書いてあること

  • 主な読者:飲食店や小売業など多品種少量販売の事業を行う経営者
  • 課題:原材料の値上げやコロナ禍の影響を受ける中、事業を継続するヒントを知りたい
  • 解決策:丼勘定ではなく、管理会計でポイントを押さえる

1 丼勘定は本当か?

「安い・うまい・早い」の三拍子そろった町中華。どこの街にでもありますが、長く続く秘訣は何でしょうか? 低価格で、客数はさほど多くもなさそう。でも潰れない。

町中華探検隊として町中華を食べ歩くライターの北尾トロ氏は、町中華を「昭和以前から営業し、1000円以内で満腹になれる庶民的な中華店。単品料理主体や、ラーメンなどに特化した専門店と異なり、麺類、飯類、定食など多彩な味を提供する。カレーやカツ丼、オムライスを備える店も。大規模チェーン店と違ってマニュアルは存在せず、店主の人柄や味の傾向もはっきりあらわれる」と定義づけています(「町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう」北尾トロ、下関マグロ、竜超著、KADOKAWA、2018年9月)。

丼勘定のイメージがありますが、本当にそうでしょうか? 町中華がいかにして生き残っているのかを探り、他の飲食店や小売業などの経営者が、管理会計で押さえるべきポイントを紹介します。

2 町中華が強い3つの秘訣

1)多品種に対応できる使い回しが利く仕入れ

町中華の特徴は豊富なメニューです。しかし、原材料となる食材は実は共通の食材が多いのです。町中華によくあるメニューと食材の例を挙げました。

町中華のメニュー例と主な原材料

こうして見ると、豚バラ肉など汎用性の高い食材が多く使われていることが分かります。仕入れや在庫管理の工夫はあるのでしょうか。公認会計士・税理士で、自身も青森県八戸市でラーメン店を経営し、『会計の基本と儲け方はラーメン屋が教えてくれる』(日本実業出版社)の著書もある石動龍氏は次のように教えてくれました。

「お客さんへ魅力を感じてもらえるよう、豊富なメニューを用意するとしても、食材のロスのないよう、メニュー構成や、原材料の仕入れ、管理を工夫する必要があります。例えばレバニラ炒めにしか使わないレバーを大量に仕入れるわけにはいかないでしょう。共通の食材で、いかに幅広いメニューを用意するか。食材のロスがないように仕入れ、管理するか。品質を保ちながら冷凍保存するのも一案でしょう」

2)適正な利益を確保できる価格設定

価格帯が異なるメニューが共存できるのも町中華の強みであると、石動氏は指摘します。中華料理には、北京ダックやフカヒレスープ、つばめの巣といった高級メニューがあります。町中華でもエビチリくらいはラインアップとしてあるところも少なくないでしょう。町中華でチャーハンが750円でエビチリが1500円で販売されていても違和感はありませんよね。一方、よほどのマーケティング的な狙いがない限り、価格帯の大きく異なるメニューを並べるのは、ラーメン屋やファストフード店では難しいでしょう。1杯750円が相場のラーメン屋に、1500円のラーメンがあったら違和感を覚えますよね。つまり、

町中華は適正な利益を確保できる価格設定がしやすい業態

ともいえるわけです。

3)居心地の良さが利益を生む

町中華に行くと、おつまみを数品頼んでお酒を飲んでいるお客さんを見かけます。この点も町中華の強みであると、石動氏は自著で述べています。つまり

長居をしてもらって、原価率が低いおつまみやお酒を頼んでもらうことで利益を確保

しているのです。例えば800円の炒め物が原価率30%だとして(粗利560円)、加えておつまみとお酒を2000円分オーダーし、その原価率が10%だったとします(粗利1800円)。そうすると、客1人当たりの限界利益は2360円になります。

町中華の店主がそのように狙っているかは分かりませんが、町中華には手軽な「居酒屋」という側面もあります。ファストフード店などが努力して取り込もうとしている居酒屋需要が町中華にはあるのです。

3 ココだけは押さえたい管理会計のポイント

1)FLR比率に注目する

本当に丼勘定でやっていると、自分の店が苦戦している理由として、固定費が高いのか、原材料費が高いのかすら分からなくなります。一般的に、飲食店経営で大切な指標といえばFLRコストです。それぞれ、

  • F(Food):食材費
  • L(Labor):人件費
  • R(Rent):賃料

を指しています。店の状況によってさまざまですが、一般的に、

F比率は30%程度、FL比率は60%程度、FLR比率は70%程度

に抑えるのが理想とされています。

FLR比率=(食材費+人件費+賃料)÷売上

とはいえ、R(Rent/賃料)は、都市部と地方とで大きな差があります。都市部の好立地では、賃料は高くなりますが、それに見合う人通りもあります。ちなみに、昔ながらの商店街で数十年と続いている町中華がありますが、

「そのような店の多くは、持ち物件で営まれているのかもしれませんね。さらにもし家族経営だったとすれば、それだけで固定費の大半がカットできます。コストはほぼ食材のみとなり、あとは利益となるのです」(石動氏)

2)固定費と変動費に分ける

コストには、売上高に関係なく発生する固定費と、売上高に応じて発生する変動費があります。FLRコストに注目すると、

  • 固定費:人件費、賃料
  • 変動費:食材費

となります。これを軸に考えると、

月の売上高から食材費を引いたものを「限界利益」と呼び、この限界利益で人件費や賃料を賄えるか否か

が重要となります。これは、一般的な損益分岐点の考え方です。

3)利益構造を把握する

石動氏によると、押さえておきたいポイントは、

  • 客単価
  • 来客人数
  • コスト:固定費(主に人件費、賃料)
  • コスト:変動費(主に食材費)

です。客単価をベースとして、何人の来客数があれば、コストがどれくらいかかり、どれくらいの利益が残るのかという利益構造を把握していれば、食材費などが高騰したときも、どこに影響が出て、どこをやりくりすれば賄えるのかという打ち手がイメージできるようになります。

例えば、麺の仕入れ価格が、1玉当たり5円値上がりしたとすると、

5円×月の来客数=月の原材料コストがいくら上がるか

がすぐに分かり、ダメージの小さいうちに対処することができるのです。町中華の店主は、このあたりの計数感覚を自然と身に付けているのかもしれません。

以上のようなポイントを押さえ、管理会計を経営に活かしましょう。

以上(2022年10月)

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画像:和久 澤田-Adobe Stock

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