書いてあること

  • 主な読者:女性社員の活躍推進に本格的に取り組もうと考えている経営者
  • 課題:重要性は感じているが、具体的に何から始めてよいのか分からない
  • 解決策:福利厚生に対するニーズを探り、法定基準に“ちょい足し”してみる

1 中小企業で活躍する女性社員は多い!

働き方改革やSDGsなどを背景に、「女性の活躍推進」が一つのテーマになっています。中小企業の経営者の本音は、

必要性は感じるが、何をしたらよいのか分からない

といったものかもしれませんが、実は中小企業では既に女性活躍が進んでいます。社員数が限られた中小企業では女性社員の割合が高くなり、役員や管理職として活躍している人も多いです。課長相当職で見ると、

  • 5000人以上の企業:7.5%
  • 10~29人の企業:18.2%

といったように、企業規模で大きな違いがあります(厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」)。中小企業では女性社員は貴重な戦力となっていて、経営者が意識せずとも、女性社員をサポートする制度や文化があるということでしょう。

そして、今は働き方改革やSDGsの波に乗り、この取り組みを進める好機です。そうすれば、

  • 貴重な戦力である女性社員が、結婚や出産などのライフイベントで離職せずに済む
  • 働き方改革やSDGsに積極的な企業としてアピールできる
  • 女性が働きやすい企業として認知されれば、新規の女性採用も進む(人材不足の解消)

といった効果が期待できるでしょう。もう一つ、この分野では中小企業の強みが発揮できます。女性の活躍推進の第一歩は福利厚生などの制度整備ですが、

フットワークが軽い中小企業では、経営者が「よし、やろう!」と指示すればスピーディーに実現できる

のです。

いかがですか。中小企業が女性の活躍推進に取り組むメリットは大きいことをご理解いただけたと思います。それでは、具体的な制度のアイデアなどを紹介していきます。

2 女性社員が喜ぶ福利厚生とは?

早速ですが、皆さんは女性社員がどのような福利厚生を求めていると思いますか? 労働政策研究・研修機構「企業における福利厚生施策の実態に関する調査(2020年7月31日)」によると、10%以上の女性社員が「必要性が高い」と回答したのは次の制度・施策です。

(図表1)【「必要性が高い」と思う福利厚生】

(単位:%)

必要性が高いと思う制度・施策(複数回答) 女性 (A) 男性 (B) ギャップ (A-B)
人間ドック受診の補助 23.1 20.3 2.8
慶弔休暇制度 21.4 18.3 3.1
病気休暇制度(有給休暇以外) 20.3 16.3 4.0
病気休職制度 20.0 16.8 3.2
家賃補助や住宅手当の支給 18.6 19.1 -0.5
リフレッシュ休暇制度 17.9 13.8 4.1
治療と仕事の両立支援策 17.4 11.6 5.8
有給休暇の日数の上乗せ(GW、夏期特別休暇など) 17.4 12.5 4.9
法定を上回る育児休業・短時間制度 16.2 8.9 7.3
慶弔見舞金制度 15.5 13.3 2.2
短時間勤務制度 14.3 7.4 6.9
法定を上回る介護休業制度 12.4 7.9 4.5
食事手当 12.4 10.9 1.5
永年勤続表彰 11.8 10.5 1.3
財形貯蓄制度 11.7 11.2 0.5

(出所:労働政策研究・研修機構「企業における福利厚生施策の実態に関する調査(2020年7月31日)」)

この調査によると、

  • 女性のニーズが最も高いのは「人間ドック受診の補助」で、23.1%が支持
  • 男女のギャップが最も大きいのは「法定を上回る育児休業・短時間制度」で、7.3ポイントの差

という結果が出ています。社員の環境(業種・社風・年齢・家族構成など)はもちろん、調査によっても結果は異なってくるでしょうが、男女ともに「健康」に対する関心が高いといえます。

また、詳細はこれから紹介していきますが、

法定基準に“ちょい足し”することや、制度の名称をユニークなものに変えること

で、オリジナリティーがあり、利用されやすい制度を実現できます。例えば、法定の育児休業の期間は「原則として、子が1歳(最長2歳)になるまで」ですが、ここに1年追加して「子が3歳になるまで」にしたりします。また、理由が趣味だと年次有給休暇(以下「年休」)を取得しにくいと考える社員がいる場合は、「推し活休暇」などの特別休暇を設けることで、取得のハードルを下げることができます。

法定の基準に“ちょい足し”した制度の例を6章にまとめているので、参考にしてください。

3 整備したい! 女性が活躍しやすくなる福利厚生5選

1)「時間のやりくり」がしやすい制度

妊娠・出産、育児については、産前・産後休業や育児休業が整備されています。しかし実際は、その後も保育園への送り迎えや子供が病気の際の通院など、就業時間中にちょっとした時間が必要です。このような場合に利用したいのが、

時間単位で付与できる年休

です。年休は原則として1日単位で付与しますが、社員の過半数代表(労働組合がない場合を想定しています)と書面で協定(労使協定)を結ぶことで、付与日数のうち5日までは1時間単位で付与できます。年休の管理は少し複雑になりますが、この制度があると、女性社員は親が出なくてはいけない保護者会やPTA活動などの突発的な用事に対応しやすくなります。

また、時短勤務制度も女性社員にとってうれしい制度です。法定では、3歳未満の子を養育する社員、要介護状態の家族を介護する社員が対象となりますが、この期間を延ばしたり、週の労働日を減らしたりすることが考えられます。保育園の送り迎えなどの定期的な用事に対応したい場合、時短勤務制度はとても便利です。

そして、これらの制度とリモートワークが同時に適用されると、かなり働き方が自由になりますので、検討したいところです。

2)「健康管理を支援」する制度

前述の調査でもあったように、「健康」は社員の関心が高い分野です。例えば、企業には年1回の定期健康診断の実施が義務付けられていますが、法律で決められた法定項目以外に「がん検診」などの受診項目も付け加えると、手厚い健康支援になります。ただし、法定項目以外の検診を行う場合は社員の同意が必要なので注意してください。

また、女性社員については、

生理痛、不妊治療、更年期障害などに配慮した制度

があると喜ばれます。個人差は大きいですが、20~60代まで多くの女性がこうした自身の体調の変化を感じながら仕事と両立をしています。不妊治療の支援については、一定の要件を満たすことで「両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)」の対象になるので、確認してみてください。

■厚生労働省「不妊治療と仕事との両立のために」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14408.html

3)「家計をダイレクトにサポート」する制度

家計を預かることが多い女性社員にとって、家計をダイレクトにサポートしてくれる制度はうれしいものです。一般的な制度には、

家賃補助や住宅手当の支給

などがあります。資産形成という意味では、財形貯蓄や退職金(退職一時金、退職年金)もその一環となります。

また、少し視点が変わりますが、万一の備えとして生命保険に加入している社員は多く、一定の保険料を支払っています。この点、いわゆる「団体保険」の契約ができれば保険料は安くなるので、社員にとっては好ましいでしょう。ただ、団体保険の契約ができるのは一定規模以上の企業に限られるのが通常です。条件に該当しない場合は、社員を被保険者として、企業が保険料を負担するような制度を検討してみるのもよいかもしれません。

4)「居心地の良さに配慮」した設備

更衣室やトイレなどについて配慮するのも効果的です。更衣室が1つしかなくて皆が交代で使っていたり、トイレが男女共用だったりして、しかもそれが企業の中で当たり前となっている場合、本当は不満があっても口に出せない社員がいるかもしれません。逆にそこを企業がおもんばかって改善すれば、社員は喜んでくれるでしょう。

5)「プライベートも支援」する制度

女性社員の悩みは仕事のことだけにとどまりません。中には実家から離れた場所で暮らすことがあり、そうしたときに、女性社員の悩みを聞いてくれたり、家事をサポートしてくれたりする存在は心強いものでしょう。

例えば、株式会社ぴんぴんころりでは、「東京かあさん」の名称で、実家から離れて暮らす女性などをサポートするサービスを提供しています。単なる家事代行にとどまらず、「第2のお母さん」として、さまざまな相談に乗ってくれます。

■株式会社ぴんぴんころり■
https://kasan.tokyo/corp/

4 実際に聞いてみた、知っておきたい「女性社員の本音」

1)男性上司に申し出にくい……

女性特有の体調不良や不妊治療といったセンシティブなことは、そもそも他人には話しにくいものです。その相手が男性上司だとなおさらです。男性上司の立場からしても、申し出があった際に深く事情を聞いたり、体調面などについて踏み込んだりするのは気が引けます。

このようなときは、具体的な症状で休暇を申請するのではなく、「自分いたわり休暇」というような名称にして、詳細を伝えず申請できるようにすると取得しやすくなります。また、そうした休暇申請などを受け付ける部署に、女性社員を配置するのもよいでしょう。

2)制度はあるのに、職場の理解が追い付いていない……

女性社員が働きやすいようにと整備した制度が、逆に女性社員に肩身の狭い思いをさせてしてしまうことがあるようです。具体的には、

  • 産前・産後休業と育児休業を取得した後に時短勤務で復帰したが、そういう働き方をしているのが自分だけなので、何だか周りに申し訳ない
  • 自分が帰宅した後の会議で決まった内容をベースに仕事が進んでいて、疎外感を覚える

という意見がありました。

このように、女性社員の意思に反して仕事が制限されて、キャリアコースが変わってしまうことを「マミートラック」といいます。職場が女性社員に過剰に配慮したり、時間に制約があるという理由だけで能力に見合わない仕事を依頼されたり、昇進の機会をもらえなかったりすると、女性社員は働く意欲がなくなってしまいます。

女性社員は、制度を整備してくれる企業に期待しているだけに、マミートラックに陥ったときのショックは大きなものです。性別に限らず誰もがいつか制約を持って働く可能性があるということを、職場全体で理解していく必要があるでしょう。

3)一部の女性社員が優遇されて、そのしわ寄せを受けるのはおかしい!

一部の条件に該当する女性社員だけが利用できる制度の場合、利用できない社員からの不平不満が出やすいという本音もありました。例えば、

  • 時短勤務で帰った女性社員の業務を、自分が残業して代わりにやらなければならないのが不満だ
  • 結婚や出産をしていない自分は制度が利用できない。条件に該当する女性社員ばかりが優遇されているようで嫌だ
  • 自分たちの時代にこんな制度はなかったのに、今の人たちは恵まれている

といった声です。こうした不満を理解に変えていくためには、経営者が制度を導入する理由や背景を説明し、丁寧に対応していく必要があるでしょう。

5 制度を導入するステップ?就業規則の変更も忘れずに

1)制度の導入理由を明確にし、女性社員の声を聴く

「なぜ、その制度を導入するのか」「導入した結果、女性社員はもちろん、企業全体にどのようなメリットがあるのか?」を明確にしましょう。

女性社員の働きやすさを目的とした制度は、人材確保の観点からも有効です。制度があることで働き続ける女性社員が増えれば離職防止になりますし、そうしたことをアピールすれば人材採用にもつながります。

社内に周知する際は、

  • 定着率○○%を達成する
  • 利用率○○%を達成する

など、目標をできるだけ数値化すると伝わりやすいです。またその際は、女性社員の声を聴きましょう。そうすることでニーズをより具体的に知ることができますし、現状に不満を感じている社員のフォローにもつながります。

2)経営者が強いメッセージを伝える

女性の活躍推進に限ったことではなく、社員は自分にとって特段の不利益とならない内容であれば、割と聞き流してしまう傾向にあります。しかし、その状態で新しい制度を導入すると、その理由が理解されないまま運用が開始され、前述したような問題が起こりかねません。

そうならないためにも、制度を導入する理由はもちろん、

企業としてどのように成長していきたいのか

などを、経営者自身が自らの言葉で伝えることが大切です。この記事では「女性の活躍推進」ということで女性社員にフォーカスしてきましたが、今は男性社員の育児休業取得など、性別に関係なく両立支援を実現する時代です。経営者のメッセージによって、現場レベルでも相手に制度の利用を促すような風土を醸成していけたら理想的です。

3)就業規則を変更する

常時10人以上の社員を雇用している企業は、労働基準法に基づいて就業規則を定める義務があります。就業規則は職場のルールブックであり、賃金や休暇など、法律で決められた項目については必ず記載しなければなりません。

新たに女性の活躍推進のための制度を導入する場合、就業規則の変更が必要になるケースが多いでしょう。一度、就業規則を確認し、必要に応じて社会保険労務士に相談しながら変更の手続きをしてください。

基本的な流れは、次の通りです。

  • 変更について社員の過半数代表の意見を聞く(労働組合がない場合を想定しています)
  • 就業規則を変更して、所轄の労働基準監督署に届け出る
  • 変更した就業規則を社員に周知徹底する

6 法定基準に“ちょい足し”してオリジナルの福利厚生を作る!

最後に産前・産後休業や育児休業やなど法令で定められている制度に“ちょい足し”して、オリジナルの制度を作る例を紹介します。

(図表2)【女性社員が活躍しやすい制度の一覧】

内容 法令のルール ”ちょい足し”の例
休暇・休業
(注1)
産前・産後休業
(注2)
・妊娠・出産のために休む社員
・産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日まで休める
・産前56日、産後70日まで休める
育児休業 ・出生した子を養育する社員
・原則子の1歳(最長2歳)到達日まで休める(2022年10月以降、2回まで分割可)
・子の3歳到達日まで休める
介護休業 ・家族(一定の要介護状態、以下同じ)を介護する社員
・通算93日まで休める(3回まで分割可)
・通算1年間休める(6回まで分割可)
子の看護休暇 ・小学校就学前の子を看護する社員
・1年度1人当たり5日まで、2人以上は10日まで休める
・子が12歳になる年度の末日まで休める
介護休暇 ・家族を介護する社員
・1年度1人当たり5日まで、2人以上は10日まで休める
・1年度1人当たり6日まで、2人以上は12日まで休める(1分単位で取得可)
生理休暇 ・生理で就業が困難な社員
・就業可能になるまで休める
・半日単位で休める
・本来無給でもよいところ、取得日数のうち1日は有給とする
特別休暇(注3) ・育児目的休暇:配偶者出産への立ち会いや、子の行事参加などのために休める ・ワーク・ライフ・バランス休暇:年3日、家族とのふれあいや余暇などのために休める
労働時間
(注1)
育児時間 ・就業時間中に授乳などを行う必要がある社員
・休憩時間とは別に、1日30分以上×2回まで授乳などのための時間を確保できる
・育児時間の取得回数を1日3回までとする
所定外労働の制限 ・3歳未満の子を養育する社員、家族を介護する社員
・所定外労働を免除する
・子が小学校を卒業するまで所定外労働を免除する
時間外労働の制限 ・小学校就学前の子を養育する社員、家族を介護する社員
・1カ月24時間、1年150時間を超える時間外労働を免除する
・子が小学校を卒業するまで時間外労働を免除する
深夜業の制限 ・小学校就学前の子を養育する社員、家族を介護する社員
・深夜労働を免除する
・子の年齢に関係なく深夜労働を免除する
所定労働時間の短縮措置等 ・3歳未満の子を養育する社員、家族を介護する社員
・所定労働時間の短縮(原則1日6時間以内)、時差出勤、フレックスタイム制などの措置を実施する
・所定労働時間を1日6時間とし、週4日勤務とする
・午前のみの勤務または午後のみの勤務とする
社内設備 休憩室・休憩所の設置(食事、睡眠時など) ・全ての企業(有害業務のある企業は設置が義務、それ以外の企業は努力義務)
・休憩のための設備を設ける(設置数の定めや男女別の設置義務はなし)
・女性専用の休憩室(カプセルベッド付き)を設置する
休養室・休養所の設置(体調不良時) ・社員数50人以上または女性社員数30人以上の企業
・横になって休むことのできる休養室・休養所を男女別に設置する
・女性専用の休養室を設置する
女性用トイレの整備 ・女性を雇用する企業
・女性20人以内ごとに1個以上女性用トイレを設置する(社員数10人以下の場合は、独立個室型トイレに限り男女共用でも可)
・男女共用トイレをやめる
更衣室やシャワー設備の設置 ・被服が汚れる業務などを行う社員がいる企業
・更衣室やシャワー設備を設置する。安全とプライバシーに配慮する(設置数の定めや男女別の設置義務はなし)
・女性専用の更衣室を設置する

(出所:日本情報マート作成)

(注1)「休暇・休業」「労働時間」の各制度(法定)は、原則として要件を満たす社員が請求した場合に利用できます。なお、休暇・休業中の賃金を有給とするか無給とするかについては、企業が決められます
(注2)「産前・産後休業」のうち産後56日については、社員が働くことを希望しても休ませなければなりません(医師が認めた場合のみ、産後43日以降であれば就業可)
(注3)「特別休暇」は企業が独自に定める法定外の休暇ですが、一部助成金の受給に関係するものがあります。ここでは便宜上、「両立支援等助成金」の対象となる「育児目的休暇」を「法令のルール」の欄に記載しています。

以上(2022年9月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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画像:Monet-Adobe Stock


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