書いてあること
- 主な読者:税務調査などで指摘されないよう、税金対策を適切に行いたい経営者
- 課題:法人税は税金の中でもボリュームが多く、一つの論点でも色々な角度から対策を検討しないと税務調査で指摘されることがある
- 解決策:税務調査で重点的に調べられる論点ごとに、会社が注意すべきポイントを押さえる。経営者に関しては、役員給与、役員退職金、使用人兼務役員や役員と会社間の取引がポイントになる
1 経営者に係る税務上の重要なポイント
シリーズ第6回では、経営者(役員)に係る税務上の取り扱いに注目します。最も注意が必要なのは役員に対する給与や退職金(以下「役員給与等」)です。役員給与等は、
一定のルールに基づかないと損金算入できず、また損金算入できる金額にも限度がある
からです。
また、中小企業のうち、とりわけ同族会社では、
業務上の費用と私的な費用の区別が曖昧となりがちで、税務調査で指摘される
ことも多いです。私的な費用と判断された場合、その費用は役員給与等として取り扱われ、一定のルールに沿ったものでなければ損金算入できません。こうした区別をきちんとすることはもちろん、業務上の費用でも私的な費用と誤解を受けることがないように、所定の書類などをそろえておきましょう。
役員に係る税務上の重要ポイントは次の通りです。
- 損金算入ができる3種類の役員給与
- 過大役員給与
- 役員退職金
- 使用人兼務役員
- 役員と会社の取引
- 私的な費用
2 損金算入が認められる3種類の役員給与
1)定期同額給与
定期同額給与とは、「定期的(=毎月)」に「同額で支給される給与」です。一般的に毎月支給される役員給与がこれに当てはまり、事業年度を通じて毎月同額で支給されている場合に限り、損金算入できます。
税務調査では、総勘定元帳などによって毎月の役員給与が同額で計上されているかチェックされるので注意しましょう。なお、どんなことがあっても金額の変更が認められないというわけではなく、次のような場合などに役員給与の金額の変更が認められます。
1.期首から3カ月以内の変更
通常、期首から3カ月以内に定時株主総会が実施されます。この株主総会の決議により役員給与の変更がされたなら、金額の変更が認められます。この場合、税務調査において金額の変更理由を聞かれたときに備え、株主総会の議事録を作成・保管しておくことが重要です。
2.職務の内容に変更があった場合
通常の取締役が代表取締役に就任するなど、事業年度中において職務の内容に変更があった場合は、その職務内容に応じた役員給与の金額の変更が認められます。この場合、職務内容がどのように変わったのかなどについて、税務調査において具体的な説明を求められることが多いため、議事録などの関係書類を事前に準備しておくことが重要です。
2)事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、役員に対する給与の「支給金額」や「支給日」などをあらかじめ決めておき、税務署に「届出書」を提出することで損金算入が認められる役員給与です。定期同額給与以外で、例えば夏と冬に賞与の形で役員給与を支払いたい場合などに利用されます。
なお、届出書の提出期限は次の通りです。ただし、その届出書に記載した支給金額と実際の支給金額が異なっていたり、支給日が異なっていたりする場合には、支給金額の全額が損金に算入できなくなる恐れもあるため注意が必要です。
3)業績連動給与
業績連動給与とは、会社の売上や利益に連動させて支給額が決められる役員給与です。なお、この業績連動給与は、同族会社には原則として適用できないなど、適用要件が主に上場企業を対象としたものになっているため、この記事では詳細な説明を省略します。
3 過大役員給与の取り扱い
役員給与は、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれかに該当すれば、原則として損金に算入できます。しかし、役員給与の支給を受ける役員の職務内容などに照らし、「役員給与の水準が高額過ぎる」と判断された場合は、その高額とみなされた部分の金額(適正額を超える部分の金額)については損金に算入できません。役員給与の金額が適正額かどうかについては単に金額のみで判断されるのではなく、次の2つの基準に従って総合的に判断されます。
税務調査では、売上や利益が横ばいにもかかわらず役員給与の金額が増加していたり、従業員の給与を上げていないにもかかわらず、役員給与のみ多額に増加していたりする場合などは、その理由の説明を求められる場合があります。従って、役員給与については、金額の決定過程を詳細に説明できるよう、議事録などの関係書類を事前に準備しておくことが重要です。
4 役員退職金
原則として役員退職金は損金算入されますが、「損金に算入する時期」と「過大役員退職金」に注意しましょう。
役員退職金が損金算入される時期は、原則として「株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度」です。ただし、「会社が退職金を実際に支払った事業年度において損金経理(経理上、費用として処理すること)をした場合」は、その支払った事業年度において損金算入することも認められています。
注意が必要なのは、「支給した役員退職金が高額過ぎる(過大役員退職金)」と判断された場合、その高額とみなされた部分の金額(適正額を超える部分の金額)は損金算入できないことです。役員退職金の金額が適正額かどうかの判断基準は会社の状況によってさまざまですが、一般的に次の基準に従って総合的に判断されます。
- 会社の業務に従事した期間
- 退職の事情
- 類似する会社の役員退職金の支給状況等
役員退職金は金額が大きくなることもあり、税務調査においては、金額の算定根拠についてよく説明を求められます。従って、役員給与と同様に、金額の決定過程について詳細に説明できるよう、議事録や算定根拠資料などを事前に準備しておくことが重要です。
5 使用人兼務役員
使用人兼務役員とは、
「部長」や「課長」など使用人としての地位を有し、かつ、部長職や課長職に日々従事している役員
をいいます。具体的には、「取締役経理部長」などの肩書となります。
使用人兼務役員の給与については、役員として支給された給与に該当する部分と、使用人として支給された部分とで、損金の取り扱いが異なります。
「役員として支給された給与」は、「定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与」(以下「定期同額給与等」)のいずれかに該当する場合に、原則として損金算入できます。また、「使用人として支給された給与」は、通常の使用人給与と同様に、原則として全額が損金算入できます。
ただし、経営者の親族については、「使用人兼務役員」としての肩書であっても、税務上は「役員」として取り扱われる場合があるので注意が必要です。具体的には株式の持株割合によって判断され、次の全てに該当する場合、税務上は「役員」とされます。
従って、使用人兼務役員の「使用人」としての職位に対して支給した賞与でも、税務上は役員に対する賞与とされるため、「事前確定届出給与」の届出書を提出していなければ、支給額の全額が損金に算入できないので注意しましょう。
6 役員と会社の取引
税務上、役員と会社との間の取引は、「第三者(外部)と同等の条件で行うべき」とするのが原則的な考え方です。例えば、会社の所有している不動産を時価よりも低い価額で役員に譲渡(低額譲渡)した場合、不動産の時価と譲渡価額の差額は、役員に対する一定の利益供与とみなされます。その結果、税務上「役員給与」扱いになり、所得税の源泉徴収が必要になるとともに、定期同額給与等にも該当しないため、損金算入もできません。
会社から役員に対して無利息で資金の貸し付けを行った場合も同様に、適正利率相当が役員給与として取り扱われます。役員との取引だからといって、自分たちの都合で安易に価格を決定した場合などには、税務調査において価格の算定方法について指摘され、想定外の納税を伴うことがあります。役員と会社との取引に係る金額の決定過程については税務調査時に詳細に説明できるよう、議事録や契約書などの関係書類を事前に準備しておくことが重要です。
7 私的な費用
本来は経営者個人が自分で支払うべき私的な費用を会社の費用として経理処理した場合、その費用については、税務上「役員給与」として取り扱われます。例えば、経営者1人の飲食代は税務上の交際費や会議費ではなく、役員給与とされます。
また、ゴルフクラブの入会金を法人会員として支払った場合、その入会金は会社の資産として計上しなければなりません。プレー代などは交際費等として一定の限度額の範囲内で損金に算入できますが、ゴルフクラブに入会した事実を経営者以外の従業員などに知らせていなかったため、税務調査において「業務に不要なもの=実質的に経営者が個人で負担すべきもの」と判断され、役員給与として取り扱われたケースもあります。
このように、業務に関連しない私的な費用については役員給与とされ、所得税の源泉徴収を要するとともに、定期同額給与等に該当しない場合には損金にも算入できません。
税務調査では、単に領収証の有無などを確認するだけではなく、「業務に必要なものか」といった視点からも調べられますので、関係書類などを事前に準備しておき、業務上必要な経費であることを説明できるようにしておくことが重要です。
以上(2024年3月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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