館に領事として赴任したりと海外でさまざまな経験を積みました。
サンフランシスコ赴任中は、シリコンバレーの動向をチェックし、情報収集するというのがミッションでした。
「シリコンバレーD-Lab」というプロジェクトを現地の有志と立ち上げて、「シリコンバレーはこんなに進んでいるぞ。日本ももっと頑張ろう」と警鐘を鳴らすような活動もしておりました。
2018年に経産省を辞めて、VISITS Technologiesというスタートアップに転職し、現在に至ります。
行政からスタートアップへの転職ということで、自分の中では大きな決断でした。
John
すばらしいご経歴ですね!
たくさん興味深いことがあるのですが、まずは井上さんが経産省で携われたプロジェクトについて、もう少し詳しく聞かせていただけますか。
井上
経産省では、2つのプロジェクトが特に印象深く残ってます。
1つ目は、イノベーション政策。特に大企業発のイノベーション創出に取り組んでいました。
私が経産省でイノベーション関連の部局に着任した時、「イノベーション政策=ベンチャー政策」でした。
もちろん、それも熱心に取り組む必要がありますが、イノベーションについて考えた時に、「ベンチャー育成だけでは足りないのでは?」と思ったのです。
イノベーションというのは打席の数が大事なのですが、日本のベンチャーだけでは打席の数が足りないと感じたのです。
やはり、「人・モノ・金」が集まる大企業が、進んでイノベーション創出に取り組んでいくべきだろうという問題意識を持ち、大企業がいかにイノベーションに取り組むべきかというのを調べ上げて政策にまとめていきました。
それでも、「このままでは日本の大企業でイノベーションは生まれないだろう」という感触があり、政策的にももっとできることがあるのではないかと考えていました。世界の動向を知るため、シリコンバレーにも赴任させてもらう運びとなったのです。
John
シリコンバレーでは、Tech系企業が勢いがあったと思いますが、実際に行かれていかがでしたか。「シリコンバレーD-Lab」の活動で、日本にどのような警報を鳴らされたのでしょうか。
井上
当時のシリコンバレーで、主なテーマになっていたのが、自動車のCASE、AI、ブロックチェーン、バイオなどでした。
日本にとって自動車は重要な産業ですが、当時CASEへの対応が非常に遅れていました。有志で立ち上げたシリコンバレーD-Labでは、こうした日本が知るべき情報について調べ、レポーティングするような活動をしていました。
日刊工業新聞『さらば「技術力優位」の発想、シリコンバレーからの警鐘「シリコンバレーD―Lab」井上氏ロングインタビュー』
例えばCASEについては、当時まだCASEという言葉はなかったのですが、我々がレポートの中で「重要な4つの要素」としてConnected=コネクテッド、Autonomous=自動運転、Sharing=シェアリング、Electric=電動化を挙げて、これらが既存の自動車産業にどんな影響をもたらすかを日本に向けて発信していきました。
私たちのレポート発出後に、それらの要素の頭文字をとった「CASE」というフレーズが世界的にも認知度が増し、世の中に浸透しはじめました。現地での我々の見立ては間違っていなかったのだ、と思ったのを覚えています。
John
CASEは井上さんたちが発信なさったのですね。今でも重要視されている4つの要素をいち早く見極め、日本に広められたことを心から尊敬します。まさにシリコンバレーと日本の架け橋ですね。
では、井上さんのご担当されたもう1つのプロジェクトについても教えていただけますか。
井上
2つ目は、宇宙政策。私は18年間役人を務めていましたが、そのうち6〜7年間は宇宙関連の仕事をしていました。これは、結構珍しいキャリアだと思います。
中でも、日本の宇宙政策の転換点を仕掛けることができたというのが、私の1つの大きな成功体験です。
従来は、科学技術の目的でロケットや衛星を開発したり宇宙飛行士を宇宙に送ることばかりが注目されていましたが、国としての宇宙政策の在り方を考え直すと、どの国も科学技術以外に防衛や産業振興に力点を置いてます。また、宇宙システムは道具であり、ロケットや宇宙飛行士を打ち上げて喜ぶだけではなく、実生活にどう役立つかを真剣に考える必要があると感じました。
こうした理念を盛り込んだ宇宙基本法の青写真作り、司令塔機能と実施機能を併せ持つ内閣府宇宙戦略室のゼロからの立上げに加えて、JAXAの位置づけも同時に見直しを行いました。これによって当初各省バラバラだった日本の宇宙政策を、大きな1つの政策・戦略にまとめることができたのです。
日本版GPSといわれる、準天頂衛星の立上げも行いました。
宇宙関連では、イーロン・マスクが始めたスペースXのロサンゼルス工場に訪問して、実際に宇宙に行って戻ってきたカプセルを間近で見ることができた他、ナショナル・スペース・シンポジウムというイベントで日本の代表として講演をした時の様子を、業界で最も権威のあるSPACE NEWSというメディアで大きく取り上げていただいたこともありました。日本の案件では私の他に、「はやぶさ」の快挙などが取り上げられたようなメディアですので、これは良い思い出です。
Space News『Japan Considers Regional Maritime Surveillance Satellite Constellation』
その他、産業政策として「産業競争力強化法」という第二次安倍内閣の三本の矢のうちの1つとして掲げられていた法案作成などを担当しました。
ハーバード大学への留学後、その結果を当時の皇太子殿下にご報告する役目も任されるなど、いろいろと貴重な経験を積ませてもらいましたね。
John
ほとんどの人が一生に一度でさえ経験できないような貴重な体験を重ねられてこられたのですね。1つ1つについて、ゆっくりお話をお伺いしたいくらいです。本当に素晴らしいご活躍ですね。
2 「デザインとは、お客様が求めているものを、その目的に合わせてつくることなのです。」(井上)
John
このような稀有なご経歴をお持ちの井上さんが、なぜ次のキャリアにスタートアップを選ばれたのか知りたい読者の方も多いと思います。
経産省時代を経て、スタートアップのVISITS Technologiesにご転職されたわけですが、現在はどんな事業に取り組まれていらっしゃるのですか。
井上
VISITS Technologiesは、アイデア創出、イノベーション創出の支援、創造力をスコア化するデザイン思考テストといったものを扱っている会社で、特にデザイン思考テストは海外展開もはじめています。
デザイン思考テストについて、「創造力って、そもそもスコア化できるの?」という質問を受けることが多いのですが、実はできるのです。
日本では、すでに200社以上に使っていただいていて、これをいま海外、特に米国で使ってもらえないか、チャレンジしようと考えています。
John
デザイン思考のスコア化、非常におもしろい考え方だと思います!先行き不透明な時代になり、日本でも「デザイン思考」によって新たな課題解決を目指す動きが活発になりましたよね。
ただ、デザイン思考と聞くと、アーティスティックなイメージを持つ方もいらっしゃるかと思います。まず、デザイン思考とアートの世界にはどのような違いがあるのでしょうか。
井上
いいご質問ですね。ありがとうございます。
デザイン思考の文脈では、「デザイン」と「アート」は使い分けが必要な言葉です。
デザインというのは顧客志向のことです。
デザインとは、お客様が求めているものを、その目的に合わせてつくることなのです。
一方、アートはその逆です。
自分の中にあるものを形にして、世の中に出すことを指します。
お客様のことをはじめに考えているわけではないのです。
私は以前、美大の先生に同じ質問をしたことがあります。
「アートとは何か、アートの定義とは」と尋ねたところ、美大の先生は「アートとは、アーティストの内なる想いを発露させた形である」という説明をしてくださいました。
外側から見えない、内に秘めた価値観や想いを、彫刻や絵、音楽などの形にして、外から見えるようにすることが、アートだ、と。
例えば、ゴッホの世界は完全にアートですよね。
ゴッホは、「自分がこういう世界を描いてみたい」という観点で多くの絵を描いていました。
しかし、当時の人は誰も見向きもしませんでした。
何十年後・何百年後に誰かがその価値に気づき、何十億円という金額がつくようになりました。
デザインの世界においては、それは失敗で、いまお客様が欲しがるものをきちんと見極めて、それを提供しなくてはいけません。
デザインの世界は、お客様にフォーカスしていると言えます。
デザイン=お客様→自分
アート=自分→お客様
という風に、矢印の向きが違うのです。
デザイン思考とアート思考、これらが対比されやすいのは、対比することでよりそれぞれの特徴がつかみやすくなるためです。
John
すごくわかりやすいご説明を、ありがとうございます。
今のお話を受けて思ったことですが、私自身は、絵は3歳から、詩は10歳から、ラップは16歳頃から親しんでいます。
銀座で絵の個展をやったこともあり、仲間のラッパーたちのNewアルバムの一曲にfeat.でラップしました。でも私は、自分がつくった絵や音楽に値段をつけるのは、あまり好きじゃありません。
作品に値段がつくと途端に「自分がしたいこと」から「お客様が求めるもの」に変換されてしまう感覚があるのです。アートから製品に変わるところで、商品としての価値が、値段という数字で評価される。。。ビジネスではごく自然のことですが、、、YouTubeなどで音楽は、無料で楽しめる時代ですし、、、アートの価値を考えると答えのない時代に突入してますね。
プロのアーティストの方々は、自分の伝えたいという思いだけでなく、時代やファンが何を求めているのかをしっかりキャッチして、それに答えていく必要がありますね。
井上
アーティスト目線のお話、おもしろいですね。
確かに、プロのアーティストの場合、すごく自身の感情に素直である一方、人々に共感する力も強く、結果的に大勢の人に受け入れられるものをつくり出せているということもあると思います。
サンフランシスコ時代、日本で非常に有名な歌手の方が、現地の商工会議所で行われたイベントにゲストで来てくださったことがあったのですが、ご挨拶の途中で泣き出してしまったのです。正直、みんな、キョトンとしていました。
その方は、「皆さんがこうして国を離れて、日本のために頑張っていると思うと、とても感動します」とおっしゃっていました。
こういう、人への共感・豊かな感情というのが、アーティストとして何かを生み出し、多くの人の心を動かせるのかなと思いました。
企業のイノベーションについて考える際にも、そういった人への共感や感情というのが、とても大事ですよね。
私は、企業へアドバイスをさせていただく機会もありますが、「やはり人を知るというのが大事」とお伝えしています。
人を知らないと、人の欲しがるものはつくれません。
例えば、メーカーなどは技術に自信があるので、「うちはこんなすごい技術があり、こんな製品をつくった」となることがあります。
この気持ちはすごくよくわかるのですが、技術起点でいくと、意外とヒットしなかったりするのです。
それよりも「人は、どうしたら心が動かされるのだろう」「どうしたら喜んでもらえるだろう」「何がしたいのだろう」というところにフォーカスを当てることによって、顧客が必要としているものを見つけ出してく、そういう起点の方が良いのではないでしょうか。これはまさに、デザイン思考です。
いま、世の中に浸透している商品やサービスは、そういった人の心の部分にアプローチできているのだと思います。
John
その製品やサービスを受け取った人が、それを楽しんだり使用したりする情景までリアルに想像しながら製品開発を行うからこそ「ユーザーフレンドリー」になり、人々の支持を集めて広がっていく。
井上
芸術もビジネスも、「顧客がどういう風に受け取るだろうか」「こういう境遇の人がきっといるだろう」といった、共感を起点にした流れが大切なのではないでしょうか。
John
失礼な言い方かもしれませんが、先ほど井上さんがおっしゃった商工会議所で泣き出すアーティストと、キョトンとする大多数の人たちというのは、多くの方にヒットする歌を届けられる方の感覚の鋭さが浮き彫りになったようなシーンですよね。
井上
おっしゃる通りですね。イベント関係で芸能人の方、アーティストの方などにも何度かお会いしましたが、やはり自分はどういう風に人から見られていて、どんな価値が提供できるのかというのがすごく見えていらっしゃいます。そしてそれが、振る舞いや人への対応にも表れています。
ビジネスに置き換えてみても、やはりすべての製品・サービスは厳しい競争の中にいますので、同じように相手をよく見て、自分の提供価値を考えることが必要ではないでしょうか。
3 「お客様に課題を聞く上で大事なポイントは、『あなたはこういうことに対して、何をしていますか』というファクトを聞くことです。」(井上)
John
井上さんは、デザイン思考のご説明もそうですが、物事をご自身の中で整理して、言葉にするのがとてもお上手で、聞き手が納得しやすく話してくださいます。
こうした論理的思考というのは、どのように身につけられるものなのでしょうか。
ビジネスを生み出す上でも、そうした思考を元に、ブラッシュアップしていくのですか。
井上
ありがとうございます。
デザイン思考もそうですが、公式と原理を学び、あとは実際の物事にそれを当てはめていくという方法をとっています。
事業づくりについても、米国のアクセラレータープログラムに参加させてもらって、そこで学んだ方法論を用いていたりします。
そのプログラムでは、スタートアップが成長するための方法論が、かなり形式化されていて、闇雲ではなく、「こういうやり方で取り組むと、成功する確率が高い」という方法論が出来上がっています。講義を受けながら、自分が持っているテーマに当てはめるとどうなるかを応用していく、というのをやっていました。
John
スタートアップはどう成長していけばよいか、ぜひ簡潔に教えていただけませんか。
井上
まず「顧客は誰なのか」ということですね。
そして、顧客に対して、あなたのソリューションが「どういう提供価値を持つのか」が重要です。
当たり前のようではありますが、日本企業の方と話をしていると、意外とすぐには顧客が出てこなかったりするのです。
事業のアイデアは出てくるのですが、「誰が買うのか」「その人はこれを使ってどう喜ぶのか」がイメージできていなかったりするケースですね。
John
顧客のどのような課題を解決するのか、というのはシリコンバレーなどでも当たり前のように交わされる会話ですよね。
井上
そうですよね、基本は、需要と供給で市場価格が決まるのと同じなのです。
顧客があって、提供価値があって、初めてサービスが出来上がる。
「北極と南極の直行便、今までなかったのでつくりました!」
「え、それ誰が使うの?」というような話です。
これは極端な例ですが、実際のビジネスでも「顧客が誰なのか」というのが抜けたまま開発が進むというのは、意外と起こりがちなことのように思います。
John
そこまで高い技術を使わなくても実現できるのに、ということもありますよね。
井上
それは、これまでの成功体験も関係していると思います。
日本はかつてものづくりの技術が非常に高く、技術の優位性でプロダクトを改善し、その結果として多くのお客様がついてきた、という過去の成功体験があります。それに引っ張られてしまう。
しかし、「技術を磨いた先に必ずしもよいサービスがあるとは言えない」ということです。
そして、事業づくりにはセオリーがあります。
自分がつくりたい世界観をビジョンにして、顧客の課題解決や新たなメリットを届けるわけですが、そのプロセスを解説する事例や教え方もあるので、勉強し、実践するのは成功への近道ですね。
John
実現したい世界観やビジョンを持って、事業計画をつくったとしても、やはりその次の「誰に」を定めるところで、つまづいてしまうケースは多いように思います。
次のステップとしては、やはりターゲットとなりそうな人に話を聞いていくというのがよいのでしょうか。
顧客自身が、ご自分の課題が見えていないケースというのはよくあるように思いますが、何かインタビューのコツなどはありますか。
井上
潜在的な顧客にインタビューする上で、大事なポイントは、「あなたはこういうことに対して、何をしていますか」とファクトを聞くことです。
単にあなたの課題やニーズは何ですか?と聞いても、通常は何も出てきません。
例えば、「小さな子どもがいるけど、自分の趣味の時間も欲しいという親御さんのためにサービスをつくろう」と考えたとします。
ファクトベースでのインタビューというのは、例えば次のようなものです。
質問者:子育て中だけど時間をつくりたい、という時、あなたはどうしていますか?
回答者:ベビーシッターにお願いしています。
質問者:ベビーシッターには、どのくらいの頻度で、いくらで依頼しているのですか。
回答者:月に2回、1回あたり1万円払っています。
このようにファクトを聞き出していくと、月に2回くらい、2万円までのサービスであれば、この人は買う可能性があるのだな、というのがわかってきます。
ベビーシッターを使っているお客様に「あなたの課題は何ですか」と聞いても「いや、今は、課題はないですね。あえて言うなら、もう少し優しいベビーシッターさんが欲しいなぁ」とか、そういう話になってしまうのです。
John
ファクトベースで答えていただけるような質問をしないと、ちゃんとした顧客体験、ユーザーエクスペリエンスが聞けないということですね。
日本ではUI/UXというような言葉ばかりが先行して広がってしまっていますが、本当はそれ以前の、正確に顧客体験をつかむところが大切だということですね。
井上
おっしゃる通りですね。
インタビューのやり方というところで言いますと、「マムテスト」という1つのわかりやすいものがあります。
自分が考えたアイデアについて説明やインタビューをする時に、「このインタビューは、自分のお母さんに向けてやっていると想像する」という前提で話すというものです。
「私こんなアイデア考えたんだけどどう思う?」とお母さんに聞いたとしましょう。すると、そのアイデアが本当に良いかどうかに関わらず、お母さんは子どもを傷つけたくないために「すばらしいわ、最高よ!」という答えが返ってくるのがほとんどです。
そういうやり方のインタビューでは、本当に必要な回答は返ってきません。アイデアについての感想を聞くのではなく「こういう時はどうやっていますか」と、より具体的な生活スタイルを訊ねて、それを事業のヒントとするのがマムテストなのです。
こういう方法論は、世にたくさん出ていますので、こういうものを使っていくのはおすすめですね。
John
インタビューを受けている方々が、いつでも本音を話してくれるわけではないということを念頭に置いておく必要があるということですね。優しさから忖度をしてくれる可能性などもあると。
また、人は自分の本音を必ずしも認識している訳ではないですよね。「顧客のアンメットニーズを掴め」とよく言うように、本人でさえ気づいていない潜在的な要求・要望を発見するためにも、「顧客を知る」ことが大切ですね。
余談になりますが、デザイン思考という視点で、いま世界共通の課題となっている新型コロナウイルスの問題を考えた時、井上さんはどのようなお考えをお持ちですか。
井上
コロナとデザイン思考!なかなかおもしろい視点ですね(笑)。
コロナが及ぼした影響というのは不自由な世界、強制的にいろいろなことができなくなる世界で、いろいろな課題が出てきましたよね。
デザイン思考とは、先ほども言った通り、ペルソナに共感するところからスタートする発想です。コロナで不自由を感じている人たちに対して、どういう解決策があり得るのかを考える方法としては、ぴったり当てはまる思考ツールのような気はします。
例えば、友達と遊びに行けない・彼女と会えなくなったが、会いたい。
ではどうしたらいいか、と発想しますよね。これ自体、デザイン思考と言えます。
逆に言えばコロナ禍は、デザイン思考を知らない人でも、「どうしたらできるか」を考えるデザイン思考的な思考プロセスが身についたという時代とも言えるのかもしれません。
先ほどJohnさんがアンメットニーズのお話をされていましたね。元々デザイン思考のおもしろみというのは、顕在化されていない潜在的な課題を見つけるところにあります。
顕在化されている課題に対して何かをしようとしても、その課題はすでに誰かが、もう手をつけている可能性が高く、潜在的な課題でないとビジネスチャンスはない。
しかしコロナになって、いきなり顕在化した課題というのもたくさんあるので、その課題をきちんと特定して、解決のアプローチを探るという癖がつきました。
人々が、デザイン思考の大事なプロセスを身につけることができる期間となったと言えるかもしれません。
John
コロナによって、人々にデザイン思考的な発想が身についた面もあるのですね。非常に興味深いです!
また、潜在的な課題でないとビジネスチャンスがない、というお言葉もおっしゃる通りですね。成功しているスタートアップの多くは、大企業が気づいていなかった潜在的なニーズを見つけ、その解決方法をスピーディーに提供しているように感じます。
4 「新規事業を社長が自ら進めることです。新規事業こそ、社長がやるべき仕事だと僕は思います。」(井上)
John
元々井上さんは経産省で、大企業のイノベーション創出に取り組んでおられましたよね。
大企業でも、デザイン思考を活用すればイノベーションが生まれるのでしょうか。
井上
デザイン思考を仮に取り入れたとしても、大企業がイノベーションを創出する上では難しい課題が山積しています。
大企業の課題というのは、多々あります。自分がやりたくても、自分の上司・そのまた上司をすべて説得しなくてはならない。さらに、企業としてのブランディングを損なってはならないし、予算や目標の問題もある……。少し考えただけでもたくさんあるのです。
よい新規事業を考えて上司にプレゼンしても、上司からは「すごいアイデアだね! で、これ3年後どのくらいになるの?」と聞かれてしまいます。
本音の回答としては、「いやちょっとわかりません」ですが、「じゃあダメだね」とそこで終了してしまいます。
正直、本当に3年後どうなるかがわかっているなら、誰かがもうやっています。でも上司としては、親心でついつい聞いてしまうものなのです。
「自分は君の味方だから、上に説明するために、もっと情報をちょうだい」と。
John
破壊的イノベーションを起こすようなアイデアは、往々にして前例がなく受け入れられにくかったり、一見するとバカげているように見えたりする。なかなか「説明しやすい」ものではないですよね。
井上さんは、大企業がイノベーション創出するためには何が必要だとお考えですか。
井上
新規事業を社長が自ら進めることです。新規事業こそ、社長がやるべき仕事だと僕は思います。
具体的には、イーロン・マスク氏のようなやり方が一番よい。
彼は、「自分は地球上の資源に依存しない、サステナブルな社会をつくりたい」というビジョンを掲げ、それに対する回答となる事業をつくっています。
デザインかアートかという話でいうと、イーロン・マスクの場合は、アート思考に近い。先に実現したい想いやビジョンがあって、それに対して事業をつくっていくわけですから。
そして実現のために、必要なリソースを探していく。
技術の先進性などは気にせず、実現できるかどうかという視点で、すでに他社が必要な要素や技術を持っていればそれを買収することも視野に入れる。
Appleのスティーヴ・ジョブズもそうですね。彼はアート思考とデザイン思考の両方を、うまく使っていたそうですが。
大企業の新規事業で問題となるのは、「下の人がやりたいと言っても上の人がそれをやりたいとは限らない」という点です。
そうすると、上の人の了承を得ないと、大企業の場合には新規事業は実現しないので、ほとんどのアイデアが使えないものになってしまいます。
それであれば、トップこそがやるべきなのです。ビジョンありきの、アート思考で。
John
確かに、イーロン・マスクもスティーヴ・ジョブズも、彼ら自身が強烈なリーダーシップをとって、イノベーションを起こしていますね。
井上
日本の大企業では、トップが下の人に新規事業をつくるよう指示をする。下の人は、世の中の動向などを元に「20年後、社会はこうなると思われるので、うちの強みと結合するとこういうことができそうです」とサイエンティフィックな、論理的な説明をします。
つまり、大企業の新規事業では、アカウンタビリティー(説明責任・説明義務)を求められるのです。しかし、アカウンタビリティーで説明可能な取り組みは、大きく成功しないことが多い。
私は、これを「アカウンタビリティーの罠」と呼んでいます。
大企業だと、「何でそういう意思決定をしたのか」「こうだからです」という説明が成り立たなくてはならず、それがないと投資家も上司も納得させられません。
しかし本来、実現したい未来というのは、理屈では説明できないはずなのです。
「だって僕が、それをやりたいのだもの」ということに尽きます。
「やりたい」で通すことができるのは、一般的に、企業ではほぼ唯一トップしかいない。「僕がこれをやりたいです、これやりましょう」と言えるトップこそが新規事業をやらなくてはいけない。
下の人がビジョンから説明したらどうかというと、それも違っていて、ビジョンを説明するためにさらに余計な材料を集めなければならず、1年も2年もかかってしまいます。
下に任せるとアカウンタビリティが必要になり、そのための材料集めに時間がかかり、結局新規事業の立ち上げに時間がかかりすぎ、遅くなる。だから、任せちゃだめなのですよ。
John
では、日本にビジョナリー経営者が少なく、新しく大きなことを自ら牽引する人がいなくなってしまったことが、失われた30年に繋がった要因の1つかもしれませんね。
未来志向とデザイン思考という観点では、いかがでしょうか。
デザイン思考は未来をつくっていく上でも使えるのか、井上さんのご意見を聞かせていただけますか。
井上
未来をつくる・考える上では、順序として、アート思考が第一ステップ、デザイン思考は実現するための細かなステップとして考えた方が、ストーリーとしての成功確率は上がると考えられます。
つくりたい未来の像やビジョンをアート思考でつくり、それを具体化するフェーズでデザイン思考が使われる、という流れですね。
ビジョンをつくる時には人に聞いてもわからないし、ビジョンは自分勝手であるほうがいいので、人に聞く必要はない。
しかし、それだけで突っ走るとお客様がいなかった、ということになりかねない。
やはり事業として成り立たせるためには、ある段階で、ターゲットとなりそうな人に話を聞いたり、その行動を観察したり勉強したり、こうしたらビジネスになるなというのを、デザイン思考を元に具体化していくのがよいでしょうね。
デザイン思考において、ビジョンも何もなく、いきなり歩いている人に対してインタビューして「課題は何ですか」と探っても、おもしろくも何ともないのですよ。ビジョンやテーマがないといけない。
例えば、「困っているお父さん・お母さんを助けたい」という想いがあって初めて、彼らの行動を観察するし、「ああ、どうやら彼らはここでこういう潜在的な課題があり、こういう行動をとっているのだな」と気づくことができる。
デザイン思考を取り入れる上でも、その前段階にはやはりビジョンや「誰に」が必要なのです。
5 「今の時代、何を予測しても当たらない可能性は充分にあります。唯一、当てる方法は自分で未来をつくることです。」(井上)
John
未来をつくる、という切り口で言いますと、パロアルトにInstitute for the Futureというシンクタンクがあって、日本語にすると「未来予測研究所」となるのかな。カリフォルニアの有名な大学のアドバイザーなども彼らはやっているそうですが。何度かお話を聞きたくて伺ったシリコンバレーの中でも印象的なフューチャリスト(未来予測者)などがいる場所です。
何十年後かの未来を予測して、例えば「20XX年には人口がこのくらい減少していて、こんな社会になっているだろうから、大学のカリキュラムはこのように変化させていってはどうか」というのを10年単位で一緒に考えるようなことをするそうです。
井上さんは、デザイン思考の会社にいらっしゃるわけですが、まだ起きていない未来の課題に対して、デザイン思考で予測ができるのか、その点はどうお考えですか。
井上
おもしろいですね。私も、未来のあるべき姿から逆算して考える、バックキャスティング的な考え方はすごく好きです。
おそらくそういうところにいる人たちは、今ある技術、あるいはその延長線上で何ができるかというのを想像するのが得意な人たちが集まっているのでしょうね。
ただ、私は「水晶玉は当たらない」とも思っています。
今の時代、何を予測しても当たらない可能性は充分にあります。唯一、当てる方法は自分で未来をつくることです。
人が何をやっていて、他の人がどうなるかを当てるのは不毛だと思う。
それよりも「20XX年までにこれを実現したい」というものをつくり、それに向かって頑張るほうが確かではないかなと思います。
John
予測するよりも、つくっていくと。
しかし、「2030年までにSDGs目標を達成する」「2050年までに脱炭素」のように、国連や世界がつくりたい未来を決めていく部分もありますよね。
元々官僚として国の政策などをつくっていた井上さんから見ると、国連や国が、未来の方向性を決めるということについては、どのようにお考えですか。
井上
先ほど「水晶玉は当たらない」という話をしましたが、それでも何に投資をしたら大きく間違えないで済むのか、世の中がどういう流れで動いていくのかを知りたいと考えるのは、経営者であれば当然のことですよね。
そういった中で、国や経産省が果たせる役割は何かというと、経済のトレンドや向かうべき方向性を示すことに尽きると考えています。
例えば、脱炭素というテーマに対して政府はお金を出すし、それを呼び水に投資家もお金を出してくれる。そうした方針を示すこと自体が、政府の提供する価値ではないでしょうか。
John
確かに、政府が外さない方向を示してくれるのは、企業にとってやりやすい面もありますよね。
一方で、その方向性、世界の未来を決めるルールメーカーに、日本が加われていないようにも感じています。
井上
確かに、客観的に見て、今の日本はルールメーカー側ではありませんね。
欧州は、自分たちの自動車産業を伸ばしていくために、脱炭素という新しいスタンダードをつくることに成功しました。まだ儲けは出ていないけれど、成功の可能性が高まった状態かと思います。
一方、日本は、自国の得意な領域であるハイブリッドなどが売れなくなる状況をうまくつくられてしまった。
日本の国家としての発言力・重要性は数十年前に比べるとかなり落ちています。
力のない国が外交の場で何を発言しても相手にされませんので、その前提でこれからのことを考えていかなくてはいけませんね。
John
井上さんのご経験を踏まえ、これからの日本をつくるアドミニストレイティブ・アントレプレナー(行政起業家)は、どういった要素やマインドを持ち、どのように行動していくべきだと思われますか。
井上
大国ではない国がとるべき戦略は、2つあります。
1つは、どの方向に世界が動きそうかをよく観察し、人より早く動き出すこと。
もう1つは、多少の犠牲を伴いながらも、一点突破で勝つことです。
例えば、韓国が通過危機の後に行ったのは、サムスンのような大きな国営企業的なものをつくり、半導体だけはどこにも負けない技術を磨いた。
その代わり、他の産業は力を入れていないとも言える政策に見えました。
シンガポールもそうですよね。シンガポールには資源が乏しく、人が重要な資源。そこで厳しい教育制度をつくり、優秀な人を育てるという政策を採用しました。
優秀な人たちに投資をして、この人たちに世界をつくってもらう。
一方で、ついてこられない人は置き去りにする教育で、格差が開いていきました。しかし、国としてはそれで成立しています。
このようにいくつか自分たちの中で犠牲が出たとしても、国として何かを伸ばしていくというトレードオフの考え方なのですよね。
日本も、いずれこういう風に振り切る決断を、迫られる時が来ると考えています。
福祉もやる、防衛もする、技術投資もするといった、あれも・これもやることは、できなくなるでしょう。何かを諦めて、何かに集中せざるを得ない時代が訪れると思います。
John
日本も厳しい選択を迫られる時代が来るのですね。
井上さんは、日本の強みは何だとお考えですか。どこに一点集中すべきでしょうか。
井上
日本の良さは、やはり1000年、2000年の歴史の上に成り立つ、日本固有の文化ではないでしょうか。
例えば和食もそうですし、アニメやゲームといったポップカルチャーも日本特有のもので、世界からリスペクトされています。
日本にしかないもの、つくれないもの、得意なところでプラットフォーマーとなるほうが、勝ち筋があると思います。
John
和食とポップカルチャーで、どうやって世界を取っていくのか、もう少し具体的なイメージをお聞かせいただけますか。
井上
例えば、ポップカルチャーで言いますと、日本には良いクリエイターがいて、それをお客様に届けるプレイステーションやニンテンドーといったプラットフォームがあります。
そしてこのプラットフォームは、いまも世界でよい位置を取れていますよね。
ゲーム業界も世界中で市場が大きくなっていますので、新たな参入もあると思いますが、日本のコンテンツや、コンテンツづくりのノウハウを活かしてリードしていくのもよいかもしれません。
また、和食もよいブランドです。シリコンバレーでも和食はとてもリスペクトされていましたし、武器になると私は思っています。
和食を単なる日本からの輸出品というだけではなく、もっと精神面も含めた文化、スキームとして売っていくのもよいでしょうね。
例えばSNSで世界中から支持されているコンマリさん。
彼女が評価されているのは、片付けの方法そのものではなく、精神面です。片付けをすることで自分の精神がいかに豊かになるか、その考え方自体を届けている。
ああいう形で、日本の文化・精神性をモノにのせて伝えることができれば、世界では高く評価されると思います。
既に、マインドフルネスなどが流行っていますが、あれも日本の禅寺のお坊さんに言わせれば、まだまだ浅く、本来の瞑想はもっと深い世界です。
もっと深く、文化として広めることができるはず。
また、スキームづくりも重要です。
例えば、フランス料理の優れているところは、しっかりとスキーム化されている点です。
フランス料理をつくれるようになるため、みんなフランスへ修行しに行きますよね。
同じように、和食をブランドとして広めたいのであれば、和食を教えるシステムをつくり、国籍を問わずそのサーティフィケート(認定証・免許など)を取得した人たちは、それぞれの国で和食店をつくるというスキームをつくれれば、裾野を広げることができそうです。
日本は技術大国だと思っている人がまだいますが、残念ながら少なくともシリコンバレーにいる人に日本と言えば何かと聞けば、和食とポップカルチャーです。日本に技術力を期待している人はテック業界ほどいません。
John
まさに、つくりたい世界観と、それを具体的にどうつくっていくかという実例ですね。確かに日本の伝統的な文化や技術は、海外の方々からも非常にリスペクトされています。
その一方、少子高齢化によって日本の伝統工芸などの受け継ぎ手が少なくなっていたりもしますから、井上さんのおっしゃるような、国籍を問わず継承者になれるシステムの構築は、教える人と学ぶ人の双方にとって良いですね。
日本文化を世界に広めるというと、日本人が海外に出ていくイメージが強いですが、日本文化を尊敬してくれる海外の方々に継承し、彼らが母国で広めることもできるわけですね。
6 「今の日本に必要なリーダーは、『守る人』ではなく、『つくる人』だと考えます。」(井上)
John
日本では30年遅れでようやくデジタルトランスフォーメーションが叫ばれたり、オープンイノベーションという言葉が広がっています。また、脱炭素社会を目指すということでグリーントランスフォーメーションの必要性も高まってます。
現在の日本は、少子化・人口減少など課題は山積していますが、解決までのスピード感はいまいちな印象です。行政・スタートアップ両方の目線を持つ井上さんからご覧になって、どうすれば日本は生き残れると思いますか。
井上
大きな課題として、大胆な意思決定ができるリーダーの不在と、少数意見に配慮しすぎる体質があるのではないでしょうか。
例えば、緊急に必要な政策を、全国一律で施行しようとした時に、いくつかの自治体が「そんなこと急に言われてもできません」という声をあげたとします。すると日本では、「では全体で遅らせましょう」という判断をしてしまうことがあるのです。
その結果、その政策が必要だった人たちが困ることになります。
本来であれば、2〜3の自治体を後回しにしても、他は先行して導入すべきではないかと多くの人が思いますよね。でも、できる自治体は聞かれていないから、「うちはできます」とは言わないのです。
日本では、困っている人だけが私は困っていると声を上げるので、大多数がそういう意見かのように思われますが、それは完全に状況を見誤っている。
黙っている人は、アクセプト(承諾)している状態にも関わらず、賛成票としてカウントしていないのです。
「2〜3の自治体から反対されたから、全体も反対なのだろう」というのが平気で起こるのですが、黙っている2000の自治体は黙っているけど賛成しているのです。
このように日本の良い点でもあり悪い点は「下に全体を合わせる」傾向があることです。教育現場でも分からない子に授業のスピードを合わせようとします。当然、できる子にとっては無駄な時間になります。これでは能力の高い人材を腐らせることになります。
地名をひらがなに直すのもその一例と言っていいでしょう。外国人が住みやすい街を目指しているのかもしれませんが、読めない漢字を見つけたら自分で調べる、文化の象徴である文字に敬意を払う、こういったことの方が人々の思考力を涵養できるし、そもそも海外から見てもクールです。
いまの日本は、反対派に配慮しすぎているし、まずは全体の方向感というのをビシッと決めて、「多少の反対はやむなし。反対する人もいるよね、でもこれでいったほうが全体のためにはいいでしょう」とやりきるリーダーがいないのです。
今の日本に何が必要なのか自分の頭でしっかり考えるくせを身に着けてもらいたいです。
「俺が責任とるから、この方向でやるぞ」と言えるリーダーが少ないというのが、政府もそうですし、あらゆるところで起きている日本の問題のように感じます。
John
昨今では、DAO(分散型自立組織)など、リーダーがいなくても組織は回るという時代が来ていると思いますが、それでも井上さんはリーダーが必要だと思いますか。
井上
そうですね、DAOで置き換えられる部分はありますが、基本的に組織にリーダーは必要だと考えています。
John
スタートアップ、中小企業、大企業、それぞれの組織に必要なリーダー像は違うかもしれませんが、リーダーにはどんな要素が必要だとお考えですか。
井上
いまの日本に必要なリーダーは、「守る人」ではなく、「つくる人」だと考えます。
具体的には、ビジョンをしっかりとつくること。それに対して周りの共感を得るように巻き込んでいくこと。あとはそれに必要なリソース、お金や人をうまく集めることができる人です。
あとは、何より決断することです。ビジョンをつくってリソース集めて、適宜決断をするというのが1番大事なことで、IQが高い必要もなければ、力強い必要もないのです。
中でも多くの人が苦手なのは、「やめる」決断。戦略とは、ある意味やらないことを決めることとも言えますが、辛い判断でもあるので、苦手な人が多い。
これまで投資してきたこと、誰かが想いをもってやってきたことに対して、でもこれはそろそろ不必要だからやめましょう、と決断することは、上の人にしかできません。特に役所はそうです。
新しいことを始めるのは若い人にでもできます。「これやりましょう」「あれやりましょう」と上司に提案し、上司は熱意を持ってる部下にはやめろとは言いません。「いままでの仕事をやった上でなら、やっていいよ」と答えます。
しかし、いままでの仕事の中には意味のない仕事というのもたくさんあります。若い人は新しくやることは提案できますが、「これやめましょう」とは提案できません。仕事をサボっているように見えるから。
John
ああ、確かに「はじめましょう」より「やめましょう」の方が提案しづらいです。周りを巻き込んでしまっていると、特に。
井上
そうですよね。でもそうしていくと、仕事は無限に増えるのです。そうして意味のない仕事まで続けているから、日本の生産性は下がる。
意味のない仕事をやめて新しいことをやれば生産性は上がります。
もう賞味期限切れの事業をやめる、不必要な雑務をやめる。この決断をできるのが良いリーダーだと思います。
John
コロナ渦でオンライン化が加速したことにより、業務の効率化に着手した企業もあると思います。この変化は必要に迫られて起きたことですが、これからのリーダーは主体的に自らの掲げるビジョンの実現にとって効果のある業務なのかを常に見直していって欲しいですね。
本日は、行政、大企業、スタートアップと幅広い知見を持つ井上さんにお話を伺ったことで、これまで日本で何が起きてきたのか、これからどういう変化が求められていくのかが、非常によくわかりました。
より良い世界を作りたいすべてのリーダ達に、井上さんのお話をお届けしたいです。
最後に、井上さんの「イノベーションの哲学」を教えてください。
井上
「創造社会(どれだけ社会に価値を還元できたかで人の幸せが測られる社会)への推進力」です。
John
井上さん、本日はとても勉強になるお話を、誠にありがとうございました!
以上
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