近年、職場の上司や先輩(いわゆるオトナ世代)は、若手社員の言動を理解できないイライラ、腑に落ちないモヤモヤを抱えつつも、指導の際は「パワハラ」と感じさせないように、気遣いや遠慮が求められるようになりました。
そもそもオトナ世代が若手にストレスを感じる原因は、オトナの考えと、若手の行動とのすれ違いによるものがほとんどです。しかし、若手に対して「けしからん!」と怒ったり、「理解できない!」と嘆いたりしていたことを、冷静に分析するだけでスッキリすることもあります。

本連載は、拙著「イライラ・モヤモヤする 今どきの若手社員のトリセツ」を一部抜粋し再構成してお届けします。

  • オトナ世代が違和感をもつ若手社員の言動を具体的にピックアップ
  • ギャップやストレスの正体を分析
  • 円滑なコミュニケーションや適切な指導法を考察

という3ステップで、指導の妨げとなるストレス解消のヒントを探っていきます。

1 一から十まで全部説明しなきゃ分からんか……

オトナのイライラ・モヤモヤ
午後の会議に使う資料の印刷をお願いした。プレゼン用の資料とその根拠となる詳細データ資料の2種類を10部。出来上がった資料を若手が持ってきた。あ……これ、全部A4で印刷しちゃったの? データの資料は文字が小さいからA4だとめちゃくちゃ読みづらい。できればA3で印刷してほしかった。そこまで説明しなきゃ分からんか。

若者のホンネ
印刷しておいてと頼まれたから、指示された仕事をやりました。印刷サイズの話は聞いてないし。それならそうと言ってくれれば、サイズを変えて印刷するのに。なんか、こっちが悪い的な空気なんですけど……。

資料を印刷するといった簡単な作業でさえ、このようなすれ違いが起きがちです。オトナの「そのくらい察してほしい」に対して、若手は「言われなきゃ分からない」。こうした認識のズレは、なぜ起きてしまうのでしょうか。

オトナが「そのくらい察してほしい」と感じるのは、これまで培ってきた仕事習慣からきています。この世代は、上司が何を考えているのか、常に想像しながら仕事をしてきました。だからあうんの呼吸が理想形。他者への想像力こそがデキるビジネスパーソンの証しでした。

2 もはや想像力は超能力

一方で、今どきの若手社員が「言われなきゃ分からない」となってしまう理由。そこにも、デジタルツールの進化が絡んでいます。
インターネットが発達し、検索すればすぐに答えにたどり着けるようになった現代では、想像力を働かせながら考える必要がなくなってきました。
その昔、人類が言葉を発明し、また文字を発明したことで、それまで持っていた第六感が退化したといわれます。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、これと同じようなインパクトが現代に起きているのではないか。つまり、デジタルリテラシーの進化によって、若者の五感が退化しているのではないか。彼らを日々観察しながら、筆者はこう感じています。

そういった観点に立ったうえで、冒頭の場面を改めて見直してみましょう。この若手社員は、資料を印刷することが「業務のゴール」になってしまっていました。この資料がどういうシーンにおいて、何のために使われるのか。本来のゴールを想像するという視点に欠けています。
しかし、先述のように、今どきの若者にとって、もはや想像力は超能力。我々オトナは、このくらいの感覚で若手社員と接したほうがいいかもしれません。「そのくらい察してほしい」と感じてしまうオトナの欲求は、若手社員にとっては「そのくらい」のレベルではなく、ある意味で「テレパシー」のレベルなのです。

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3 言われたことをやったのに怒られる若者の嘆き

オトナのイライラ・モヤモヤ
お願いした報告書が上がってきた。「まとめ」のページが空白だ。確かに「『まとめ』はこっちがやるからいいよ」とは言った。まだ今回の報告書の総括を任せるのは早いから。でも「1回、トライしてみたので見てもらえますか」とか、そういう感性もあってほしいんだけどなぁ……。

若者のホンネ
いやいや、言われたことしかって……。指示されたことを普通にやって納品して、それでイラッとされるって、ほんと意味分かんないんですけど。だったら、報告書を作る業務をオーダーする時点で「『まとめ』も書いてみて」って言ってくれればいいのに。だったら、こっちだって書いてみますよ。

ホント、残念なくらいに言われたことしかやらない。若手社員に対するこうした声も、オトナ世代からよく聞かれる嘆きの声です。しかし一方では、若手の脳内に渦巻く「言われたことをやったのに、なぜか怒られた」という言葉を目の当たりにすると、それはそれで、若者の言い分のほうが合理的にも感じます。でも釈然としないイライラ・モヤモヤは消えません。
なぜ我々オトナは、言ったこと以上のことをやってほしいのか。この気持ちも、「一から十まで全部説明しなきゃ分からんか……」と同じく、これまで培ってきたオトナの仕事習慣に起因しています。

4 期待の裏返し、は伝わらない

自分たちが若手だったときは、言われたこと以上の仕事を自分からやってみることで、評価されてきた。言われたこと以上のことをなんとか返していく。その繰り返しが「デキるヤツ」という信頼につながる。評価とは、そうやって勝ち取っていくもんだ。こういう価値観が根っこにあるから、下の世代にも、つい期待してしまうんですよね。

だから、言われたことをやるのは「最低限の納品」くらいの意識でしょう。期待に応えるのは当たり前。というか、もっと言うと期待を超えていくのだ。こんな仕事の仕方を望んでいるのです。それが、本人のためにもなると知っているからです。

しかし、そうした意味合いについて、きちんと伝えながら仕事を振っているオトナは、どのくらいいるのでしょうか。心の中で思っていることはグッドだとしても、それだけでは、残念ながら今どきの若手には伝わりません。
言われたことしかやらない……と嘆く前に、言われたこと以上のことまでやるメリットを語ってあげてください。言わずもがなですが、ヤル気や本気度を問うようなコミュニケーションは、まったくもって逆効果です。

5 イライラ・モヤモヤ解消法

「一から十まで説明しなければ分からない」にしても「言われたことしかやらない」にしても、イライラ・モヤモヤを少しでも軽くするには、2つの方策が考えられます。

1つ目は、想像力の重要性を語ること。
言われたことをそのままやるのではなく、その仕事の意味を解釈し、そしゃくしてから動き出すのが、本質的な進め方であること。そのためには、この仕事はなんのためにやるのか、仕事の本来のゴールはどこか、を想像する必要があること。このあたりをきちんと説明することで、一から十ではなく一から六くらいまでの説明で動いてくれる。あるいは言われたこと以上の仕事をしてくれるようになるんじゃないでしょうか。

仕事のゴールを想像するには、「そもそも」を考える習慣が有効です。

そもそもなぜ印刷するのか、そもそも誰が使うのか。こう考えていくことで、言葉の表面上だけでは見えない、本来の目的に近づいていきます。
この仕事にはどんな意味があるのか? 自分が何を求められているのか? 仕事の全体像を想像できるようになれば、仕事へのスタンスも変わってくるはず。最初は慣れないかもしれませんが、繰り返し繰り返し「そもそも」を考える訓練をしてあげてください。

2つ目は、若者視点に立って、若者のメリットになる合理的な伝え方。若手が享受できるメリットを、いかに若手目線で翻訳できるかです。
ちなみに、若者視点のメリットとは、「評価されること」や「成長できること」だけではありません。実は、もっと彼らにとって身近に感じるメリットがあります。
それは「仕事のやりやすさ」です。今どきの若手社員は、過度に口出しされることなく自由裁量をもって働けることを強く望んでいます。そこに訴えかけるのが、いちばん効き目があると思います。
言われたこと以上のちょっとした気遣い→仕事ができるという評価→ある程度任せても大丈夫という安心感→進捗確認やマイクロマネジメントが減る→結果的に、自分のペースで仕事ができて仕事がやりやすくなる。こんな感じの「風が吹けば桶屋が儲かる」的な流れで語ってみてください。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年8月23日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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